「いちばんやさしいDXの教本」著者の開発ポリシー 「早い、うまい、安い」とは?
【インタビュー】
亀田重幸氏 ディップ株式会社 商品開発本部 次世代事業統括部 dip Robotics室長
ディップ株式会社にて「バイトル」のスマホアプリ、数々の新規事業の立ち上げに従事、AIニュースメディア「AINOW」立ち上げ後に、社内のDX専門組織「dip Robotics」を設立し室長を務める。営業DX領域では自社SFA/CRM「レコリン」を構築し、営業生産性の大幅な向上を実現。社内外のDX実現を推進して、書籍「いちばんやさしいDXの教科書」(インプレス)を執筆
現場の営業担当者と同じ目線を持つ
―テレアポ、顧客リスト管理など営業活動にかかる業務を運用する、ディップ独自のCRMアプリ「レコリン」はどのような思いで開発されたのですか
営業の業務改善が目的です。セールスフォースの自社版とも言えます。営業という業務では、商談経過を入力しないとか、ツールを使わないなどが世の中の定説です。しかし、当社では99%が「レコリン」を使っています。この成功体験があったからこそ、現場を大事にするという僕のスタンスが確立できたと言ってよいでしょう。
開発にあたっては実際に営業担当者にインタビューを行い、何に困っているのか、課題がどこにあるのかなどを、現場レベルで把握することに時間を費やしました。私は営業出身ではないですが、一緒にテレアポをして、辛さを実感したり、営業担当者の苦労を一緒に体験したことがサービス作りのヒントになりました。その結果、「こういうのが欲しかった」「仕事がすごく楽になった」という声をいただけるようになりました。
現場で営業担当者と同じ目線に立たなかったら、こういう結果にならなかったと思います。やはり、現場を大事にする、現場でツールを使う人を大事にすることが一番重要なのです。使う人を大事にすればデータも溜まりますし、どんどん改善が楽になります。まずは現場に戻ろう、現場が中心だと考えて開発を進めました。
毎日使いたいと思うツールを作る
―現場を大切にするという姿勢の出発点は
僕のキャリアは新規事業一筋です。失敗の経験もたくさんあります。優れた機能や自分が便利だと思うサービスを作れば、皆が使ってくれるだろう、儲かるだろうとやっていたのですが、残念ながら使ってもらえないことが多かったです。
そこで、徹底的に現場に行き、働く人が困っていることを解決する一番便利なツールを作ろうと思ったのです。そうしたら実際にうまくいった。その成功体験が大きかったですね。その方針で新規事業がうまくいくのであれば、社内プロダクトでもうまく使えるだろうと、今も現場目線・現場主義を大事にしています。
―それ以前のツールは何が問題だったのですか
使い方が限定的だったのです。また、労力と得られる成果にもギャップがありました。データの入力に時間をかけても、それが何になるのかという感じでした。報告だけならメールでもできます。だったらツールを使うメリットはどこにあるのかと思う人がほとんどでした。
経営陣からも「営業の効率化を図れないか」とメッセージが出ていました。僕自身も新規事業の失敗経験を生かし、もっと高い営業成果を上げるよいプロダクトが作れないか考えていました。その二つがかみ合い、営業現場に入って「レコリン」を開発することにしました。
一人の営業担当者に3か月密着
―開発をどう進めていったのでしょうか
従来通りに八方美人な開発スタイルになると、それなりに使われるだけのツールになってしまいます。一方で、一人のニーズにフォーカスすると長く使ってくれます。正直言うと怖かったのですが、思い切って舵を切り、一人の営業担当者にベタ付きしました。
その一人が「使いやすい」と言ってくれれば、同じチームのメンバー、さらには営業部門全体に広がるのではと仮説を立てたのです。100人の営業に向けて開発すると、薄い機能のものになり、使い続けてもらえないだろうと思いました。一人のニーズに徹底的にフォーカスした方がより広がるのではというイメージでした。口コミと一緒ですよ。すごくよいものは、口コミでもどんどん広がっていきます。
一番困っている人を探す
―誰にフォーカスしたのですか
営業の業務で困っている人を見つけることにしたのです。実際に困っているという意味では、新卒が一番なのですが、新卒は営業の型とか知識がないだけです。逆にそれを入れてあげると、一定の流れができるので除外しました。
次に除外したのはベテラン層です。当社で言うと4年以上の営業経験者です。この年次になると、課題があっても自分で解決できてしまうのです。だから、最終的にフォーカスしたのは、2年~3年ほどの営業経験者でした。
一応、営業のやり方は知っている、でも自分のやり方だとなぜかうまくいかないという課題感が大きく、解決策も見つけられない層です。そこにフォーカスした方が、困っている分、より使ってくれるだろうと考えました。
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