経営者はDXに何を求めているのか デロイトトーマツ、2700社の有価証券報告書から分かったこと
デロイト トーマツ グループは9月、上場企業2,752社を対象に有価証券報告書をテキストマイニングで分析したレポート「テキストマイニングによる有価証券報告書の開示動向調査」の結果を発表しました。前回記事 では「DX」が急上昇ワードとなったこと、記載が多い業界、少ない業界があることをご紹介しました。
今回は、経営者は何を目的にDXを成し遂げようとしているのか、今後さらに日本企業がDXを推進していくためには何が重要なのかを、今回の調査を担当されたデロイト トーマツ グループのマネジャー・宮村 祐一氏と公認会計士の岸 純也氏に語っていただきました。
【デロイト トーマツ グループ マネジャー 宮村 祐一氏】
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクスR&D所属。自然言語処理技術の研究開発、および、自然言語処理技術、機械学習技術等を活用したコンサルティング業務に従事。知財、ニュース、業務文書などのテキストマイニングの経験を有する。
【公認会計士 岸 純也氏】
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクスR&D所属。プライバシーを保護したまま機械学習・データ分析を行う技術であるプライバシー強化技術の研究開発に従事。暗号資産取引分析システムの開発、上場企業の会計監査業務の経験を有する。
事業のリスク面からも意識高まる
――DXに対する経営者の意識は確実に高まってきていますか。
宮村:高まっていると思います。それは、すべての業種において記載率が上がっていることからも裏付けられます。もう一点、調査レポートの中では記述していませんが、我々は有価証券報告書にある、「事業等のリスク」という項目に対しても分析を行っています。それによると、事業等のリスクにおいてもDXを記載している企業が増えています。
世の中がDXによって変化することで、企業が新たに直面するリスクもあるということです。経営者からすれば、自分だけが取り残されてしまう、自分が行ってきたビジネスが立ち行かなくなるというリスクです。事業等のリスクも含めて、DXを多角的に捉えていくところは、経営者の意識が高まっているからであると言えます。
流行り言葉としてなんとなくDXを用いるのではなく、自分にとって実感のあるものとして捉えられるからこそ、色々な要素があることに気が付き、事業等のリスクにも書くという結果につながるのでしょう。DXに対する経営者の意識はかなり高まっていると思っています。
コーポレート・ガバナンスでもDX推進
岸:経営方針は有価証券報告書では、事業の概況の冒頭に記載されます。そこではDXの活用に言及するだけだったり、抽象的な表現が多かったりします。一方、事業等のリスクにおいてDXが書かれている場合は、どのようなリスクが想定されるのか、そのリスクに対応するために、どのようなデジタル化を進めているといった具体的なことが記載されているケースも多いです。それだけに、経営者がDXを活用していくことに関して、しっかりとしたイメージを持っていることが分かります。
顧客のビジネスモデルが変われば、提供すべきサービスも変えていかないといけません。特に、情報通信・サービスの企業ではそうした点が書かれやすい傾向にあります。この業種では、クライアントが使うIT環境が変わると製品も大幅に変わります。DXの影響をもろに受けてしまいかねません。情報通信・サービス業界のDXに関する記載で、他社のDX支援に言及されていることも整合しています。
この調査レポートを執筆するにあたり、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況等における記載についても分析しています。ESGであれば、「C“ESG”O」(最高ESG経営責任者)といってESG専門の役員がいたりします。一方、DXに関しては「CTO」(最高技術責任者)はかなりの企業にいますし、「CIO」(最高情報責任者)や「CDO」(最高デジタル責任者)などの役員を置く例があります。
また、デジタルイノベーション推進部のように、単なる情報セキュリティ部門ではなくて、DX・デジタルイノベーションを推進する部門ができていたりします。今後は、コーポレート・ガバナンスや機関設計にもDXを推進する仕組みが盛り込むことが増え、そういった動きが外部にも発信される例も増えてくるのではないでしょうか。
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