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企業の“脱・首都圏”進む、2010年以来の転出超過 - 自治体に求められる支援策は

最終更新日:(記事の情報は現在から641日前のものです)
本社機構を首都圏から地方へ移した企業が2021年に増え、2010年以来の転出超過になりました。中でも北海道への移転は、コロナ前の2019年に比べ5倍も多くなったほどです。自治体も企業を誘致しようとしていますが、意識は企業とやや異なっています。

地方への本社移転が増加

帝国データバンク(TDB)の調査(※1)によると、全国で2,258社の企業が2021年に本社移転を実施しました。この移転数は、前年に比べ1割以上多かったそうです。2020年はコロナ禍の真っ最中で、当初の移転計画を中止したり延期したりした企業が多く、その反動で2021年に増えたと、TDBはみています。

また、コロナの影響で事業内容の見直しを迫られ、それにともなって移転を選択した企業もあるはずです。

※1 TDB『コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社』,https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220207.pdf

首都圏からの転出超過は2010年以来

この調査で気になることは、本社機能を首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)からほかの地方へ移転した企業の増加です。具体的には、2021年に首都圏から地方へ本社を移した企業は過去最高の351社で、2020年から2割超も増えました。

一方、地方から首都圏へ本社を移した企業は328社です。つまり、首都圏からの転出が首都圏への転入を上回る、転出超過になりました。これは2010年以来のことです。

TDBは、「過去に例を見ないハイペースで企業の首都圏外への移転=脱首都圏の動き」が進んでいる、としました。

企業の転出入動向 出典:TDB / コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社

北海道への移転はコロナ前の5倍

首都圏からどこへ移転したのでしょうか。

移転先の都道府県は、46社の大阪府がもっとも多くなりました。コロナ前の2019年の32社と比べると、14社の増加です。これに37社の茨城県(2019年は30社)、33社の北海道(同7社)が続きます。

首都圏からの転出先 出典:TDB / コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社

北海道は、2019年と比較し約5倍の伸びを記録(※2)し、増加数は全国トップです。そのほかに、大阪府、宮城県、岡山県、茨城県、兵庫県、山梨県などの移転企業数が増えています。

本社移転増加数、北海道 出典:北海道、経済部産業振興局産業振興課 / 「首都圏・本社機能移転動向調査(2021年)」の結果について

また、福岡県(20社)、宮城県(14社)、広島県(10社)は、移転数の過去最多を記録しました。

※2 北海道、経済部産業振興局産業振興課『「首都圏・本社機能移転動向調査(2021年)」の結果について』,https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/ssg/101632.html

ソフト業界で多い移転

移転の多かった企業の業種は、首都圏からの転出も、首都圏への転入も、サービス業でした。

全体に占めるサービス業の割合は、転出が44.4%、転入が37.8%と圧倒的に多い状況です。移転企業の増加数も、サービス業は転出が41社、転入が28社と、目立っています。

なお、移転したサービス業の企業は、1割超がソフトウェアの開発や販売を手がける企業でした。製造や物流の拠点を持たないソフトウェア業界の企業は、移転がほかの業種に比べ容易なのでしょう。

業種別転出入推移 出典:TDB / コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社

企業の規模別では、売上高が少ないほど転出数が多い、という傾向になりました。やはり、小規模な企業は身軽で、本社を比較的動かしやすい、と考えられます。TDBによると、研究開発型のスタートアップ企業は、研究施設を拡大するために首都圏外に移転するケースもあるそうです。

売上規模別推移 出典:TDB / コロナで企業の「脱首都圏」急増、過去最多の351社

企業と自治体で異なる意識

受け入れる自治体にとっては、企業が移転してくると、働く場所が増えることで働く世代も増え、さまざまなメリットが期待できます。企業や人の流出という課題を抱えている地方にとっては、首都圏からの企業移転はありがたい話です。

ただし、経済産業省(METI)の関東経済産業局が調査(※3)したところ、移転を検討している企業と、企業誘致をする自治体とのあいだには、意識の違いが存在するとわかりました。

※3 METI、関東経済産業局『地方移転に関する動向調査結果【概要版】』,https://www.kanto.meti.go.jp/press/data/20210421chihoiten_chousa_gaiyouban.pdf

重視する項目はミスマッチ

この調査の対象は、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に拠点を持つ企業です。

移転先の選定時に検討する項目を挙げてもらったところ、企業の多くは「コストメリット」(40.6%)、「営業面でのメリット」(37.2%)、「交通利便性」(37.1%)、「自然災害発生・被災リスクの低さ」(30.7%)を重視していました。

ところが、自治体は「企業が移転決定時に重視する条件」として、「交通利便性」(78.9%)、「自然災害発生・被災リスクの低さ」(60.8%)、「コストメリット」(60.2%)、「物流インフラの整備状況・今後の整備予定」(50.3%)を想定しています。

全体的に、企業と自治体それぞれの重視する項目が食い違っていました。企業の重視する「営業面でのメリット」を自治体はあまり意識していなかったり、逆に自治体で上位に入った「物流インフラの整備状況・今後の整備予定」が企業では順位が低かったり、ミスマッチが散見されます。

TDBの調査では、サービス業の企業、特にソフトウェア業界の企業がよく移転する、という結果が出ていました。しかし、自治体は、製造工場や物流拠点を持った企業が移転してくる、という意識を変えられずにいるようです。

地方移転に関する動向調査結果 出典:METI、関東経済産業局 / 地方移転に関する動向調査結果【概要版】

自治体は「人よりも箱」

そうした自治体の意識は、移転する企業への支援体制にも影響しています。

自治体が移転前の企業をどのように支援しているか調べたところ、「補助金による支援」(70.8%)、「税制優遇による支援」(48.5%)が多くなりました。また、「施設等の貸与、物件紹介」(21.6%)、「用地取得、土地の提供」(19.9%)を行う自治体もあります。

人材面については、「人材獲得支援」が9.9%止まりです。ここでも、人よりも箱、という自治体の考えが残っています。

自治体の企業支援内容 出典:METI、関東経済産業局 / 地方移転に関する動向調査結果【概要版】

地方移転は考える価値のあるアイデア

COVID-19パンデミックの影響で、リモートワークやオンライン会議の利用が一気に広まり、働く場所の制約が弱まりました。その結果、地方へ移住して、移住前の仕事をリモートワークで続ける人が増えています。

企業にとっては、首都圏以外でも優秀な人材を得やすくなってきました。本社機構を移転するほどでなくても、開発拠点を地方に開設し、ハイブリッドワークで勤務してもらう、という展開が考えられます。本社機構まで移せば、オフィスを維持するのに必要なコストの圧縮も可能です。サテライトオフィスの活用、さらに発展させたメタバースやバーチャルオフィスの導入で、現実世界のオフィスは必要最小限にする、という対応も無理な話ではありません。

政府の「デジタル田園都市国家構想」が軌道に乗れば、通信インフラ整備状況の地域差も問題なくなるでしょう。各地の自治体も、移転してくる最近の企業が何を求めるかを調べ、適切な対応をとるようになるはずです。

事業継続計画(BCP)の観点でも、地方移転や拠点分散は有益です。そして、企業の拠点を首都圏や都市部に置く必要性は、以前ほど大きくありません。

企業としてのメリットや、働く人々のQOLを考えると、今や地方移転は現実的な対策の1つといえます。

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