「優秀な人材ほど辞めてしまう」 テレワークでキャリア観が変化、流出を防ぐには?
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テレワークがもたらした意識変容
みなさんの職場では、在宅勤務をするようになったでしょうか。以前から在宅勤務が可能だった職場では、テレワークによってオフィス勤務の頻度が下がったところもあるでしょう。
この1年ほどで、自宅から仕事をしたり通勤しないで済んだりと、仕事の環境は大きく変化しました。自由度の高まった働き方が、働く人の意識も変えたようです。
コロナ禍で意識が変化
エン・ジャパンが求人情報サイト「ミドルの転職」で35歳以上のユーザーを対象に調査したところ(※1)、回答者の68%が「コロナ禍の前後でキャリア観に変化があった」としました。変化があったという回答の割合は、30代が75%、40代が69%、50代が63%となり、若い世代ほど新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を強く受けています。
変化のきっかけとして挙げられた理由は、「リモートワーク・テレワークなど柔軟な働き方の導入・拡大」が44%でもっとも多くなりました。これに続いたのは、「業界自体の先行きへの不安」(43%)、「会社の業績悪化に伴う事業の解散・縮小」(34%)、「会社方針・事業方針の転換」(31%)といった会社そのものに関する理由です。
理由として選んだ人の割合はやや少ないものの、「新たなスキル習得の必要性」(26%)や「社会貢献への思いの強化」(20%)という項目も、働き方を見直すことにつながっています。時間や場所に縛られない柔軟な働き方が、働く人の意識やキャリア観も変えたのです。
※1 エン・ジャパン『ミドル世代1,700人に聞く「コロナ禍前後のキャリア観の変化」意識調査』
転職意向が強まる
コロナ禍は、働く人のキャリア見直しを加速しただけでなく、転職意向も強めていました。
同じエン・ジャパンの調査によると、コロナ禍の前後で「以前から転職を検討していたが、ますます転職への意欲が高まった」人が55%、「以前は転職を検討していなかったが、今は転職を検討している」人が27%いて、8割以上が転職する方向へ傾いています。
転職を検討している理由としては、「業界自体の先行きへの不安」と「仕事を通じた成長実感の有無」がいずれも36%で最多です。ただし、30代に限ると「仕事を通じた成長実感の有無」が45%と目立って多く、この機会にキャリアアップを目指したい、という気持ちの強さが読み取れます。
キャリアの見直しという意味では、「他の仕事や業種への興味・関心」(全体の31%、30代の36%)、「新たなスキル習得の必要性」(全体の21%、30代の24%)という項目も選ばれていました。
キャリア形成意識も向上
20歳以上の人を対象にした、別の調査レポートもみてみましょう。
ライボが新型コロナ感染拡大前と比べた転職への意識変化を調べたところ(※2)、「転職を考えるようになった」人は32.3%いて、「転職を考えなくなった」人は4.0%にとどまりました。やはり、パンデミックのもたらした環境の変化は、転職の希望者を増やしています。
自由回答のなかには、「リモートワークの増加で自分と向き合う時間が増え、やってみたいことが明確になった」「家でも十分に働ける世の中となったことからキャリアの見直しをして転職を考えるようになった」といったような、キャリア形成に対する意識の高まりもみられます。
※2 ライボ『2021年 転職意識調査を実施しました』
優秀な人材を見つけるには?
キャリア形成やキャリアアップについては、パーソル総合研究所が興味深い調査レポート(※3)を公開しています。
※3 パーソル総合研究所『キャリア自律に関する調査結果を発表』
高いキャリア自律度は大きなメリット
キャリア形成については、働く人が自分のキャリア形成を勤務先などの組織に委ねず、自ら積極的に取り組む「キャリア自律」という考え方があります。キャリア自律を数値化して扱えるようにするため、パーソル総合研究所は「キャリア自律度」と呼ぶ指標を使いました。この指標は、心理面と行動面に関する設問への回答を得点化し、平均をとった値です。これを比べることで、キャリア自律の強弱が示せるとしています。
調査では、対象者のキャリア自律度を算出したうえで、キャリア自律度が高い層と低い層で仕事や生活に対する評価などを比べました。すると、自律度の高い層の方が、「個人パフォーマンス(自己評価)」で1.20倍、「ワーク・エンゲイジメント(仕事への貢献意欲)」で1.27倍、「学習意欲」で1.28倍、「仕事充実度」で1.26倍も高いという結果が得られました。
キャリア自律度が高いと、仕事や人生で満足度も高くなっています。これは、働く本人だけでなく、勤務先にもメリットがあるはずです。
キャリア自律度を高める方法
キャリア自律度を高めるには、どうしたらよいでしょうか。
まず、人事管理の方法に着目すると、「組織目標と個人目標の関連性」「処遇の透明性」「ポジションの透明性」「キャリア意思の表明機会」といった項目が、キャリア自律度を向上させるようです。人事評価の透明性を高め、働く人から信頼してもらうことが効果的なのでしょう。
上司のマネジメントも、キャリア自律度に影響していました。上司から部下に対する「期待伝達」「ビジョン共有」「理解とフィードバック」といった項目が高い層ほど、部下のキャリア自律度が高かったのです。
組織診断・サーベイ活用を
キャリア自律度の高い人は、自ら工夫して積極的に仕事を進めるため、企業にとって貴重な人材です。ただ、パーソル総合研究所によると、キャリア自律度が高いと転職意向も高い、という傾向がみられます。企業としては、働き続けてもらいたい人ほど流出する可能性が高い、ということです。
「企業が人を選ぶ」のではなく、「企業が人に選ばれる」という考え方を取り入れ、キャリア形成につながる業務を任せるなどすれば、転職リスクを軽減できます。企業が従業員を一方的に評価するのではなく、満足して働ける環境かどうか自省するのです。
それには、企業自体の問題点や課題を可視化できる組織診断ツールや従業員満足度調査(エンゲージメントサーベイ)が役立ちます。組織の「望ましい状態」を定義し、ツールでその状態との解離度を認識することで、必要な対策がとれます。
従業員がキャリア形成の見通しに不安を抱いていたり、エンゲージメントが低下していたりといった問題が明らかになれば、具体的な改善策を立案できるでしょう。人事評価制度を見直す機会になります。
働き方の柔軟性が高まり、転職もしやすくなったいま、人材と組織を多方面から分析できるツールの活用が欠かせません。