国産OS「TRON」生みの親・坂村氏 「DXの本質は制度改革」と熱心に語るワケ
【インタビュー】
坂村健氏 東洋大学情報連携学部(INIAD)学部長、東京大学名誉教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長
コンピュータ・アーキテクチャー(電脳建築学)が専門である坂村氏は、東京大学を定年退官後、東洋大学で新たな時代に向けた学部として「INIAD」を開設しました。書籍執筆にも意欲的に取り組んでいます。インタビューの前半では、DXの本質は何か、DX推進に向けた第一歩として何に着手すべきかなどを聞きました。
【profile】
1951年東京生まれ。INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、東京大学名誉教授。
1984年よりオープンなコンピュータアーキテクチャTRONを構築。現在TRONは米国 IEEEの標準OSとなり、IoTのための組込OSとして携帯電話の電波制御をはじめと して家電製品、オーディオ機器、デジタル機器、車のエンジン制御、ロケット、 宇宙機の制御など世界中で使われている。2015年情報通信のイノベーション、促進、発展を通じて、世界中の人々の生活向上に多大な功績のあった世界の6人の 中の一人として、国際電気通信連合(ITU)より「ITU150アワード」を受賞。 2006年日本学士院賞、2003年紫綬褒章。著書に『DXとは何か』、『IoTとは何 か』(角川書店)、イノベーションはいかに起こすか』(NHK出版)など多数。
日本はDXを理解できていない
―2021年4月、「DXとは何か 意識改革からニューノーマルへ」(角川書店)を発刊されました。この本を通じて伝えたかったことは
世界的にDXが重要になっています。日本だけでなく、全世界でDXをどうするかと議論が成されています。ご存知のように、トランスフォーメーションは変革を指す言葉ですから、デジタルの力によって変えていくということがDXの本質だと言えます。日本で良く勘違いされてしまうのは、「デジタルテクノロジーを使って、今行っていることを改善すれば良いんだ」と思ってしまうことです。
日本でDXがほとんど上手くいっていないのは、元のやり方を変えようとしないからです。「デジタルテクノロジーに合わせて、組織ややり方も変革しなくてはいけない」と言っているのに、従来型のままで、単にデジタルテクノロジーで改善しようとするだけでは根本解決にならない。それが多くの日本企業がDXに失敗しているパターンです。
例えて言うと、今までは手紙を書いて封筒に入れて送っていました。「もっと何とかならないか」とFAXが出てきました。送り手側と受け手側がFAXを持っていれば、手書きしたものを人手を介さず送れるようになったわけです。もちろん全く効率改善になっていないとまでは言いません。しかし、DXで目指しているのはそれ以上のものです。
「送る」という行為をなくす
今のデジタル回線はアナログではありません。FAXはデジタル回線を使って絵を送っている。この絵を送ることと、コンピュータで直接処理できるデータを送るのとは違います。下手するとFAXを見て人間がコンピュータに再入力することになります。そして困ったことに、その手の改善を繰り返してきた人は「FAXで送っていたものをPDFにして、それをメールで送ればDX」と言い出します。それも同じこと。
最近はPDFをデジタル情報に変換するソフトも出ていますが、効率が悪い。初めからデータとして送ってあげるべきでしょう。それどころか、互いが同じデータベースを見るようにやり方を変えれば「送る」ということ自体が必要なくなります。それがDXです。
RPAを導入したらDX?
この本の中でも書いていますが、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したらDXだ」と指摘している本が多くあります。しかし、それはPDF添付のメールと同程度の理解に過ぎません。考え方、今やっていることを極力変えないでデジタル化しているだけで、根本的にデジタルに合わせて組織、やり方を変えているわけではない。
この本で一番訴えたかったのはそういうことです。単に表面だけを見て、「デジタルテクノロジーを使ったからDXだ」というのは誤解。もっと根本的に、デジタルに合わせて組織、やり方の変革ができた時に初めてDXになると言っています。
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