年末調整電子化、仕組みと手順 - マイナポータル連携で一層便利に【2020年分から】
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年末調整手続き電子化、2020年分から
事務処理の電子化が遅々として進まない日本でしたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で在宅勤務やリモートワークが広まった影響もあり、さまざまな領域で電子化やオンライン化を望む声が強まっています。企業間で行われる契約や取引の電子化や押印廃止はもちろん、官公庁に提出する書類や各種申請、申告なども、電子化への動きが出てきました。
たとえば、2020年10月からは年末調整の手続きをすべて電子的に処理できるようになります。
面倒でしかない年末調整が楽になる
企業に勤務している給与取得者なら、年末調整はおなじみなはずです。しかし、1年に1回だけ、必要に迫られて済ませる事務処理なので、書き方を忘れていたり、添付の必要な証明書を紛失したり、面倒な作業という印象しか残っていないかもしれません。
そこで、まず年末調整について復習します。
そもそも年末調整とは
年末調整を簡単に説明すると、毎月の給与から天引きされた所得税を年末に計算し直し、1年間の所得税額を確定させる処理です。調整した結果、所得税を納め過ぎていた場合は還付、つまり差額が返金されます。
給与所得者の収入に対しては、配偶者控除や扶養控除、生命保険などの保険料控除、住宅ローン控除などが適用可能です。ただし、こうした控除項目は1年の途中で変わるため、年末にすべての控除を整理することで、初めて所得税額が決まります。この処理が年末調整です。
手続きは紙ベースでミスも多い
年末調整では、手続きに必要な「控除証明書」などをそろえ、勤務先企業へ申告書を出さなければなりません。
控除証明書は、保険会社や自治体から郵送で届いたものを、年末調整の時期まできちんと保管しておくことになります。なくしてしまったら再発行してもらわなければなりません。こうして用意した控除証明書から、関係する数字を読み取り、申告書に記入して勤務先へ控除証明書とともに提出します。
続いて、勤務先は従業員から受け取った申告書と控除証明書を確認したうえで、所得税額を計算し、還付などの処理を行います。申告書や証明書の不備を見つけたら、当事者に確認するなど余計な作業が発生してしまいます。
申告書への記入ではなく給与システムなどへ入力する場合でも、手動での金額入力と控除証明書の原本提出が必要で、従業員にとっては十分手間のかかる作業です。
人事総務の9割超が電子化を希望
紙の控除証明書をやり取りすることや、手作業での書類作成と計算などが必要なため、現在の年末調整手続きは手間がかかるし、間違いも起きやすい面倒な作業です。
ペーパーロジックの調査によると、企業で働く人事部門と総務部門の人は、約8割が年末調整の業務を負担に感じていました。具体的には、34.8%が「非常に負担に感じていた」、46.8%が「負担に感じていた」と回答しています。
当然、電子化を望む人が大多数です。年末調整の業務を負担に感じている人のうち、91.0%が「電子化されてほしい」と答えました。
電子化の仕組みと手順
年末調整手続きが電子化されるのは令和2年分(2020年分)から。平成30年度(2018年度)税制改正で定められています。
国税庁の資料「年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)」を参考に、年末調整を電子的に処理する仕組みと手順を確認しましょう。
「年調ソフト」で申告データを作成
手続きを電子化する場合、紙の控除証明書は不要。給与所得者は保険会社などから「控除証明書等XML」と呼ばれる電子データを何らかの方法で受け取ります。
このデータを国税庁から無償提供される「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」へ読み込ませ、勤務先へ提供する電子版申告書「年末調整申告書XMLデータ」を作ります。
その際、控除額の計算に必要な保険料などは自動入力されます。また計算も自動処理されるので正確。煩わしさもありません。
給与担当者は、この「年末調整申告書XML」データと「控除証明書等XML」を従業員から受け取り、給与システムなどに取り込みます。これまで手作業で行っていたデータの確認や入力といった作業は過去のものに。申告書や証明書の不備確認、訂正にかかる工数も、大幅に減らせます。
マイナポータル連携で一層便利に
年末調整に必要な控除証明書等XMLは、契約している保険会社などから受け取ります。ただ、会社ごとに手続き方法は異なるはずで、紙の証明書を送ってもらう方が簡単かもしれません。
このとき便利なのが、「マイナポータル連携」です。政府のサービスサイトである「マイナポータル」を介すと、複数の保険会社などから控除証明書等XMLをまとめて取得し、年末調整申告書用のデータが作れます。
なお、控除証明書を発行する保険会社などがマイナポータル連携に対応していなければなりませんが、対応する企業が多いでしょう。
プロトタイプ版の年調ソフトで試験を
年調ソフトの正式版は2020年10月にリリースされる予定です。現在は動作確認用のプロトタイプ版(Ver.0.7)が公開されていて、ダウンロードして試験的に使えます。
あくまでも動作確認の目的で提供されていて、これで作ったデータでは年末調整できません。実装されている機能も限定されていて、現状で対応OSはWindows10だけです。
正式リリースでは、Windows版だけでなく、macOS版に加え、スマートフォンで利用可能なAndroid版とiOS版も提供されるそうです。
電子化には事前申請と対応ソフトが必要
年末調整の手続きが電子化されると、手書き入力と手作業による集計が不要になり、処理の負荷が軽くなります。間違いの発生も大幅に減るでしょう。控除証明書を紛失する心配がなく、紙の書類を保管するコストも発生しません。マイナポータル連携が利用できれば、さらに手間が削減されます。
これほどメリットのある年末調整手続きの電子化を導入しない手はありません。
電子化対応に必要な手続き
年末調整手続きを電子化する企業は、あらかじめ税務署に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認される必要があります。そうしないと、従業員から年末調整申告書に記載すべき事項の電子データ提供が受けられません。
また、年末調整に使用する労務管理や給与計算などのシステムを年末調整手続きの電子化に対応させましょう。クラウドサービスを利用しているなら提供企業へ対応状況を確認するとよいでしょう。
年末調整業務の負荷を軽減するためにも、こうしたサービスの導入を検討してはどうでしょうか。