大型調達相次ぐ「スマートロック」注目の理由 - キーレスが“仕事場”でも要点に
コロナ禍で働く場所が多彩に
働き方は一気に多様化しました。対面の接客や現場での作業が必要とされない業務では、自宅からテレワークする在宅勤務、オフィスに戻らず出先で仕事を済ませるリモートワークなどが今や当たり前です。営業活動も、リモートで行うオンライン商談が増えています。
ただし、自宅にこもって1人で仕事をしていると、コミュニケーション不足や効率低下などの問題が生じます。そこで、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークも活用されています。
ストリーミング音楽配信サービスを運営しているスウェーデンのスポティファイは働き方の多様性を追求し、働く場所を従業員が柔軟に選べる勤務制度「Work From Anywhere(WFA)」を導入し、世界のどこからでも働ける職場を実現させる計画です。日本でも、旅行先でバケーションを楽しみながら仕事をこなすワーケーションが話題になっています。
働き方の多様化で、オフィスも変化
働き方の多様化は、オフィスのあり方も変えようとしています。
オフィス需要は弱まる
在宅勤務は、働く人にどの程度求められているのでしょうか。
クアルトリクスの調査によると、在宅勤務を行っている人々の約9割は、コロナ禍収束後も在宅勤務を希望していました。在宅勤務を基本的にしていない人も、32%が在宅勤務を望んでいます。
この結果から、クアルトリクスは、出勤が前提の勤務形態は完全に復活することはなく、ハイブリッド勤務が定着する、と予想しました。
在宅勤務が増えれば、当然オフィスで働く人は減ります。ザイマックス不動産総合研究所の調査レポート「大都市圏オフィス需要調査2021春」では、2020年の春以降「オフィスの在籍人数」の減少が顕著になりました。
オフィスの面積についても、2021春の調査で「拡張した」という回答が5.5%の横ばいだったのに対し、「縮小した」は8.3%です。オフィス需要の弱さが数字に現れました。
「自宅以外」で働きたい人々
ところが、オフィス需要がなくなったわけではありません。在宅勤務時の課題から、自宅以外の場所で働きたい、というニーズが顕在化したのです。
例えば、コクヨの調査では、在宅勤務をしている人の95.0%が「悩んでいることがある」と答えています。
具体的な悩みは、「身体・健康」(32.8%)と「集中力・メリハリ」(19.1%)が多いものの、「空間・設備」(13.4%)や「家族・同居人」(10.8%)、「通信環境・PC」(5.3%)といった自宅という環境に起因する悩みも挙げられました。
このような悩みを解決する方法としては、オフィス勤務を併用するハイブリッド勤務が有効でしょう。また、サテライトオフィスやコワーキングスペースを利用することも、気分転換や集中力向上につながりそうです。
シェアオフィス事業を展開するWOOCの調査によると、新規入会者の利用目的として「テレワーク」と答える人が大幅に増加していました。
具体的には、感染拡大前の2019年12月に12%だったものが、2021年4月に2倍以上の25%となっています。在宅勤務でもなく、オフィス勤務でもなく、1人で集中して作業したい、という人の利用が増えたようです。
1人用ボックス型ワークスペース、存在感増す
仕事の移動中に仕事を済ませたいとか、自宅以外の場所で作業をしたいという場合には、コワーキングスペースが便利です。そのような要望に応えるためか、ボックス型の1人用ワークスペースを鉄道の駅で見かけるようになりました。コワーキングスペースやオフィスへ行くほどでないが外で作業したい、という需要にはピッタリです。
たとえば、東京地下鉄(東京メトロ)が富士フイルムビジネスイノベーション(旧社名は富士ゼロックス)の「CocoDesk(ココデスク)」を複数の駅に設置したり、東日本旅客鉄道(JR東日本)が「STATION BOOTH」を本格展開したりといった事例があります。STATION BOOTHの開発に協力したブイキューブは、駅のほか、オフィスビルの共用スペースなど全国へ個室ブース「テレキューブ」を展開中です。
「スマートロック」注目の理由
働き方だけでなく、働く場所もオフィスから自宅、移動中の鉄道や飛行機、サテライトオフィス、コワーキングスペースなど多彩になりました。駅などに設置されるボックス型の作業スペースも、珍しい存在ではなくなるし、ワーケーションする人も増え、働く場所の分散化も進みます。
こうして、大勢が1カ所に集まって働くオフィスよりも、少人数や1人でオンデマンド的に利用するワークスペースが多くなります。ただし、各地に数多く設置されるワークスペースを運営することは、とても困難です。管理者を常駐させることは現実的でなく、利用時に必要な鍵を貸し出すにしても手間がかかります。オフィスへの移動をなくしても、これでは効率向上になりません。
ボックス型ワークスペースは、最初からリモート制御できるドアを導入することで、鍵の受け渡しを行わず利用者だけで解錠可能です。既存のオフィスで同様の対応を可能にするには、ドアの鍵にスマートロックを取り付ける方法があります。
そのためか、スマートロックを手がけている企業に対する期待が膨らみ、多額の資金調達が続いています。
2015年にスマートロック「Akerun」を発売して先行したフォトシンスは、7月7日、総額17.5億円の資金調達を公表。累計調達額は約70億円にのぼります。また2019年に「bitlock」を発売したビットキーは6月15日、32億円超を調達し、累計資金調達が約90億円となったとしており、市場の注目度が高い状態です。
スマートロックを使えば、スマートフォンで解錠することが可能になり、ほかの人への仮想的な鍵の貸し出しもリモート化できます。対面することなく非接触で入退室を管理できるメリットが、コロナ禍で評価されるようになりました。
こうした機能を備えるスマートロックの応用範囲は広く、ワークスペースにとどまりません。物件の内覧に活用する不動産会社、スタッフの常駐しないホテルを運営する企業などが存在します。解錠方法も、スマートフォン以外に指紋認証や、特に最近は非接触で済ませられる顔認証も利用されています。
COVID-19パンデミックは、働き方を変え、働く環境の利便性も大きく高めつつあります。