リアルとバーチャルを連携させる「デジタルツイン」、活用事例は増えつつあるが日本は出遅れ?
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「デジタルツイン」とは
このところ「デジタルツイン」という言葉を目にするようになりました。これは、現実世界と連携させた仮想空間のことで、現実の世界に存在する建物や物、人などを仮想空間で再現する技術です。デジタル空間に作られた現実世界の双子(ツイン)なので、このように呼ばれています。
現実感のある空間を仮想現実(VR)などで作り出すメタバースと似ていますが、デジタルツイン最大のポイントは、現実世界をコピーする点です。用途によっては、現実世界に存在する物の状態や人の動きをセンサーで取得し、デジタルツイン空間へリアルタイムに反映させる、といった処理まで行います。
まるでSFで描かれる夢のような技術ですが、実際に活用する取り組みが登場しています。
日本のデジタルツイン事例
百聞は一見にしかずということで、最近発表された事例をいくつか紹介します。
KDDIは「デジタルツイン渋谷」を実験
KDDIは、渋谷の街をデジタル空間に反映させる「デジタルツイン渋谷」(※1)を開発していきます。メタバース活用に積極的なKDDIは、以前から「バーチャル渋谷」「バーチャル原宿」といった取り組みを行っていました。デジタルツイン渋谷は、それらを進めたものです。
デジタルツイン渋谷では、まずスクランブル交差点やセンター街などの写真をベースとするバーチャル空間を構築します。そして、現実世界にいる人の位置情報を反映させ、リアルな渋谷とバーチャル空間の渋谷を連動させます。リアル空間でスマートフォンを使って渋谷の街を見ると、バーチャル空間にいる参加者が画面に登場します。逆に、バーチャル空間にはリアル空間の参加者が現れ、別の空間にいながら会話できるそうです。
具体的な第一弾の取り組みとして、渋谷に実在する店舗とそこに展示されている商品をバーチャル空間に再現します。リアル空間の店員がバーチャル空間の来店者を接客する、という実験を行う予定です。
その後は、さまざまな業種の店舗と実証実験を行い、2023年夏ごろのサービス提供を目指します。
※1 KDDI『リアルとバーチャル空間が連動、「デジタルツイン渋谷」を拡張』, https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2022/10/27/6354.html
本物のオフィスビルをデジタルツイン化
戸田建設は、社員の働くオフィスをバーチャル空間に「デジタルツインスマートオフィス」(※2)として再現する取り組みを、バーチャルオフィス運営サービスのoViceと共同で進めています。2024年に完成する「TODA BUILDING(仮称)」のデジタルツインを作り、バーチャルオフィスで勤務できるようにする予定です。
このバーチャルオフィスは、TODA BUILDING内の内部を再現するだけでなく、リアルオフィス内にいる社員の位置をバーチャルオフィス内のアバターに反映させます。さらに、空調や照明、ブラインド、デジタルサイネージ、温度や湿度、CO2濃度、トイレの空き状況、ゴミ箱内のゴミの量など、多岐にわたる情報も再現するそうです。そして、在宅勤務者とオフィス勤務者が、バーチャルオフィスでコミュニケーションできるようにします。
なお、oViceが「建設」したバーチャルビルはすでに1000棟以上あり、現在は約6万人以上のユーザーが毎日「出勤」しているそうです。
※2 戸田建設『ハイブリッドな働き方を支援する、デジタルツインスマートオフィスの共同開発に着手』, https://www.toda.co.jp/news/2022/20221018_003128.html
宇宙から見た地上をデジタルツインで再現
デジタルツインは、宇宙産業の分野でも使われつつあります。人工衛星から得られるデータの活用に取り組んでいるスペースデータが、地表にある都市などのデジタルツイン化(※3)を開発中です。
スペースデータは、人工衛星で取得した静止画像と標高データを機械学習アルゴリズムで処理し、構造物の検出や分類を行います。そして、地上の3Dモデルを生成させ、都市や地形のデジタルツイン化を自動処理します。
こうして作られたデジタルツインは、VRゲームや都市開発、自動運転、防災など、幅広い分野に応用できるとのことです。
※3 スペースデータ『衛星データから地球のデジタルツインを自動生成するAI開発のスペースデータ社、シードラウンドで総額14.2億円の資金調達を実施』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000080352.html
デジタルツインに対する日本企業の意識
国内でもデジタルツイン事例は増えていますが、世界的には出遅れているようです。
約6割が「採用はまだ先」と回答
アルテアエンジニアリングが日本を含む10カ国でデジタルツイン技術の導入状況などを調査(※4)したところ、世界との違いが明らかになりました。
まず、「あなたの組織はデジタルツイン技術を活用していますか」という質問に対して、日本の技術者や経営者は59%が「活用している」、33%が「活用していない」、9%が「わからない」と回答しています。
ほかの国と比べて日本の「活用している」率は特別低くありません。ただし、中国は94%、インドは92%が「活用している」と答え、ほかの8カ国との差が目立ちます。
国 | 「デジタルツイン技術を活用している」とした回答 |
---|---|
アメリカ | 75% |
中国 | 94% |
フランス | 57% |
ドイツ | 63% |
インド | 92% |
イタリア | 62% |
日本 | 59% |
韓国 | 65% |
スペイン | 62% |
英国 | 66% |
デジタルツイン技術を採用時期について、日本で得られた回答は、2カ月以内が0%、3カ月から6カ月が6%、7カ月から11カ月が8%、1年から2年以内が12%、3年以内またはそれ以降が12%でした。
日本で特徴的なのは、「わからない」という回答が62%あり、ほかの国々よりはるかに多いことです。
国 | 採用時期が「わからない」とした回答 |
---|---|
アメリカ | 39% |
中国 | 30% |
フランス | 20% |
ドイツ | 15% |
インド | 0% |
イタリア | 16% |
日本 | 62% |
韓国 | 30% |
スペイン | 18% |
英国 | 20% |
※4 アルテアエンジニアリング『【デジタルツイン技術の導入に関する調査】世界の対象者7割がデジタルツインを企業で活用』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000067619.html
海外で進む実用化
海外に目を向けると、アウディ(※5)やBMW(※6)は自動車工場のデジタルツインを作り、生産計画立案や工場操業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めています。こうした取り組みが可能なのは、NVIDIAのメタバース開発ツール「Omniverse」やシーメンスの製造現場向けシミュレーター「Xcelerator」など(※7)を活用しているからです。
つまり、デジタルツインはSFの話などでなく、実用的な当たり前の技術になりつつあります。先達の事例を研究し、自らに応用できないか検討してはどうでしょう。
※5 アウディ『Smart Production: How Audi Is Designing the Production of the Future』, https://www.audi-mediacenter.com/en/press-releases/smart-production-how-audi-is-designing-the-production-of-the-future-14786
※6 BMW『All BMW Group vehicle plants to be digitalised using 3D laser scanning by early 2023』, https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0400833EN
※7 NVIDIA『Siemens and NVIDIA to Enable Industrial Metaverse』, https://nvidianews.nvidia.com/news/siemens-and-nvidia-to-enable-industrial-metaverse