Microsoft Teamsは「コラボレーション」で日本の働き方を変えていく‐日本マイクロソフトインタビュー
Sansan、freeeなど、SaaS企業の大型上場が相次いだ2019年。日経新聞はSaaS元年と表現した。そして2020年以降、日本のクラウド・SaaS市場はいよいよ本格的な成長期へと突入するだろう。勤怠、会計、営業支援、MAなど、さまざまなサービスが登場し混沌とする今、市場を勝ち抜くために各企業はどのような戦略で臨むべきなのだろうか。
本連載では、注目のクラウド・SaaSサービスを提供する企業のマーケ戦略・組織づくりを取材し、「クラウド時代を突き抜ける」ためのヒントを探っていく。
連載第2回は、コラボレーションツール「Microsoft Teams」(以下、Teams)を提供するマイクロソフト。「Teams」は2017年にリリースされ、2019年11月時点でのグローバルのアクティブユーザー数は2,000万人に到達した。国内でも導入企業数は拡大しており、今年1月には最高裁判所におけるIT化促進に向けたTeams活用が発表されるなど、公的機関や教育機関を含めて幅広く利用が進んでいる。Teamsのエンタープライズ、SMBそれぞれの担当者から、戦略や組織づくりについて話を聞いた。
冨士野 光則さん Microsoft365 ビジネス本部 コーポレートクラウド推進部 部長
齋藤 玲さん Microsoft 365 ビジネス本部 コーポレートクラウド推進部 プロダクトマーケティングマネージャー
榎本 直子さん デジタルトランスフォーメーション事業本部 ワークスタイルイノベーション推進統括本部 業務執行役員 統括本部長
坂本 奈央さん デジタルトランスフォーメーション事業本部 ワークスタイルイノベーション推進本部 カスタマーサクセスマネージャー
(以下、敬称略)
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「Microsoft Teams」はコラボレーションのハブ
Teamsはチャット機能を軸に、Office365内のファイル共有、Web 会議や企業向け電話機能、各種アプリケーションとの連携を可能にするコラボレーションツールである。まずはエンタープライズ企業のカスタマーサクセスを担当する榎本さん、坂本さんに話を聞いた。
編集部:Teamsは「チームワークを実現させるためのハブ」と表現されています。これについて詳しく教えてください。
榎本:Teamsは単純にチャットをするだけでなく、プロジェクト単位や部門単位のコミュニケ―ションを円滑にするための「チャネル」というコンセプトがあります。チャネルでのコミュニケ―ションを主眼に置いた製品であり、その裏ではOneNoteやSharePointなど、Office365まわりの製品がつながっています。コラボレーションに必要なツールが、Teamsを軸にシームレスにつながるという意味で「ハブ」という言葉を使っています。
編集部:ハイペースで成長を続けている要因をどのように考えていますか。
坂本:Microsoft Office suiteと統合されているという点が強みになっていると思います。エンタープライズのお客様はMicrosoft Office 365を業務で使っており、Teamsを通してさらに連携して使えるので入りやすいんです。また実際に使ってみると、生産性が高くなることを実感していただけるのだと思います。
榎本:社会の変化も一因にあります。最近ではメールを使ったことがない若い世代がどんどん会社に入ってきており、世代を超えたダイバーシティな社会の中では、チャットツールの支持が高くなっています。また働き方改革という軸でいうと、残業を減らし、なるべく効率的に働こうという企業は増えており、非効率なメールよりチャットを活用する流れがあると思います。
エンタープライズのデジタル化をけん引する
マイクロソフトではこれまでOfficeなどを通じて、多くのエンタープライズの顧客を獲得してきた。しかし大きな組織ほど、クラウド化に舵を切るのは簡単ではないという。顧客の現状や課題、そこに向き合うための組織づくりについて聞いた。
デジタル移行の障壁になるものとは
編集部:大企業のデジタル化はどのような段階にありますか。またデジタル化の障壁となるものは何でしょうか。
坂本:部門によってはチャットツールを知っていて検討している段階のお客様もいらっしゃいますが、圧倒的に多いのは紙とメールしか使ったことがないというお客様です。また、はじめてのもの、慣れないものを新しく業務で活用することに対しては、Teamsのみならず心理的なハードルが存在すると思います。たとえば紙やハンコで何十年とやってきて、そのよさを理解している方であれば、経験が障壁になることもありますね。
ですから単にTeamsのよさを伝えるというよりも、まずはこういう手段を使うことで具体的に業務にどんな変化があるのかを知っていただくこと。さらには働き方やマインド、カルチャーにどのような変化があり、その変化によってどんなメリットが生まれるかを伝えていくことが重要だと考えています。
会社全体のレベルから部門の一人ひとりにまで落とし込んで伝え、はじめて「だから使うべき」にたどりつくのではないかと思うんです。まずお客様それぞれの立場にたって話をしていくことが一番の近道だと考えます。
榎本:坂本がいうように障壁はあります。しかし乗り越えられないものではないし、意識は変わってきていると実感しています。実際に歴史ある会社や現場でも使っていただくケースは増えていますね。
組織連携で重要視する「KPIと役割の把握」
Microsoftでは、製品ごとでのアプローチではなく、顧客企業に面でアプローチするための組織づくりを行っている。エンタープライズ企業を担当する部門では、セールス、テクニカル、カスタマーサクセス、サポートが相互に連携をはかる体制だ。榎本さん、坂本さんが所属するカスタマーサクセスチームの中でMicrosoft 365を扱うチームだけでも約30名が所属している。
編集部:さまざまなチームがあり、規模も大きいですね。チーム間での連携をうまく進めるために取り組んでいらっしゃることはありますか。
榎本:マイクロソフトの伝統的なやり方として、KPIがトップダウンで作りこまれています。コラボレーションがうまくいくように、チーム間で共有で持つKPIもあります。組織が複雑な分、誰がどんな意図をもって、どんなKPIを持って働いているのか。どことどこが連携していくのかというのは、密に知っている必要がありますね。
また、KPIだけではなく、チーム同士がWinWinでいるための関係構築は常に意識しています。KPIだけになってしまうと、グレーゾーンで狭間に落ちてしまうアイテムが出てくるんですよね。それをお互い拾いあって「あの時助けてもらったから」といった人間的な関係の構築ができないと、この組織でやっていくのは難しいと思います。
坂本:関係者が非常に多く、サービスも多岐に渡りますが、お客様から見るとどの人間も「マイクロソフトの人」。情報共有は、課題でもあり非常に重要だと感じます。
編集部:エンタープライズのお客様は組織が大きくて複雑、営業には高度なスキルが求められると思います。課題はありますか。
榎本:今まさに会社としてスキルアップに注力しているところです。2019年にラーニングを中心に行う新しい部署ができ、従業員はいくつかの試験を受けなくてはなりません。オンラインラーニングやコンテンツも充実していて、学ぼうと思えばいくらでも学べる環境があります。毎週木曜日はラーニングの日、と決まっていて学ぶ時間をとるという制度も実践しています。
また我々だけではなく、お客様やパートナー様もクラウド時代のスピードに一緒についていかなくてはならないですよね。ですから、お客様やパートナー企業向けのラーニングにも力を入れています。
編集部:海外に本社を持つ会社という点では、組織づくりを日本流に変えなくてはならないこともあるのでしょうか。
榎本:海外との違いは感じませんし、むしろ一定以上の規模の国では、金太郎飴のように同じような組織があります。そのうえで多少の日本独自の体制を持たせるところもあります。たとえば日本でうまくいっていないことがあったら、同じポジションにいるイギリスの人にどういうチャレンジがあるのかと聞ける。そのくらい似た組織があるというのもユニークなところです。
「あの大企業も使っている」顧客同士が後押しする仕組み
編集部:エンタープライズのお客様へのアプローチやターゲットのセグメント方法について教えてください。
坂本:まずはトップからの大きなミッションとして、エンタープライズのほぼ全体のお客様に我々のサービスを活用していただき、デジタルトランスフォーメーションを実現していくということがあります。そしてHowの部分については、日本独自にスケール施策を打つこともあります。
榎本:セグメンテーションはいろいろな方法がありますが、業種や職種というのがひとつあります。業種や職種によって使い方は変わりますので、そこに合った利活用の仕方を一緒にディスカッションし、提案をしていきます。また、デジタルトランスフォーメーションへの欲求、変革をしたい欲求レベルによっても分け、施策を打つようにしています。
編集部:変革欲求レベルが高いお客様には、具体的にどのようなアプローチを行うのでしょうか。
榎本:我々が積極的なアプロ―チとしてやっているのは、お客様自身の理解を深めていただくということですね。ツールを使うと一言でいっても、機能や使い方を理解するだけではありません。たとえば社内に新しいものを使いたくないという抵抗勢力がいれば、Teamsはコミュニケーションツールなので、みんなが使わなければ成り立たないわけです。では全社的に広めていくためにどうすべきか、トップダウンが必要なのか。チェンジマネジメントのメソッドを我々は持っているので、考え方をお客様に学んでいただく機会を提供しています。
坂本:一般的なIT営業であれば、情報システム部門の担当者とつながることが重要ですよね。しかし私たちの目的は売ることではないので、企業の中で誰が影響力があり、旗振り役に向いているのかを見極めて、その方を支援していきます。
逆にまだ利活用に対する意識があまり高くないお客様というのは、あと一押しが足りない、まわりはどうなのかと尻込みをしてしまうケースが多いんです。そういうお客様は、我々がどんなにおススメをしてもひいてしまいますので、お客様同士で集まって頂き、成功・失敗事例などを含めて共有する場を提供しています。そこでは、「新しいツールを入れる際に社内で抵抗勢力が出てきたとき、御社ではどうしましたか。」というような、非常にリアルな話が聞けるわけです。我々は一切発信をせず、コンテンツはすべてお客様が共有してくださいます。
あとはViva Engageというオンラインコミュニティを持っていますので、オンラインでもお客様同士をつなぐ場を作っています。また今後はお客様向けのラーニングコンテンツとして、チェンジマネジメントのメソッドも公開予定です。
榎本:我々が「使いましょう」というよりも、同じ業界の同じくらい歴史のある会社も使っているという事実が、後押しになります。コミュニティイベントで知り合い、その後お客様同士で「自分の会社のメンバーに話をしに来てくれないか」などと交流を深めていらっしゃる方もいます。
編集部:組織によっては営業が強い、マーケが強いなどの文化があると思いますが、御社のエンタープライズ部門はいかがでしょうか。
榎本:どちらが特に強いということはないと思いますが、どちらの組織もより一層お客様やインダスリーを理解する必要がでてきており、どう営業とマーケティング組織が現場の知見を利用しながら連携していくかがBtoBビジネスではさらに重要になっていると思っています。
弊社がずっとやってきたことは、とにかくコストをおさえ、売上をあげていくこと。ROI(Return on investment)を高めていくということが指標になっています。売上は毎年上がり続けているのに、従業員の数はこの10年まったく増えていない、そのくらいコストをどんどん減らしていこうという意識が強い組織ですね。