ネット広告、マスコミと並ぶ規模に - 2020年の国内総広告費は11年ぶり2ケタ減少
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コロナ禍で総広告費は減少
広告は、経済の状況を映す鏡のような存在です。基本的に、景気が悪くなれば広告費は減少し、景気が上向けば広告費は増加します。
2020年は、広告のそうした性格が明確に表れた1年でした。電通が公表した調査レポート「2020年 日本の広告費」によると、2020年の国内広告費は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響で前年の88.8%にとどまり、総額6兆1,594億円だったそうです。
国内の広告費がマイナス成長になったのは、東日本大震災が発生した2011年以来、9年ぶりだといいます。しかも、リーマンショックで前年比88.5%となった2009年と同レベルの減少は、1947年の調査開始以来、2番目の下げ幅でした。
ネットが36%占め、マスコミと同規模に
電通は、国内の広告費を大きく「マスコミ四媒体広告費」「プロモーションメディア広告費」「インターネット広告費」に分けて調査しています。それぞれの広告費は次表のとおりでした。
媒体 | 広告費 | 前年比 |
---|---|---|
マスコミ四媒体広告費 | 2兆2,536億円 | 86.40% |
プロモーションメディア広告費 | 1兆6,768億円 | 75.40% |
インターネット広告費 | 2兆2,290億円 | 105.90% |
2020年に大きく落ち込んだのは、「マスコミ四媒体広告費」「プロモーションメディア広告費」です。イベントや販促キャンペーンの延期・中止、インバウンド消費の激減、国内の外食・旅行の自粛といった悪影響が重なり、大きく減ってしまいました。
マスコミ四媒体広告費は6年連続の減少
「新聞広告費」「雑誌広告費」「ラジオ広告費」「テレビメディア広告費」の4媒体をまとめたマスコミ四媒体広告費は、2兆2,536億円で前年比86.4%になりました。減少は6年連続です。
4つの媒体すべてで広告費が2019年より少なくなっていて、以下の結果でした。
媒体 | 広告費 | 前年比 |
---|---|---|
新聞 | 3,688億円 | 81.1% |
雑誌 | 1,223億円 | 73.0% |
ラジオ | 1,066億円 | 84.6% |
テレビメディア | 1兆6,559億円 | 89.0% |
イベント減少が直撃した、プロモーションメディア広告費
プロモーションメディア広告費は、屋外広告や交通広告、折込広告などを含みます。2020年の総額は1兆6,768億円で、前年比75.4%にとどまりました。
夏に開催予定だった東京オリンピックおよび東京パラリンピックが延期されたり、さまざまなイベントなどが中止されたりした影響は大きかったようです。
種類 | 広告費 | 前年比 |
---|---|---|
屋外広告 | 2,715億円 | 84.3% |
交通広告 | 1,568億円 | 76.0% |
折込 | 2,525億円 | 70.9% |
DM(ダイレクト・メール) | 3,290億円 | 90.3% |
フリーペーパー | 1,539億円 | 72.9% |
POP | 1,658億円 | 84.2% |
イベント・展示・映像ほか | 3,473億円 | 61.2% |
唯一増え続けているインターネット広告費
これらに対し、唯一増加したのがインターネット広告費でした。
1996年に調査を始めてから増加を続けていて、2020年は前年比105.9%の2兆2,290億円。これはマスコミ四媒体広告費と並ぶ規模で、国内の総広告費に占める割合は36.2%ありました。
4月から6月にかけては低調だったものの、食品デリバリーや通販といった巣ごもり需要の高まりがインターネット広告の活発な出稿につながったのでしょう。さらに、テレワークをともなう在宅勤務、オンライン授業を受ける自宅学習など、仕事や教育の現場でオンライン化、社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)加速も、インターネット広告の追い風になったとのことです。
インターネット広告費のうち、マスコミ四媒体の事業者がインターネットを通じて提供するサービスの広告費も、順調に増えていました。
種類 | 広告費 | 前年比 |
---|---|---|
新聞デジタル | 173億円 | 118.5% |
雑誌デジタル | 446億円 | 110.1% |
ラジオデジタル | 11億円 | 110.0% |
テレビメディアデジタル | 173億円 | 112.3% |
合計 | 803億円 | 112.3% |
今後も増える広告のジャンルは
電通グループの予測「世界の広告費成長率予測(2020~2022)」では、インターネット広告市場の拡大が今後も続くようです。
世界59カ国・地域を対象とするこの予測によると、2021年における世界の総広告費は約5,790億ドル(約63兆1,805億円)で、2020年に比べ5.8%増えます。そして、媒体別でみるとデジタル広告費(インターネット広告費)が全体の50.0%に達するとしました。
インターネット広告市場にとって、COVID-19パンデミックは追い風になりました。そして、企業のデジタル化に加え、消費者がテレビなどの既存メディアよりSNSや動画配信サービスを利用するようになったことが、インターネット広告の利用を後押ししています。
マイボイスコムの調査によると、2020年11時点で国内のSNS登録経験者は66.9%おり、以前から増える一方です。SNS登録者の47.9%はSNSを「1日2回以上」利用し、25.9%は「1日1回程度」利用していて、7割以上の人が毎日接触するメディアといえます。
また、マクロミルの調査では、年配層でインターネット利用率が大きく上昇していました。2019年における年代別の利用率は、50代が97.7%、60代が90.5%、70代が74.2%、80代が57.5%です。マクロミルは、50歳以上の「エルダー層」と65歳以上の「シニア層」でデジタルシフトが加速したとしています。
2020年下半期におけるエルダー層およびシニア層の1週間あたりのメディア利用頻度は、テレビが6.6日、インターネットが5.3日、新聞が4.2日、ラジオが2.0日で、インターネットがテレビに迫りました。1日あたりの利用時間にいたっては、インターネットが3.3時間、テレビが3.2時間と、すでに逆転しています。
コロナ禍では、広告を使ったマーケティング活動は困難です。特に、屋外広告や交通広告の効果は期待できません。その一方で、インターネット広告は従来より高い効果の期待できるジャンルになりました。
現在のような厳しい状況だと、マーケティング対象に効率よくリーチする広告メディアを選択することが、今まで以上に重要です。