原価管理とは?目的やメリット・原価計算の方法
目次を閉じる
原価管理とは
原価管理とは、製造するためにかかっている原価を固定費と変動費に分類し、課題分析・対策を行うことです。
原価とは、1つの製品(商品)にかかったコストのことをいいます。たとえば、店頭での売価が100円のナスを農家さんから1つ40円で仕入れてきた場合、原価は40円になります。原価管理はこの原価を把握し、経営に活かすことです。
原価管理のやり方
原価管理は、標準原価の設定 ・原価統制 ・原価低減の3つから成り立っています。
標準原価の設定
標準原価の設定は、「年間を通じて商品Aの原価はいくら」といった形で標準的な原価を決めることです。これにもとづき1つ売ったらいくらの粗利が出るかを算出します。
標準原価はあくまで概算であり、実際の原価とは異なります。先ほどのナスの例でいうと、40円で農家さんからナスを買える時期もあれば、それが20円や60円と変動する時期もあるので、それを標準化したものが標準原価です。
原価統制
原価統制とは、先ほどの標準原価と実際の原価の差異を算出し、なぜ差異が出てしまったのか分析することをさします。先ほどの例では、ナスの標準原価はいくらか、実際の原価はいくらかを整理して、差分を洗い出します。
原価低減
原価低減とは、標準原価を引き下げるために調達価格の引き下げ、大量購入による割引や輸送方法の変更などを指す言葉です。
製造業における生産性の向上に原価低減も含まれます。また、小売業にて調達場所を複数に分散し、安定して安く調達できるようにすることも原価低減の1つといえます。
原価管理と似た言葉の違い
原価管理と予算管理の違い
予算管理は予算編成・分析を行うことなので、より広義の管理になります。予算管理を行うためには原価算出が重要なので、さまざまな点で重要といえます。
原価管理と原価計算の違い
原価管理とは、原価計算の結果を分析し経営に活かす仕組みのことです。一方、原価計算とは実際に原価を計算することです。
たとえば製造業における原価は、製品を作るのにかかる原料費・部材費・労務費・人件費などをすべて足して計算されます。原価計算とはこの個々の計算のことです。
これに対して原価管理は、例年よりも原料費が上がった理由は何か、減らすためにはどうしたらいいのかを考えます。たとえば人件費がかさんでいれば人員過多でないかを検証します。
原価管理と利益管理の違い
利益管理とは、事業によってどのくらい利益を得るかの計画を立て、利益を最大化するための活動のことです。原価管理とは最終的に目指すものは似ていますが、目的は異なります。
原価管理が「製品・サービスの製造や提供にかかるコストを管理し、コスト削減や利益確保につなげる活動」であるのに対し、利益管理は「利益を向上させるために行う活動」です。
原価管理はコスト削減の取り組みを含め利益の確保のために行いますが、利益管理は、事前に立てた目標と実績との差異を分析し、利益向上のために収支管理を行います。
原価管理の目的
原価管理の目的として、次の2つがあります。
- 原価変動のリスク管理
- 利益の確保や拡大
原価変動のリスク管理
原価管理を行う目的の1つは、原価変動のリスク管理につながることです。
気候や為替、社会情勢などの外部要因によって、原価は常に変動するリスクがあります。しかし、仕入れ価格の高騰で原価が上がっても同じ販売価格を維持していては、利益は減少してしまいます。また、利益が減少しても人件費は簡単に削減できないため、損失が発生し経営にも影響が出てくるでしょう。
そのため、原価管理を行い、原価の変動による利益の低下や影響を最小限に抑えるために対処することが重要です。原価管理を行うと損益分岐点を把握できるため、このようなリスクにも迅速に対応できます。
利益の確保や拡大
原価管理の最大の目的は、原価を管理して利益を確保することにあります。利益を確保するには、適正な販売価格の設定が必要です。ただし、原価管理を行わなければ、製造した製品にいくらの価格を設定すれば利益が上がるのかを把握できません。
原価よりも製品・サービスの販売価格が低ければ、当然利益は少なくなります。逆に、製品・サービスの価格が原価よりも高く設定されていたとしても、高すぎると製品の売上に影響が出る恐れもあるでしょう。
しかし、原価を正しく把握し管理していれば、適切な販売価格の設定が可能になり、利益の拡大につなげられます。適切な原価管理によってムダなコストを削減し、原価を低減させられれば、組織の利益拡大につなげられます。
原価管理の課題
原価管理には、次のような課題があります。
- 正確な原価の把握が困難
- 専門知識が必要になる
- 原価管理の負担が大きい
正確な原価の把握が困難
原価の正確な把握は非常に難しく、原価管理を行う際の大きな課題となりがちです。
原価は社会情勢や為替レートなどさまざまな外的要因によって大きく変動することもあり、専門知識のあるスタッフでも正確に原価を把握することは難しいです。
さらに、現代では消費者ニーズの多様化により、製造業においては多品種少量生産が主流になりつつあります。しかし、多品種少量生産を行う場合には、それぞれの製品の金額を詳細に把握する必要があり、原価の正確な把握はさらに困難になるでしょう。
専門知識が必要になる
原価管理の計算方法は複雑で、正確に計算を行うには会計に関する専門知識が必要です。
そのため、原価管理は属人化が起きやすいといった課題があります。業務が属人化すると、専門知識をもつ担当者がいなければ業務が滞ってしまいかねません。
また、原価管理を行うには原材料や人件費といった製品やサービスの製造に直接かかる直接費だけでなく、電気代・通信費など複数の製品に共通して発生する間接費も把握する必要があります。そのため、専門知識をもつ担当者でも原価を正確に把握するのは困難です。
そのため、適切な価格設定ができずに利益が出ず、後から赤字が発覚するといった場合もあります。
原価管理の負担が大きい
原価管理は複雑で手間がかかり、担当者に大きな負担となる傾向があります。
インターネット上には、無料で利用できる原価管理のExcelテンプレートが多数公開されており、Excelで原価管理を行う場合もあるでしょう。しかし、正確な原価の把握には多くのデータ処理が必要なため、Excelでの原価管理は担当者の手作業や手入力の負担が大きくなりがちです。
また、Excelで原価の計算表を作成するには関数やマクロの知識が必要です。複雑なマクロや関数が扱える人材は少なく、業務の属人化が起こりやすいといったことも課題となり得ます。計算表を担当者のパソコンに保存してしまい、最終更新したファイルがわからなくなり、バージョン管理が困難になるといったことが問題になる場合もあります。
原価管理のメリット
原価管理は大きなコストダウンにつながるため、多くの企業が注目しています。原価管理を行うことで、具体的に3つのメリットがあると考えられます。
- 現場にコストダウンの必要性を説明できる
- 経営判断の材料となる
- 現場単位での指標としても使用可能
現場にコストダウンの必要性を説明できる
現場に対してただコストダウンを指示するのではなく、きちんと理由を加えることでなぜやるのかの理解度がより深まります。たとえば製造業であれば、「この工程がボトルネックとなりコストを引き上げている。そこでこのボトルネックをなくすために、施策を講じたい。」と説明することで、現場に納得してもらいやすくなるでしょう。
経営判断の材料となる
原価管理により算出された各数字を分析することで、製品・商品ごとの損益分岐点を出せます。具体的には「この製品であれば製造コストがいくらかかるので、どの程度売れないと赤字になる」といったことがわかります。
現場単位での指標としても使用可能
標準原価によって営業の粗利管理が行われているため、調達の担当者や製造の管理担当者は実際の原価をこの標準原価内に収めるようにすれば、数値の達成へ貢献可能です。そのため、原価管理が適正になされている会社においては、現場単位での指標としてもそれらの数値を使用できます。
業種による原価項目の違い
管理する原価項目は、業種ごとに異なります。例として、次の3業種における管理項目について説明します。
- 製造業
- IT業界
- 広告業界
製造業
製造業では、1つの製品を製造する際に発生する原価の要素を分類して管理します。
原価に含まれるものは、「材料費・労務費・経費」の3項目です。これらの項目は、さらに「製品の製造に直接関わる費用である直接費」と、「製品の製造に間接的に発生する間接費」に区分して計算します。
直接費 | 間接費 | |
---|---|---|
材料費 | 原材料や部品など、製造のために消費した量が明確にわかる支出 | 塗料のように製品ごとにどれくらい消費したかが明確でない支出 |
労務費 | 製造の実務を行う従業員の人件費 | 製造に間接的に関わっている部門の人件費 |
経費 | 外注加工費のような製品の製造に直接関係する費用 | 光熱費や減価償却費など、特定の製品への支出を明確にするのが困難な経費 |
これらの項目にわけて計算し、製品ごとの原価を正確に計算することで、コスト改善につながります。
IT業界
IT製品の製造を行うIT業では、システム開発のようなプロジェクト完了までにかかったコストを原価として管理するのが一般的です。
主な原価項目は「労務費・外注委託費・経費」です。外注委託費には、たとえば外注業者への外注費用が該当します。また、労務費や経費は、次のように「プロジェクトに直接的に関わる直接費」と、「プロジェクトには直接的には関わらない間接費」とにわけられます。
直接費 | 間接費 | |
---|---|---|
労務費 | プロジェクトに参画する従業員の人件費 | プロジェクトに直接関わっていない従業員の人件費 |
経費 | システム利用料・端末購入費など、プロジェクトに直接関わる経費 | 光熱費のような直接的にプロジェクトに関わらない経費 |
これらの項目をプロジェクト単位で把握し、原価の計算を行います。
広告業界
広告業界においても、プロジェクト形式で業務を行うことが多いため、プロジェクト単位で原価計算を行います。
広告業の管理項目は、「広告制作費・撮影費・媒体費・人件費」の4つです。たとえば、撮影費はフォトグラファーに支払う費用、媒体費には広告枠の購入費用が該当します。
労務費と経費は、さらに直接費と間接費にわけられます。
直接費 | 間接費 | |
---|---|---|
労務費 | プロジェクトに直接関係する従業員の人件費 | 総務のようなプロジェクトに直接関わっていない従業員の人件費 |
経費 | スタジオのレンタル料、機材費用など直接プロジェクトに関係する費用 | 光熱費や家賃など、広範囲にわたりプロジェクトに間接的に関係する経費 |
原価管理の課題解決方法
原価管理をExcelで行う場合には、業務が属人化したりヒューマンエラーが発生しやすかったりと、さまざまな課題があります。原価管理を効率化してこれらの課題を解決するには、次のような原価管理の自動化や効率化が可能なシステムの活用が有効です。
- 原価管理システム
- 生産管理システム
原価管理システム
原価管理を効率的に行うには、原価管理システムの導入がおすすめです。
原価管理システムとは、原価計算や差異分析、予算と実績の比較など原価を効率的に管理できるシステムです。必要な項目を入力するだけで、自動で原価計算をしてくれる原価計算機能や原価差異分析機能が搭載されており、原価管理業務を自動化・効率化できます。そのため、原価管理システムを導入することで、担当者の人的コスト削減を実現できます。
また、損益計算や原価変動のシミュレーション機能などが搭載されており、原価差異や原料費の変動などの情報をリアルタイムで得られるため、経営判断の迅速化が可能です。
生産管理システム
原価管理を含め、製造業における生産に関わる情報全般を一元管理したい場合には、生産管理システムの導入がおすすめです。
生産管理システムとは、生産計画や原材料・部品などの調達計画や生産工程・品質管理、出荷など製造に関するさまざまな情報を一元管理し、製造プロセスの効率化を図れるシステムのことです。
生産管理システムには、原価管理機能が搭載されているため、原価管理を含む製造現場における多くの業務を効率化できます。生産性や品質の向上などの効果が期待できるだけでなく、原価を正確に把握でき、ムダなコストを削減し改善につなげられます。
原価管理の理解で適正な経営判断を
経営において原価管理は重要な取り組みとなります。1つの製品・商品を売るとどれくらいの利益が得られるのかが明確になることで、スピーディーかつに適正な経営判断を実現できます。
原価管理はExcelでできるものの、手間も大きいため積極的に採用したい方法ではありません。そのため、ツールやソフトにて原価管理するのがおすすめです。
BOXILとは
BOXIL(ボクシル)は企業のDXを支援する法人向けプラットフォームです。SaaS比較サイト「BOXIL SaaS」、ビジネスメディア「BOXIL Magazine」、YouTubeチャンネル「BOXIL CHANNEL」を通じて、ビジネスに役立つ情報を発信しています。
BOXIL会員(無料)になると次の特典が受け取れます。
- BOXIL Magazineの会員限定記事が読み放題!
- 「SaaS業界レポート」や「選び方ガイド」がダウンロードできる!
- 約800種類のビジネステンプレートが自由に使える!
BOXIL SaaSでは、SaaSやクラウドサービスの口コミを募集しています。あなたの体験が、サービス品質向上や、これから導入検討する企業の参考情報として役立ちます。
BOXIL SaaSへ掲載しませんか?
- リード獲得に強い法人向けSaaS比較・検索サイトNo.1※
- リードの従量課金で、安定的に新規顧客との接点を提供
- 累計1,200社以上の掲載実績があり、初めての比較サイト掲載でも安心
※ 日本マーケティングリサーチ機構調べ、調査概要:2021年5月期 ブランドのWEB比較印象調査