電子カルテ導入で医療現場はどう変わるのか?メリットやその普及を妨げる課題とは
医療の現場で必須となるカルテを、電子的に置き換えたものが電子カルテです。
私たちが実感することは多くありませんが、医療機関に電子カルテが導入されることにより、大きなメリットが得られますが、存在するデメリットによる課題も多く存在します。
そのメリット・デメリットとはどのようなものか、電子カルテの概要、課題とともに解説していきます。
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電子カルテとは
カルテとは、医師や歯科医師などの医療従事者が患者を診療した際、その経過を紙に記入し、記録して保存するものです。
これに対し、電子カルテとは、従来紙に記入されていたカルテを、電子的に編集・管理してデータベース化したカルテです。
電子カルテが各医療機関でデータベース共有できれば、患者を別の医療機関に紹介する際、カルテをデータ送信することが可能ですが、現時点では電子カルテの処理や保存方法などが標準化されておらず、共有化は実現していません。
電子カルテに記載されている項目
電子カルテには、患者が医療機関での診療の際、起こった全ての出来事が記録されます。具体的には、以下のようなものがあげられます。
- 患者名
- 生年月日
- 性別
- 病名
- 処方
- 注射
- 処置内容
- レントゲンなど検査の画像情報
従来はカルテに添付する形だった画像情報なども電子カルテには含むことが可能で、患者の情報を一括管理できます。
電子カルテのメリット 医療の現場はどう変わるか
紙のカルテが電子化されることによって、実際にどのような変化があるのか、私たちにはいまひとつピンとこないことかもしれません。
しかし、データベース化された電子カルテは、デジタルシステムの柔軟性によって医療現場に劇的な変化をもたらし、導入することによって大きなメリットを享受できます。
電子化で情報整理が楽に
従来手書きであったカルテでは文字が判読不能なケースもありましたが、テキストベースの電子カルテではこういったことを防いで内容の認識率を向上させることが可能です。
また、カルテに検査結果画像をリンクさせるだけでなく、画像自体にコメントを埋め込むんだり、データをグラフ化したりするなど柔軟な記載が可能となります。全ての患者情報を整理してデータベース管理することにより、キーワードによる検索やデータの絞り込みなどが簡単にできるようになります。
管理の効率がアップ
通常のデータベースシステム同様、メンテナンスは欠かせませんが、電子カルテをデータベース管理することにより、紙のカルテを物理的に管理する必要がなくなり、紛失などのリスクを減らすと同時に、カルテの長期間・大容量保存に必要な収納スペースを節約することにもつなががります。
また、用意されたテンプレートにカルテデータを適用し、診断書や紹介状などの作成機能を持つ電子カルテもあり、情報の柔軟な再利用と管理効率が劇的に向上します。
データ共有で診療の精度アップにも繋がる
電子カルテには自動チェック機能を持つものが多く、医療機関内の各部門で電子カルテを共有することにより、薬の処方時に縦覧点検・突合点検を行って重複併用を避けるなど、紙のカルテで起こりがちな人為的ミスを減らし、診療精度を向上させることにも繋がります。
また、蓄積された電子カルテのデータを、類似症例に分類して分析、データベース化することによって医療品質の向上が期待できるほか、受付・予約システムと連動させることにより、患者の待ち時間短縮や、院内感染リスクの低下にも繋がります。
電子カルテのデメリット
一方で、電子カルテには紙のカルテにないデメリットも存在し、電子カルテ普及に伴う課題にもなっています。
導入コストは数十億円?
データベースシステムである電子カルテの導入にあたっては、初期費用が問題となる場合があります。
汎用の電子カルテシステムも存在しますが、各医療機関ごとにカスタマイズやバックアップシステムの追加が必要になる場合があり、医療機関の規模によっても初期費用が大きく変わってきます。
後の項目で改めて解説しますが、その費用は診療所で数百万円、一般的な病院で数千万円、大規模病院だと数億から数十億円規模とされています。
患者データの盗難リスク
患者の診療データである電子カルテは、非常にパーソナルな個人情報であり、これが情報漏えいすることは医療機関の信用問題に繋がります。電子カルテは基本的にデータベースシステムであり、一般企業同様、コンピューターウィルスの脅威や不正アクセスによる情報漏えいのリスクと無縁ではありません。
これを防止するためのセキュリティシステム導入など、外部要因による情報漏えい対策も必要ですが、USBメモリなどに簡単にバックアップ可能なため、医療機関内部のセキュリティ管理など、内部要因による情報漏えいリスク対策も必要となってきます。
セキュリティシステムについて詳しく知りたい方は以下の記事をぜひ参考にご覧ください。
システムダウンで診療不可能に
電子カルテシステムのネットワーク断絶など、災害時だけでなく些細な問題が要因となり、システムダウンする可能性が否定できません。このような事態に陥ると、患者のカルテ閲覧が不可能となり、結果、緊急時の診療が不可能になってしまいます。
システムダウンのリスクを最小化するために、ネットワークやシステムの多重化、データベースのクラウド化などの対策を行うことも可能ですが、その分設備投資費用が膨らんでしまいます。
電子カルテにはどんなサービスがあるのか
電子カルテを導入するにあたり、どのようなシステムを選択すべきかの判断は難しいものとなります。ここでは、電子カルテシステムを提供する、いくつかのサービスをご紹介します。
- 中小規模病院向けの高いコストパフォーマンス
- 部門間連携をスムースにする院内情報の一元化
- 医療と介護の情報共有を実現
wisemanは、療養型・ケアミックス型病院に多くの導入実績と高いコストパフォーマンスを持つ、電子カルテサービスです。
ペンタブレットによる手書き入力にも対応する、柔軟で容易な入力によって蓄積されたデータは、院内の各部門で共有化され、使用薬剤指標など経営指標の分析にも活用可能です。
また、医療と介護の情報共有を実現したことにより、介護施設での患者情報参照、介護サービス利用予定などの確認も容易であり、高い医療品質を実現します。
- レセプト機能と電子カルテの統合システム
- 医療機関の規模に応じたパッケージ設定
- OSP処方オーダ/往診パッケージオプション
システムロード株式会社が提供するRACCOは、診療所・中小規模・産婦人科など、医療機関の規模や専門にあわせてパッケージングされた電子カルテシステムです。
医療会計ソフト(ORCA)と電子カルテを統合し、それぞれの施設に最適化することによって、無駄のないコストパフォーマンスに優れたシステムを提供します。
処方オーダを支援して効率化を図るOSP、往診時の情報管理に便利な往診パッケージなど、オプションも豊富です。
- GHSガイドライン適合電子カルテシステム
- 業務効率化と安全医療の両立
- データの一元管理と有効活用を実現
MegaOakHRは、NEC(日本電気株式会社)が提供する、GHS開発ガイドラインレベル2に適合、準拠した電子カルテシステムです。
入力内容や検査結果などの自動引用を行うダイナミックテンプレート機能や、日めくりパスを活用したクリニカルパス機能などで業務効率を実現する一方、患者基本情報管理や処方・注射の投与量チェック機能による安全医療の実現、両立を図っています。
蓄積されたデータはヒストリーマップ機能やパス分析機能で有効活用が可能となり、全文検索機能とともに、必要な情報へ素早くアクセスできます。
電子カルテが抱える課題
電子カルテ導入は、デメリットを克服することによって大きなメリットをもたらしますが、解決すべき課題も抱えています。
普及率の低さ
電子カルテのデメリットでも触れた通り、システム導入には100床あたり1億円ともいわれる初期費用が必要になります。これが障害となり、厚生労働省が目標とする電子カルテ普及率60%を大きく下回る、病院21.1%、診療所7.6%の普及率に留まるのが現状です。
2001年には、医療IT化へ向けた旗振り役を果たす「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を厚生労働省が公表していますが、普及率が進まない要因には、低い医療費を実現する日本の医療現場が、コスト削減に消極的だという一面が指摘されています。
法整備
カルテには、医師法第24条・歯科医師法第23条に基づいた記載と、5年間の保存が義務付けられる準公式書類という法的側面があります。そのため、カルテの電子化は単純に効率化のみで実現できるものではなく、電子カルテのガイドラインとして、3つの条件が厚生労働省から求められており、今後の法整備が必要となります。
- 書類の変更や消去・混同を防ぎ、作成者の責任を明確にする真正性
- 見読可能な状態で書面表示が可能な見読性
- 法令に従った保存期間に復元可能な状態で保存する保存性
電子カルテの「標準化」
アメリカを中心にした電子カルテフォーマット「HL7」をベースに、日本独自のカスタマイズを施した「JAHIS」が制定されつつあるなど、電子カルテ標準化への動きは見られますが、現時点での標準化は実現していません。
つまり、電子カルテの処理や保存方法などが標準化されていないため、患者を別の医療機関に紹介する際などに、カルテをデータ送信して情報共有を行うなどができず、データベース化の恩恵が得られていない状況であり、一刻も早い電子カルテの標準化が望まれます。
電子カルテを使用する際の意外な注意点
電子カルテにはシステムごとに注意しなければならない点がいくつかあります。以下が代表的な例です。
- 一部のものはシステム日付変更により、履歴を残さず過去所見の書き換えが可能
- ヒューマンエラー機能が実装されていないため医療記録が破綻
- フェイルセーフ機能が実装されていないため異常が他のシステムに波及
このほかにも、紙媒体出力する際に法令の書式に対応できていない場合や電子カルテの記載日時が担当者の勤怠状況と異なることがあり、真正性の確保ができない場合もあります。
また、電子カルテに付随した会計・看護支援などを連携するシステムでは、紙媒体出力に伴う記録時間が一致せず、真正性の確保ができないこともあり、注意が必要です。
医療費削減は、電子カルテの普及がキーポイントか
電子カルテの導入に膨大な初期費用が必要となるのは、日本に限ったことではありません。しかし、同様の状況であるアメリカでは、日本を大幅に上回る普及率で電子カルテが導入されています。
その背景には、高騰を続ける医療費に対して、医療保険は基本的に個人で負担するというアメリカの事情があり、医療費削減のためのシステム導入が、必須の状況となっていたからにほかなりません。
これに対して日本では、整備された医療保険制度による低い医療費という現実があり、医療の現場で医療費削減が優先課題ではなかったため、普及が進まないという一面がありましたが、健康保険への不安材料が拭えない現在、医療費削減は喫緊の課題ともいえます。
医療費削減という課題に一定の解答を得られ、医療機関や患者にとっても多くのメリットをもたらす電子カルテの導入と普及は、一刻も早く行われるべきであり、早急な対策が望まれます。
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