リスキリングとは?DX人材育成で注目、実施のポイント
注目度上昇中の「リスキリング」って?
企業の人材育成や社員教育に関する話題で、このところ「リスキリング」という言葉をよく耳にします。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)と組み合わされることが多いようです。
リスキリングとは
リスキリング(reskilling)とは、改めて(re)仕事を教える(skill)こと。広い意味では、仕事に使う知識や技術を教育し直す、といった理解でよいでしょう。
これに対し、近ごろの人材育成分野、特にDX文脈では、新しい時代に必要とされる新たなスキルを習得させる、という狭い意味で使われています。
DXの今、OJT頼みでは時代遅れ?
これまでの社会は、変化が比較的緩やかでした。仕事のスキルは「石の上にも三年」といったように、OJTで自然に覚えたものです。
ところが、最近はデジタル化、オンライン化、リモート化が急速に進んでいます。ITを専門的に扱う担当者以外にも、こうした知識が欠かせません。新しいスキルを積極的に獲得していかなければ、仕事ができなくなってしまいます。
DX時代の今、社会は目まぐるしく変容し、仕事で必要とされるスキルも目まぐるしく変化し続けています。特にここ数年は早急なDX対応が求められるようになって、リスキリングにこのような意味が与えられ、注目されるようになったのです。
DX人材育成とリスキリングの現状
企業には、DXに必要な人材が十分いるのでしょうか。DX人材の育成を目的としたリスキリングは実施されているのでしょうか。
DXとリスキリングに関する調査レポートをいくつかみてみましょう。
人事の8割がリスキリングの必要性を認識
ユームテクノロジージャパンは、従業員数500名以上の企業で働く人事担当者を対象に、DX時代の人材戦略に関する調査(※1)を実施しました。
「DX人材の確保が十分に行われていますか」と尋ねたところ、「ややそう思う」は23.8%、「非常にそう思う」は16.8%と、約4割はDX人材が十分と考えています。また、DX人材が不足していると考える「全くそう思わない」(8.9%)と「あまりそう思わない」(36.6%)の合計は4割強です。
DXが進めば、効率化で不要になる業務が生ずるでしょう。DX推進に新たなスキルを持つ人材が必要な一方で、求められるスキルと持っているスキルが合致しなくなる人材も発生してしまいます。
そうした人々でも、直接的な業務の経験や知識は豊富で貴重ですし、社外の人脈も大きな財産です。適切なリスキリングさえすれば、引き続きDX時代も活躍できるでしょう。
ユームテクノロジージャパンの調査でも、「DXの加速や働き方の多様化により、今後あなたの会社では、今以上に社内の『余剰人員の活用』が重要になってくると思いますか」という質問に対して、31.7%が「非常にそう思う」、45.5%が「ややそう思う」と答えました。
そして、全体の82.2%が「DX時代の人材戦略としてリスキリングが重要になる」と考えています。
※1 ユームテクノロジージャパン『82.2%の大企業の人事担当者が、DX時代の人材戦略として「リスキリング」が重要になると回答』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000086740.html
企業の取り組み実態は?
リスキリングの実施状況については、Visionalの調査レポート(※2)が参考になります。
それによると、調査対象となった転職サイト「ビズリーチ」会員のうち、半数以上にあたる54.8%がリスキリングに取り組んでいました。そうした人の40.3%は、勤め先に頼らず個人でリスキリングしています。勤め先が何らかの形でリスキリングしていたのは9.4%、勤め先経由と個人の両方で取り組んでいた人は5.2%でした。
企業でもリスキリングは始まりつつあるものの、自分の意思で取りかかっている従業員が先んじている状態です。このような状況が続けば、自ら積極的にリスキリングする優秀な人材は、次々と離れていってしまいます。Visionalが同じ調査で企業の経営層と人事担当者にリスキリング取り組み状況を質問したところ、「現在取り組んでいる」は19.2%で、やはり従業員に比べ低い値です。
ただし、「今後取り組む予定がある」は9.8%、「今後取り組むか検討中である」は28.2%と、4割はリスキリングを意識していました。このことから、リスキリングは企業内で広がっていくと予想されます。
※2 Visional『【リスキリングに関する調査レポート】即戦力人材の約5割が、既にリスキリングを実施』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000289.000034075.html
ビジネス職も実施対象に
ユナイテッドの調査(※3)では、リスキリングについて企業の37.5%が「現在、取り組んでいる」、3.3%が「取り組んだことはあるが、現在は取り組んでいない」といった結果です。Visionalの調査に比べ、実施率が高くなりました。
また、「取り組んだことはないが、今後取り組む予定」(26.7%)、「取り組んだことはなく、今後も取り組まない予定」(19.2%)、「不明」(13.3%)と回答した企業に取り組まない理由を尋ねたところ、「やり方がわからない」「コストがかかる」「従業員に任せている」といった理由が挙げられました。
ユナイテッドは、企業の行ったリスキリング対象者も調べています。やはり「正社員(技術職)」が76.5%と最多でしたが、「正社員(ビジネス職)」も70.4%と多くなりました。
DXが単なるデジタル化ではなく、業務全体のプロセスや企業活動の全面的な変革を目指しているので、IT担当者でないビジネス職の従業員もリスキリングの対象になったのでしょう。23.5%が「役員」も対象にしたことも、その影響と思われます。
※3 ユナイテッド『企業のリスキリング実施に関する調査 約8割の企業が「今後もリスキリングに取り組む予定」と回答』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000235.000023821.html
リスキリング実施のポイントは
DX推進に欠かせない人材の不足、DX人材を育成する社内教育の必要性、不十分な社内教育といった問題は、以前から指摘されています。だからこそ、リスキリングが注目され、人材育成の場面で頻繁に言及されるようになりました。
リスキリングのポイントは、新たな時代に業務で必要とされる技術と、従業員が現在持っている技術のギャップを把握したうえで、適切な教育を施すことです。従業員も企業も、リーダーも経営陣も、スキルの棚卸しをして現状のスキルを把握し、必要とされるスキルとのギャップを可視化する必要があります。そのためには、効率的にタレントマネジメントできる人事DX、HRテックといった考え方やツールが有効でしょう。
DXとリスキリングの必要性が広く認識されるようになった現在、学習用のコンテンツやサービスも増えました。勤め先で新たなスキル習得のチャンスが与えられば、従業員のモチベーションも高まります。環境が大きく変わる次の時代を乗り越えていく力を、従業員も企業も獲得できるはずです。