MESとは?生産管理システムやERPとの違い、11の機能

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MESとは
MESとは、Manufacturing Execution Systemの略で、製造現場の作業指示や進捗管理、品質管理などを支援するためのシステムです。工場における生産活動の「実行」を担うシステムといえます。
MESを導入することで、生産性の向上、品質の改善、コスト削減などが実現可能です。製造業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、MESは工場の競争力を強化するための重要なツールとして注目されています。
生産管理システムとの違い
生産管理システムとは、販売計画や在庫状況に基づいて、生産計画の立案、資材の調達、生産スケジュールの管理などを行うシステムです。企業全体の経営資源を効率的に管理し、最適な生産計画を立てることを目的としています。
MESが現場の作業指示や進捗管理など「実行」を支援するシステムであるのに対し、生産管理システムは、経営的な視点から生産活動を管理するシステムといえます。
また、生産管理システムの一機能として、MES機能が提供されていることも多いです。
ERPとの違い
ERPとは、Enterprise Resource Planningの略で、企業全体の経営資源を統合的に管理するためのシステムです。会計、人事、販売、在庫など、企業のあらゆる業務を包括的に管理し、経営の効率化と意思決定の迅速化を支援します。
MESが製造現場の「実行」に特化したシステムであるのに対し、ERPは企業全体の経営活動を統合的に管理するシステムといえます。
そのため、MESはERPの下位システムとして位置づけられることが多いです。MESで収集した製造現場のデータをERPに連携することで、より精度の高い経営判断が可能になります。
MESが注目される背景
近年、製造業界を取り巻く環境は大きく変化しており、MESへの注目度が高まっています。MESが注目される背景にある3つの要因について解説していきます。
グローバル競争の激化
経済のグローバル化に伴い、製造業の競争が激化しています。世界各国でインダストリー4.0の取り組みが加速し、IoTやAIを活用したスマートファクトリー化が進んでいます。
この流れの中で、国内企業も競争力を維持・強化するためには、MESの導入が不可欠です。MESは工場内のデータを収集・分析し、リアルタイムで状況を把握できます。これにより、生産計画の調整や設備の稼働状況の監視、品質管理などを自動化し、生産性を向上させられます。
MESを導入することで、企業はスマートファクトリー化を実現し、グローバル競争に打ち勝つための競争力を獲得でできます。
熟練技術者の退職
多くの熟練技術者が高齢化により退職の時期を迎えています。彼らの豊富な経験やノウハウは貴重な財産ですが、適切に継承することは難しく、品質や生産性の低下につながる可能性があります。
MESは、この課題解決に役立ちます。生産現場のデータを収集・分析することで、熟練技術者のノウハウを可視化し、共有できます。例えば、作業手順や不良品発生の条件といった情報を記録・分析し、データベース化することで、他の作業者と共有できます。
これにより、熟練技術者の退職後も、蓄積されたノウハウを継承し、活用していくことが可能になります。
ニーズの多様化と製品ライフサイクルの短縮化
消費者ニーズの多様化が進み、製品ライフサイクルが短縮化しています。従来の大量生産方式では、変化の激しい市場に対応することが難しくなってきました。
MESを活用することで、多品種少量生産に対応できる柔軟な生産体制を構築できます。MESは生産計画の変更や工程の切り替えを迅速かつ効率的に行う機能を備えています。リアルタイムの生産データに基づいて計画を自動調整したり、異なる製品の生産情報を一元管理したりすることで、スムーズな生産切り替えが可能になります。
このように、MESは多品種少量生産に対応する柔軟な生産システムを実現し、企業の競争力強化に貢献します。
MESの11の機能
MESは、製造業における多様なニーズに対応するため、幅広い機能を備えています。ただし、製造する製品や業種、企業規模によって必要な機能は異なるため、MESに標準機能と呼べるものは存在しません。
MESの機能を体系的に理解するために、MESの推進団体であるMESAが定義する11の機能を紹介します。MESAが定義するMESの11の機能は次のとおりです。
機能 | 詳細 |
---|---|
生産資源の配分・監視 | 人材や設備、資材など、生産に必要なリソースを効率的に配分し、稼働状況を監視します。 |
仕様・文書管理 | 製品の設計図や作業手順書、部品表などのドキュメントを一元管理し、最新版へのアクセスを容易にします。 |
設備の保守・保全管理 | 設備のメンテナンス計画の立案・実行や、故障履歴の管理を行い、設備の稼働率向上を支援します。 |
品質管理 | 製品の品質検査データなどを収集・分析し、不良品の発生原因を特定、品質改善を促進します。 |
作業のスケジューリング | 生産計画に基づき、作業工程のスケジュールを自動作成し、作業の進捗状況を可視化します。 |
作業手配・製造指示 | 作業者に適切な指示を出し、作業の効率化とミスの削減を図ります。 |
作業者管理 | 作業者のスキルや資格、勤務状況などを管理し、適切な人員配置を支援します。 |
データ収集 | 生産現場のさまざまなデータを自動収集し、分析に利用できる状態にします。 |
工程管理 | 生産工程の進捗状況をリアルタイムで監視し、異常発生時にはアラート通知を行います。 |
製品の追跡と生産体系の管理 | 製品や部品の製造履歴を記録し、トレーサビリティを確保します。 |
実績分析 | 収集したデータを分析し、生産性の向上やコスト削減に役立つ情報を提供します。 |
MESを導入するメリット
MESを導入することで、製造現場のさまざまな課題を解決し、企業の競争力を強化できます。MES導入の主なメリットを5つ紹介します。
リソース活用の最大化
MESを導入することで、人材、設備、資材など、生産に必要なリソースの稼働状況を可視化し、最適な配分を行えます。
MESは各リソースの稼働状況をリアルタイムで把握し、無駄な待機時間や移動時間を削減することで、リソースの稼働率を向上させます。たとえば、設備の稼働状況を監視し、空き時間を予測することで、次の作業をスムーズに開始できるでしょう。
QCDの改善
QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の略で、製造業における重要な指標です。MESは、QCDのそれぞれを改善する効果があります。
MESの品質管理、工程管理、生産管理などの機能を通じて、QCDの向上が可能です。たとえば品質管理機能では、検査データや不良品発生状況を分析することで、品質問題の根本原因を特定し、再発防止につなげられます。
暗黙知の共有
MESの導入により、熟練作業者の経験や勘といった暗黙知を可視化し、組織全体での共有が可能です。
MESは、作業手順や条件、品質データなどを記録・分析することで、熟練作業者のノウハウを形式知に変換します。これにより、人材育成の効率化や、担当者が変更になった場合でも品質の安定化を図れます。
多品種少量生産への対応
MESは、多品種少量生産に対応するための柔軟な生産体制を構築するのに役立ちます。
MESは、生産計画の変更や工程の切り替えを迅速に行うための機能を備えています。これにより、顧客の多様なニーズに対応し、市場の変化に柔軟に対応できます。
部門間連携の強化
MESは、生産部門だけでなく、営業部門、設計部門、資材部門など、さまざまな部門間での情報共有を促進します。
MESは、各部門が持つ情報を一元管理し、リアルタイムに共有することで、部門間の連携強化が可能です。たとえば、営業部門からの受注情報はMESを通じて生産部門に共有され、生産計画に反映されます。
MESの活用は中小企業でこそ必要
グローバル競争の激化や熟練工の退職、顧客ニーズの多様化といった課題に対応するために、MESの重要性はますます高まっています。
MESの導入は、これまで大企業を中心に進んできました。しかし、近年ではクラウド技術の発展により、中小企業でも手軽にMESを導入できるようになってきています。
MESを活用することで、限られたリソースを有効活用し、生産性向上や品質改善、コスト削減を実現できます。まだ導入が進んでいない中小企業こそ、MESの活用を積極的に検討する必要があるといえるでしょう。