進まぬBCP(事業継続計画)、策定不要も24% - 非常時に備え対策急務
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BCP(事業継続計画)を考えていますか?
中国湖北省の武漢市から広まったとみられる新型コロナウイルスにより、世界各地で肺炎患者が増えてきた。地域によっては、人の移動が難しくなったり企業の活動が制限されたりして、経済への悪影響が懸念される。
このように企業活動を突然難しくする要因は、感染症のほかにも多々ある。地震や台風のような自然災害はもちろん、放火や爆破などの物理的攻撃、ICTシステムに対するサイバー攻撃、政治や経済の情勢急変など、枚挙に遑(いとま)が無い。
そうした要因を発生させない防止策は大事だが、回避できない非常事態や想定外の問題は必ず起きてしまう。そこで必要なことが、被害を最小限に抑えつつ、早期に事業活動を少しずつでも再開して復旧を目指す事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定である。中小企業庁も指針を出し、運用を促している。
BCPの重要性は以前より高まった
一昔前、二昔前であれば、企業で行われる業務の多くは紙の書類をベースにしていて、手作業で処理されていた。人海戦術で業務を進め、無理をしてでも短期間ならしのぐことも可能だったろう。
しかし、現在は業務のあらゆる場面でICTが活用されている。仕事を効率化できるもので、ICTなしではなにもできない。そういう意味で、BCPの重要性は以前に比べ高くなっている。
それにもかかわらず、BCP策定に対する日本企業の姿勢はお寒い状態らしい。
日本企業のBCPに対する姿勢
日本では、企業がどのようなリスクを想定して、どの程度BCPを策定しているのか。帝国データバンクの調査レポートをみてみよう。
BCP作成済みはわずか15%
帝国データバンクは、2019年5月に全国の企業を対象として調査を実施した。
それによると、BCPを「策定している」と答えた企業の割合は15.0%で、1年前に比べ0.3ポイント増、2年前に比べ0.7ポイント増。「現在、策定中」は7.3%にとどまり、「策定を検討している」も23.2%とほとんど増加しておらず、BCP策定は進んでいない。「策定していない」企業は45.3%に上った。
策定済み企業を業界別でみると、「金融」が42.5%で目立って高く、他業界はいずれも2割を切っている。また、従業員数が少ないほど策定率は低い。
BCP策定意向のある企業の地域は、「高知」が72.5%で最多。高知県に近い「和歌山」(55.6%)、「徳島」(52.6%)、「愛媛」(51.5%)、「宮崎」(50.0%)も策定意向が高く、南海トラフ地震を想定していると思われる。「静岡」(51.1%)が高いのも、同様の理由だろう。
7割超が「自然災害」を想定
BCP策定意向のある企業が事業継続困難になると想定しているリスクは、「自然災害」(72.5%)、「設備の故障」(40.9%)、「火災・爆発事故」(34.5%)、「自社業務管理システムの不具合・故障」(34.5%)、「情報セキュリティ上のリスク」(34.3%)という結果だった。
「大企業」と「小規模企業」では想定リスクが異なっている。「小規模企業」の場合、39.0%が「取引先の倒産」、35.2%が「経営者の不測の事態」をリスクとして挙げ、その割合が「大企業」より高かった。一方、「自然災害」は「大企業」(79.8%)が「小規模企業」(57.7%)よりも重視していた。
「必要性を感じない」企業が24.0%も
BCPを策定すれば、いざという時スムーズに事業継続できる、という成果に結びつく。さらに、策定や訓練などの過程で「従業員のリスクに対する意識が向上した」(59.3%)、「業務の定型化・マニュアル化が進んだ」(35.4%)、「事業の優先順位が明確になった」(32.9%)といった、副次的な効果も得られるそうだ。
BCPは現代の企業にとって必要なうえ、多くのメリットをもたらすのに、日本では未策定の企業が多数を占める。「策定していない」企業に理由を尋ねたところ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(43.9%)、「策定する人材を確保できない」(33.7%)、「書類作りでおわってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」(27.9%)、「策定する時間を確保できない」(26.6%)といった回答が上位に並ぶ。
懸念されるのは、BCP策定の「必要性を感じない」企業が24.0%もあることだ。その根拠として、「少人数の会社であるため、各人と容易に連絡がとれ、事後対応でできる部分が多いと感じている」との説明はある程度納得できるが、「今は特に問題が無いため、先送りしている」という意見は心配になる。
BCPをいかすBCMも忘れずに
では、具体的にどのような計画を立てれば良いのだろうか。ICTシステムの冗長化、データのバックアップなどが当然必要になる。バックアップも遠隔地に保管する対策を考えたい。ICTが機能しない最悪の事態に備え、紙の文書なども管理しておこう。
緊急事態が発生したら従業員や関係者の安否確認を行う。対応可能な従業員を把握したら、事業継続に向けて人員配置が検討できる。人手が足りない状況でも業務を行えるよう、非属人化を心がけておくとよい。
サテライトオフィスの設置、リモートワークの推進、Web会議の利用、ワークシェアリングの検討、フレキシブルな勤務体系の導入など、企業のしなやかさを高めておくと役立つ。たとえば、毎週1日や毎月1週間の在宅勤務を制度化し、普段からテレワークで仕事をすると、問題点の洗い出しができるし、遠隔業務にも慣れておける。
そして、BCPは策定するだけでなく、理解を深めて従業員に浸透させる訓練や、継続的な見直しも忘れてはならない。そのためにも、BCP全体を包含する事業継続管理(BCM:Business Continuity Management)が大切だ。BCMが存在しなければ、BCPは絵に描いた餅になりかねない。
日本は、地震や津波、台風による水害や土砂災害、噴火など、自然災害に多く見舞われる。乾燥する冬はインフルエンザの流行も心配で、麻疹や風疹の感染も社会問題といえる。海外で事業展開する企業にとっては、地政学的リスクも気がかりだ。いずれにしろ、何らかの事態で企業活動が止まったら、限定的でも中核事業を継続させ、徐々に全体の復旧を目指す、というBCPの考え方が欠かせない。