ICT市場の現状と課題は?「情報通信白書」総ざらい - デジタル田園都市、Society 5.0など政策を解説
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「令和4年版 情報通信白書」をまとめて解説
総務省が、「令和4年版 情報通信白書(ICT白書)」(※1)を公開しました。日本のICT活用について、同白書を刊行し始めたおよそ50年前から現在までの変化や、現状と課題、今後の取り組みといったものをまとめた資料の最新版です。
対象とする領域は、テレビやラジオの放送、PCやスマートフォンなどのIT機器、固定電話や携帯電話といった通信網、クラウドサービス、動画や音楽のコンテンツサービス、電子決済、SNSなど、極めて多岐にわたります。通読すれば、国内ICT市場の全般的な状況を把握でき、政府が今後どんな方向へ進ませようとしているか、そのための政策はどのような内容なのか、理解できるでしょう。
以下では、白書のなかからICT市場の現状と総務省のICT施策に絞り、主な情報を整理しました。
※1 総務省『令和4年版 情報通信白書』, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/index.html
国内ICT市場の現状は?
まず、ICT市場の現状と課題を確認します。
拡大する市場規模、増える投資額
情報通信白書の対象とする領域は、以下の図で示されたとおり非常に広くなっています。
世界ICT市場の支出額は、2016年から増加傾向で、2021年に前年比12.5%増の465.2兆円あったそうです。日本の民間ICT市場も、投資額が増えていて、2017年に12兆1,530億円だったものが、2020年には12兆9,700億円へ拡大しました。さらに、拡大は今後も続くと予想されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響でICT投資を中止または先送りした中小企業が多かった一方、大企業は計画通り投資を実施しました。テレワーク環境整備とデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を認識した企業も、ICT投資を加速させたと考えられます。
また、民間企業の投資に占める情報化投資の割合も、このところ増加傾向にあります。
インフラ整備は十分な日本
デジタル化やDXの遅れが指摘される日本ですが、2021年3月末時点の光ファイバー世帯カバー率は全国平均で99.3%と極めて高く、通信インフラの整備状況は良いようです。首都圏はほぼ100%あり、もっとも低い佐賀県でも94.6%ありました。
こうした通信インフラを国民がどう利用しているかの一側面は、インターネット接続に使う端末の種類から読み取れます。
2021年時点でもっとも多かったのは、2010年から増加の続いているスマートフォンで、88.6%ありました。これに対し、PCは69.8%と少なく、割合も下がっています。日本では、インターネット利用がモバイル端末に偏りつつあるのでしょうか。
個人のインターネット利用率は82.9%と高いものの、頭打ち状態です。端末別のインターネット利用率は、スマートフォン(68.5%)がPC(48.1%)を20ポイント以上も上回りました。
ネットワーク、特に固定系ブロードバンド回線がどの程度使われているかについては、興味深いデータがあります。2019年まで年率約20%のペースで増えていたダウンロードトラフィック量が、その後18カ月で約2倍へ急増したのです。
これは、COVID-19パンデミック対策の外出自粛により、テレワークやオンライン授業を実施するようになったうえ、巣ごもり消費で映像配信サービスの利用機会が増えた影響でしょう。
課題はデジタルデバイドなど
通信インフラと通信端末は普及していますが、年齢によるデジタルデバイドは無視できない課題です。
年代別のインターネット利用率は、13歳から59歳まで年齢層はすべて9割を超えていますが、60歳から69歳は84.4%、70歳から79歳は59.4%へ下がり、80歳以上は3割を切っています。以前の白書では、世帯年収や居住地域によってもインターネット利用率が大きく異なる、と指摘されました。
テレワークの利用率が他国と比べて低い点も気になります。テレワーク利用経験者の割合は、米国とドイツは60%弱、中国は70%超ありましたが、日本は30%に届きません。しかも、「生活や仕事うえで活用が欠かせない」「便利なので積極的に活用している」人の割合も、他国から大きく引き離され、低い水準にとどまっています。
総務省が推進中のICT政策
総務省は、さまざまなICT政策を推進中です。話題になったものの中から、「デジタル田園都市国家構想」と「Society 5.0」をみてみましょう。
地方と都市の差を縮める「デジタル田園都市国家構想」
デジタル田園都市国家構想(※2)の目的は、デジタル技術を活用して地方を活性化させ、日本として持続可能な経済社会を実現することです。デジタルデバイドの解消を重視しており、地方のデジタル実装を支援し、都市部と地方の差を縮めようとしています。成功すれば、「大都市の利便性」と「地域の豊かさ」を融合した「デジタル田園都市」の構築されるはずです。
具体的な施策は、光ファイバーと5G、データセンター、海底ケーブルなどの「デジタル基盤の整備」、高齢者のデジタル活用支援や自治体のDX推進に必要な「デジタル人材の育成・確保/誰一人取り残されないための取組」、デジタル活用による地域活性化に向けた「地域課題を解決するためのデジタル実装」という3本柱で構成されています。
※2 デジタル庁『デジタルから考えるデジタル田園都市国家構想"』, https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai1/siryou4.pdf
2030年代の実現を目指す「Society 5.0」
Society 5.0とは、「2030年代の強靱で活力のある社会」であり、「Inclusive(インクルーシブ):誰もが活躍できる社会」「Sustainable(サステイナブル):持続的に成長する社会」「Dependable(ディペンダブル):安心して活動できる社会」の3条件を兼ね備える社会とされています。
そのためにも、経済安全保障を意識した情報通信政策が重要だとして、「情報通信インフラの高度化と維持」「研究開発・ソリューション・人材育成などの情報通信産業全体の国際競争力の強化」「自由かつ信頼性の高い情報空間の構築」が必要としました。そして、「5Gの普及と高度化、海外展開」「ブロードバンドの拡充等」「サイバー空間全体を俯瞰したサイバーセキュリティの確保」「人的基盤の強化と利活用の促進」など、8つの領域で重点的に取り組むべきことがらを示しています。
「情報通信白書」は必読
白書では、このほかにも将来を見据えて「Beyond 5G」「量子技術」「AI技術」「リモートセンシング技術」「宇宙ICT」に取り組むべき、としています。総務省がいかに視野を広げて将来を見ているか、よく分かるのではないでしょうか。
直接ICT分野と縁のない企業でも、デジタル田園都市国家構想やSociety 5.0に関係する可能性はあります。また、DXが進む社会においては、無視できない政策です。中長期的な事業戦略を検討するにあたって、同白書の内容は知っておくと良いでしょう。