コピー完了

記事TOP

BPaaSで建設にIT人材取り込む、工数9割削減も フォトラクションの施工管理改革

最終更新日:(記事の情報は現在から49日前のものです)
SaaSを活用するBPO「BPaaS」が注目されている。建設業におけるBPaaSの取り組み状況について、施工管理SaaS「Photoruction」を提供する株式会社フォトラクション代表の中島氏に話を聞いた。

「BPaaS(ビーパース)」の注目度が上昇している。BPaaSとはBPOとSaaSを合わせた造語で、ソフトウェアにオペレーションを加え、ビジネスプロセスそのものをアウトソーシングするビジネスモデルのこと。「SaaSを導入したものの使いこなせない」「活用できる人材がいない」といった導入企業側の課題が顕著となったことから、SaaS企業がオペレーションまで提供し導入企業を支援しようとしている。

BPaaSのビジネスモデルはSaaSと大きく異なるため、参入のハードルは決して低くない。それでもBPaaSモデルのサービスを開始するSaaS企業が相次いでいる。

今、現場では何が起きているのか。BPaaS事業に取り組むSaaS関連企業3社の代表に話を聞いた。本記事では、建設業向けに施工管理SaaS「Photoruction」を提供する株式会社フォトラクション(以下、フォトラクション)の取り組みを紹介する。

<インタビュイープロフィール>
フォトラクション 代表取締役CEO
中島貴春 氏
1988年生まれ。2013年に芝浦工業大学大学院建設工学修士課程を修了し、株式会社竹中工務店に入社。施工管理を経験した後、建設現場で使うシステムの企画・開発およびBIM推進を行う。2016年3月にCONCORE'S株式会社(現 株式会社フォトラクション)を設立。

BPaaSとは

ーーー フォトラクションが考えるBPaaSの定義を教えてください

ビジネスプロセスもクラウドで提供することをBPaaSの定義として置いています。

釈迦に説法ですが、SaaSはあくまでソフトウェア自体をクラウド経由でサービスのように提供するスタイルです。しかし本来は、この上に乗りかかってくる、「ソフトウェアを操作して生み出す価値」があります。それがビジネスプロセスを経て生み出される価値だと思いますが、プロセスまで含めて提供することをBPaaSとして定義しています。

従来のBPOはインターフェースが全て人間で、人と打ち合わせして要件定義をして、何をやるかを決めて、アウトソースしていくのがメインでした。当社のBPaaSはクラウド経由で完結するところを一つの定義としていますので、ユーザーさんは、ソフトウェアを使うかのように、裏側にいるオペレーターの方々が生み出す成果を含めて使える、というところがポイントです。

ーーー 具体的にサービスの内容を教えてください

Photoructionの中に「BPO」メニューがあり、発注したい業務をクリックすると、アウトプット可能な成果物や金額が記載されています。その先の画面では、アンケートに回答する形で図面などをアップロードすると、発注依頼が完了します。あとは納品を待つだけなので、最大で9割ほどの作業工数を削減できます。

画像:フォトラクション提供

ーーー Photoruction上で発注してPhotoruction上に納品されるのですね。メニューは何種類くらい用意していらっしゃいますか?

標準で提供しているのは13種類ですが、会社ごとに少しカスタマイズできるようにしています。大手だと、自社の品質管理基準に合わせて欲しい、成果物ではこう書いて欲しいなどの要望があるので、共同開発で対応しています。そういったものも含めるとかなりの数になります。

ーーー やはり大手企業だと、どうしてもカスタマイズ対応する必要が出てくるのでしょうか

そうですね。もともと、Photoruction自体もカスタマイズに対応しています。大手中心に使っていただいているSaaSなので、共通する部分はありつつ、現場で使う黒板の中身や、出力する書類のフォーマットなど、会社ごとに仕様が異なるものは、開発費をいただいてカスタマイズしています。

BPOも同じようなイメージで、標準で提供している13個のメニューの中で独自に変えたいという要望があれば、カスタマイズして提供しています。

ーーー 今ある標準メニューは建設業でいうとノンコア業務にあたるものだと思うのですが、現場にはどういった課題があるのでしょうか

人手不足もあり、生産性向上がここ10年の喫緊の課題です。業界全体でITツールを使った業務時間削減に取り組んでいますが、ツールを使える人がいなくなったり、難易度の高い業務はソフトウェアを使っても大変だったり、課題が尽きません。

今後の生産性向上を考えると、やはり実質の労働量を増やさないといけないという考えに至りました。BPOで提供しているメニューも、本来はソフトウェアを使ってご自身でやっていただく業務が多いですが、SaaSのように使いたい時だけ使えるものと見ることもできると思っています。

つまり、ソフトウェアだけでなくBPOも含め、ビジネスプロセス全体の生産性をより上げていこうと、BPaaSを展開しています。

ーーー メニューで用意されている業務は、規模を問わずどの現場でも発生するものなのでしょうか

規模問わず発生するものが多く、どの会社さんでもニーズがあるものから準備しています。

建物規模が比較的大きい案件で使っていただいていて、従業員数はあまり関係ありません。建物規模が大きいと、その中に流れるデータの量も非常に多いんですよね。小規模だとソフトウェアを使えばそれなりに便利になりますけど、大規模だとソフトウェア利用だけだと難しいところがあるので。

数千人の会社から数十人の会社まで利用実績があるので、比較的大規模建築を作る会社であれば使っていただけるような状態です。

BPaaSの現在地

ーーー BPaaSを提供されてから約2年が経ちますが、手応えはいかがですか?

何十時間、何百時間かけてやっていた作業が0になるので、現場の方々からは「非常に助かっています」という声が多いです。

想定外に得られた効果として、経営など管理サイドの方々が自社の品質計画を高めるために使用しているという声があります。

例えば検査一つひとつが建物の品質管理そのものに直結します。検査帳票を作る際、検査項目の基準があるのですが、全国に工事現場が散らばっているので、なかなか方法を浸透させることが困難です。

BPOを活用してどの現場でも同じ検査帳票を作れるとなると、自社の品質管理方法を標準化し広める手法として使えますので、そのために活用する事例が少しずつ増えてきています。

ーーー SaaSとBPOはビジネスモデルが異なるため、同一組織で取り組むのは難しいとされます。フォトラクションではどういった体制で運営していて、難しさをどうカバーしていらっしゃるのか、教えてください

当初、SaaSはSaaS、BPOはBPOと分けて運用していた期間が長くありました。そうなると性質が違うため、ぶつかり合う時もあって。SaaSを使わずBPOだけ受けて欲しい、今使っている(他社の)サービスを使って欲しいといった要望が出てしまい、紆余曲折を経て一体化させてきた経緯があります。

今は、SaaSを作るようにBPOも作っています。具体的には、当社独自の言葉かもしれませんが、プロダクトマネージャーと同じような位置付けの「メニューマネージャー」という担当を置いています。プロダクトマネージャーとエンジニアが対になって動くようなイメージで、メニューマネージャーが企画して、オペレーターと一緒に一つのメニューをリリースしていく形です。

当社のBPOはPhotoructionの中の機能の一つという見方もできますので、別々ではありますが、展開の仕方などがそれほど変わらなくなってきていると思っているところです。

ーーー 面白いですね。そうすると、BPO側からの機能開発要望などSaaS側とのコミュニケーションが多々発生すると思うのですが、プロダクトマネージャーとメニューマネージャーが連携して進めるイメージですか?

メニューマネージャーがメニューを作るとき、必要があればプロダクトマネージャーと協力して、一気通貫の機能としてしっかり作っています。

ただ、全部が全部そうなるわけではなくて、ある程度メニューマネージャーが現行機能で何とかできるものも多くなってきていると感じています。

ーーー メニューマネージャーはソフトウェアを熟知していて、BPOのマネジメントもできる状態なので、特殊なスキルが必要そうですね。

そうですね。どちらかというと、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、業務プロセスを見て、どうそれを効率良いフローに落とし込んでいくかが必要なスキルです。あとはプロジェクトをマネージする力ですね。

ーーー オペレーターの方も含め、建設の業務知識が必要だと思うのですが、採用の段階で考慮していらっしゃるのでしょうか

両方の視点を持っています。建設業出身の方々はもちろんウェルカムですけども、メニューマネージャーをやりたくて当社を探してくれる方はほぼ0です(笑)。業界出身の方はセールスやカスタマーサクセスなど幅広い入り口からいらっしゃるので、適性を見てメニューマネージャーにするか判断しています。

プロダクトマネージャーも当然採用しているので、業務プロセスをうまく整理できるスキルをお持ちであれば、アサインを提案します。

現場で感じる課題

ーーー 実際にサービスを提供されている中で今感じてらっしゃる課題は何でしょうか

課題だらけではありますが、やはり、BPaaSが使い方を含めてまだ認知されていないことです。

建設業界は元々外注で成り立っている業界ではあるのですが、作業単位でアウトソースすることを本格的には考えてきませんでした。逆に、人海戦術で何とかしてきたので、人を集めれば何とかなるという考え方だったのですが、いよいよ人もいなくなってきた中で、どう効率よくするか、例えば今まで建設業界に携わってなかった人たちができる仕事がないかとか、そういったところまで含めて考え始めたタイミングです。

ーーー では、アウトソーシングに関心がある企業であれば、ご提案がハマりそうですね

BPOへ関心は増してきているので、話をさせていただくと、まずは使ってみようとなる企業は多いです。

ーーー 実際リピーターは多いですか?

何回も使っていただくというか、例えば検査は全現場で行わなければならないので、次の現場でも使っていただくというリカーリングが発生します。2年前のローンチ以降ずっと使っていただいているユーザーさんもいらっしゃるので、非常に手応えを感じています。

ーーー 建設業界へBPaaSを提供するにあたって、競合に当たる企業はありますか?

どちらかというと従来型BPOを提供している会社が非常に多く、実際に、「この部分はもうお願いしている会社があるんだよね」と言われることがあります。いかに効率良く低コストで提供できるかの勝負になってくると思います。

ーーー 今はPhotoructionの中で完結するものとして提供されていますが、他社と連携して使えるツールを増やすなど、横の広がりとして考えていらっしゃることはありますか?

他社のサービスもPhotoructionに乗せたいと思っています。すでに、動画作成ツールと連携し、新規入場者教育(※)用の動画をPhotoruction上から簡単に作成できるサービスを提供しています。

※事故防止のため、現場の状況、現場ルール、安全作業に必要な事項などを、作業を開始する前に現場で教育すること

一般的には、現場監督が一生懸命スライドを作って毎朝説明しますが、非常に大変なので、動画にして流すだけで良いようにしよう、というものです。必要な情報を入力いただければ、我々の方でクオリティーコントロールして制作した動画をPhotoruction上に納品しています。

このように、他社が提供しているサービスも建設業に特化できるのであれば、どんどん加えていこうという取り組みを始めたところです。

生成AIとBPaaS

ーーー 生成AIの活用にも取り組まれているかと思うのですが、どういった機能をAIで強化できると良くなりそうだと考えていらっしゃいますか?

昔、Photoructionで機能としてAIを提供していたのですが、活用が進みませんでした。また建設業内にはソフトウェアで効率化できない、高難易度の作業がたくさんあります。そのうちのいくつかはAIで自動化できると思いますが、前後のデータ接続など、人を介さなければいけないところが多い状況で、直接的な機能提供はまだ難しいと感じます。

現状だと、生成AIを社内ツールとして使い、BPOのオペレーションを効率化しています。ユーザーさんにはその分、金額面で還元しています。

ソフトウェアに搭載してできることは、どんどんコモディティ化していくというか、同じ機能が乱立してくるだろうと思っています。我々はソフトウェアを使っても自動化できないところや、本当に難しい作業をどうBPOで引き受けて、自分たちで効率よく作業できるようにするかに力を入れていて、生成AIをそのために使っています。

ーーー 今後、国内のBPaaSはどの程度拡大すると見ていらっしゃいますか?

建設業では人件費の割合が大きく、人が減ると限界がきます。そういう意味で、建設業の人件費の中で数十%くらいの規模がBPaaS市場としてあると思っています。あとは、どれくらい提供する側のレベルが上がるかでしょうね。

ーーー その市場の中で、現状届いてそうなお客様は何%くらいの感覚をお持ちですか?

1%もいっていないんじゃないかな。IT化という面では、何らかのアプリ、何らかのソフトウェアの活用は進んできていると思っています。もう50〜60%くらいは普及しているでしょうか。

一方、ノンコア業務をきちんと定義しアウトソースして、さらに生産性を上げていく観点は、ようやく大手で取り組み始めたばかりなので、まだまだこれからです。

まとめ

人手不足課題が顕著な建設業界において、BPaaSは、ITを使える人材を取り込み業界全体の生産性を向上させられる可能性を大いに秘めていると感じた。また、品質管理などの観点から膨大な書類や記録を伴う点も現場を苦しめている。これを軽減できる可能性が広がり、かつ基準を高められ得る点も興味深い。

建設業界では、他にもBPaaSに取り組む企業がある。バーティカルSaaS(業界特化型SaaS)のBPaaS事例として、他業界の手本となれるかもしれない。

SaaSIndustryReport2024.pdf
SaaS業界レポート
選び方ガイド
この記事が良かったら、いいね!をしてください!最新情報をお届けします!
貴社のサービスを
BOXIL SaaSに掲載しませんか?
累計掲載実績1,200社超
BOXIL会員数200,000人超
※ 2024年3月時点
SaaS業界レポートの最近更新された記事