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ナレッジマネジメントとは?メリットや成功事例も

最終更新日:(記事の情報は現在から697日前のものです)
業績回復の手法の一つに「ナレッジマネジメント」があります。企業としてナレッジマネジメントを採用する際に押さえておきたいポイントや、ナレッジマネジメントを行うためのツールについて解説していきます。

ナレッジマネジメントは、社員の知識や経験を企業内で共有し、生産性や効率性を高めていく経営手法のことです。働き方改革によって業務効率化が求められるようになり、ナレッジマネジメントの導入を検討している企業も増加しつつあります。

しかし、ナレッジマネジメントそのものがどんなものなのか、どのようなプロセスで行ったらよいのか、ピンとこない方も多いのではないでしょうか。ナレッジマネジメントと運営手法について詳しく解説していきます。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジマネジメントとは、社員のもつ知識・情報・ノウハウなどを企業内で共有し、生産性・効率性を高めていくことです。「ナレッジ」とは、市場の情報・取引先とのやり取りをはじめとするデータだけではなく、業務を遂行するにあたっての思考プロセスも対象になります。

単に定量的なデータを蓄積するのではなく、知的情報を共有・活用することで組織のイノベーションを促進するアプローチといえます。

ナレッジマネジメントが注目される背景

2000年代後半になり、団塊世代が定年退職するようになると、その経験・知識をどのように企業に残すのかが課題となりました。そこで、社内で知識・経験を流通させる手法であるナレッジマネジメントが注目されるようになりました。

終身雇用制度が崩壊して、雇用制度が多様化している今、自然に経験や知識が伝わるのに任せるのは厳しいのが実情です。企業の知識量の維持は今後ますます難しくなると予想されています。

ナレッジマネジメントのモデル(SECIモデル)

SECIモデルとは、経営学者の野中郁次郎氏と竹内弘高氏ら中心となって提示したフレームワークです。個人のもつ知識を「形式知」「暗黙知」に分け、それらを組織の中で絶え間なく変換や移転をさせることによって、新しい知識が創造されるというものです。

暗黙知と形式知

「形式知」と「暗黙知」はそれぞれ次のように定義できます。

形式知 口頭や文章である程度容易に説明できる知識や情報、データなど
暗黙知 個人的に把握はしているものの、言葉や文章で表現しにくいノウハウや経験則
個人が無意識にやっている優れた行動など

この2つの知識の交換や移転のプロセスを示したのがSECIモデルで、次に解説する4つのフェーズで知識の変換を考え、組織全体で戦略的にマネジメントします。

暗黙知を形式知化することは、ノウハウやコツ(暗黙知)をマニュアル化(形式知化)することに例えるとわかりやすいでしょう。

スポーツで言い換えるなら、サッカーでボールをどーんとゴールに入れろと言うのではなく、「どのような角度からシュートするか」「敵のスキをつくにはこのルートで走行する」などノウハウを言葉にして伝えます。

共同化

共同化は、経験を共有するといった行動で暗黙知を暗黙知として伝えるプロセスです。各人が同じ経験を共有することで、メンタルモデル(精神的暗黙知)や技術的な暗黙知を創り出す段階といえます。

暗黙知は感覚的な理解を必要なものが多いため、実際にやってみて「身体で覚えてもらう」ことで、他の人に認識してもらうわけです。

表出化

暗黙知を明確な概念やコンセプトに表現することで、形式知へと結びつけるプロセスです。共同化によって得られた暗黙知を共有できるように、言葉や図などで形にしていきます。

暗黙知を共有した人がともに考えたり、対話をしたりしながら仮説を立て、モデル化を試みることで、徐々にそれを形式知にしていきます。論理的思考力による概念化が必要です。

結合化

このプロセスでは、表出化によって形式知となったもの同士を結びつけ、新しい知識体系を創り出します。既存の形式知同士を結びつけることで、より高レベルの形式知とするわけです。

IT技術やデータベース、ネットワークなどを用いて知識を体系化・連結化し、より現実的・実践的な知識に高めます。このプロセスまで来ると、それまで各々の社員の中にあった暗黙知が組織全体の知的財産として活用可能になります。

内面化

これまでのプロセスで形式知されたことを実践し、適宜フィードバックを受けることで、それが個人へと内面化され、新しい暗黙知が生まれていきます。

これによって個人と組織全体の知的資産となり、そこからまた新しい形式知へと転化されるサイクルが繰り返され、徐々に組織の知識レベルが向上していきます。

ナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントには次の3つの効果が期待できます。それぞれの効果について詳しく説明します。

  • 企業内で知識・経験を共有できる
  • 教育コストの削減
  • 関連情報のレコメンデーションがスムーズに

企業内で知識・経験を共有できる

ナレッジマネジメントにより、データ・知識・経験を社内で共有できるようになり、業務効率化が進みます。

たとえば、顧客とのコミュニケーション履歴を社内でナレッジとして共有しておけば、引継ぎがスムーズです。技術開発に関しても担当者のナレッジが共有されていれば、複数の視点から検討できるようになります。

これらの社員個人に眠っている知識や情報を全社的に共有することにより、過去の情報をベースとした効率的な行動が可能となります。

教育コストの削減

社員が個人の経験ベースで仕事をしている場合、その知識・経験を伝えるためには膨大な時間とコストがかかります。

OJTあるいは情報を抱える社員が直接研修・セミナーなどによって後輩を教育しなければならず、またそもそも情報やプロセスが理解しやすい形に洗練されていないことも多々あります。

ナレッジマネジメントを活用し、後輩がいつでもアクセスできる形でナレッジを公開することによって、新人教育にかかるコストおよび手間の削減が可能です。

関連情報のレコメンデーションがスムーズに

ナレッジマネジメントに膨大な情報が保存されていれば、ユーザーが調べた情報と関連した情報をレコメンデーションし、より広く・深い知識を提供できます。

口答で説明する場合、聞かれた質問に対して関連情報まで細かく説明すると時間がかかるし、関連情報を覚えられないのでレコメンデーションは困難です。一方でシステムを通じたナレッジのレコメンデーションであれば、それほど手間はかからないのでユーザーにより広範な情報を提供可能です。

ナレッジマネジメントの4つのタイプ

ナレッジマネジメントは4つのタイプに分かれます。それぞれ詳しく解説していきます。

経営資本型(増価×集約)

経営資本型とは、競合や自社の事例を多角的に分析して、経営戦略に活用する手法です。

組織の知的財産の中でも、著作権や特許権がある制作物を活用して利益につなげていきます。

顧客知識共有型(増価×連携)

顧客第一主義で、顧客との知識の共有や提供を持続して行う手法です。

お客様の声や対応方法のデータベース化など、コールセンター業務で非常に有用です。

ベストプラクティス共有型(改善×集約)

優秀な従業員の行動パターンや考え方を形式知化して共有し、組織全体のレベルアップを図る手法です。

営業成績がよい従業員の契約が取れるパターンを形式知化し、他のメンバーと共有すれば部内の営業成績の向上が期待できます。

専門知識型(改善×連携)

専門知識がある人をネットワークでつなぎ、組織内外の知識をデータベース化していく手法です。知りたい情報を自分で探せるようになります。

システム部門や人事部門など問い合わせが多い部署で質問対応業務の軽減に役立ちます。

ナレッジマネジメントのプロセス

ナレッジマネジメントは、正しい手順を踏まないと効果的な情報共有ができません。ナレッジマネジメント活用の5ステップについて紹介します。

1. 目的を明確にする

システムを導入するまえに、ナレッジマネジメントを活用する目的を明確にします。目的に応じて集約すべき情報や従業員ごとの閲覧できる情報の範囲、システムのタイプなどが異なってくるので、まず前提条件として目的を整理した方がよいでしょう。

漠然と情報を共有したいというだけでは、さまざまな情報が入り乱れる混沌としたデータベースとなるので活用は難しいと考えられます。

2. 集約したい情報を書き出す

目的に応じて集約したい情報を書き出します。どのような情報を誰が持っているのか、どのようなフォーマットで共有されると理解しやすいのかなど、情報の中身について具体的にイメージしながらこの作業を実施してください。

集約すべき情報と似ているが集約しなくても良い情報の境目について明確にしたうえで、集約したい情報が客観的に理解できるようにした方がよいでしょう。

3. ツールやシステムを導入する

目的と集約したい情報をもとに、ナレッジを共有するツールやシステムを導入します。顧客とのコミュニケーション履歴はSFA/CRM、過去の販促物の事例をオンラインストレージといったように情報によっても活用すべきシステムは異なります。

また、表記方法や更新ルールといったナレッジを共有する際のルールについても、システム導入段階で決定した方がよいです。

4. 従業員へ蓄積を促す

システムを導入・運用する準備が整ったら、従業員にナレッジシステムに知識・ノウハウを蓄積するように促します。従業員への促進についてはお願いするだけでは不十分なケースもあります。

蓄積が進まない場合は、必要に応じてナレッジシステムへの情報蓄積に対するインセンティブや、人事評価への反映を検討した方がよいでしょう。

5. 集まった情報を分類する

情報は蓄積された段階では雑然としていて活用できない場合もあります。よって、集まった情報は分類、適宜加工して従業員が正しい判断ができるようにしなければなりません。

ナレッジシステムに間違ったり、相応しくない情報が混じっていたりすると、システムを通じてその情報が伝播する可能性もあるので、システム内の情報の鮮度・正確性には注意してください。

ナレッジマネジメントの具体的な手法

一般的によく使用されているナレッジマネジメントツールとしては、次が挙げられます。

それぞれどのような機能を持ったツールなのかを詳しく解説します。

社内Wiki

膨大な専門用語があったり、細かく社内ルールが定められていたりする場合は、社内Wikiツールを活用したナレッジマネジメントを検討した方がよいでしょう。

社内Wikiサービスを活用する場合は更新ルールについて注意すべきです。社内の公式ではない専門用語やルールをWikiに加えられると、それがもとに業務に支障をきたす可能性も。編集権限をどの社員に付与するか、新規の投稿をどのようにチェックするかについては考えておくことをおすすめします。

代表的なサービスとしては「NotePM」、「Qiita:Team」などが挙げられます。

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グループウェア

業務改善を目的に、情報を共有したり、社内コミュニケーションを行ったりできるツールの総称です。社員の予定表を共有できるものや、日報を共有できるもの、文書を共有できるものなど、さまざまな機能を有しているものが一般的です。代表的なサービスに「サイボウズ」「Office 365」などが挙げられます。

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SFA・CRM

SFAは営業管理や支援を行うための、CRMは顧客を管理するためのシステムです。グループウェアは社内情報を共有することに長けているのに対し、SFAやCRMは営業および顧客の情報管理や共有に長けているシステムと言えます。代表的なサービスに「Salesforce」「Zoho」などが挙げられます。

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オンラインストレージ

インターネット上で自由にデータを保存・共有できるシステムです。ある程度の容量まで無料で利用できるサービスが多いため、スタートアップ企業によく利用されています。文書ごとに割り振られたURLを連絡すれば、インターネット上で他者にデータを共有できる点が大きな魅力です。代表的なサービスに「Googleドライブ」「OneDrive」などが挙げられます。

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エクセルの活用

企業の中でエクセル多く人に利用されています。慣れている従業員が多く、操作方法もわかりやすいため、ナレッジマネジメントにエクセルを活用したい人も多いかもしれません。しかし、エクセルにナレッジを入力しても、そのまま分析や共有するのは厳しいと言えるでしょう。

できれば身近で扱い慣れているツールを使用したほうがすすめやすいものの、エクセル以外のツールを選択することをおすすめします。

ナレッジマネジメントツールを利用

ナレッジマネジメントは企業によって向いている方法が異なります。そのため、自社で重要視されている知識を共有するために、今まで紹介したようなツールを複数組み合わせていく方法がおすすめです。

また、専用のナレッジマネジメントツールを使用する方法も検討する価値があります。ナレッジマネジメントツールを利用する場合もよく比較検討の上、自社に合ったものを選択することがポイントです。

ナレッジマネジメントの成功事例

では、実際にナレッジマネジメントに成功した企業をみていきましょう。

ナレッジマネジメントに成功すると、個々の社員がもっている優れたスキルやノウハウを共有することにより、生産性や創造性、サービスレベルの向上ができます。

通信機器企業

ある通信機器のアフターサービスを行っている企業では、優れた技術者が行っている修理プロセスをマニュアル化。修理履歴や留意点などを社内のだれもが必要に応じてアクセスできる環境を構築し、データベースにしました。

これによって組織全体の修理スキルが均一化され、頻度の低い修理案件が発生しても、だれでも簡単に対応できるようになったことで、生産性が大きく向上しました。

自動車メーカー

ある自動車メーカーでは、国内で蓄積した作業員の改善ノウハウをシステムで形式知へと転換し、それを海外拠点に展開することで双方の拠点の生産性を同じレベルで高めることに成功しています。


このように、それぞれの社員が個別にもっている情報をIT技術を用いて一元化し、だれでも閲覧できる環境を構築することで、社内のサービスレベルの底上げに成功している企業は多くあります。

各々の暗黙知を形式知化するシステムを作り上げているわけです。

ナレッジマネジメントの失敗事例

一方、ナレッジマネジメントの導入に失敗してしまうこともあるので注意が必要です。特に導入しても運用がうまくいかず、結局社員に浸透せずに終わってしまうケースは少なくありません。

食品メーカー

ある食品メーカーでは、莫大なコストをかけて社内情報の一元化システムを導入し、経営陣によってナレッジマネジメントの推進が大々的に発表されました。

しかし、実践する現場社員の意識が低かったため、必要な「知」である情報がほとんど集まりませんでした。仮に集まったとしても、それを整理し、体系化する者が出てこなかったため、結局システムの導入そのものが無駄になってしまいました。


このように、ナレッジマネジメントの導入が失敗してしまうケースのほとんどが、現場社員の意識が低いことにあります。

トップ層の意識が高くても、実際の現場が「今のままで困ることがない」と考えているならば、たとえ優秀な社員が価値ある暗黙知を有していたとしても、それが集まらず形式知として転化できません。

ナレッジマネジメントの実現には、まず社員にその必要性を理解してもらい、積極的に協力してもらえる体制を作る必要があります。

ナレッジマネジメントで成果を出すための注意点

ナレッジマネジメント導入にあたって留意すべき点について説明します。ナレッジマネジメントを実現するためには、特に次の点に留意すべきです。

共有することだけに満足しない

ナレッジマネジメントの真価は、単に情報を共有することではなく、そこから新しい価値を生み出すことにあります。システム導入だけで満足していると、効果が見られないといった、業務の煩雑さだけが際立ち、失敗してしまうことも少なくありません。

ナレッジマネジメントを行う際には導入目的を明確にすること、そして効果検証を行うことが大切です。効果が見られない場合は、使い方を変えてみたり、運用方法を変えてみたりして、効果を出すための方法を探りましょう。

一般社員の声を反映する

共有する情報やシステムの使い勝手については、上層部だけで決めるのではなく、一般社員の声を反映したものにしましょう。

どれだけ有益な情報やノウハウであっても、使われなければ意味がありません。闇雲にすべてを共有するのではなく、本当に必要な情報は何か、どんなノウハウや情報が必要なのかを精査したうえで運用することが、成功につながる大きなポイントです。

初めから全社で取り組むのではなく、まずはチームや部署単位で運用してみると、運用面での改善点が見出しやすくなります。

ある程度運用方法を固めてから、全社に広げるのがよいかもしれません。ナレッジマネジメントをうまく取り入れ、業績向上やアップに努めてみませんか?

PDCAサイクル

ナレッジマネジメントのプロセスで説明したように、個人や少数のグループが有する独自の知識やノウハウを形式知化して、それを組織全体に共有するのがナレッジマネジメントの役割です。このプロセスは常に改善され続けなければなりません。

その知識を組織に行き渡らせるための計画が必要となりますし、途中に障害が発生したら、乗り越える方法を考えなければいけません。

そしてそこからフィードバックを得て、さらに効率的にマネジメントをするためにはどうすればよいかを考える必要があります。PDCAサイクルを繰り返すことで、新しい知識やノウハウが創造されやすくなる環境を整えていくことが重要です。

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