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ゼロレーティングとは?メリット・仕組み・現状・動向 - ネットワークの中立性

最終更新日:(記事の情報は現在から1408日前のものです)
従量課金制のパケット制度は、制限を超えると通信速度が低下してしまいます。それを解決するために登場したのがゼロレーティング(カウントフリー)です。言葉の定義や「通信の秘密」に抵触しないかなどを解説していきます。

近年、通信業界を中心に議論となっているゼロレーティングについてご存じですか?

スマートフォンやタブレットで動画を視聴したり、アプリを利用したりする人にとっては、けっして無関係ではないトピックです。
特に通信事業やWebコンテンツ事業に携わる人にとっては必須ともいえる知識なので、ぜひこの機会に基本的なところを押さえておきましょう。

ゼロレーティングとは

ゼローレーティングとは、従量課金制を基本としているスマートフォンやタブレット、パソコンなどの通信から、特定のコンテンツやアプリの利用分を課金対象から除外する料金体系・料金施策のことをいいます。

なお、LINEモバイルなどで用いられる「カウントフリー」と中身は同じと考えて問題ありません。

これによって自社のネットワークに携帯電話のユーザーなどを惹き付けることができるといわれており、各携帯キャリアやコンテンツ制作企業などが導入を検討しています。

ゼロレーティングの背景

本来、携帯キャリアのデータプランは月ごとに通信量を決めて契約するものであり、そのプランで決められた通信量を超過すると回線速度が著しく遅くなります。いわゆる通信制限というもので、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

その結果、動画の視聴やゲームが利用しづらくなってしまい、「データ通信制限内でコンテンツを楽しむ」または、「高額な通信料を払って従量課金にするか」といった選択肢しかありませんでした。

しかしゼロレーティングの登場によって、従量制通信サービスの課金対象から特定のゲームや動画サイトのコンテンツを除外することができるようになるわけです。

ゼロレーティングのメリット

前述のように、ゼロレーティングは自社の回線にユーザーを惹き付けるために、主に携帯キャリアやコンテンツ事業者によって導入が検討されてきました。

一方、ユーザー側も頻繁に利用するコンテンツを通信制限から除外できるようになります。

通信データ量が制限に達しづらくなる

ゼロレーティングにより、今まで通信データ量の制限をオーバーしていた方でも、制限内に収められるようになります。これにより、今まで利用を控えていた動画コンテンツなども、安心して利用可能になります。

反対に、コンテンツ事業者たちからすれば、多くのユーザーが頻繁に利用するアプリを実質無料化することで、さらに多くの回線利用者を惹き付けようという狙いがあります。

たとえば、LINEモバイルには、LINEの通話とトーク、画像や動画の送受信といった機能が使い放題のLINEフリープランがあります。
さらに、FacebookやTwitter、Instagramも使い放題となるコミュニケーションフリープランといったサービスなど、複数種類の展開がされています。

通信料金が安くなる

また、今まで制限に達しないように通信データ量を多めに設定していた方もゼロレーティングを利用すれば、より安い料金プランで通信できるようになります。

ゼロレーティングの仕組み

次に、ゼロレーティングの仕組みについて簡単に解説しておきます。

DPIを用いたパケット検査

ゼロレーティングのようなシステムを確立するためには、どのアプリやコンテンツを課金対象から除外し、どれを残しておくかという明確な線引きをしなくてはいけません。

そこで登場してきたのがDPI(Deep Packet Inspection)という手法です。

これはコンピュータネットワークに関するパケットをフィルタリングする手法のひとつです。アプリやゲームのデータパケットが通過する部分に「検査ポイント」を設けます。この検査ポイントで検査をして、パケットデータを通過させるか否かを判断しています。

IPパケットを精査し除外対象を判別

同じようなDPI機能はルーターやUTM(Unified Threat Management)などにも搭載されていますが、これらは主にマルウェア対策や特定のアプリケーションを制限するために用いられます。

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一方、ゼロレーティングのために用いられるDPIはIPパケットを精査するためのものであり、主にどこからの接続か、どういった内容のデータパケットかについて深く解析を行うことになります。

これによって通信事業者は各々のユーザーの通信を調べ上げ、課金対象となるデータかどうかを判別するわけです。

ゼロレーティングを巡るさまざまな議論

ゼロレーティングは一見、通信事業者にとってもユーザーにとってもメリットのある制度であることは間違いありません。

しかし現在、ゼロレーティングを巡っては、主に「通信の秘密」と「ネットワークの中立性」、そして「コストの公平性」の3点から議論がなされています。それぞれの論点について、簡単にポイントを解説していきましょう。

ゼロレーティングと通信の秘密

ゼロレーティングの実現にあたって、「通信の秘密」に抵触するのではという指摘がされています。
具体的にいえば、前述のDPIの技術によって一人ひとりのユーザーがどのような通信をしているのかが、通信事業者側にわかってしまうことに対する問題提起です。

法規的な観点からいえば、電気通信事業法4条では

「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」

と明記されていることに加え、憲法にも第21条第2項の後段に、以下のように記載されています。

「通信の秘密は、これを侵してはならない。」


主な論点としては、DPIがこれらの条文内容に抵触するかどうかとなりますが、これには賛否両論あるのが現状のようです。

たとえば総務省は「通信の秘密」には通信内容だけでなく、通信者の住所や氏名なども含まれるとの見解を示しています。
これを今回のケースに杓子定規に当てはめれば、通信の秘密に抵触する可能性は高いでしょう。

しかし、ある程度の通信内容を知ることができなければ、通信事業者は業務を運営していくことはできません。むしろ刑法における「正当業務行為」と捉えることができるという見解もあるなど、さまざまな意見が飛び交っている状況です。

ゼロレーティングとネットワークの中立性

2つ目は、ゼロレーティングによって「ネットワークの中立性」が脅かされるという意見です。

「ネットワークの中立性」とは、簡単にいえばインターネット上を行き交うさまざまなデータが「公平に扱われているかどうか」の指標です。

たとえば、ブロードバンド側がある特定のインターネットサービスやコンテンツへのアクセスを遮断してしまったり、一部のトラフィックのみ有料化してしまうことは、ネットワークの中立性を損なう行為とみなされる可能性があります。

ゼロレーティングは、ある意味で特定のコンテンツのトラフィックを優遇する行為といえますから、すべての事業者を平等に扱う自由競争の観点からいえば、中立性を損なう制度ともとれます。

しかし、これにもさまざまな意見があり、日本国内ではむしろゼロレーティングを歓迎する意見の方が多いという調査もあります。他方、アメリカやインドは、ゼロレーティングを規制する方向に舵を切っているようです。

ゼロレーティングとコストに関する公平性の問題

特定のコンテンツをデータ通信量に対して課金しなかった場合、その分のコストをだれが負担するのかという問題も存在します。これが「コストの公平性」の問題です。

たとえば、一部のユーザーにとって実質的に無料となった通信分のコストを通信事業者自身が負担しないとします。
その場合、月額回線料金に上乗せという形で全ユーザーが同額を負担するかもしれません。

そうなると、ゼロレーティングの対象コンテンツを利用していないユーザーにとっては、意味もなく回線料金を値上げされてしまったことになります。これでは不公平感が出てくるでしょう。

このように、実質無料となった通信コストをだれが負担するのかといった論点についても、公平性・中立性の点からさまざまな意見があることは注目すべきでしょう。

ゼロレーティングの今後

最後に、ゼロレーティングを巡る今後の動向と、ユーザー側が気をつけるべきポイントについて簡単に説明します。

ユーザーが留意すべき点

これまで説明してきたように、コンテンツのユーザーにとってはメリットが大きいと思われるゼロレーティングですが、自分の通信内容が把握されていることについては留意しておくべきでしょう。
プライベートな情報を知られたくないという方は、利用を控えたほうがいいかもしれません

また、ネットワークの中立性やコストの問題についても、事業者同士の話し合いや世論しだいで、導入が遅れたり制度自体に変更が加えられたりする可能性があります。
定期的に動向を確認し、自分にとってメリットのある利用法について冷静に見極めるようにしましょう。

アメリカの現状に見る今後のゼロレーティングの動向

2017年4月に、アメリカのドナルド・トランプ大統領が各インターネットプロバイダーに対して、顧客の個人情報保護を義務づけていた規制を撤廃する法案に署名したことが話題になりました。

その理由は、本規制がインターネットの利用者ではなく、一部の企業にとって有利なものだったからとしています。
これに関しては議論の余地はあるようですが、このような規制の撤廃は、ネットワークの中立性などにも大きな影響を与えるといわれています。

また日本においても、すでにアメリカなどで問題となっているように、各携帯事業者が恣意的にゼロレーティングの対象とするコンテンツやアプリを選択するようになると、結果的に不公正な競争となるという指摘があります。

そうなると、ユーザー側が必ずしも望んでいないコンテンツが優遇される可能性も出てきますから、ゼロレーティングを巡る今後の動向には注意する必要があるでしょう。

ゼロレーティングを巡る今後の動向に注視

近年、主に通信業界で注目されているゼロレーティングについて、基本的な説明から現在議論されている主なポイントについて解説してきました。

さまざまな要因が絡む問題だけに、今後の動向を正確に予測することは困難です。しかし、いまやほとんどの人がスマートフォンやタブレットなどの通信機器でコンテンツを利用する時代ですから、だれもが利害関係者となる可能性があります。

思わぬところで損をしないためにも、自分の使っているキャリアのゼロレーティングに関するトピックなどは、しっかりとチェックしておくようにしましょう。

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