工事下請基本契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
工事下請基本契約とは
工事下請基本契約とは、元請人が下請負人に工事を依頼する場合の合意内容の書面です。ただし、合意内容の書面化ではなく、双方に対するさまざまな保護規定が盛り込まれています。
なお、下請契約自体は口頭で行っても法的には有効ですが、建設業法ではトラブル防止の観点から書面の作成と双方の保有を義務付けています(建設業法第19条)。とくに継続的に取引を行う場合や施工箇所で内容・仕様・報酬などが変動する場合には、工事下請基本契約書を締結して、工事の状況に応じた個別契約を締結して補完するのが便利です。
請負契約の方式は下記の3種類があります。
建設工事請負基本契約(または建設工事請負基本約款)+注文書+請書
基本契約で基本事項のみ記載して個別に注文書と請書で受発注を行う方式で、反復継続して取引するケースに適しています。
建設工事請負契約
基本契約にすべての必要事項を記載する方式で、継続的な取引をしないケースに適しています。
注文書+請書
建設業法では必要事項を記載した書面の作成を義務付けているだけで、書面のタイトルが「契約書」でなくても問題ありません。必要事項を記載した注文書を申込書面として請書が対応していれば有効です。ただし、国土交通省では「契約書の作成が必要」としているため契約書は作成しておきましょう。
工事下請基本契約書の主な記載事項
建設業法では、工事下請基本契約書の記載事項を規定しています。以前14項目だったものが2020年10月の法改正で15項目に増えています。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期および工事完成の時期
- 工事を施行しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部または一部の前払金または出来高部分に対する支払を定めるときは、その支払の時期および方法
- 当事者の一方から設計変更または工事着手の延期もしくは工事の全部もしくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更または損害の負担およびそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担およびその額の算定方法に関する定め
- 価格等(物価統制令(昭和 21 年勅令第 118 号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動もしくは変更に基づく請負代金の額または工事内容の変更
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 注文者が工事に使用する資材を提供し、または建設機械その他の機械を貸与する際の、その内容および方法に関する定め
- 注文者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期および方法並びに引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払いの時期および方法
- 工事の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをする際のその内容
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- 工事を施工しない日・時間帯
上記をわかりやすく解説します。
工事内容
工事内容は、元請人からの依頼内容や下請負人の責任の範囲が具体的に反映する部分になるため、施工範囲や施工条件などが具体的に記載されている必要があります。そのため「〇〇工事一式」というようなアバウトな記載は避けるべきです。
推奨される工事内容の記載方法としては、その工事下請基本契約書の条項内で具体的な内容を記載せずに「別紙の設計書仕様のとおり」として、詳細な工事内容は巻末に添付する方法です。さらに、工事内容や工事箇所や仕様がより具体的でわかりやすくなるように、仕様書や施行箇所の図解資料などを添えると親切でしょう。
請負賃金
請負賃金(代金)の額は、金額を記載すれば足ります。ただし、その代金がどの時点で発生するのかは非常に重要です。建設業は施工時間や作業量などに関係なく、請け負った仕事の進捗度合いや完成の有無に対して支払われる請負賃金(出来高給)であり、時間給ではないのが一般的です。
なお、建設業法第19条の3では「不当に低い請負代金の禁止」の定めとして「元請人が自己の取引上の地位を不当に利用してその建設工事を施工する一般的な原価に満たない金額を請負代金の額としてはならない」としているので、金額設定については元請人と下請負人の双方が相手方へ根拠が示せるようにしておきましょう。
工事開始時期と完了時期
工事に着手する時期および工事完成の時期について、下記のように具体的な日付がわかるようにしておきます。
工期
着工:令和〇〇年〇〇月〇〇日
完成:令和〇〇年〇〇月〇〇日
工期は下請負人の施工期間を記載するのが一般的です。
支払いの定め
前金や出来高に応じて支払う場合など支払いの時期や方法を記載しますが、前金や出来高払いをしない場合には記載しません。
なお元請人が下請負人に対して行う支払い時期については、建設業法第24条の3で「元請負人が注文者から出来高部分もしくは工事完成後の支払を受けたときは、その支払いを受けた日から1ヶ月以内かつできるだけ早い期間内に、下請負人に対して代金を支払わなければならない」との規定があります。
工事内容・期間の変更
当事者の一方から「設計変更または工事着手の延期もしくは工事の全部または一部の中止の申出」があった場合の工期の変更や、請負代金の金額の変更または損害の負担や賠償金額の計算方法を記載します。
元請人から工事の中止や変更があるにもかかわらず、何の給付もなければ下請負人が困るため、その場合の措置について定めておきます。
工事材料および工事用機器
下記のような内容に設定するのが一般的です。
- 下請負人は、工事材料のうち設計図書に明示されていないものは、監督員の指示に従う。
- 下請負人は、監督員の検査に合格した工事材料を使用しなければならず、監督員が適当でないと判断した工事用機器は下請負人に対して交換を求められる。その際の材料や機器は下請負人が引き取る。
- 下請負人は、工事現場内に搬入した工事材料や工事用機器を監督員の承諾を受けないで工事現場外に搬出できない。
現場代理人および主任技術者
現場代理人は、契約の履行のために工事現場に常駐して運営の補助や取締りを行うなど、下請負人の一切の権限(請負代金額の変更、請負代金の請求および受領、工事関係者に関する措置請求ならびにこの契約の解除に係るものを除く)を行使します。
また、主任技術者は工事現場で工事施工の技術上の管理を行い、現場代理人と兼務もできます。
検査・引渡し
下請負人は、工事が完成すれば書面で元請負人に通知し、元請負人は下請負人の立会いのもとで工事の完成検査を行い、後日書面にて検査結果を下請負人に通知します。
完成検査が合格なら、元請負人は請負代金の支払と引き換えに工事目的物の引渡しを求め、下請負人は直ちに応じて引渡しをします。なお、完成検査が不合格なら修補を行い、それが完了すれば工事は完成です。
契約不適合責任
契約不適合責任とは、引き渡されたものが契約書に記載された数や仕様および機能とは異なる場合を契約不適合として、下請負人に対して修補または代替物の引渡しなど履行の追完を請求できます。
ただし追完に過分の費用がかかるなら、元請負人は追完ではなく代金減額や損害賠償および契約解除などを求める場合があります。
守秘義務
建設業法には建設工事に関する秘密保持義務の規定はなく、国土交通省が作成した「民間建設工事標準請負契約約款」や「建設工事標準下請契約約款」にも秘密保持義務の規定はありません。つまり契約書上で対策をしておかなければ下請負人に秘密保持義務や守秘義務が課されないことになるため、元請人と下請負人および再委託先へも守秘義務を課す条項を設けておくことが大切です。
契約解除
契約解除には下記のようにいくつかのパターンで詳細に設定する場合があり、解除の際の措置まで規定しておきます。
元請人の解除権
- 元請負人の任意解除権
- 元請負人の催告による解除権
- 元請負人の催告によらない解除権
- 元請負人の責めに帰すべき事由による場合の解除の制限
下請負人の解除権
- 下請負人の催告による解除権
- 下請負人の催告によらない解除権
- 下請負人の責めに帰すべき事由による場合の解除の制限
解除の際の措置
- 解除に伴う措置
- 解除に伴う原状回復
- 工事を施工しない日や時間帯
この項目は、2020年10月に施行された建設業法の改正で追加された項目です。工事を施工しない日と時間帯を記載すれば問題ありません。
あらかじめこれらを決めておくことで、長時間労働を防止するという観点からの規制です。なお、この契約条項に違反してもとくに法的な罰則はなく「工事を施工しない日や時間帯を定めない」との規定もできます。
工事下請基本契約書のひな形(テンプレート)
BOXILでは、工事下請基本契約を検討している場合に利用できる無料のテンプレートをダウンロードできます。契約書を作成する際にはぜひ利用してください。
なお、業界特有のルールや所属団体の方針および業法の改正などに対応するために、適宜リーガルチェックを受け、最新の状態が維持できるようメンテナンスしておきましょう。
工事下請基本契約書に印紙は必要?
工事下請基本契約書に記載された金額に応じた印紙を貼る必要があります。印紙税の額は、平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に作成する契約書については軽減措置が適用されています。
引用:No.7108不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置|国税庁