コピー完了

記事TOP

活況M&A、事業承継で存在感増す 対国内スタートアップ件数も過去最高

最終更新日:(記事の情報は現在から920日前のものです)
企業の実施した事業承継において、M&Aの割合が徐々に増えています。企業売却の理由でも事業承継が約5割を占めていました。また国内スタートアップ企業に対するM&Aは、2021年、件数が前年の1.5倍以上で過去最高となり、規模も拡大しています。

「脱ファミリー」進む事業承継

2年以上にもわたるコロナ禍で、企業の経営は難しい状況が続いています。事業環境の悪化などを理由に、廃業を考える企業も少なくないでしょう。

帝国データバンク(TDB)が全国で調べた(※1)ところ、60歳以上の企業経営者は50%超が将来的に廃業を予定しているそうです。ただ、廃業の理由として、約3割が「後継者難」を挙げました。コロナで業績が低迷しているタイミングで後継者を見つけられないと、企業の廃業が増えてしまいます。

TDBの調査によると、2021年に事業承継できた企業は、「同族承継」が38.3%、「(血縁関係によらない役員などを登用した)内部昇格」が31.7%という結果でした。2017年の調査と比べると、「同族承継」は緩やかに減少しています。また、「M&Aほか」が17.4%と、徐々に増えました。

こうしたことから、TDBは、事業承継において「脱ファミリーの動きが鮮明となっている」とみています。

就任経緯別推移 出典:TDB / 事業承継問題、コロナ下で大幅改善

※1 TDB『事業承継問題、コロナ下で大幅改善』,https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p211104.pdf

M&Aが事業承継の一手段に

事業承継を目的とするM&Aは、どの程度あるのでしょうか。

企業売却理由の5割が事業承継

バトンズは、会社や事業の売却、買収を検討したことのある経営者を対象として、継続的に調査を行っています。2022年4に実施した最新調査(※2)では、2021年10月から2022年3月に売却を実施または検討した経営者は、以下の割合でした。

選択肢 割合
実施した 26.7%
検討したが
実施しなかった
25.7%
検討していない 45.7%
答えられない 1.9%

出典:バトンズ / 売却検討理由が「経営不振のため」から「後継者不在(事業承継)」に変化

実施または検討したと答えた経営者に理由を尋ねたところ、もっとも多かった回答は56.4%の「事業再編のため」だったものの、「後継者不在(事業承継)」も49.1%と目立っています。やはり、事業承継を目的とするM&Aは、現在では珍しくないようです。

理由 割合
事業再編のため 56.4%
後継者不在(事業承継) 49.1%
将来への不安のため 45.5%
経営不振のため 43.6%
イグジット 14.5%
その他 0.0%

出典:バトンズ / 売却検討理由が「経営不振のため」から「後継者不在(事業承継)」に変化

※2 バトンズ『売却検討理由が「経営不振のため」から「後継者不在(事業承継)」に変化』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000133.000034376.html

事業承継目的のM&Aが急増

バトンズが2021年12月に実施した同様の調査(※3)では、「後継者不在(事業承継)」は43.5%です。2022年4月の49.1%よりも少ないうえ、ほかの理由に比べ選んだ経営者が少ない状態でした。

理由 割合
事業再編のため 59.7%
後継者不在(事業承継) 43.5%
将来への不安のため 48.4%
経営不振のため 51.6%
イグジット 29.0%
その他 8.1%

出典:バトンズ / オンライン化の普及でM&Aにも遠隔地への需要あり

さらに、2021年6月の調査(※4)では、「後継者不在(事業承継)」は24.2%しかありません。この1年間で、M&Aを事業承継の手段と考える経営者が確実に増えています。

理由 割合
事業再編のため 45.1%
後継者不在(事業承継) 24.2%
将来への不安のため 28.6%
経営不振のため 29.7%
イグジット 8.8%
その他 12.1%

出典:バトンズ / 7割以上の企業が「異業種買収へ関心あり」

※3 バトンズ『オンライン化の普及でM&Aにも遠隔地への需要あり』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000034376.html

※4 バトンズ『7割以上の企業が「異業種買収へ関心あり」』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000034376.html

スタートアップに対するM&Aも活発

EY Japanの調査(※5)によると、スタートアップ企業のイグジット手段としても、M&Aの利用が増えています。

※5 EY Japan『2021年が飛躍に向けた転換点となるのか、活況を呈した国内スタートアップM&A』,https://www.ey.com/ja_jp/mergers-acquisitions/whether-2021-will-be-a-turning-point-for-a-leap-forward-a-booming-domestic-startup-m-and-a-trend-survey-2021

2021年の件数は過去最高

国内のスタートアップ企業を対象としたM&Aは、2021年に143件あり、2020年の90件から5割以上増えました。それまでも徐々に増加はしていましたが、90件程度で推移しており、2021年に急増したことが分かります。

スタートアップ企業のイグジット手段としては、新規株式公開(IPO)も考えられます。ただし2021年のIPOは123件で、M&Aを下回りました。それまでIPOがやや多い傾向でしたが、M&Aが主流になっていくのでしょうか。

出典:EY Japan / 2021年が飛躍に向けた転換点となるのか、活況を呈した国内スタートアップM&A

件数だけでなく規模も拡大

国内スタートアップ企業に対するM&Aは、件数だけでなく規模も拡大しています。

EY Japanが買収金額の開示されている案件を集計したところ、2020年に10億円以上の案件が4件ありました。それが2021年には18件と大きく増え、100億円以上の案件が3件あるなど、大型案件も増えたのです。

ちなみに、2020年に実施されたM&Aの最大額は、約13億円でした。

中小企業庁もM&Aを推進

中小企業庁は、中小企業の事業継承を支援しようと「中小M&A推進計画」を策定しました。

後継者が見つからない中小企業が廃業してしまうと、せっかく築き上げた経営資源が失われ、大きな損失になります。M&Aによる事業承継ができれば、働く人や地域の経済にとって大きなメリットです。M&Aで事業規模が大きくなると、生産性の向上も望めます。

スタートアップ企業としては、M&Aが盛んになればイグジットの幅が広がります。これは、新たな事業を興す際のハードルを低くするでしょう。中小企業庁は、こうした効果も狙ってM&Aを推進しているのです。

このように、さまざまな理由でM&Aに対する期待が高まっています。今後も、スタートアップや中小企業に限らず、M&Aの数や規模は大きくなっていくでしょう。

この記事が良かったら、いいね!をしてください!最新情報をお届けします!
貴社のサービスを
BOXIL SaaSに掲載しませんか?
累計掲載実績1,200社超
BOXIL会員数200,000人超
※ 2024年3月時点
ニュース・特集の最近更新された記事