契約書に押印は必要?捺印との違いや正しい押印のルールについて

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契約書に押印は必要?
契約のルールを定めている民法上には、契約書に押印を必要とする規定はありません。契約自体は当事者の意思が合致していれば成立します。
Q1.契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。
- 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。
- 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
引用:経済産業省「押印に関するQ&A」(2022年5月11日閲覧)
また、契約書を作成しなくても、口頭の約束だけの契約締結は可能です。例外的に契約書の作成が必要な場合もありますが、その際にも押印は必須事項ではありません。
そのため、特別に法律の定めがある場合を除いては、契約書に押印がなくても契約は成立します。
押印は証拠能力を高めるもの
契約の成立に押印の有無は問題となりませんが、押印があることで証拠能力が高まります。
契約後に契約の成立に関して争いが起きた場合、押印がある契約書は証拠能力が高いことを民事訴訟法でも規定されています。
Q2.押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか。
(中略)
- 民訴法第228条第4項には、「私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という規定がある。この規定により、契約書等の私文書の中に、本人の押印(本人の意思に基づく押印と解釈されている。)があれば、その私文書は、本人が作成したものであることが推定される。
引用:経済産業省「押印に関するQ&A」(2022年5月11日閲覧)
ビジネスにおいて、契約書はただ契約が成立すればいいというものではありません。契約後の取引を円滑に進めるため、証拠能力をもつことが重要です。
押印と捺印の違い
契約書に印鑑を押す場合、押印のほかに「捺印」という言葉も使われます。押印と捺印はどちらも印鑑を押すという意味で、違いはありません。
これらはそれぞれ、「記名押印」「署名捺印」という言葉が略されているものです。どちらも印鑑を押すことに変わりはありませんが、名前の記載が記名か署名かにより、呼び方が異なっています。
押印とは
押印とは「記名押印」を略した言葉です。記名とは、自署以外の方法で氏名を記載する方法で、印刷された名前やゴム印などで押されたもの、もしくは第三者が代筆した場合が該当します。
このような記名は本人の直筆ではないため、それだけでは本当に本人が作成した契約書かどうか判断できません。他人が無断で使用する可能性もあります。
押印は「記名押印」の意味を持ちますが、印鑑を押す行為を指して「押印」と呼ばれることも多いです。
捺印とは
捺印とは、「署名捺印」を略した言葉です。本人の自署で氏名を記載したときに押す印鑑が捺印と呼ばれます。
署名と呼べるのは本人が手書きした場合に限られ、筆跡鑑定により本人の証明ができるものです。署名だけでも高い証拠能力があり、捺印がなく署名だけでも効力があります。捺印によって契約書の法的効力をさらに高められます。
契約書の押印に使う印鑑と使い分け方
契約書の押印に使う印鑑の種類について、迷うことがあるでしょう。仕事で使う印鑑の種類は主に代表者印、銀行印、社印などがあり、シーンによって使い分けるのが通常です。
取引先との契約書は高い証拠能力が必要であり、通常は代表者印を用います。会社で使う3種類の印鑑を詳しく説明します。
代表者印
代表者印とは、会社を設立する際に法務局に届け出る、丸型が一般的な印鑑です。届け出により、法的な拘束力をもつ会社の実印となります。
重要な契約で使われるほか、会社の存在証明が必要な場面では「印鑑証明書」を添付した代表者印の押印が求められることが少なくありません。
代表者印を使うのは、主に次のようなシーンです。
- 登記の申請
- 株券の発行
- 不動産の売却
- 連帯保証の契約締結
- 官公庁へ入札の届出
代表者印は代表者の名前が彫られているものではないため、代表が変わっても印鑑を変える必要はありません。代表者印の変更自体は可能ですが、一般的にはそのまま利用する場合が多いようです。
銀行印
銀行印は銀行口座を作る際に届け出る印鑑のことです。一般的に経理担当者が保管し、預金を出し入れする、手形・小切手に押印するなど、銀行とのやり取りに使います。
銀行印を代表者印と兼用で使うケースもありますが、おすすめできません。代表者印は会社の存在を証明する大事な印鑑です。日常的な用途に使用していると、紛失のリスクも高くなり、重要な場面で使用できなくなる可能性もあります。
また、銀行から融資を受ける場合、銀行印と代表者印の両方が必要になり、兼用している場合は対応できなくなるでしょう。代表者印は別に作って厳重に保管し、重要な場面だけに使うことが大切です。
社印
社印は角印とも呼ばれ、領収書や見積書、請求書など、代表者印を使うほどではない日常的な取引に使う印鑑です。郵便物の受け取りを含め、日々の事務作業でも使います。
認印と同じような役割ですが、契約書に押印すれば法的効力が生じることに変わりはありません。誰でも使えるような状態にはせず、社内での管理は十分注意しましょう。

契約書にする押印の種類
契約書の押印は基本的に代表者印を使いますが、押し方は目的に応じていくつかの種類があります。記名に並べて押すのは契約印といい、契約書の部数の差によっては契印や割印などが必要です。
また、記載を間違えた場合に押す訂正印や、収入印紙に押す消印などもあります。契約書の作成で行う押印の種類は7つあり、それぞれ紹介します。
契約印
契約印とは、署名欄のあとか、名前にかぶせて押す印鑑のことです。記名押印、署名捺印と呼ばれているものがこれにあたり、契約したことの証明になります。
契約印の位置が記名もしくは署名から離れすぎていると、「捨印」と呼ばれる押印と勘違いされる可能性があるため、近くに押す必要があります。名前の一部に重ねるように押せば間違いないでしょう。
契印
契印(ちぎりいん、またはけいいん)とは、契約書が数ページにわたる場合、ページの見開き部分にする押印のことです。あとからページが差し替えられるといった改変を防止します。
押印する印鑑は、契約印と同じものでなければなりません。2人または2社以上が署名している場合は、人数分の契印が必要です。
製本された契約書の場合は見開きではなく、表紙か裏表紙のどちらか一方に契印を押します。製本のテープと紙にまたがるように押印することで、ページの改変防止が可能です。契約書のページ数が多い場合には製本により、各見開きに押印する手間を省けます。
割印
割印(わりいん)とは、契約書が正と副、もしくは原本と写しなど2部以上になる場合に押すものです。それぞれをずらして重ね、またがるように押印します。
1枚の契約書だけ見ると、印影の一部が欠けている状態です。それぞれの書類の印影と合わせた一致により、書類の関連性を証明します。
契印と同様に、複数名が署名や押印している場合は人数分の割印を押さなければなりません。
契約書が改ざんされるのを防ぐために行いますが、契印と異なり使用する印鑑は契約印と同じでなくてもかまいません。

訂正印
訂正印は、契約書の記載や内容に誤りがあった場合、訂正するために押すものです。書類を作成した本人が訂正したことを証明するため、契約印と同じ印鑑を使わなければなりません。「訂正印」という名称で小さい印鑑が販売されていますが、使用は控えましょう。
訂正印を使用する場合、次の3つの手順で押印をしましょう。
- 誤りの部分を二重線で消す
- 正しい内容を近くの余白に記載する
- 消した部分に訂正印を押す
より丁寧に訂正したい場合には、削除した文字数と追加した文字数を訂正印の近くに書き添えます。たとえば、3文字消して3文字正しい文字を記載した場合は「3文字削除 3文字追加」と書き添えましょう。
消印
消印(けしいん)とは収入印紙を貼付した契約書に押す印鑑で、収入印紙が使用済みであることを証明するものです。印紙と契約書にまたがって押印します。
使用する印鑑は契約印である必要はなく、インク内蔵印や日付印、署名でも問題ありません。ただし、鉛筆をはじめ文字が消せてしまうものは使用できません。〇印に印と書く記号や、二重の線を書いただけの消印は無効です。
また、原本と控えなど同じ契約書が2枚以上ある場合、どちらにも収入印紙が必要です。間違った消印や消印のないもの、控えに収入印紙がない場合は印紙税を納めたことにはならず、過怠税が発生する可能性があります。
収入印紙を貼っていない場合の過怠税は本来納税すべき印紙税の3倍に相当する額となり、正しく消印されていない場合は本来と同じ金額の過怠税が発生します。

捨印
捨印(すていん)とは、将来契約書の訂正が生じたときに備え、余白に押印するものです。実際に誤りが見つかった場合、訂正印として使用します。
たとえば、契約書を相手に交付したあとに間違いが見つかった場合、捨印を押することで相手方への訂正依頼が可能です。
捨印は書類の上部にある空欄に押印しますが、捨印用の欄が用意されている書類もあります。訂正印として使用されるため、契約印で使用した印鑑と同じものを押印しましょう。
契約書が複数にわたる場合、どの部分に間違いがあるかわからないため、すべてのページに捨印を押さなければなりません。押す位置は、全ページとも同じ位置にします。署名した人が複数名の場合は、全員の捨印が必要です。
捨印による修正は、訂正印による修正と同じく、間違いの部分を二重の線で消して近くに正しい内容を記載します。さらに、捨印の近くに「〇文字削除 〇文字追加」というように、修正した内容を書き添えてください。
捨印は相手方に書類の訂正を委ねるもので、改ざんのリスクを伴います。捨印の利用に関して、利用範囲を確認しておきましょう。また、押印の近くに「捨印」という文言を書き添えておけば、契約金額をはじめ重要な部分を訂正されることを予防できます。
改ざんが心配な場合には、必ずしも捨印を押す必要はありません。やむを得ず押印しなければならない場合は、コピーを取っておくのもよいでしょう。
止め印
止め印(とめいん)とは、文章の最後に空白が生じたとき、それを埋めるために押す印鑑のことです。空白部分にあとから文章が書き足されるのを防ぐ目的があります。
止め印は契約印と同じ印鑑を使用し、文書末尾のすぐあとに押しましょう。署名した人が2人以上いる場合でも、1人分の止め印で大丈夫です。止め印ではなく、「以下余白」という記載でも同じ役割を果たします。
なお、契約書の末文に「本契約を2通作成し、各々1通を保有する」といった内容が記載されている場合は、そのあとに条文はないことを示しており、止め印を押印しなくても問題ありません。
押印を間違えたときの正しい訂正方法
押印を間違えたときは、正しい方法で訂正しなければなりません。代表者印を印鑑証明とともに提出する場合、印影が照合できないと効力がないため注意が必要です。
押印の間違いは、印影がかすんだり切れたりした場合のほか、場所や向きの違い、印鑑自体の間違いなどがあげられます。
押印で起こる間違いについて、正しい直し方を紹介します。
押す印鑑を間違えた場合
代表者印を押すべきところを社印を押してしまったといったように、押す印鑑自体を間違えた場合は次の手順で訂正しましょう。
- 間違えた押印に二重線を引く
- 印影から少しずらした形で、間違えた印鑑を訂正印として押印
- 訂正印の横に正しい印鑑を押印
二重線のみでは誰が訂正したかわからないため、訂正印を押すことがポイントです。
押す場所を間違えた場合
違う場所に押してしまった場合も、基本的な直し方は印鑑を間違えた場合と同じです。次の手順で訂正してください。
- 間違えた押印に二重線を引く
- 契約印と同じ印鑑で訂正印を押す
- 正しい場所に押印する
誰が訂正したかわかるよう、契約印と同じ印鑑で訂正印を押すことが大切です。
押印の向きを間違えた場合
「逆さまに押印してしまった」といったように、向きが気になることがあると思いますが、効力自体は発生しています。印鑑証明を添付した場合でも、印影が照合できれば無効とならず、実印として効力があります。
しかし、体裁が悪い場合は訂正して押し直してもかまいません。その場合は、ほかの訂正方法と同じく今のように訂正します。
- 二重線を引いて訂正印を押す
- 横に正しい向きで押印する
きれいに押せなかった場合
かすれたりにじんだりして印影がはっきり見えない場合、二重線で消して横に押し直します。
かすれやにじみを防ぐには、コツをつかむことも大切です。次の押し方を試してください。
- 捺印マットと布張りの朱肉を用意する
- 朱肉は印鑑全体に軽くつける
- 姿勢を良くする
- 真上から印面全体を紙にあて、軽く力を入れて押す。
「の」の字を書くように押すと均等に力が加わるので、ぜひ試してみてください。
押印を間違えたときのやってはいけない訂正方法
やってはいけない訂正方法もあります。次の3点には注意しましょう。
- 二重線のみで訂正する
- 上からかぶせて押し直す
- 修正液を使用する
二重線のみの訂正は、第三者が行っている可能性もあります。同じ印鑑で訂正印を押し、本人が訂正したことをわかるようにしておきましょう。
かすれた場合やうまく押印できなかった場合に、上から再度押印するのもNGです。完全に重ねて押すことはほとんど不可能で、結局押し直さなければなりません。印影が不鮮明な場合は、初めから訂正を行いましょう。
当然ながら、修正液や修正テープの使用はNGです。ビジネス上での基本ですが、うっかり使用してしまわないよう注意してください。
契約書には正しく押印を
ビジネスで契約書を交わす場合、証拠能力を残すために押印は必須です。契約書に使うのは会社の実印となる代表者印で、署名や記名の横に押すほか、契印や訂正印などでも使用します。契約書の押し方には多くの種類があり、正しく押印するよう注意しなければなりません。
近年はテレワークの推奨もあり、紙の契約書から電子契約に移行する会社も増えています。紙の契約書では押印のために出社の必要がありますが、電子契約ならすべてオンラインで完了するため、在宅により作業が可能です。
電子データによる契約書は、押印の代わりに電子署名とタイムスタンプの付与により、紙と同じ法的効力を持ちます。在宅ワークや業務の効率化を検討している会社は、電子契約の導入も視野に入れておくとよいでしょう。

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