2019年国内ネット広告費、初2兆円超えでテレビを上回る - 既存マスコミのノウハウ活用が背景に
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ネット広告がテレビを抜いた
テレビや新聞、鉄道の車内や駅、ビルの看板など、世の中は広告でいっぱいだ。特に、テレビCMは印象が強く残ることもあり影響力が大きく、国内の広告媒体として2兆円弱の規模を誇る。
一方で、テレビよりもYouTubeを好んだり、ウェブサイトを情報源に多用したりする人が増え、広告媒体としてインターネットの魅力が高まってきた。確かに、テレビ番組と同じように、インターネットで出会う動画や音楽、記事にも多くの広告が挿入されている。
電通が2019年2月に公表した調査レポート「2018年 日本の広告費」によると、2018年におけるインターネット広告費は1兆7,589億円で、1兆9,123億円のテレビメディア広告費(そのうち1兆7,848億円が地上波テレビ広告費)に迫っていた。そして、2020年2月公表の「2019年 日本の広告費」で、インターネット広告費がテレビメディア広告費を初めて上回ったのだ。
ネット広告費は6年連続で2桁成長
電通「2019年 日本の広告費」によると、国内の総広告費は6兆9,381億円だった。前年の6兆6,514億円から1.9%増えており、6年連続で2桁成長をみせたインターネット広告費が市場をけん引したという。
電通は、国内広告費を大きく(1)マスコミ四媒体広告費、(2)インターネット広告費、(3)プロモーションメディア広告費の3領域に分けている。ここでは、まず(1)と(3)の内訳をみてみよう。
マスコミ広告費はすべての媒体で減少
マスコミ四媒体とは、新聞、雑誌、ラジオ、テレビのこと。これら四媒体の広告費は前年比3.4%減の2兆6,094億円で、減少は5年連続だそうだ。各媒体の広告費は以下のとおりだが、いずれも前年より少なくなっている。
媒体 | 広告費(2019年) | 前年比 | 広告費(2018年) |
---|---|---|---|
新聞 | 4,547億円 | 95.0% | 4,784億円 |
雑誌 | 1,675億円 | 91.0% | 1,841億円 |
ラジオ | 1,260億円 | 98.6% | 1,278億円 |
テレビメディア | 1兆8,612億円 | 97.3% | 1兆9,123億円 |
鉄道広告やタクシー広告が増加
プロモーションメディア広告費とは、屋外広告、交通広告、折込チラシ、ダイレクトメール、フリーペーパー、イベントなどを含む広告費。2019年の総額は2兆2,239億円で、前年に比べ7.5%増えた。
分野別では、「イベント・展示・映像ほか」が5,677億円、前年比58.4%増という大きな伸びを記録した。また、「交通広告」は前年比1.8%増の2,062億円にとどまっているものの、内訳には興味深い変化がみられる。紙媒体が減ってデジタルサイネージ化が進む鉄道車内および駅構内の広告や、BtoBからBtoC広告へ広がり始めて大幅に増加したタクシー広告が一例だ。
1.6兆円超え、ネット広告媒体費のトレンドは?
2019年のインターネット広告費は2兆1,048億円あり、国内広告費の30.3%を占める勢力となった。前年の1兆7,589億円に対しては19.7%の2桁成長で、初めてのテレビメディア広告費超えと、初めての2兆円超えを達成した。
この電通の調査レポートをさらに分析したD2Cの「2019年 日本の広告費インターネット広告媒体費 詳細分析」を参照し、オンライン広告のトレンドを把握しよう。
なお、D2Cはインターネット広告費から「インターネット広告制作費」と「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いた数字を「インターネット広告媒体費」(1兆6,630億円、前年比14.8%増)として、広告の種類別および取引手法別に細かく分析している。
ビデオ広告が前年比1.5倍
同調査ではインターネット広告の種類を4つに分類。ウェブサイトやアプリの広告枠に表示される「ディスプレイ広告」、検索キーワードに合わせて表示される「検索連動型広告」、動画を使った「ビデオ(動画)広告」、それら以外のメール広告やオーディオ(音声)広告などを含む「その他のインターネット広告」について、それぞれの広告費を調べた。
それによると、ディスプレイ広告が振るわず、ビデオ(動画)広告が大きく伸びている。
種類 | 広告費(2019年) | 前年比 | 広告費(2018年) |
---|---|---|---|
検索連動型 | 6,683億円 | 117.1% | 5,708億円 |
ディスプレイ | 5,544億円 | 98.3% | 5,638億円 |
ビデオ(動画) | 3,184億円 | 157.1% | 2,027億円 |
その他 | 170億円 | 145.4% | 117億円 |
取引手法に関わらず伸長
取引の手法は、検索連動型広告とアドネット経由で入札される「運用型広告」、広告代理店などから直接販売されたり非入札方式(固定価格)で取引されたりする「予約型広告」、閲覧者の行動に応じて報酬が支払われる「成果報酬型広告」に分かれる。
それぞれの広告費は以下のとおり。全体の79.8%を占める運用型広告が圧倒的に多いものの、いずれの手法も順調に成長している。
種類 | 広告費(2019年) | 前年比 | 広告費(2018年) |
---|---|---|---|
運用型 | 1兆3,267億円 | 115.2% | 1兆1,518億円 |
予約型 | 2,314億円 | 117.4% | 1,971億円 |
成果報酬型 | 1,049億円 | 105.9% | 990億円 |
マスコミ媒体のDXが押し上げ
D2Cは、勢いがやや鈍るもののインターネット広告媒体費の成長は今後も続き、2020年には前年比11.0%増の1兆8,459億円に拡大すると予測している。好調なビデオ(動画)広告も、同13.0%増の3,597億円へ増えるとした。
マスコミ由来のデジタル広告費が急増?
こうした調査結果から、広告の重心が既存のマスコミ四媒体からインターネット媒体へ移ってきたように感じる。しかし、電通のデータをみると、インターネット広告費のなかでマスコミ四媒体由来のデジタル広告費が急速に増えてきており、既存マスコミ媒体社のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進んでいると分かる。
具体的には、マスコミ四媒体の事業社などが主体となって提供されたインターネット広告費は2019年に715億円あり、前年比22.9%増という伸びを示した。媒体ごとの広告費は、「新聞デジタル」が146億円(同10.6%増)、「雑誌デジタル」が405億円(同20.2%増)、「ラジオデジタル」が10億円(同25.0%増)、「テレビメディアデジタル」が154億円(同46.7%増)で、いずれも好調だ。
電通は、「長年蓄積してきた非デジタル領域でのコンテンツ制作やユーザーへのリーチ(到達率)に関する知見が、デジタル領域においても広く活用されている」と指摘している。
既存メディアのノウハウはネットにも生きる
確かに、テレビ広告のノウハウはインターネットの動画広告に使えるだろう。PCやスマートフォンだけでなく、スマートディスプレイ(画面付きスマートスピーカー)のようなデバイスが普及すれば、応用できるはずだ。
スマートイヤホンのようなヒアラブル、スマートスピーカー、そして見直されて人気復活したポッドキャストなどは、広告媒体としての役割が期待され始めている。こちらで展開される音声広告には、ラジオ広告のテクニックが有用だ。
既存メディアとインターネットは交わらないメディアのようにも感じるが、広告手法という観点ではそれぞれに学ぶところが多い。マーケティング活動を実施する際には、そうした知見をぜひ活用しよう。