生産管理でのIE(インダストリアル・エンジニアリング)とは?手法や導入を阻む課題、成功ポイント

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IE(インダストリアル・エンジニアリング)とは
IE(インダストリアル・エンジニアリング)とは、人、モノ、設備からなるシステムを効率的に運用するための手法です。製造業における作業の工程や内容を科学的に分析し、改善することで、生産性向上やコスト削減、品質改善などの効果が期待できます。
IEの起源は、1900年代初期にアメリカのフレデリック・テイラーによって提唱された科学的管理法です。その後、製造業を中心に発展し、現代ではあらゆる産業分野で活用されています。
近年のめまぐるしい経済環境の変化やグローバル化の進展に伴い、企業は競争力を維持するために、IEによる業務効率化がますます重要になっています。
IEを導入するメリット
IEを導入することで、業務効率の改善やコスト削減、品質向上など、さまざまなメリットを得られます。IE導入による主なメリットを3つ紹介します。
- 業務の無駄を見つけられる
- 業務を客観視できる
- 現場の状況を把握できる
業務の無駄を見つけられる
IEでは、業務プロセスを詳細に分析することで、無駄な作業や非効率な工程を明確にできます。たとえば、作業の順番や配置を見直すことで、移動距離や待ち時間を減らせます。
これにより、人材や時間、資源の無駄を削減し、コスト削減や生産性向上につなげられます。
業務を客観視できる
IEは、データに基づいて客観的に業務を評価する手法です。そのため、個人の経験や勘に頼った非効率な作業や、属人的な業務の改善点を発見できます。
業務を標準化し、誰でも同じように質の高い作業ができるようになり、業務全体の効率化と品質向上に貢献します。
現場の状況を把握できる
IEでは、現場の作業を分析し、現状を正確に把握できます。たとえば、作業時間や作業量、作業者の動きなどを分析することで、ボトルネックとなっている工程や、改善が必要な箇所の特定が可能です。
これにより、的確な対策を講じられ、現場の生産性向上や作業環境の改善につながります。
IEの主な手法
IEにはさまざまな手法がありますが、大きく「方法研究」と「作業測定」の2つに分けられます。それぞれの手法について、詳しく解説します。
方法研究
方法研究とは、現状における作業方法や手順を分析し、より効率的な方法を検討するための手法です。この研究では、作業工程や動作、移動経路などを細かく分析することで、無駄な要素を排除し、作業全体の効率化を目指します。
方法研究の手法は大きく分けて、工程分析、動作分析、運搬分析の3つです。それぞれの分析手法を用いることで、現状の課題を明確化し、改善策を検討できます。
工程分析
工程分析とは、製品やサービスが完成するまでの工程を分析する手法です。原材料の入荷から製品化までを、加工、組立、検査、停滞の4つに分けて可視化し、それぞれの工程における作業内容、所要時間、移動距離などを把握します。
この分析により、工程全体のバランス、ボトルネックとなっている工程、無駄な作業や待ち時間の発生箇所などが明らかになります。
たとえば、工程の順番や配置を見直すことで、移動距離や待ち時間を減らす、作業の標準化によって作業時間のバラつきをなくす、といった改善が可能です。
動作分析
動作分析とは、作業者の動作を細かく分析する手法です。作業者がどのような動きで作業を行っているのか、どのような道具や設備を使用しているのか、作業姿勢や視線、移動経路などを観察・記録します。
この分析により、無駄な動作や無理な姿勢、非効率な道具の使用などを特定し、改善できます。たとえば、工具の配置や作業台の高さを見直すことで作業者の負担を軽減し、作業効率を向上させる、といった改善が可能です。
運搬分析
運搬分析とは、材料や製品の移動に着目した分析手法です。運搬距離、運搬回数、運搬時間、運搬方法などを分析することで、搬送における無駄を明らかにします。
この分析により、搬送距離の短縮、搬送回数の削減、搬送ルートの改善、搬送方法の変更など、さまざまな改善策を検討できます。たとえば、工場のレイアウト変更や搬送設備の導入によって搬送効率を向上させる、といった改善が可能です。
作業測定
作業測定とは、ある作業にどれだけの時間がかかっているのかを測定する手法です。作業時間を正確に把握することで、作業の標準化や工程の改善、人員配置の最適化などに役立ちます。作業測定には、時間分析、稼働分析といった手法があります。
時間分析
時間分析とは、ストップウォッチ法やPTS法などを用いて、作業時間を計測する手法です。ストップウォッチ法では、ストップウォッチを用いて要素作業にかかる時間を直接測定します。
PTS法は、要素作業をさらに細かく分解し、あらかじめ定められた動作のレベルや難易度に応じて時間を割り当てる手法です。この割り当てた時間は、標準時間と呼ばれます。
この分析により、作業時間のバラつきや無駄な時間、作業の遅延の原因などを把握できます。たとえば、標準時間を設定することで作業の平準化を図る、作業改善によって作業時間を短縮する、といった改善が可能です。
稼働分析
稼働分析とは、作業者や設備の稼働状況を時間的に分析する手法です。作業者や設備が実際に稼働している時間と停止している時間の割合を把握することで、設備の稼働率を算出します。
この分析により、設備の効率的な運用方法や設備投資の判断材料などが得られます。たとえば、設備の停止時間を減らすことで稼働率を向上させる、前工程からの待ち時間を短縮する、といった改善が可能です。
IE導入を阻む課題
IE導入の効果は多岐に渡りますが、実際に導入する際にはいくつかの課題が存在します。IE導入を阻む主な課題を3つ紹介します。
- 現場からの抵抗
- 経営層の理解
- IEを推進できる人材の不足
現場からの抵抗
IE導入は、現状の作業方法や工程の見直しを伴うため、現場担当者からの抵抗が生じることがあります。抵抗が生じる原因は、変化に対する不安や新たな作業方法への習熟に対する負担感などです。
現場の抵抗を放置すると、IE導入がスムーズに進まず効果が得られないばかりか、従業員のモチベーション低下や反発を招く可能性もあります。
そのため、IE導入の目的やメリットを丁寧に説明し、現場担当者を巻き込みながら進めていかなければなりません。
経営層の理解
IE導入には、一定のコストや時間が必要です。また、投資対効果が不確実である、すぐに効果が表れるとは限らないといったことから、経営層の理解を得るのが難しいかもしれません。
経営層の理解不足は、IE導入の推進力不足につながり、プロジェクトが頓挫してしまう可能性も孕んでいます。そのため、IE導入による具体的な効果や費用対効果、リスクなどを明確に示し、経営層の理解と協力を得なければなりません。
IEを推進できる人材の不足
IEを推進するためには、製造業の業務について理解が深く、かつデータ分析に関する専門的な知識やスキルを持った人材が必要です。しかし、現状ではこのような人材が不足しており、導入をスムーズに進めることは難しいでしょう。
人材不足を解消するために、社内での人材育成や、外部コンサルタントの活用などを検討する必要があります。
IE導入を成功させるポイント
IE導入を成功させるためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。IE導入を成功に導くためには次の4つのポイントを押さえましょう。
- 客観的・定量的に分析する
- 改善後のフォローアップを行う
- パイロットプロジェクトを実施する
- 生産管理システムを活用する
客観的・定量的に分析する
IEでは、現状を把握するための分析を客観的・定量的に行うことが重要です。そのため、データ収集や分析には客観的な指標を用いるとともに、数値化できるものは可能な限り数値化して分析を行いましょう。
客観的なデータに基づいた分析を行うことで、現状における問題点や改善点を明確に把握できます。
改善後のフォローアップを行う
改善策を実施した後は、必ずフォローアップを行いましょう。効果測定や現場の意見収集を通じて、改善の効果を検証し、必要があればさらなる改善策を検討します。
フォローアップを継続的に行うことで、改善の効果を最大化し、IE導入による効果を維持できます。
パイロットプロジェクトを実施する
IE導入の効果を検証するために、まずは小規模なパイロットプロジェクトを実施しましょう。パイロットプロジェクトで得られた結果を分析し、必要があれば計画を修正することで、本格導入時のリスクを軽減できます。
生産管理システムを活用する
生産管理システムを活用することで、データ収集や分析の効率化、情報共有の促進などが期待できます。システムの導入により、IEの推進を支援する体制を構築しましょう。
生産管理システムの活用は、特に生産管理にExcelを使っている企業にとって効果的です。生産管理システムは他システムとの連携に優れ、データの一元管理やリアルタイムな状況把握を可能にします。
操作に慣れるまで多少時間がかかるかもしれませんが、最近は直感的に扱える製品が多く、新人ならExcelでの生産管理よりも業務を覚えやすいでしょう。
IE導入と業務改善を成功させるには、生産管理システムが役立つ
IEを導入することで、業務の無駄をなくし、生産性向上やコスト削減、品質改善などの効果が期待できます。
IE導入を成功させるためには、客観的なデータ分析、改善後のフォローアップ、パイロットプロジェクトの実施などが重要となります。そして、これらの取り組みを効率的に行うために、生産管理システムの活用が効果的です。
生産管理システムは、データの一元管理、分析の自動化、情報共有の促進など、IE導入を支援するさまざまな機能を提供しています。
こちらの記事では生産管理システムとは何か、どのようなシステムがあるのかを解説しています。生産管理システムに興味がある方、IE成功を目指す方は、ぜひお読みください。
