【2024年最新】改正電子帳簿保存法の建設業界への影響は?変更点や注意点
目次を閉じる
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)とは、国税関係の帳簿や書類を電子保存する際のルールや要件が明記された法律です。制定年は1998年と古く、過去に何度も改正が実施されてきました。
たとえば、2005年には帳簿や書類を電子保存するにあたり、スキャナ保存が認められています。また、2015年には3万円未満の対象書類の基準が撤廃されたり、2016年にはデジタルカメラやスマートフォンでの読み取りを可能にしたりと、時代の変化に合わせて制度が変遷してきました。
最近では2022年に法改正が行われ、2024年1月1日から新制度が施行されました。過去の法改正に比べ、今回は変更範囲が広く、なおかつ産業全体への影響も大きいため、ポイントを押さえておくことが大切です。
電子帳簿保存法の改正点
2022年に改正された電子帳簿保存法の変更点は次のとおりです。
- 税務署長の事前承認なしで電子帳簿の保存やスキャナ保存が可能になった
- 電子取引時の書類を紙ではなく電子データで保存することが義務付けられた
- 保存したデータの検索性を保つための要件が緩和された
- スキャナ保存後にタイムスタンプを付与しなければならない期限が延長された
- スキャナ保存の要件(解像度や階調など)や確認要件が緩和された
- 法に抵触した際の罰則が強化された
上記のように一部の要件が緩和された一方で、より厳格なルールが適用されている箇所もあります。とくに、電子取引の際の帳簿や書類を電子保存しなければならない点には注意が必要です。
建設業界における電子帳簿保存法の対象となる書類
電子帳簿保存法には、「電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引」の3つの制度が存在します。下表のとおり、制度ごとに対象となる書類が異なるので注意が必要です。
制度名 | 対象書類 |
---|---|
電子帳簿等保存 | ・総勘定元帳や仕訳帳など国税関係の帳簿 ・貸借対照表や損益計算書などの決算書類 ・注文書や請求書などの取引書類 |
スキャナ保存 | ・注文書 ・請求書 ・契約書 ・納品書 などの取引先が紙で発行した書類 |
電子取引 | ・注文書 ・請求書 ・契約書 ・納品書 などの電子取引で生じた書類 |
建設業界ではさまざまな書類を扱いますが、国税や決算にかかわりがある、あるいは取引先とやり取りする書類は、原則として対象範囲に含まれると考えてよいでしょう。たとえば、工事請負契約書や建退共掛金収納書、完成通知書などが該当します。
電子帳簿保存法の改正が建設業界に与える影響
電子帳簿保存法の改正は、建設業界に次のような影響を与えると考えられます。
- ペーパーレス化の推進に役立つ
- 印刷費や印紙代などの削減につながる
- 電子取引の推進で生産性向上や働き方改革に結び付く
- BCP対策としても効果を発揮する
- システム開発費が高額になる可能性がある
上記のとおり、良い面もあれば悪い面もあるのが事実です。自社に対する影響も鑑みて、どのような対策が必要かを検討しましょう。
ペーパーレス化の推進に役立つ
改正電子帳簿保存法のメリットとしては、ペーパーレス化の推進につながる点があげられます。
電子帳簿保存法の改正により、電子取引における書類の電子化が義務化されました。これは裏を返せば、紙での出力が不要になるということです。そのため、デジタル上のデータとして書類を一元管理できる利点が生まれます。
デジタルデータは紙とは違い、検索性に優れるのが大きな特徴です。たとえば、全文検索が可能なデータベースを用意すると、単語やキーワードで容易に必要なデータにアクセスできるため、書類管理における業務効率化につながります。
印刷費や印紙代などの削減につながる
ペーパーレス化が推進された結果、印刷費や印紙代を削減できるのもメリットです。
帳簿や取引書類を管理するにあたり、紙で出力する必要がなければ、おのずと紙や印刷、印紙に費用をかける必要がありません。印刷時の手間や紙の保管スペースを削減できるのも利点だといえるでしょう。
電子取引の推進で生産性向上や働き方改革に結び付く
法改正により電子取引が推進されると、生産性向上や働き方改革につながる可能性があります。
たとえば、紙ベースの取引から脱却することで、情報の記入や印刷、書類の発送といった作業が簡略化されます。電子取引では、システム内へのデータ入力やメールの送信など、より簡易的な作業で済むケースが多いためです。そして、余った時間をコア業務に割り当てれば、組織全体の生産性を高められます。
また、テレワークをはじめ社外で業務を行う際でも、電子データならインターネットを介してやり取りを行えます。自宅や建設現場からオフィスへと書類を取りに行く必要がなく、移動時間を削減できるのがメリットです。遠隔地同士でスムーズにデータをやり取りできるようになれば、より柔軟な働き方にも対応しやすくなるでしょう。
BCP対策としても効果を発揮する
改正電子帳簿保存法への対応はBCP対策としても有効です。
BCP対策とは、災害やネットワーク障害、サイバー攻撃などが発生した際でも安定した事業継続を図れるよう、適切な対応策や復旧スケジュールを立てておく手法です。仮に重要な帳簿や書類が紙ベースで保管されている場合、書類の紛失や情報の消失といった事態を招く可能性があります。
帳簿や書類がデータ化されていれば、万が一災害や障害が起きた場合でも、場所や時間を問わずに必要な情報にアクセスできます。また、バックアップも容易なので、帳簿や書類を安全に保護できるのも利点です。
システム開発費が高額になる可能性がある
改正電子帳簿保存法のデメリットとしては、費用面の問題があげられます。帳簿や書類を効率良く電子化したり一元管理したりするには、データベースシステムやストレージ、電子帳簿保存システムなどのITツールが必要です。
このようなシステムをいちから開発するには高額な費用がかかります。クラウドサービスを利用するにしても導入費や運用費が発生するため、コスト的な負担が大きくなり、財務を圧迫する原因にもなりかねません。
建設業界で改正電子帳簿保存法に対応する際のポイント
建設業界で改正電子帳簿保存法に対応するには、いくつか押さえておくべきポイントが存在します。各ポイントに沿って要点を解説します。
制度ごとの要件をしっかりと確認する
電子帳簿保存法に含まれている「電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引」の3つの制度は、それぞれ要件が異なるため、業務内容や対象となる書類に合わせて最適な保存方法を検討することが大切です。
たとえば、スキャナ保存ではデータの真実性と可視性を担保しなければなりません。真実性を担保するには、タイムスタンプの付与や一定水準の解像度での読み取りといった対策が必要です。可視性の担保に関しては、見読可能装置の備え付けや検索機能の付与などの対策が求められます。
データの保存方法や保存場所を決める
改正電子帳簿保存法に対応するには、事前にデータの保存方法や保存場所を決めておく必要があります。保存方法としては次の3つの手段が代表的です。
- タイムスタンプを付与したうえでデータを保存する
- データの修正や削除の履歴を確認できるシステム上に保存する
- 事務処理規定を設定しサーバー・ハードディスク上に保存する
たとえば、取引先や自社でタイムスタンプを付与しない場合、必然的に2つ目か3つ目の手段を採用しなければなりません。そのため、取引先にもタイムスタンプの付与が可能かを確認することが重要です。
ただし、いずれの方法を採用するにせよ、データの検索性を確保する必要があります。よりスムーズな検索を可能にするには、専用のシステムを導入するのが理想です。
必要に応じてシステムの導入を検討する
電子帳簿保存法の改正に合わせてシステムを導入する場合、次のような選択肢が浮かびあがります。
- 電子帳簿保存システム
- 帳票管理システム
- 文書管理システム
- 請求書受領サービス
- データベースシステム
- ストレージサービス
対象範囲が広くなるほどコストが高額になる点に注意が必要です。そのため、あらかじめ対象となる部署や書類を明確にしたり、適正な予算を検討したりと、事前準備を進めましょう。
予想以上に費用や工数が増大しそうな場合は、スモールスタートを検討するのがおすすめです。初期段階のみ対象範囲や電子化する書類の種類を限定することで、システム導入にかかる費用を抑えられます。また、大規模な体制変更で組織内が混乱するリスクを避けられるのも利点です。
改正電子帳簿保存法のポイントを押さえて対策を立てよう
過去に何度も改正されている電子帳簿保存法ですが、なかでも2022年の変更点は産業全体への影響が大きいといわれています。建設業界では、工事請負契約書や建退共掛金収納書など、取り扱う書類の種類が多いだけあり、改正ポイントをしっかりと押さえることが大切です。
帳簿や書類を電子化するにあたり、新たなシステムが必要になるケースもあります。そのため、現状の課題や目的をもとに、明確な要件や対象範囲を定めましょう。今回紹介した改正電子帳簿保存法のポイントを踏まえ、さっそくプランを検討してみてはいかがでしょうか。