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BPaaS化で「SaaS使いこなし」を支援、カスタマーサクセスBPOの知見生かすアディッシュ

最終更新日:(記事の情報は現在から49日前のものです)
SaaSを活用するBPO「BPaaS」が注目されている。SaaS企業向けにBPaaS化支援、BPaaSの代理販売を展開する、アディッシュ株式会社に話を聞いた。

「BPaaS(ビーパース)」の注目度が上昇している。BPaaSとはBPOとSaaSを合わせた造語で、ソフトウェアにオペレーションを加え、ビジネスプロセスそのものをアウトソーシングするビジネスモデルのこと。「SaaSを導入したものの使いこなせない」「活用できる人材がいない」といった導入企業側の課題が顕著となったことから、SaaS企業がオペレーションまで提供し導入企業を支援しようとしている。

BPaaSのビジネスモデルはSaaSと大きく異なるため、参入のハードルは決して低くない。それでもBPaaSモデルのサービスを開始するSaaS企業が相次いでいる。

今、現場では何が起きているのか。BPaaS事業に取り組むSaaS関連企業3社の代表らに話を聞いた。本記事では、SaaS企業向けにカスタマーサクセス代行サービスなどを提供するアディッシュ株式会社(以下、アディッシュ)の取り組みを紹介する。

<インタビュイープロフィール>
アディッシュ代表取締役
江戸浩樹 氏
2004年に株式会社ガイアックス入社後、インターネットモニタリング事業等3つの事業立ち上げを経て、2014年にアディッシュ株式会社を設立、代表取締役に就任。一般財団法人全国SNSカウンセリング協議会理事。

アディッシュ執行役員 経営戦略本部長
小原良太郎 氏
FAQシステム企業にてASPのセールス、MarTech SaaS企業の共同創業者としてマーケティングおよび事業提携を担当。2018年アディッシュ株式会社に入社、経営戦略室長を経て2023年1月より現職。

BPaaSとは

ーーー アディッシュが考えるBPaaSの定義を教えてください。

江戸 譲れないところとして、SaaSがベースにある点があります。BPOは何かを代行するものなので、人力だけで行うケースももちろんあります。対してBPaaSは、SaaS活用を土台として付随する業務も代行するものなので、バズワードっぽく流行っていますが、実態としては昔からあった形態だと思います。

弊社でも、例えばカスタマーサポートを代行する際、問い合わせメールを転送してもらってメールで返信するかというとそうではなくて、ヘルプデスクツールなど管理ツールを使って業務を実施してきました。

今急にBPaaSが注目を浴びているのは、SaaS企業がBPOまでやろうとしているトレンドだと認識しています。BPO事業者側から来るBPaaSの流れは重要ではなく、キーになってくるのはSaaS企業の状況です。

SaaS企業のカスタマーサクセスを支援する中で、SaaSを導入しても活用できないお客様がどうしてもいらっしゃいます。お客様によっては、自分たちがSaaSを活用しなくても最終的な成果が得られたらそれで良いという考え方もあります。そこへ直接アプローチできるのがBPaaSです。

SaaSビジネスが広がり、キャズムを越えた先にはIT活用が難しい企業が多く、カスタマーサクセスの難易度が上がってきてしまいます。案件を取れば取るほど苦しむ状況になりかねません。だったら、最終的に活用まで提供してしまえばいいのではないか?、このちょうどいい軸がBPaaSだと捉えています。

SaaS企業が抱える課題

ーーー 改めて、SaaSを使う側、エンドユーザー企業の一番のペインはどこにあると感じていらっしゃいますか?

小原 ユーザー企業は、SaaSにお金を払っているので有効活用しなければならないと考えます。けれど、それほど簡単じゃないですし、それが全社で利用するSaaSだったら活用促進に一定のリソースを割かなくてはいけません。SaaSを活用できる能力とリソースの両方がかかってしまうことが課題としてあるのではと思います。

ーーー 現時点では、カスタマーサクセス領域の2社3サービスと提携し、BPaaSまでセットにして代理販売する形態と、BPaaS化支援の2パターンを提供されています。詳細をお聞かせいただけますか

小原 まずBPaaSとしての代理販売に関しては、従来のツールの代理販売だけでなく、オペレーションもセットで販売しますよ、という取り組みです。

画像:アディッシュ提供

ユニリタ社のGrowwwingを例にお話すると、例えば「ヘルススコア」機能は、最適な設定に加え、ヘルススコアに応じてアプローチするためのフローを決めるといった運用ノウハウが必要です。そこを含め我々でまるっと受けますよという座組で、最終的には、Growwwingを導入したカスタマー組織を成功に導いていく、というのが弊社のBPaaS提供です。

ーーー BPaaS化支援の事業については、いかがでしょうか。

小原 これは文字通り、BPaaSに取り組みたいSaaS企業に対して、BPOを引き受けますよ、というものです。SaaS企業とメニューを作っていく形で、今は2サービスと取り組んでいます。

画像:アディッシュ提供

Growwwingは、Growwwingを活用できる人材が、導入先企業に常駐するモデルです。アディッシュの人材が常駐しながら、培ったスキルを生かしてカスタマーサクセス業務を行います。SaaSはお客様が活用できないと利用されなくなってしまうので、IT人材とセットにすれば、最初からその恩恵に預かれますよねというモデルです。

もう1つのPartnerPropではそこまで入っていません。PartnerPropは代理店との連携を効率化するツールなので、PartnerPropを導入する企業の先に、代理店がいらっしゃいます。この代理店にも、PartnerPropのアカウントを開設し、使えるようになってもらわなければなりません。

しかし、毎回代理店全社に説明していくのは大変です。もちろん、PartnerPropがそれをカスタマーサクセスで提供する支援も行ってきましたが、仮に1000社あるとするととんでもない工数がかかり実施しきれないので、その部分をメニュー化し、アディッシュが代行しています。

1時間程度の説明でだいたい使えるので、それほど難しくはありませんが、オンボーディング部分をメニュー化し、PartnerPropがセットで販売する形を取っています。

ーーー SaaS企業がBPaaS事業に自前で取り組むにあたって、課題はどういったところにありますか?

小原 まず、SaaSとBPOでは事業モデルが全く異なるので、一つの会社がやるのは難しいと思います。やっていらっしゃる会社もあるので、それはすごいことだと思いつつ、やはり難しいかなと。

難しさの一つは成長スピードです。SaaSと同じ成長スピードを実現しようとすると人材を集めないといけないので、SaaSの成長に追いつけない状況になります。

2点目に、人を採用したとしても、今度ずっと案件があるとは限りません。SaaSは解約されても少しサーバー費用が減ったくらいで済むと思うんですけども、BPOは人を雇用しているので、ダイレクトにマイナスになってしまうという構造上の難しさがあり、人材の稼働率が大切です。

3点目が、SaaSは一定の機能を作ってしまえばそれどおりにシステムが動きますが、BPaaSはどうしても人によってばらつきが出ます。それを一定にするために我々も努力しているんですけども、難しさは出てきてしまいます。

4点目は、そういったビジネスを提供するためには、コーポレート部門がしっかりしてないといけません。SaaSだとそこまで増やす必要はないと思うんですけども、人材が要のビジネスモデルでは、そこを手厚くしていく必要が出てきます。

つまり、ビジネスモデルが違うことによって、やらなきゃいけないことがものすごく増えてしまうんです。

このあたりは我々の専門ですし、さまざまな企業のカスタマーサクセス支援を通してSaaSを活用できる人材が揃ってきている状況でもあるので、BPaaS化の支援をしましょうか、というのが今回始めた取り組みです。

BPaaS事業の難しさ

ーーー 特にBPOでは人材確保、育成が難しい問題だと思うんですけれども、独自の仕組みや、メソッドをお持ちなのでしょうか。

小原 カスタマーサクセス支援業務の中で、弊社の人材はいろいろなサービスを経験しています。つまりSaaSを利活用できる人材が、自然と増えてきているんです。さらにドメイン知識については、知見を皆で持ち寄って貯める取り組みを行っています。なのでノウハウも溜まり、いろんな業種、業界に対応できるようになってきました。

同じ業界のSaaSはある程度近しい機能を持っているので、一つのSaaSを使えたら同じようなことができます。また多様な人材を採用する中で、それぞれ過去の仕事の経験が生きてくることがあり、ドメイン知識も社内で一定カバーできます。

ーーー オペレーターの育成にはどういったフローで取り組んでいらっしゃいますか?

江戸 支援するプロダクトごとの専門知識が必要ではありますが、カスタマーサクセスにしろカスタマーサポートにしろ共通的なノウハウがあります。

例えばカスタマーサポートでは、エスカレーションフローの回し方、顧客満足度測定におけるルール決めなどがあります。同様にカスタマーサクセスも、オンボーディング業務を例に挙げると、製品が違っても注意点が共通しているなど共通ノウハウがあります。解約阻止観点でも、理由は違っても起きやすいタイミングが共通しています。共通点をしっかり伸ばしていくことが一つです。

当然、案件ごとの深い知識も必要にはなってきます。他案件の経験を生かして近しいところで取り組むこともありますし、専門業務の知見を入れられるようバックアップ体制をとったり、その業界に詳しい人のアドバイスを受けられる体制を作ったりと、補完していく取り組みを行っています。

SaaSは基本的には、どちらかというと広く、少なくとも何百、何千社に使ってもらうようなプロセスで設計されているはずなんです。ということは、そこに対する共通の方法が絶対あるはずで、そこをカバーしながらやってるというのが現状です。

ーーー そのスキームがBPaaS事業にも生かされてるのだろうと思います。BPaaSの提供を始めてから、どういった課題を感じていらっしゃいますか?

小原 SaaSごとにサービスメニューを作っていくのに一定の難しさがあります。何でもやればいいというわけではないですし、とはいえ、最終的にお客様の成果を出すためのメニューを作らないといけません。しかし悪いものだともちろん成果も出せない上、人件費などがかかるので我々も赤字になってしまうリスクがあります。どうしてもトライアンドエラーが発生するというところですね。

PartnerPropはある程度パターン決めしてメニュー化できていますが、都度設計が必要なケースもあり、パッケージにするか、都度見積もりでご提案するかに幅があるので、試行錯誤しているところです。

ーーー 解決策はありそうですか?

小原 正直わかりません。成功案件は出てくると思うんですけども、それを横展開できるかというと一概には言えません。SaaSのカテゴリ、業界ごとに全然違うでしょうし、エンタープライズ狙いかでも異なるので、現段階で正解を決めつけない方が良いと思っています。まだSaaS企業と一緒に試行錯誤していく段階です。

ーーー 今後、カスタマーサクセス領域以外へBPaaSを広げる想定はされていますか?

小原 代理販売モデルでは、カスタマーサクセスとカスタマーサポート領域だけの想定です。例えば人事SaaSを人事部門に我々が営業するのは少し違うと感じており、あくまでSaaS企業のカスタマーサクセス支援という大きな土台がある中で、得意領域のカスタマーサクセスに関してはツールもオペレーションも一緒に販売したいという考えです。

ツールの代理販売では、あくまで導入先企業にとって一番良いツールを選定しているので、BPaaSの販売もスコープに入ってくる可能性はあります。

ーーー 意識している競合はいらっしゃいますか?

小原 カスタマーサポートも含めると競合するBPO事業者はたくさんある一方、BPaaS化を支援するサービスを提供している会社はほとんどありません。ただ、BPO事業者とSaaS企業が組むモデルの事例が出てきているので、競合になり得ると感じています。

BPaaS市場の今後

ーーー 国内BPaaS市場の今後の拡大について、考えをお聞かせください。

小原 BPaaS化を検討しているSaaS企業からお声がけいただくこともあります。それだけ関心が高いわけですが、BPaaSは人がオペレーションする中で最終的な成果を求められるのでトライアルが難しく、またお客様からすると会社ごとの違いが分からなくなるためSaaSとは別軸でのマーケティングが必要です。

SaaS企業が皆同じようにBPaaSをやり始めたら、今度はその差別化要因を作っていかないといけません。SaaSより運営難易度が上がるため、成功する企業とそうでない企業に二分化されていくと考えています。

マーケティングだけでなく、人材も要因です。皆が皆BPaaSをやるとオペレーター採用が加熱しますが、労働人口が減少している中、採用できる企業に偏りが出てしまいます。そうするとBPaaSで勝負できなくなるので、競争が激しくなるのではないかと思っています。

江戸 BPaaSは、SaaSが広まったからこそ今拡大していて、これからまた新しい未来に向かう、市場の流れだと思っています。

いろいろなSaaSが出てきたものの、日本全体で言えば、レガシーな領域、中小企業などはまだまだなので、こうした状況になっています。BPaaSでSaaSの利用率が上がった時、また違う競争環境になると思うので、合わせていきたいと考えています。

まとめ

アディッシュはSaaS企業を多方面から支援してきた経験を持ち、BPO、代理販売、両方の経験値があるからこそ、各SaaSの特性に合わせた形態を提案できるのだと感じる。

カスタマーサクセスは、今BPaaSが注目される理由である「SaaS使いこなし」の問題に直結しており、現場の課題を熟知している。だからこそ時代に合わせた支援を、という柔軟な姿勢からは、学ぶことが多いインタビューだった。

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