シンクライアントとは?背景・メリット・実装方式・課題

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- シンクライアントとは
- シンクライアントの歴史
- シンクライアントの普及が進む背景
- シンクライアントの仕組み
- シンクライアントのメリット
- 外出先・テレワークでの使用が可能
- セキュリティ
- パソコン環境の一元管理が可能
- シンクライアントの活用イメージ
- シンクライアントのデメリット
- サーバーに負担がかかる
- 安定した通信環境が必要
- 導入コストが高額になる
- シンクライアントの実装方式
- ネットワークブート型シンクライアント
- ブレードPC型シンクライアント
- プレゼンテーション型シンクライアント
- デスクトップ仮想型シンクライアント
- シンクライアント端末の種類
- デスクトップ型
- モバイル型
- USBデバイス型
- ソフトウェアインストール型
- シンクライアントが解決する課題
- ハードウェア:クライアントの延命化
- 管理者:集中管理
- セキュリティ:情報漏えい防止
- ユーザー:使い勝手・紛失防止
- シンクライアント活用でリスク回避と業務効率化を
- BOXILとは
シンクライアントとは
シンクライアント(Thin Client)は、コンピューティングの一形態で、ユーザーのデバイス(クライアント)に最小限の機能しか持たせず、主要な処理やデータ保存をサーバー側で行うシステムです。エンドユーザーのクライアント端末は、ストレージも搭載しない簡素なものとし、サーバー側の処理結果を表示するといった最低限の機能に抑えられます。
これによって、システム管理の簡素化や情報漏えいを防ぐなどのメリットがあり、企業の運営に最適なシステムだと考えられています。
なお、シンクライアントのシン(Thin)とは日本語で「薄い」といった意味をもつ言葉です。そのため、シンクライアントの対義語として、データ保存やアプリケーションの実行環境をもつ従来型のパソコンを「ファットクライアント」(Fat Client)と呼ぶこともあります。
シンクライアントの歴史
シンクライアントの歴史は意外に古く、ハードウェアが非常に高価だった1990年代半ばには、Oracle「Network Computer」のように安価な端末を使用したシンクライアントの概念が登場したものの、市場の受け入れは限定的でした。
その後デスクトップパソコンの低価格化が進み、シンクライアント導入のメリットが少なくなると、クライアント・サーバー型のような、1人1台のパソコン + 各種サーバーといったシステムが主流になりました。
しかし、2005年の個人情報保護法をきっかけに、シンクライアントの情報漏えいやセキュリティに対するメリットが評価されたことから再度普及が進みます。2011年の東日本大震災のような災害時での有用性が確認されると、モバイル環境での活用を含めた進化が加速、現在にいたっています。
情報漏えい対策については次の記事も参照ください。

シンクライアントの普及が進む背景
昨今では在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)の普及が拡大し、情報漏えいリスクを回避するため、シンクライアントが再注目されています。
業務用のノートパソコン、もしくは私物のパソコンを使用して社内サーバーに接続し業務を行う在宅勤務では、情報漏えいリスクが懸念されます。
しかし、シンクライアントを導入すれば、データを端末に保存できずアプリケーションのインストールもできないため、情報漏えいやマルウェア感染などのリスク軽減が可能です。また、従業員にとっても、場所を問わず社内と同じような環境で作業を行えるため生産性向上につながります。
そのため、現在では多くの企業がシンクライアントを導入し、在宅勤務に活用しています。
シンクライアントの仕組み
シンクライアントは、サーバー側で行った処理データをインターネット経由でクライアント端末に転送して、クライアント端末でサーバーの機能を利用する仕組みです。
端末側にはキーボード入力やマウス操作など、必要最低限の処理を行う機能しか搭載されておらず、データの保存やアプリケーションの実行などは行えません。たとえば、Excelで資料を作成する場合、データの保存やアプリケーションの実行などはサーバー側で行い、クライアント端末ではサーバーから転送された操作画面を見て作業を行います。
そのため、シンクライアント端末は、インターネットでサーバーと接続できる環境であれば場所を問わず業務が可能になる一方で、通信環境がなければ使用できない点に注意が必要です。
シンクライアントのメリット
外出先・テレワークでの使用が可能
外出先での接続環境が良好ならば、クライアント端末をサーバーに接続して通常どおりの業務を行えます。
また、私物のパソコンをシンクライアント化することで、使い慣れた端末からテレワークや在宅勤務が可能になり、テレワーク推進を実現できます。
自然災害のような緊急時には、サーバーが無事であれば、自宅からアクセスして業務を継続し、損害を最小限に抑えられるのもメリットです。
セキュリティ
シンクライアントでは、データはすべてサーバー側が保持するため、クライアント端末には一切のデータがありません。そのため、紛失や盗難などによる万が一の情報漏えいを防げるほか、SSLのような暗号化技術により、Free Wi-Fi使用時でも安全です。
パソコン環境の一元管理が可能
クライアント・サーバー型システムの場合、1人1台のパソコンにOSやアプリケーションをインストールするため、OSのアップデートを含むシステム管理がどうしても煩雑になります。
これに対して、シンクライアントの場合はOSやアプリケーションをサーバー側が保持し、クライアント端末はサーバーに接続してインターフェースの操作を行うだけです。サーバー側の管理のみを行うことによって、システム全体の一元管理を可能としています。

シンクライアントの活用イメージ
シンクライアントを有効に活用できる場面としては、次のような状況が考えられます。
- フェイルセーフによる災害時の保護機能
- コールセンターのような定型業務を複数人数で行う場合
- ノートパソコン/モバイルデバイスを使用した外回り営業
- 海外拠点での展開
これ以外にもさまざまな活用場面が考えられるものの、システムの一元管理や強固なセキュリティが必要な場面で有効となるのがわかります。通信インフラが整備されたことを前提に、データセンターで運用されるサーバーの堅牢性と、データを保持しないクライアント端末といったシンクライアントの特徴が、このような場面で大きなメリットをもたらします。
シンクライアントのデメリット
シンクライアントの導入には、デメリットも存在します。導入時に理解しておきたいデメリットとして、次の3つが挙げられます。
サーバーに負担がかかる
シンクライアントは、複数のシンクライアント端末の処理をサーバーで一元管理するため、サーバーの負担が非常に大きくなります。
そのため多くのアクセスが集中しサーバーに負荷がかかると、「アプリケーションがフリーズする」「キーボードやマウスの反応が遅くなる」などのトラブルが発生し、パフォーマンス低下の原因となる可能性があります。
とくに、重要な業務を複数の端末で行う場合は、サーバーのスペックを増強するといった対策をする必要があるでしょう。
安定した通信環境が必要
シンクライアントはサーバーとクライアント端末で常に通信を行い、画面データの送受信を行うため、利用には安定した通信環境が必要です。
不安定なネットワーク環境ではレスポンスが遅くなり、生産性の低下を招く恐れがあります。また、端末自体にはデータが保存されていないため、ネットワーク障害が発生すると、全社的に業務停止に陥るリスクもあります。
そのため、「有線での接続を行う」「外出先での利用であればデータ通信量が無制限のWi-Fiルーターを使用する」など、安定したインターネット環境の構築が必要です。
導入コストが高額になる
シンクライアントの導入においては、デスクトップ仮想型(VDI)と呼ばれるものが主流です。ただし、VDIの導入にはシンクライアント端末のほか、サーバー環境の確保が必要なため、ユーザー数が多いと初期費用が高額になる可能性があります。
たとえば、高スペックのサーバーやネットワーク機器などのハードウェアに加え、ソフトウェアのライセンス料、安定したネットワーク環境が必要です。
導入後には運用管理の手間やランニングコストを抑えられ、長期的にはファットクライアントを使用するよりもコストダウンが可能なものの、導入時はコストが上がることに注意しましょう。
シンクライアントの実装方式
シンクライアントの実装にあたっては、方式の選択が必要です。
それぞれにメリットがあり、大きく分けて「ネットワーク型」と「画面転送型」の2つに分けられます。さらに画面転送型は「ブレードPC型」「プレゼンテーション型」「デスクトップ仮想型」に分けられます。
最大の違いは、ネットワーク型がクライアント端末のCPUやメモリーなどのリソースを使用するのに対し、画面転送型ではリソースをサーバー側に依存し、クライアント端末は操作をするだけになることです。
ネットワークブート型シンクライアント
OSやアプリケーションなどが格納された単一イメージファイルをサーバーに用意し、イメージファイルをネットワーク経由でクライアント側のパソコンのメモリーに都度ダウンロード、起動させる方式です。
保存しなければならないデータは、同様にネットワーク経由でネットワークストレージに保存することによって、クライアント端末にデータが保存されない環境を実現します。
メリット
ネットワーク型シンクライアントの場合、メモリーにダウンロードされたイメージファイルを展開した後は、クライアント端末のCPUで処理を行うため、ローカル環境と同様の操作感を得られるのが最大のメリットです。
また、システムに接続するクライアント端末が、同一のイメージファイルを利用することにより、システム管理が簡単になる利点もあります。
ブレードPC型シンクライアント
ブレードPC型シンクライアントの場合は、サーバーにブレードサーバーのクライアント版となる「ブレードPC」を複数導入することが前提です。
複数用意されたブレードPCにOSを含むシステムの構築を行い動作させ、紐づけられたクライアント端末上に画面転送を行い、操作するといった仕組みになります。
基本的には1ユーザー1台のブレードPCが必要ですが、仮想化技術を活用すれば1台を複数ユーザーで共有することも可能です。
メリット
ブレードPC型シンクライアントは画面転送型とはなりますが、それぞれのクライアント端末専用のブレードPCを用意するため、ブレードPCの高いパフォーマンスを占有して使用が可能です。
このため、クライアント端末のパフォーマンスが通常のパソコンと同等となり、個々のパソコンに依存するグラフィック作業を行うのに最適である、といったメリットがあります。
プレゼンテーション型シンクライアント
Windows ServerのようなサーバーOS上にアプリケーションを直接インストールして動作させ、画面転送された複数のクライアント端末で共有して使用する仕組みになります。
サーバーOS上でのアプリケーション共有といった仕組みから、アプリケーション側の対応や動作確認が必須になります。
メリット
プレゼンテーション型シンクライアントの場合では、複数のクライアント端末がサーバー上のアプリケーションを共有するため、サーバーのリソース自体も共有します。しかし、サーバーに求められるシステム要件がそれほど高くないため、コストパフォーマンスに優れたシステム構築が可能になるのがメリットです。
また、システムがサーバーに集中するため、管理が容易になるメリットもあります。
デスクトップ仮想型シンクライアント
高性能な単一サーバー上に「VMware vSphere」「Hyper-V」などを使用した複数台分の仮想デスクトップを構築し、画面転送によってクライアント端末が接続、使用する仕組みになります。
この場合の接続も専用に割り当てられたものではなく、コネクションブローカーと呼ばれるサーバーが自動割り振りするため、ユーザー側が接続先を意識する必要もありません。
メリット
デスクトップ仮想型シンクライアントでは、複数の仮想デスクトップをもつ画面転送型の仕組みから、管理の容易さを保ちながら、個々のクライアント端末環境の独立性を確保できるメリットがあります。
また、割り当てられたリソースをフル活用できるのもメリットです。
シンクライアント端末の種類
シンクライアント端末の種類には、デスクトップ型・ノートパソコン型の専用端末のほか、既存の端末を流用してシンクライアント化して利用する方法があります。
端末の種類とそれぞれの特徴は、次のとおりです。
デスクトップ型
専用OSや特定の用途向けOSのWindows 10・Windows11 IoTが搭載され、ネットワーク接続や画面出力のインターフェースなど、最小限の機能で構成されたシンクライアント専用端末です。
持ち運びには適していないものの、シンクライアント端末の中でも高スペックなのが特徴で、社内での利用に活用されています。
モバイル型
ノートパソコン型のシンクライアント専用端末です。
薄型・軽量で持ち運びが可能で、社内や外出先、在宅勤務など場所を問わず広く利用されています。
高速LTE回線の利用が可能な機種もあるため、場所を問わずスムーズにアクセスして業務を行えます。
USBデバイス型
既存のファットクライアントにUSBを差し込み、シンクライアント化して利用するタイプのシンクライアント端末です。
OSやアプリケーションなどはUSBに集約され、既存のパソコンを流用できるため低コストで導入できるほか、端末に接続して起動するといった簡単な手順で手軽に利用できるのがメリットです。個人利用のパソコンや既存の業務用パソコンを活用してシンクライアント化したい場合に利用できます。
ただし、紛失や盗難による情報漏えいや不正ログインなどのリスクが伴う点に注意が必要です。リスク防止のために、専用ツールによって暗号化され読み込みができない製品や、端末上からユーザーがアクセスできない秘匿領域のある製品を利用する必要があります。
ソフトウェアインストール型
既存のファットクライアントにソフトウェアをインストールしてシンクライアント化させた端末です。
既存の業務用端末を流用できるため、コスト削減が可能です。ネットワーク経由でサーバーからインストールや設定ができ容易に導入できるメリットもあります。
すでに利用しているパソコンを活用して、大規模なシンクライアント環境を構築したい場合に活用できます。
シンクライアントが解決する課題
ハードウェア:クライアントの延命化
従来のクライアント・サーバー型システムの場合、ハードウェアに関して次の課題を抱えていました。
- 個々のハードウェアのCPU/メモリーなどのリソースは共有できない
- パソコンの故障や異常など、データ消失の危険性がある
- パソコンのパフォーマンス向上に台数分のコストが必要
これらの課題はシンクライアントによって、次のように解決できます。
- サーバーのリソースをクライアント端末で共有
- データセンターでのサーバー稼働で冗長性を確保
- クライアント端末にパフォーマンスが必要なく、延命化が可能
管理者:集中管理
同様に、管理者は「運用管理」「維持・保守」「資産管理」などの課題を抱えていました。
- 複数のハードウェア・複数の拠点での管理により複数の管理者が必要
- メンテナンスにかかる手間とコスト
- 個々のライフサイクルによって資産管理が煩雑
これらの課題はシンクライアントによって、次のように解決できます。
- サーバーの一元管理により個別の管理が不要
- クライアント端末の交換のみ個別のメンテナンス不要
- リプレースがシンプル
セキュリティ:情報漏えい防止
セキュリティに関し、従来システムではシステムレベルとユーザーレベルで課題を抱えていました。
- 個々のユーザーに割り当てられたパソコンにデータ保存ができてしまう
- 簡単に外部ストレージへのデータ保存ができてしまう
シンクライアントの場合では、
- ストレージのないクライアント端末にはデータ保存ができない
- 強固な認証システム採用でデータ持ち出しの規制が可能
などの解決策の提示が可能です。
しかしながら、この点で重要なのはユーザーを含む企業全体での意識になります。
ユーザー:使い勝手・紛失防止
ユーザーの使い勝手に関して従来システムでは「リモートワーク」と「紛失のリスク」を抱えていました。
- 限定されたパソコンの設置場所・持ち出し禁止
- 個々のパソコンのメンテナンス依頼が必要
- 紛失の際の情報漏えいリスク
シンクライアントの場合、
- クライアント端末にデータが保存されないため持ち出し可能
- サーバーに管理が集約するためメンテナンスを気にする必要なし
- 万が一紛失してもデータ保存されていないため情報漏えいのリスクがない
外回り営業の際にシンクライアントが有効なだけでなく、在宅勤務のようなリモートワークにも効果を発揮する、といえます。
シンクライアント活用でリスク回避と業務効率化を
インターネット新時代ともいえる、高度なネットワーク化が進み、情報化社会となった現在では、ビジネス上でのセキュリティ管理や効率化は無視できない状況です。
従来のシステムでは管理する人間に大部分を依存していたこれらの要因は、シンクライアントの導入によって大きく改善されることが期待できます。
それぞれのシンクライアント実装方式によって、享受できるメリットやかかるコストは変化しますが、業務内容に見合ったシステム導入を行うことによってメリットを最大化し、効率化が可能になるでしょう。
BOXILとは
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