経産省「コロナでDXの緊急性高まった」、問われる本質 - 日米の意識はこんなに違う
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「2025年の崖」が目前に
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を抑えようと、政府が1都2府8県を対象とする緊急事態宣言を発出しました。独自の宣言をした地方自治体もあり、外出自粛や在宅勤務の必要性が改めて高まっています。
もっとも、2020年4月からの緊急事態宣言をきっかけにテレワーク体制へ移行した企業は、働き方のデジタル化、オンライン化など済ませているでしょう。それどころか、事業の進め方を根本的に見直す、デジタルトランスフォーメーション(DX)まで視野に入れている企業もあるかもしれません。
COVID-19パンデミック以前から、DXは取り組むべき重要課題とされています。たとえば、経済産業省は2018年9月に「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』」の克服とDXの本格的な展開~」という報告書を出し、DX推進を強く訴えました。
それによると、多くの経営者はDXの必要性を理解しているものの、既存ITシステムや経営改革、抵抗勢力といった課題があるそうです。こうした課題を克服できなければDXは実現できず、2025年以降に最大で年額12兆円の経済損失が生じかねない、と警告したのです。
経産省はこの問題を「2025年の崖」と呼び、強い危機感を伝えようとしました。
コロナ禍でDXは進んだ?
経産省は、国内企業のDX対応状況を継続的に調査しています。「DXレポート」から約2年後の2020年12月末に公表された中間報告書「DXレポート 2 中間取りまとめ」から、現在の状況や今後とるべき対応などを読み取りましょう。
COVID-19で環境激変
前回の報告書が出された2018年以降、COVID-19によって環境が激変しました。DXレポート 2のデータでは、テレワーク導入が2020年の3月から4月にかけて急増しています。都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は、以下のとおりでした。
調査時期 | 導入している | 今後導入予定あり | 導入予定なし |
---|---|---|---|
2020年3月 | 24.0% | 5.0% | 71.0% |
2020年4月 | 62.7% | 6.1% | 31.2% |
この急増について、経産省は、経営トップがコロナ禍を契機に主導したため速やかに大きな変革を達成したと分析。環境変化に素早く対応できたかと、「押印、客先常駐、対面販売など、これまでは疑問を持たなかった企業文化」を変革できなかったかが、両者の分かれ目になったと指摘しました。
さらに、ITシステムにとどまらず、固定観念を変革することの重要性が明らかになった、としています。
DX対応は二極化
国内企業のDX対応はどうでしょう。
DX対応状況が「持続的実施」から「部門横断的推進」という企業の割合は、わずか5%ほどです。残る約95%は、「一部部門での実施」から「未着手」という段階にとどまっています。しかも、このデータはDX推進指標を自己診断した企業の回答を整理したもので、診断結果を提出すらしていない企業が多数存在しました。
経産省は、「DXの取組を始めている企業」と「まだ何も取り組めていない企業」に二極化しつつあるとしています。そして、「現在のビジネスモデルの継続を前提としている企業、部分的なデータ分析にとどまっている企業が多く、変革への危機感の低さが垣間見える」としました。
DXへの姿勢、日米でこんなに違う
DXレポート 2をみるかぎり、国内企業のDX対応はまだまだでした。これに対し、電子情報技術産業協会(JEITA)とIDC Japanの実施した調査レポート「2020年日米企業のDXに関する調査」をみると、米国企業はこの種の改革に積極的なようです。
日本企業は7割以上がDX未実施
どのようにDXに取り組んでいるか質問したところ、「全社戦略の一環として実践中」という回答は日本企業が11.6%、米国企業が9.3%で、いずれも全体の1割前後で同程度でした。しかし、「部門レベルで実践中」は日本企業が8.7%、米国企業が19.3%、「実証実験を実施中」は日本企業が7.8%、米国企業が26.0%となり、このレベルまでの取り組みを含めると大きく差が開きます。
JEITAによると、2017年に行った調査から日本企業のDX対応は著しく伸びました。それでも、7割以上が実施に至っていません。
内向きの日本、外向きの米国
IT予算については、日本企業の58.1%、米国企業の71.0%が「増える」傾向にあると答えました。デジタル化やDXへの対応が必要なことから、IT予算の増額は日本も米国も変わらないようです。
ただし、予算増額の理由は、日米で傾向が違っています。IT予算が増える理由を3つ挙げてもらったところ、日本企業は「『働き方改革』の実践のため」「ITによる業務効率化/コスト削減」「未IT化業務プロセスのIT化のため」が多く、オペレーション改善のような既存業務を見直そうとする方向でした。
一方、米国企業は「ITによる顧客行動/市場の分析強化」「市場や顧客の変化への迅速な対応」「ITを活用したビジネスモデル変革」が多く、新規事業や外販化などの事業拡大に目を向けています。
JEITAは、米国企業の多くが外部環境把握にIT予算を投じているのに対し、日本企業はいまだIT予算の大半を社内の業務改善に振り分けている、としました。
DX推進の目的でも、相違がみられます。もっとも多い回答は、日本企業だと「業務オペレーションの改善や変革」(41.0%)、米国企業だと「新規事業/自社の取り組みの外販化」(46.4%)といった具合で、IT予算増額と同様の項目が選ばれました。
経営層の積極関与が明暗わける?
このような違いはなぜ生じるのでしょうか。経営層のDX関与状況を日米で比較したところ、以下のように大きく異なっていました。
経営層の関与状況 | 日本企業 | 米国企業 |
---|---|---|
DXの戦略策定や実行に 経営陣自ら関わっている |
35.8% | 54.3% |
申請/提案されたDXの 戦略や実施に対して承認をしている |
47.6% | 32.2% |
経営陣がDXに関与することは あまりない |
16.6% | 13.5% |
米国企業は半数以上で経営層がDXに積極関与しており、その結果、DXのカバー範囲を新規事業や外販といった領域へ大胆に広げられると考えられます。ちなみに、全社戦略の一環としてDXに取り組んでいる日本企業は、DXへの経営層関与や適用業務の多様性といった点で米国企業と似ているそうです。
小手先の業務改善でなく、変革を
コロナ禍により、多くの企業が変革を迫られています。DXは、業務を単にデジタル化、オンライン化するだけの取り組みでありません。経産省はDXレポート 2のなかで、「ITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革することがDXの本質」だとしました。DXはITシステム更新の問題でなく、企業文化刷新の問題へ変わったというのです。
COVID-19パンデミックが起きたことで、これまで先送りしていた変革の阻害要因が一気に表面化しました。「ビジネスにおける価値創出の中心がデジタルの領域に移行」してしまい、この流れは止まらないでしょう。どれだけ迅速に対処できるかかどうかで、企業の差が決まります。
小手先の業務改善でなく、大きな変革を実行するなら、経営層がリーダーシップを発揮しなければなりません。さらに経産省は、関係者間の共通理解形成と、けん引するDX人材の確保も不可欠だとしました。このように、組織全体をDX活動へ巻き込んで変革するには、チェンジマネジメントと呼ばれる経営手法が有効です。
「レガシー企業文化」から脱却し、デジタル企業へ変革することで、2025年の崖を飛び越えましょう。