急成長日本企業、トップ過半数がソフト分野 - SaaSとAIがランキングを席巻
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急成長した技術系日本企業は?
1990年代のバブル崩壊後、日本経済は低迷が続いています。ただし、そのあいだに、経済を取り巻く環境は大きく変貌しました。2000年代にはITやインターネットが普及し、2010年代に入るとモバイル化やクラウド化へ進みました。
社会構造が変わると、旧来のやり方に固執する企業は成長できません。他社との取引方法や消費者の行動が変化するのに合わせ、業務プロセスを見直したり、新しい事業分野を開拓したりする必要があります。改革に早い段階から取り組むことで、次の時代の成長企業になれるのです。
現時点で成長著しい技術系企業の一例は、デロイト トウシュ トーマツの公表した「2020年日本テクノロジー Fast 50」で確認できます。
2020年日本テクノロジー Fast 50発表
BOXIL MAGAZINEでも以前、アジア太平洋地域の技術系企業についての成長率ランキング「デロイト 2019年アジア太平洋地域テクノロジーFast 500」を紹介しました。その日本版が2020年日本テクノロジー Fast 50で、成長著しい日本企業50社を表彰しています。
1位はスタメン、3期で6,000%成長
デロイトが調査対象とした事業は、ソフトウェア、メディア、通信、クリーンテック、ハードウェア、ライフサイエンスの6分野です。ランキングに掲載した50社は、過去3決算期の収益(売上高)成長率で選定しました。
上位5社は以下のとおりです。
【1位:スタメン】
従業員を企業の活動に取り込んで積極的に参加させる「エンゲージメント経営」という概念に基づく、経営支援プラットフォーム「TUNAG」をSaaSで提供する企業。日本テクノロジー Fast 50ランキングには、今回初登場です。調査対象となった3決算期の成長率は5,914.1%にもなりました。
サブスクリプション型のオンラインファンサロンを運営するのに必要な、システムから企画、ノウハウまでをワンストップで提供するサービス「FANTS」も手がけています。
【2位:カンム】
無審査で年齢制限がなく、入会費および年会費が不要な「Visa」ブランドのプリペイドカード「バンドルカード」事業を運営する企業。成長率は1787.1%でした。
同社は、2019年アジア太平洋地域テクノロジーFast 500で18位となり、日本企業としてトップになったことがあります。
【3位:A.L.I.Technologies】
ドローンに限らず、バイクや自動車のような乗り物も空を飛ぶ「エアーモビリティ社会」の実現を目指し、さまざまな研究開発に取り組む企業。また、3Dレンダリング機能、ディープラーニングや工業シミュレーション向けの演算パワーを、クラウド提供する事業も手がけています。
今回初登場で、成長率は1014.6%でした。
【4位:ホープ】
自治体向けの、地域と行政を結ぶアプリやウェブメディア運営を支援する企業。自治体媒体向けの広告掲載事業、新電力サービス事業も手がけています。
成長率は534.9%でした。
【5位:AI inside】
AIをベースとして、OCRソリューション「DX Suite」やエッジコンピューティング用ハードウェア「AI inside cube」など、関連するサービスと製品を開発し提供する企業。成長率は469.5%です。
2019年アジア太平洋地域テクノロジーFast 500では81位で、国内企業として2位でした。
SaaSとAIが成長株
ランキング上位5社のうち、4社がソフトウェア分野の企業でした。4位のホープが唯一の例外でメディア事業に分類されています。ただし、アプリやウェブメディアを手がけており、ITを事業基盤に置く企業に変わりありません。
ソフトウェア企業が好調という状況は、ランキング上位に限りません。50社のうちソフトウェア関係は26社で過半数を占め、2位メディアの10社を大きく引き離しています。
ソフトウェアといっても、PCやサーバー上で動く純粋なソフトウェアに限定されません。ソフトウェア的なサービスをSaaS形式で提供する企業が多く、クラウド市場拡大の影響が現れました。
ソフトウェア分野でAI関連の企業も目立ちました。何らかのサービスや製品でAIを利用している企業は、SaaS型サービス企業と同程度の10社以上あります。AIベースのサービスをクラウド提供している企業も存在します。
初登場はAI関連企業が多い
初登場の企業は、AI関連が多くなりました。たとえば、3位に入ったA.L.I.Technologies、データ検索/分析サービスのブレインズテクノロジー(22位)、画像認識ソフトウェア開発のフィーチャ(27位)などが、そうした企業です。
SaaS関連の企業も少なくありません。ソフトウェア以外とされた企業でも、デジタル広告やソーシャルメディアマーケティングのフィードフォース(16位)、電子書籍などのデジタルコンテンツを流通させるプラットフォーム事業のメディアドゥ(40位)など、いずれもITをフル活用しています。
次に成長する技術分野は?
2020年日本テクノロジー Fast 50で取り上げられた企業は、以前からSaaSやAI、ソーシャルメディアといった新しい分野に注力してきた結果が、現在の成長に結びつきました。逆の見方をすれば、何年ものあいだ話題先行だったこの種の技術がやっと実用レベルに達したからこそ、提供企業の成長につながったのです。
つまり、5年後、10年後に開花する可能性のある有望な新分野は、ランキング掲載企業の手がけている姿勢や歩んできた道のりを手本にすれば見つかるかもしれません。技術を開発する企業も、それを利用する企業も、参考になるでしょう。