V字回復するIT市場、クラウド支出は増える一方 - コロナ禍で「重要度高まった」
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クラウド利用はすっかり当たり前に
新たなサービスやウェブサイトを立ち上げる場合、今ではクラウドサービスを利用することが当たり前です。クラウドなら、サーバーやストレージを確保する必要がありませんし、面倒な管理作業もある程度サービスベンダー任せにできます。
例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種予約サービスなども、クラウド上で動いています。厚生労働省主導のCOVID-19情報共有システムはセールスフォース・ドットコムのサービスを使っており、これで改めてクラウドの浸透を実感した人もいるでしょう。
ハイペースで成長する世界クラウド市場
クラウドサービスの利用は、世界的に増えています。
AWS一強体制は崩れつつある
カナリスの調査レポート「Global cloud services market Q1 2021」によると、2021年第1四半期における全世界の対クラウドインフラサービス支出額は、418億ドル(約4兆5,604億円)でした。以前に比べ成長率は下がったものの、前年同期比35%増という高い水準を維持しています。
サービス別シェアは、アマゾンの「Amazon Web Services(AWS)が全体の32%を占め、1位になりました。2位はマイクロソフトの「Microsoft Azure」(19%)、3位はグーグルの「Google Cloud」(7%)です。
今のところ、AWSは他ベンダーを引き離しています。ただし、その成長率は対前年同期比32%で、Microsoft Azureの同50%、Google Cloudの同56%に比べ見劣りします。クラウド市場におけるAWSの一強体制は、崩れつつあるようです。
今後もデータ分析やマシンラーニング、データセンター集約、アプリケーションのマイグレーションのほか、クラウドを最初から想定したシステム開発やサービス提供といった取り組みが続くため、カナリスは今後もクラウド需要が続くとみています。
COVID-19パンデミックで落ち込んだ景気や一時中断した計画は、ワクチン接種の広まりとともに復活するはずです。そのため、クラウドサービス利用を複数年契約するユーザーも増えると予想しました。
高い成長率の中国系ベンダー
調査会社のシナジーリサーチグループも、クラウドインフラサービスに関する調査結果を公表しました。2021年第1四半期の支出額は、前年同期比37%増の395億ドル(約4兆3,095億円)あり、3四半期連続の増加です。この成長ペースが続けば、2021年の総額は1,400億ドル(約15兆2,740億円)にもなります。
ベンダー別のシェアは、1位アマゾン、2位マイクロソフト、3位グーグルで、カナリスの調査と同じ結果です。ちなみに、4位はアリババ、5位はIBMでした。
各ベンダーのシェアを示した以下のグラフは、縦軸が成長率で、中央付近の点線が市場全体の成長率です。つまり、この点線より上にあるベンダーは平均を上回るペースで成長していることになり、マイクロソフトとグーグルがアマゾンに迫っていることが分かります。
アリババやバイドゥ、テンセントといった中国企業は、いずれもシェアが小さいにもかかわらず、高い成長率を記録しました。今後クラウド市場で大きな存在感を示す可能性があります。
国内市場も成長が見込まれる
国内のクラウドサービス市場も好調なようです。
2025年には2020年の2倍超に
IDC Japanの「国内パブリッククラウドサービス市場予測」によると、2020年の国内パブリッククラウドサービス市場は、前年比19.5%増の1兆654億円でした。そして、年平均19.4%のペースで成長し続け、2025年には2兆5,866億円に達するとの予想です。
市場が拡大する要因としては、企業のIT投資に対する意識変化があるといいます。IDC Japanが2020年10月に実施した調査「国内クラウド需要調査(Japan Cloud User Survey)」では、65.5%の企業がクラウド利用を優先的に検討する「クラウドファースト戦略」をとっており、1年前の58.5%から増えました。また、42.3%の企業が、COVID-19感染拡大の影響でクラウド利用促進の重要度が高まった、と回答したそうです。
ITサービス市場もV字回復
COVID-19の影響で2020年に前年比2.8%減と大きく落ち込んだ国内ITサービス市場も、今後は順調に成長する見通しです。IDC Japanが2021年2月に発表した「国内ITサービス市場予測」では、2021年以降にプラス成長へ戻り、2025年の市場規模が6兆4,110億円になるといいます。2020年から2025年にかけての年平均成長率(CAGR)は、2.4%としました。
やはり、COVID-19パンデミックで遅れたプロジェクトが再開するほか、レガシーシステムの刷新と更新による需要、DX投資の本格化などが、市場をけん引するとのことです。ITサービス市場の拡大は、対クラウド支出も増やします。
DX推進にクラウド利用を
ワクチンの接種が進んだ地域では、経済活動が再開されつつあります。本格的な接種が始まったばかりの日本も、以前のような状況へ戻るのは時間の問題かもしれません。また日本では官民問わずDXが強く求められていて、IT投資がパンデミック前以上に活発化する可能性もあります。
何らかのシステムを構築する際、最終的にオンプレミス環境やハイブリッドクラウド環境で運用するとしても、まず自前のサーバーが不要なクラウドで取り組むと、素早く対応できます。小さな規模からスタートし、必要に応じてサーバーやストレージ、回線容量などを増やすことも容易です。結果的に、その方が柔軟かつ迅速にシステムを開発できるでしょう。
迅速なDXには、クラウド利用が適しています。