エッジAIとは?クラウドAIとの違いやメリット・デメリット、活用例

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- エッジAIとは
- エッジAIの必要性
- クラウドAIとの違い
- エッジAIの3つのメリット
- メリット1. レスポンスの早さ
- メリット2. 通信量の削減
- メリット3. 情報漏えいリスクの軽減
- エッジAIの3つのデメリット
- デメリット1. クラウドAIに比べて処理能力が低い
- デメリット2. 管理範囲が広く手間とコストがかかる
- デメリット3. システムが複雑になりやすい
- エッジAIの活用事例
- 自動運転
- 交通量調査
- スマートファクトリー
- 警備
- エッジAIの利用に向いている用途
- 限られたエリアでの利用
- 特定の処理に特化したシステム
- 通信環境が不安定な場所での利用
- クラウドAIの活用に向いている用途
- 大量のデータ処理が必要な場合
- 複雑なAIモデルを実行する場合
- 複数のシステムと連携する場合
- さまざまな分野でエッジAIの活用が始まっている
エッジAIとは
エッジAIとは、ネットワークの末端にあるデバイス上、もしくはデバイスと同一のネットワーク内に配置されたコンピュータでAI処理を行う技術です。従来、クラウド上のサーバーで行っていたAI処理をデバイス側で行うことで、データ処理の遅延を抑えリアルタイムな応答を可能にします。
エッジAIの身近な例だと、スマートフォンカメラの顔認証がわかりやすいでしょう。画像データをクラウドに送信せずに端末内で処理することで、迅速な認証が可能になります。これがエッジAIの基本的な仕組みです。
エッジAIの必要性
近年、IoT機器の普及により、ネットワークに接続されるデバイスの数は爆発的に増加しました。これにより、クラウドへのデータ送信量が増大し、通信遅延やネットワーク負荷が課題となっていることが、エッジAIの必要とされる背景です。
エッジAIはデータ処理をデバイス側で行うことで、これらの課題を解決し、より効率的なデータ活用を実現するために必要です。また、個人情報をはじめとする機密データをクラウドに送信せずに済むため、セキュリティ面でも優れていることから注目を集めています。
クラウドAIとの違い
エッジAIとクラウドAIの最大の違いは、データ処理を行う場所です。エッジAIはデバイス側でデータ処理を行うのに対し、クラウドAIはクラウド上のサーバーでデータ処理を行います。
クラウドAIは、データセンターをはじめクラウド環境に構築されたAIシステムです。デバイスで収集されたデータはインターネットを通じてクラウドに送信され、クラウド上のサーバーでAI処理が行われます。処理結果はデバイスに返送され、ユーザーに提供される仕組みです。
たとえば、音声アシスタントサービスではユーザーの発話データがクラウドに送信され、音声認識や自然言語処理が行われたあと、応答がデバイスに返されます。これがクラウドAIの基本的な仕組みです。
この違いにより、処理速度や通信量、セキュリティなどの面でさまざまな特性の違いも生じます。クラウドAIは大容量のデータを処理するのに適していますが、通信遅延が発生しやすいです。一方で、エッジAIはリアルタイム性が求められる処理に適していますが、デバイスの処理能力に制約を受けます。
エッジAIの3つのメリット
エッジAIにはクラウドAIと比較して、「レスポンスの早さ」「通信量の削減」「情報漏えいリスクの軽減」という3つの大きなメリットがあります。これらのメリットは、データ処理をデバイス側で行うというエッジAIの特徴から生まれます。
メリット1. レスポンスの早さ
エッジAIはデータ処理をデバイス側で行うため、処理時間を大幅に短縮できることが大きなメリットです。クラウドへのデータ送信とクラウドからの応答を待つ必要のないことがレスポンスの早さにつながります。
たとえば、リアルタイム性が求められる自動運転や工場の異常検知などの分野では、このレスポンスの早さが非常に重要です。エッジAIを活用することで、瞬時の判断と制御が可能になり、事故の防止や生産効率の向上につながります。また、VR/ARといった分野でも、快適なユーザー体験を提供するためにエッジAIは有効です。

メリット2. 通信量の削減
エッジAIは必要なデータのみをクラウドに送信するため、データ通信量を大幅に削減できます。すべてのデータをクラウドに送信する必要がないため、ネットワークへの負荷を軽減可能です。とくに、従量制のプランを契約している場合、通信コスト削減にも役立つでしょう。
たとえば、監視カメラの映像分析にエッジAIを活用する場合、異常が発生した場合のみ映像データをクラウドに送信することで通常時のデータ送信量を大幅に削減できます。これにより、ネットワーク帯域幅の有効活用と通信コストの削減が可能です。
また、通信環境が不安定な場所でも、エッジAIを活用することで安定したシステム運用が可能になります。

メリット3. 情報漏えいリスクの軽減
エッジAIはデータをデバイス内で処理するため、クラウドへのデータ送信が不要となり、外部からの不正アクセスやデータ漏えいリスクを軽減できます。
たとえば、医療分野で患者のデータを扱う場合は、エッジAIを活用することで個人情報を外部に送信することなくデータ処理が可能です。これにより、患者のプライバシー保護を強化し、安心してデータを利用できる環境を構築できます。
エッジAIの3つのデメリット
エッジAIは多くのメリットを持つ一方で、処理能力の低さや管理コストがかかるといったデメリットも存在します。これらのデメリットは、デバイス側で処理を行うというエッジAIの特性に起因しています。デメリットを詳しく解説します。
デメリット1. クラウドAIに比べて処理能力が低い
エッジAIはデバイスの限られたリソース(CPU・メモリなど)で処理を行うため、クラウドAIに比べて処理能力が低くなります。
クラウドAIはデータセンターの大規模なサーバー群を利用できるため、高度な演算処理や大量のデータ処理が可能です。一方、エッジAIはデバイスの制約を受けるため、処理能力には限界があります。
複雑なAIアルゴリズムの実行や大量のデータを用いた機械学習など、高い処理能力を必要とする処理にはエッジAIは適していません。このような場合は、クラウドAIを利用する方が効率的です。また、常に最新のAIモデルを適用したい場合もクラウドAIの方が容易に対応できます。
デメリット2. 管理範囲が広く手間とコストがかかる
エッジAIは、デバイスごとにAIシステムを導入・管理する必要があるため、クラウドAIに比べて管理範囲が広くなります。クラウドAIもデバイスやネットワークの管理が必要ですが、サーバーの管理はクラウドサービス提供者に任せられます。それに対してエッジAIの場合は、デバイスの選定やAIモデルの最適化、セキュリティ対策などを自社で行わなければなりません。
たとえば、多数のデバイスにエッジAIを導入する場合、それぞれのデバイスの状況を把握して適切に管理するためのシステム構築や運用体制の整備が必要です。そのため、初期導入コストや運用コストは大きくなります。大規模なシステムを構築する場合は、クラウドAIの方が管理の手間とコストを抑えられる場合も多いです。
デメリット3. システムが複雑になりやすい
エッジAIは、デバイスとクラウドが連携して動作するシステム構成となる場合が多く、システム全体が複雑になりやすい傾向があります。クラウドAIは、データ収集から処理、結果の提供までをクラウド内で完結させられますが、エッジAIはデバイスとクラウド間のデータ連携や同期、デバイスごとのAIモデルの管理などの考慮すべき項目が増えます。
たとえば、デバイスで収集したデータをクラウドで分析し、その結果をデバイスにフィードバックするようなシステムを構築する場合、データ連携の仕組みやデータ形式の整合性などを考慮しなければなりません。そのため、システム設計や開発の難易度が上がり、開発期間やコストが増加する可能性があります。また、システムのトラブルシューティングも複雑になりやすいです。
エッジAIの活用事例
エッジAIは、自動運転や交通量調査、IoT機器、スマートファクトリー、警備などのさまざまな分野で活用が始まっています。
たとえば、工場の生産ラインではエッジAIを活用することで、機械の異常をリアルタイムに検知し、生産効率の向上に役立てています。また、周囲の状況を瞬時に判断する必要がある自動運転車においては、エッジAIは必須のテクノロジーです。
各業界のエッジAIの活用事例を詳しく解説します。
自動運転
自動運転において、エッジAIは非常に重要な役割を果たしています。車両に搭載されたカメラやセンサーから得られる情報を車載のコンピュータで瞬時に処理することで周囲の状況をリアルタイムに把握し、適切な自動運転操作が可能です。エッジAIによって制御されているものの例は次のとおりです。
- 歩行者や障害物の検知
- 車線維持
- 緊急時の自動ブレーキ など
エッジAIを活用することで、クラウドとの通信遅延の影響を受けることなく、迅速な判断が可能です。これにより、安全性の向上やスムーズな走行が実現し、自動運転技術の発展に大きく貢献しています。
交通量調査
従来の交通量調査は、人手による計測や特定の場所に設置されたセンサーによる計測が主流でした。しかし、エッジAIを活用することで、より広範囲かつ詳細な交通量調査が可能になります。たとえば、街中に設置されたカメラの映像をエッジAIで解析することで、次のような情報をリアルタイムで把握可能です。
- 時間帯ごとの交通量
- 車種ごとの台数
- 人の流れなど
エッジAIを交通量調査へ活用することで、データ収集の効率化とコスト削減が可能です。また、収集したデータを分析することで、交通渋滞の緩和策や道路整備計画の策定などに役立てられます。
スマートファクトリー
製造業におけるスマートファクトリー化においても、エッジAIは重要な役割を担っています。工場の生産ラインに設置されたセンサーやカメラから得られる情報を、エッジAIでリアルタイムに解析することで、機械の異常検知や製品の品質検査、作業員の安全管理などが可能です。
たとえば、機械の故障を事前に予測することでダウンタイムを削減し、生産性を向上させられます。また、製品の欠陥を早期に発見することで不良品の流出を防ぎ、品質を維持・向上させられます。
警備
警備分野において、エッジAIは将来的に大きな変革をもたらすと期待されています。従来の監視カメラシステムでは、録画された映像を後から確認する形が一般的でした。エッジAIを活用することで、リアルタイムな異常検知や不審者追跡などが可能になります。
たとえば、AIが映像から不審な行動パターンを検知し、警備員にアラートを送信するようなシステムが考えられます。これは迅速な対応を可能にするだけでなく、本当に出動が必要なのかどうかの判断にも役立ち、人手不足の解消につながるでしょう。
将来的に、エッジAIは顔認証技術と組み合わせることで、特定の人物の侵入を検知したり行動履歴を追跡したりできるようになると考えられます。また、音や振動などのセンサー情報と組み合わせることで、より高度な異常検知が可能になると期待されています。
エッジAIの利用に向いている用途
エッジAIは大規模なクラウドインフラを必要とせず、エッジデバイスだけで完結できるケースがあり、次のような小規模システムに適しています。
- 限られたエリアでの利用
- 特定の処理に特化したシステム
- 通信環境が不安定な場所での利用
限られたエリアでの利用
たとえば、工場内やオフィス内、店舗内などの限られたエリアのみで使用するAIシステムを構築する場合、エッジAIは非常に有効な選択肢です。特定の場所でのみデータを収集してその場で処理を行うため、大規模なネットワークインフラやクラウドサーバーとの連携が不要です。
このようなケースでは、エッジAIは初期導入コストを抑え、迅速にシステムを構築できるというメリットがあります。また、データが外部に送信されないためセキュリティ面でも有効です。小規模なシステムであれば、エッジデバイスの管理も比較的容易に行えます。
特定の処理に特化したシステム
たとえば、特定機器の制御や単純なデータ分析など、特定の処理に特化したAIシステムを構築する場合、エッジAIが適しています。高度な演算処理や大量のデータ処理を必要としないため、高性能なサーバーを必要とせず、エッジデバイスのみで処理を完結させられます。
このようなケースでは、エッジAIはシンプルなシステム構成で済み、開発や運用が容易です。また、リアルタイム性が求められる処理にも適しており、迅速な応答を実現します。特定のタスクに特化することで、エッジデバイスのリソースを最大限に活用し、効率的な処理を行えるでしょう。
通信環境が不安定な場所での利用
山間部や離島などインターネット回線が不安定な場所や通信インフラが整備されていない場所でAIシステムを利用する場合、エッジAIは有効です。クラウドとの通信に依存しないため、通信環境の影響を受けることなく安定したシステム運用が可能です。
このようなケースでは、エッジAIはオフライン環境でも動作するため、場所を選ばずにAIを活用できます。災害時をはじめ、通信インフラが寸断された状況でもエッジAIを活用したシステムは稼働し続けられます。
クラウドAIの活用に向いている用途
クラウドAIは、データ処理能力やスケーラビリティに優れており、大規模なデータ処理や複雑なAIモデルの実行に適しています。また、運用管理の負担を軽減できるため、大規模システムにおける運用コストの最適化にも貢献します。
大量のデータ処理が必要な場合
たとえば、大規模な顧客データベースの分析やソーシャルメディアのデータ分析、気象データ分析など、テラバイト級のデータを扱う場合にクラウドAIは非常に有効です。クラウド環境は、大規模なストレージとコンピューティングリソースを提供するため、大量のデータを効率的に処理し、高度な分析が可能です。
このようなケースでは、クラウドAIは分散処理技術や並列計算などを活用し、高速なデータ処理を実現します。また、必要に応じてリソースを拡張できるため、データ量の増加にも柔軟に対応できます。エッジAIではデバイスの処理能力に限界があるため、このような大規模データ処理には不向きです。
複雑なAIモデルを実行する場合
深層学習を用いた画像認識や自然言語処理、音声認識などの、高度なAIアルゴリズムを実行する場合にクラウドAIは適しています。複雑なAIモデルは大量の計算リソースを必要とするため、エッジデバイスでは処理が困難です。クラウド環境では、高性能なハードウェアリソースを利用できるため、複雑なAIモデルを効率的に実行できます。
このようなケースでは、クラウドAIは最新のAI技術を活用して高精度な分析や予測が可能です。また、AIモデルの学習や更新もクラウド上で行うため、常に最新のモデルを利用できます。

複数のシステムと連携する場合
複数の拠点やデバイスからデータを収集し、統合的な分析を行う場合にクラウドAIは適しています。クラウド環境は、複数のシステムやデバイスと連携するためのAPIやインターフェースを提供しており、データの統合や共有が容易です。
このようなケースでは、クラウドAIはデータの一元管理や集約分析を行い、全体最適の視点から意思決定を支援します。また、データセキュリティやアクセス制御などの機能も提供しており、安全なデータ管理を実現します。エッジAIでは個々のデバイスが独立して動作するため、複数のシステムとの連携は複雑になりやすいです。
さまざまな分野でエッジAIの活用が始まっている
エッジAIは、データ処理をクラウドではなくデバイス側で行う技術です。これにより、クラウドとの通信遅延を解消し、リアルタイムな処理が可能になります。通信量の削減やセキュリティの向上といったメリットも生まれます。
とくに、リアルタイム性が求められる用途や通信環境が不安定な場所での利用、セキュリティが重要な用途において、エッジAIは有効です。
このような特性を持つエッジAIは、すでにさまざまな分野で活用が始まっています。たとえば自動運転においては、周囲の状況を瞬時に判断し安全な走行を支援するために、エッジAIは必須のテクノロジーです。
今後は警備をはじめとする、より広範な分野においても、より高度な活用が期待されています。IoTが当たり前になった社会において、エッジAIは、私たちの生活をより安全で便利なものに変えていく可能性を秘めています。