ついにネット広告費がマス超え、前年比121%で全体押し上げ - 動画が高成長
ネットが総広告費を下支え
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックはまだ続いているものの、ワクチン接種が進んだことや、対処法が広まったことで、企業や人の動きはやや活発になりました。経済の状況も、一時期の大きな落ち込みから全体的には持ち直しつつあります。
電通が公表している調査レポートの最新版「2021年 日本の広告費」(※1)に、そうした経済立ち直りの一端が現れました。2021年における国内広告費の総額は6兆7,998億円で、前年の6兆1,594億円から10.4%増えていたのです。ちなみに、コロナ禍真っ盛りの2020年は、2019年に比べ11.2%もの落ち込みでした。
広告費復活の理由として、電通はオリンピックとパラリンピックの開催、テーマパークや音楽/スポーツイベントの入場制限緩和などを挙げています。人流や経済が戻ってきたことが、広告市場の回復につながったのでしょう。
※1 電通『2021年 日本の広告費』,https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0224-010496.html
ネットが初のマスコミ四媒体超え
さらに電通は、進む社会のデジタル化が追い風になり、好調なインターネット広告が市場全体の成長を支えた、とみています。
前年比121%の高成長
2021年のインターネット広告費は2兆7,052億円(前年比21.4%増)で、マスコミ四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)広告費の2兆4,538億円(同8.9%増)を超え、成長ペースも大きく上回りました。しかも、インターネット広告費は2020年が2兆2,290億円(同5.9%増)、2019が2兆1,048億円と、コロナ禍でも増え続けています。インターネット以外の広告は、どの分野も2020年に大きく落ち込んでいました。
電通の解説記事(※2)によると、社会全体の急速なデジタル化やDX加速がインターネット広告費の成長に寄与したといいます。また、コロナ禍における外出自粛が巣ごもり消費や在宅勤務を増やし、回り回ってインターネット広告の需要を高めたようです。
※2 電通『「2021年 日本の広告費」解説-広告市場は大きく回復』,https://dentsu-ho.com/articles/8090
さらに、インターネット広告費から「インターネット広告制作費」および「物販系ECプラットフォーム広告費」を除いた「インターネット広告媒体費」の詳細分析レポート(※3)によると、動画広告やソーシャル広告が成長を後押ししていることがわかります。
特にビデオ(動画)広告は5,128億円(前年比32.8%増)と初めて5,000億円を突破し、構成比率も高まっていました。
※3 電通「2021年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」,https://www.dentsu.co.jp/news/release/2022/0309-010503.html
マスコミ四媒体もネット広告は好調
大きな分類だとインターネット広告費の一人勝ちにみえますが、マスコミ四媒体に関係する広告で好調だった分野があります。それは、マスコミ四媒体の事業者がインターネットを通じて提供するメディアやサービスに関する広告費「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」です。電通の集計ではインターネット広告に含まれていますが、マスコミの底力を感じる結果でした。
具体的な広告費は1,061億円で、2019年の715億円、コロナ禍真っ最中だった2020年の803億円から増え続けています。2018年に実績推定を開始して以来、3年連続で2桁成長を記録しました。
各媒体の広告費は以下のとおりで、括弧内は前年比です。
媒体 | 広告費(2021年) | 広告費(2020年) | 広告費(2019年) |
---|---|---|---|
新聞デジタル | 213億円(23.1%増) | 173億円(18.5%増) | 146億円 |
雑誌デジタル | 580億円(30.0%増) | 446億円(10.1%増) | 405億円 |
ラジオデジタル | 14億円(27.3%増) | 11億円(10.0%増) | 10億円 |
テレビメディアデジタル | 254億円(46.8%増) | 173億円(12.3%増) | 154億円 |
全媒体が2020年ですら成長しているうえ、2021年は急激に伸びました。特に、「テレビメディア関連動画広告」の前年比46.5%が目立っています。これは、コネクテッドTV向けコンテンツに関する広告が貢献したようです。
また、同じくインターネット広告費に含まれる「物販系ECプラットフォーム広告費」も、2021年が前年比23.5%増の1,631億円、2020年が同24.2%増の1,321億円と順調に成長しています。こちらも、巣ごもり消費拡大の影響が出ました。
リアルは不振続く
インターネット以外の広告、つまり“リアル”領域の広告は、好調とはいえません。
マスコミ四媒体広告は引き続き減少傾向
インターネット広告費に抜かれるまで最大規模だったマスコミ四媒体広告費は、2021年に2兆4,538億円で、2020年の2兆2,536億円から8.9%増えました。ただし、2020年は2019年の2兆6,094億円に比べると13.6%もの縮小です。インターネット広告費が右肩上がりなのに対し、こちらは減少傾向が続いています。
マスコミ四媒体に含まれる各広告費も、以下のように2019年の水準に戻っていません。
媒体 | 広告費(2021年) | 広告費(2020年) | 広告費(2019年) |
---|---|---|---|
新聞 | 3,815億円(3.4%増) | 3,688億円(18.9%減) | 4,547億円 |
雑誌 | 1,224億円(0.1%増) | 1,223億円(27.0%減) | 1,675億円 |
ラジオ | 1,106億円(3.8%増) | 1,066億円(15.4%減) | 1,260億円 |
テレビメディア | 1兆8,393億円(11.1%増) | 1兆6,559億円(11.0%減) | 1兆8,612億円 |
交通広告などは軒並み不振
屋外広告や交通広告、折込広告、ダイレクトメール(DM)、フリーペーパーなどを含むプロモーションメディア広告は、全般的に低調です。広告費は2021年が1兆6,408億円(前年比2.1%減)、2020年が1兆6,768億円(同24.6%減)、2019年が2兆2,236億円と、2021年も持ち直すことなく急激に減少し続けています。
それでも、2021年の折込広告(2,631億円、同4.2%増)とDM(3,446億円、同4.7%増)は、辛うじて巣ごもり消費の恩恵を受けました。また、屋外広告は2,740億円と同0.9%の微増ですが、大型でインパクトがあり目立つデジタルサイネージなどに広告需要が集中した影響のようです。
それに対し、交通広告(1,346億円、同14.2%減)、フリーペーパー(1,442億円、同6.3%減)、POP(1,573億円、同5.1%減)、イベント・展示・映像ほか(3,230億円、同7.0%減)は、復活できていません。人流やイベント開催の減少が、影を落としています。
バーチャル軸足への移行鮮明に
電通は、広告市場が加速するDXの影響を大きく受けたと分析しました。
コロナ禍以前からDXの必要性は認識されていましたが、パンデミックでデジタル化の流れが大きく加速し、インターネット広告はもちろん、店頭POPやDMなど「あらゆる広告にもデジタルありきの構造が浸透し始めました」としています。また、巣ごもり消費や在宅勤務が定着したことは、特に動画広告の需要を高め、映像系広告の市場を拡大させたといいます。
COVID-19パンデミックで移動が厳しく制限された結果、日本では今まで遅々として進まなかった在宅勤務やリモートワークの導入が急速に広まっています。多少のオフィス回帰はあるでしょうが、働き方はコロナ前から一変しました。
働き方がリアルなオフィス勤務から、バーチャルなリモートワークへ変わったように、広告もリアルな屋外や交通から、バーチャルなインターネットなどへ移っています。こうした変化は、仕事や広告にとどまらず、生活や社会、経済活動のあらゆる面に影響を及ぼすでしょう。
一方で、個人情報保護を背景とするCookie規制が進むなど、インターネット広告も過渡期を迎えています。変化を敏感に捉え、対応できるよう備える必要があります。