運送委託基本契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
目次を閉じる
運送委託基本契約書とは
運送委託基本契約書は、物流業務を外部業者へ委託する際に締結される契約書です。物流過程で発生するミスの責任を、物品の発送を依頼する製造業者ではなく、物品を運搬する物流業者に帰属させる目的で作成されます。これにより、製造業者は物流時のリスクを分散・軽減できるメリットがあります。
トラック運送業界では古くから口約束による取引が一般的でしたが、合意内容の認識のズレが生まれたり、トラブル時の責任の所在がわからなくなったりすることがありました。契約の書面化は、将来のトラブルを防いで企業を保護する重要な要素です。取引内容を書面化することによって、運賃や付帯業務および責任の範囲などの条件が明確に認識できる、取引の透明性も向上します。
なお運送の委託に関しては、下請法や物流特殊指定および独占禁止法などの法律が適用されることがあります。適切な契約書は適切な取引を証明する重要な証拠となるため、契約書の作成時には重要事項を漏れなく記載することが大切です。
運送委託基本契約で作成すべき書類
運送委託契約では双方が契約書を保持し、その内容に基づき取引を行うことが推奨されます。なお、運送委託契約で作成される契約書類は、「運送委託基本契約書」「覚書」「発注書」の3種類に分かれるのが一般的です。
運送委託契約の契約書類の種類 | 詳細 |
---|---|
運送委託基本契約書 | ・契約の基本的な枠組みや条件を記載した文書 ・契約の当事者、契約期間、運送の基本条件など・どの取引でも変わりない基本ルールをまとめたもの |
覚書 | ・契約ごとに異なる条特定の条件を記載した文書 ・基本契約には含まれない具体的な事項や条件をまとめたもの |
発注書 | ・各運送ごとの具体的な条件や指示を記載した文書 ・積み込みや荷降ろしの日時や場所および仕様などをまとめたもの ・運送の都度変わる情報を迅速に取り交わすために利用 |
運送委託基本契約書
運送委託基本契約書は、運送委託契約において最初に取り交わす契約書です。繰り返し行われる運送委託契約において、比較的変更されることが少ない基本的な内容だけを取りまとめます。主要な記載内容は下記のようなものが含まれます。
- 荷主と運送会社が遵守すべき事項
- 荷物に損害が発生したり遅延があった場合の対応
- 運賃の改定に関する規定
この基本契約書では、運送会社と荷主の双方が守るべき基本ルールや責任の範囲を明確にし、損害が発生した際の具体的な対応方法を定めます。記載内容はいずれも取引の柱になるような重要事項に限定しているため、双方の権利と義務が明確に把握できる契約書です。
覚書
覚書は、運送委託契約において必要に応じて取り交わされる、基本契約書の内容を補完する役割をもった書面です。覚書の記載事項では、運賃や燃料費、運送以外の付帯業務など、定期的に見直しが必要な内容を取りまとめています。
運送委託基本契約書では取引の基本的な枠組みや条件を定めますが、覚書の記載内容はそれらの詳細や変更が生じる可能性のある事項が中心です。覚書は、内容の見直しや変更があるたびに更新されることが一般的であり、条件の変動にも迅速かつ柔軟に対応できるようになります。
発注書
発注書は、具体的な運送業務を発注する際に使用する文書で、運送の詳細な内容を明確で端的に記載したものを各運送ごとに作成します。記載内容は、積み込みや荷下ろしの数量、作業の日時や場所および仕様など、その都度変わる情報が中心です。
運送ごとの要素だけが書かれた発注書を取り交わすことで、運送の具体的な指示が迅速で明確に伝えられ、効率的でミスのない運送業務が行いやすくなります。
運送委託基本契約書の主な記載事項
運送委託基本契約書における主な7つの記載事項について解説します。
- 運賃
- 付帯業務
- 責任範囲
- 積み込み・棚卸しの日時
- 損害賠償
- 支払方法
- 事故時の対応
運賃
運賃および付帯業務の料金を事前に確約して書面化してから作業にはいることで、委託者からの不当な報酬減額要請を予防します。また、下記のサーチャージが設定できれば、さまざまな外的要因による原価の高騰のたびに受託価格の増額交渉をしなくて済むというメリットがあります。
サーチャージの種類 | 詳細 |
---|---|
燃料サーチャージ | 石油価格の変動に応じた運送コストの差額を補う費用 |
為替サーチャージ | 国際運送において、為替レートの変動による影響を抑える費用 |
季節性サーチャージ | 特定の季節や時期など、運送需要が集中する場合の追加費用 |
付帯業務
付帯業務の内容は、なるべく具体的に記載しておくのが理想的です。
たとえば、「その他運送に付帯する作業」「現場の状況に応じて必要とされる作業」などのように範囲が不明確な記載ではいけません。「検品および仕分けと荷造り、倉庫内や拠点間の移動運搬」のように、具体的に作業内容を特定するべきです。
「ついでに」と依頼される作業も、書面化しておけば拒否もしくは有償の追加作業として受託可能です。契約や受発注内容と実作業が合致すれば、無償のサービス作業が減って労働環境が改善されるため、拘束時間の長期化や過労運転の発生が抑制される効果もあります。
責任範囲
荷物の破損や着荷の遅延など、実際のトラブルが起きてから対応や補償を協議をしていては、解決に時間や労力がかかります。あらかじめトラブルごとの対応や補償ルールを決めておけば、規約どおりに解決するだけで済むことが多いです。
ただし、運送委託基本契約書を荷主が用意した場合には、運送業者に不利な責任範囲になっている場合もあります。契約締結前に内容をしっかりと精査し、「運送会社の責任ではない延着や汚損破損であれば荷主が責任を負う」のように、一方へ過度に偏った内容にならないよう協議する必要があるでしょう。
積み込み・棚卸しの日時
荷主から無茶な着荷時間を指定されたり、荷受けの連携タイミングが悪く長時間の待機が不可避の場合があったりします。このような場合を想定して、あらかじめ距離や荷物の量およびルートなどで「積み込み・積み下ろし時間」に関する基準や仕様書などを定め、共通認識をもっておきましょう。
損害賠償
運送業者の配送ミスや荷主の発注ミスなどにより、当事者間で損害が生じる場合があります。そのような場合に備えて、下記のような損害賠償のルールを定めておきましょう。
- 損害賠償の範囲(故意・過失、通常損害・特別損害など)
- 双方の不可抗力による免責事項
- 損害賠償が請求できる期間
- 損害賠償を請求する基準および計算方法
- 損害賠償金の上限額
- 損害賠償債務の不履行に関する遅延損害金
支払方法
支払方法の規定では、下記について明確に定める必要があります。
- 報酬の金額と計算方法
- 報酬の請求方法(請求サイクルや請求額の通知方法)
- 請求書の発行締め日や請求書の送付タイミング
- 報酬の支払方法(銀行口座、振込手数料、相殺など)
- 会計システムや電子帳票の利用ルール
事故時の対応
運搬中に発生する事故への対応は、荷主と運送業者が連携して対応する必要があります。そのため、下記について定めておきましょう。
- 事故の定義
- 事故報告義務と報告方法
- 連絡不通時の対応
事故の定義
事故の定義を定めます。荷物の破損・毀損・紛失および配送遅延や誤配送および配送不能などが一般的です。
事故報告義務と報告方法
運送中に事故が発生した場合の運送業者の報告義務や、荷物が揃わないなどで積み込みが遅れる場合の荷主の報告義務などを、報告の方法やタイミングとともに明確に定めます。
連絡不通時の対応
当事者間で連絡が取れない場合の対応方法を定めます。事故の原因や度合に応じた有責の判断なども明記しておけば、事故発生時に責任の所在で揉めることも少なくなります。
運送委託基本契約書のひな形(テンプレート)
運送委託基本契約書の作成を検討している場合に利用できるテンプレートを用意しました。運送委託基本契約書を作成する際にはぜひご利用ください。
なお、業界特有のルールや所属団体の方針および業法の改正などに対応するために、適宜リーガルチェックを受け、最新の状態が維持できるようメンテナンスしておきましょう。