コロナで20代の安定志向高まるも、くすぶる“信頼残高”不足 - 教育と雑談の見直しを
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COVID-19が起こす意識改革
旧態依然とした企業ではオフィス勤務が至上命令となっていて、台風のような悪天候で交通機関が機能停止しないかぎり出社を求められる、という状況でした。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにはあらがえず、在宅勤務を実行したところが多かったようです。
実際に在宅勤務をしてみると、リモートワーク(テレワーク)で処理可能なことと不可能なことが明確になったり、可能にする方策が検討されたりして、オフィス勤務に固執しない業務の進め方を模索する企業も出てきました。人事評価の方法、中間管理職の必要性なども見直されることになるでしょう。意識改革ができずにいた日本の企業も、これをきっかけに変わるかもしれません。
柔軟な若い世代は、パンデミックの影響を強く受けやすいため、特に大きく変化する可能性があります。優秀な人材を確保するには、そうした変化を見逃さないようにしましょう。
ミレニアル世代とZ世代の意識変化は?
COVID-19パンデミック前後で若者の意識に変化は生じたでしょうか。それを知るには、デロイト トーマツ グループの「デロイト ミレニアル年次調査2020」が参考になります。
これは、ミレニアル世代(同社は1983年から1994年生まれの世代と定義)およびZ世代(同じく1995年から2003年生まれの世代と定義)の社会観や仕事観、人生観を2019年11月から12月にかけて世界各地で調べたものですが、COVID-19の影響を考慮して2020年4月から5月に追加調査が実施されました。以下では、日本のミレニアル世代とZ世代の仕事に対する意識をみていきます。
COVID-19で強まった安定志向
ミレニアル世代とZ世代は、今の職場から簡単には離れず、ある程度長く勤めたいと考えているようです。その傾向は、COVID-19パンデミックによって強化されています。現在の職場から「2年以内に離職したい」と考えている回答者の割合は、2020年の追加調査で大幅に減少しました。
2年以内に離職意向 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|
ミレニアル世代 | 49% | 23% |
Z世代 | 64% | 29% |
また、現在の職場に「5年以上とどまりたい」という回答も、2020年になって増えています。
5年以上継続意向 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|
ミレニアル世代 | 25% | 33% |
Z世代 | 10% | 35% |
リモートワークに消極的な日本の若者
COVID-19対策で在宅勤務し、リモートワークを経験したミレニアル世代とZ世代も多いはずです。ただし、日本の若者はほかの国々のミレニアル世代およびZ世代と比べ、リモートワークに消極的でした。「もっと頻繁にリモートで働く選択肢があってほしい」と回答した割合が調査対象国のうちもっとも低く、ワークライフ・バランス向上やストレス軽減に対する評価も高くありません。
【今後もリモートワークを選択できるとストレスの軽減につながる】
・ミレニアル世代(日本):55%
・ミレニアル世代(世界13カ国):69%
・Z世代(日本):49%
・Z世代(世界13カ国):64%
【リモートワークでより良いワークライフ・バランスを保つことができる】
・ミレニアル世代(日本):48%
・ミレニアル世代(世界13カ国):67%
・Z世代(日本):41%
・Z世代(世界13カ国):63%
【COVID-19によるディスラプションの後も、もっと頻繁にリモートで働く選択肢があってほしい】
・ミレニアル世代(日本):45%
・ミレニアル世代(世界13カ国):64%
・Z世代(日本):38%
・Z世代(世界13カ国):60%
【今後もリモートで働く機会があれば、大都市以外に住みたいと考える】
・ミレニアル世代(日本):37%
・ミレニアル世代(世界13カ国):56%
・Z世代(日本):40%
・Z世代(世界13カ国):56%
【COVID-19でリモートワークするようになって以来、仕事において「本当の自分」を発揮できるようになったと感じている】
・ミレニアル世代(日本):35%
・ミレニアル世代(世界13カ国):51%
・Z世代(日本):43%
・Z世代(世界13カ国):51%
気になるのは、「リモートワークに関するトレーニングを提供された」という回答が世界に比べ低い点です。効率的なリモートワーク実施に役立つ企業側からの働きかけが、日本では不足していた可能性があります。
【自身の雇用主は、社員がリモートでより効率的に働けるように、トレーニング、教育、スキル開発を提供した】
・ミレニアル世代(日本):35%
・ミレニアル世代(世界13カ国):49%
・Z世代(日本):37%
・Z世代(世界13カ国):53%
「たまには出社したい」20代
もう1つ別の調査レポートをみてみましょう。20代専門転職サイトという「Re就活」を運営する学情が、同サイトの来訪者を対象として実施した調査です。
在宅勤務&テレワークのメリットは?
まず、テレワーク勤務をしたいかどうか尋ねたところ、74.2%が希望していました。希望する理由としては、在宅勤務&テレワーク自体のメリットを挙げた「通勤がないと時間を有効活用できる」「資料作成など、自宅の静かな環境で取り組んだほうが集中できる仕事もあることが分かった」に加え、「満員電車に乗らないほうが、新型コロナウイルスの感染リスクを減らすことができる」というものが挙げられています。
好まれるのは「ハイブリッド型」勤務
テレワークを希望する人は多いものの、滅多に出社しないほぼ完全なテレワークよりも、出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方が好まれるようです。テレワークを実施したい頻度は、以下のとおり週に「3回から4回」という回答が36.5%でもっとも多く、28.1%の「1回から2回」がそれに続きます。「毎日」という回答は24.6%でした。
出社したい理由については、雑談や挨拶を通じて社内コミュニケーションを円滑化するというもののほか、対面で定期的にフィードバックをもらった方が仕事の質が向上して、スムーズになるから、という意見がありました。また、人事評価に対する「テレワークだけだと、どう評価されているか分からない」との懸念も指摘されました。
教育、人事評価、コミュニケーションが重要
学情は、転職先企業でテレワークをする際にあると嬉しい制度も質問しています。すると、「eラーニングなどの研修制度」(43.7%)、「定期的な出社日」(41.4%)、「明確な評価制度」(39.3%)、「対面でコミュニケーションを取る機会」(38.1%)、「対面での研修」(24.1%)といった回答が多く、自由回答でも「仕事に慣れるまで、気軽に質問できる環境があるとありがたい」「どう評価されているかが分かると安心できる」との意見がありました。
『7つの習慣』で提唱された考え方の一つに「信頼残高」という言葉あります。相手との信頼関係を銀行口座の残高に例えたもので、テレワークでコミュニケーションが希薄化ことにより“残高”が減った、あるいは蓄積できていないことが問題視されはじめています。改めて、従業員に対する教育、人事評価、コミュニケーションの大切さを感じます。
デロイトも調査レポートのなかで、「リモートワーク下での適切な人材マネジメントの拡充(時間管理主義から成果主義への脱皮、ジョブ型雇用への転換等)とリモートワーク普及を両輪で実施すること」が、働きやすく生産的なリモートワーク環境の実現につながる、とアドバイスしています。