店舗賃貸借契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
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店舗賃貸借契約書とは
店舗賃貸借契約書とは、商売をするための事業用の店舗を借りる際の契約書です。事業用の賃貸借契約では、下表のような居住用には見られない規定や項目がいくつもあります。
項目 | 詳細 |
---|---|
使用目的 | ・そこで商売をするために借りる。 ・許認可や融資審査および補助金申請などで適切な用途か見られる。 |
賃料 | ・消費税が課税される(居住用途の家賃は非課税)。 |
造作 | ・店舗や事務所の仕様で自分好みに改修する。 ・間取りや広さなどが許認可などの要件になることが多い。 ・何も仕切られていない空間を借りて目的に合わせて作り上げる。 |
解除条件 | ・契約書に記載した用途とは異なる使い方をした場合。 ・賃貸人の許可なく同業種の企業に転貸した場合。 ・役所や許認可団体から営業許可取消または停止処分があった場合。 |
期間内解約 | ・3か月・6か月・9〜12か月のように、解約通告期間が長い(居住用は1〜2か月前通告が一般的)。 |
明け渡し | ・現状回復(高価な仕様の内装でも解体撤去するのが原則)。 |
その他 | ・屋外広告物規制条例(看板の届出)。 ・工事の前に貸主へ図面や仕様書および消防図面や工程表などを提出。 ・貸主から水道・電気の供給を受ける際の基本料金と従量料金。 ・トイレや給湯室など共用施設の利用料。 |
業種によっては、業種ごとの主務官庁から許認可を受けなければならない場合があります。また、銀行の融資条件や補助金および助成金の申請要件でも契約書内の規定(使用目的や建物の構造および面積など)を確認されます。そのため、契約書の作成段階で「その建物が必要とするする要件に合うのか」や許認可などに適合する規定や文言を付記してくれるのかを確認すべきです。
特約事項に付記すれば契約書の本条項よりも優先して適用することになるため、記載を要する事項は事前に取りまとめて、特約事項もしくは巻末に別添資料として合綴しておきましょう。
店舗賃貸借契約書の主な記載事項
一般的な店舗賃貸借契約書に記載される事項の中でも、特に頻出で重要な項目について解説します。
店舗の表示
賃貸借契約の対象となる物件および、建物内の店舗区画を特定するための項目です。原則として、下記のような履歴事項証明書(不動産登記簿謄本)の記載事項をそのまま書き写しましょう。
<表題部>
- 所在:建物の所在地(住居表示ではなく地番表記)
- 建物の名称:マンション名になるのが一般的
<専有部分>
- 家屋番号:建物に割り振られた固有の番号
- 建物の名称:店舗などで使用する区画の固有番号
- 種類:店舗、事務所、倉庫など(居住用なら居宅)
- 構造:鉄筋コンクリート1階建など
- 床面積:2階部分〇〇㎡など
なお、許認可などの要件の適合判断はこの登記内容を基準にすることがほとんどです。マンションなどのパンフレット面積は壁芯面積基準で不動産登記は内法面積基準が一般的です。同じ部屋でも内法面積の方が数字が小さくなるため、許認可の申請の際は何基準の面積で何㎡なのかを確認しましょう。
使用目的
店舗・事務所・倉庫など、店舗の使用目的を記載します。許認可などで見られる部分であり間違いがあってはいけません。貸主によっては、前使用者が店舗をしていた場合でも「今後は事務所は認めるが店舗は認めない」ということもあるため注意しましょう。
また、建物の登記上の用途が住居の場合でも、住居と事務所が物理的に仕切られて双方が独立した閉鎖空間であれば許可される場合があるため、主務官庁へ事前相談をすることが大切です。
その他にも下記について、事前に貸主へ確認しましょう。
- 使用可能な業種
- ニオイが出る業種(飲食店、動物病院、美容室など)の使用
- 看板や照明の設置
- 入退室時間や施錠の制限
- 店舗区画で法人登記ができるか
- 不特定多数の顧客の出入りが許されるか
賃貸借期間
賃貸借期間は2~3年で設定するのが一般的です。1年未満とすると「期間の定めのない賃貸借」との分類になり、双方からいつでも解約できるようになるため注意しましょう。
また、医療施設や介護施設などでは経営の安定性や持続性が求められることが多いため、主務官庁によって好ましい契約期間がある場合があります。したがって、店舗賃貸借契約の期間は事前に確認してから貸主へ希望を伝えましょう。
なお、更新の規定を設ける場合にはこの項目に記載し、自動更新なら「契約期間満了時に当事者双方から異議申立がないもしくは満了後も使用を継続している場合には自動で更新をする」のように記載するとよいでしょう。また、「契約更新の意思表示は書面で行う」としておけばより安心です。
賃料
賃料については、周辺の類似店舗の賃料相場と比較して妥当な金額かどうかを調べて、少し高い場合は仲介会社に頼んで交渉してもらうのもよいでしょう。
なお、店舗の賃料は消費税が課されます(居住用途なら非課税)。これは店舗の賃料が収益事業の対価とみなされ消費税の適用範囲に含まれるからです。
保証金
一般的に店舗賃貸借契約の保証金は、「月額賃料の6か月分以上」のように居住用よりも高額になります。
解約時に貸主と借主の間で金銭の授受関係が残っていなければ、保証金は契約時に差し入れた金額と同額が返還されます。ただし「敷引金」などのように解約と同時に定額を差し引く契約もあるため、解約時の返還予定金額を確認しておきましょう。
店舗の経費
共益費や水道光熱費などについての規定です。支払期日や支払方法などについても、明確に記載しましょう。
なお、建物によっては受変電設備(キュービクル)があったり、水道の供給は貸主と契約する場合があったりするため、基本料金と従量料金(単価)などの確認が必要です。また、共用トイレや給湯室および来客駐車場や駐輪場などの利用料金もあわせて確認しましょう。
敷金
一般的に敷金とは預り金のことで、保証金という呼称の場合もあります。いずれも契約時に貸主へ差し入れて、万が一の滞納や破損の復旧費などを差し引くためのものです。
店舗の改修
契約している専有部分(店舗内)の改修工事であっても、事前に貸主へ通知して承諾を得ます。法令に反しないように「建物の仕様が変更されないか」「耐震構造が弱まる工事ではないか」「消防設備の追加が必要にならないか」などを、改修工事前に管理会社が確認する必要があるからです。
そのため、改修工事の見積もり段階では貸主から建物の竣工図面やその他の仕様書を借りて、法令に適合した工事を確認しておきます。そして、工事の通知と同時に図面や仕様書および消防図面や工程表などを提出して、改修工事の内容を貸主へ伝えます。
解除
契約違反や寝台関係の破綻を原因として、賃貸人が賃借人へ無催告で解除できる状況を列挙します。
この無催告解除要件は、借主が貸主に著しい不利益を与えるような状況を指しており、1か月分程度の軽微と判断される滞納では即時解除はできないとされています。
原状回復
借主が契約の解約に伴って店舗を貸主へ返還する際には、借りたときと同様程度の状態に戻すのが原則です。たとえ、高額をかけた内装や設備で劣化の程度が低い状態であっても、原則は解体撤去する義務があります。
場合によっては「現状有姿」での返還に貸主が承諾する場合がありますが、現存する設備などに関する借主からの買取請求までは受諾してくれないかもしれません。
店舗賃貸借契約書のひな形(テンプレート)
BOXILでは、店舗賃貸借契約を検討している場合に利用できるテンプレートを用意しました。店舗賃貸借契約書を作成する際にはぜひご利用ください。
店舗賃貸借契約の注意点
店舗賃貸借契約で特に気をつけるべき注意点について解説します。
法令上の制限
店舗を構える前に、法令上の用途制限を受けないかを調べる必要があります。この法令の制限には原則がありますが、自治体によってさらに規制が強化されている場合があるため、市役所内にある建築指導課など用途制限や建築を担当する部署で相談すると間違いがないでしょう。
また、用途地域がクリアしていて出店ができる業種だったとしても、店舗の間取りや仕様や外観の形状および色彩などが、自治体の条例・建築基準法・消防法などの制限を受ける場合があります。
居抜き物件の設備
借りる時点の現状が前賃借人が施した内装や設備がそのまま残った状態の場合がありますが、この状態を「居抜き」といいます。
居抜き物件で注意すべきなのは、現存する設備などが下取業者の搬出待ちの状態であって、新しい借り手が使用できない状況であることです。また、無償で自由に使用できるとして入居しても、設備が故障して直したり不要品を処分したりなど、思わぬ費用がかかる場合があります。
また、解約時の原状回復で、回復する現状は全て撤去したスケルトン状態なのか、借りたときと同様に内装や設備はそのままの居抜きで引き渡すのか、詳しく聞いておかなければトラブルの元になってしまいます。
原状回復義務
契約が終了して店舗を貸主に返還する際には、借りたときと同様のスケルトン状態にするのが原則です。改修費用がなくて原状に戻すことができない場合には、預けていた保証金や敷金は貸主の一存でその費用に充てられて、残る金銭があれば借主へ返還されます。
原状回復の基準の参考として、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに関する参考資料(令和5年3月)」を基準にするとよいでしょう。
中途解約について
事業をやめる場合や新たな店舗へ移転する場合に、店舗賃貸借契約書を契約期間の途中で解約をするケースがあります。しかし解約予告期間の定めがあるため、即時撤収する場合でもこの規定を準用して、解約予告期間分に相当する賃料や管理費などを支払えば即時退去できる場合があります。
ただし、一定期間内の解約で違約金がかかる場合や、敷引金の差し引き割合が大きい場合があるため注意が必要です。また、解約に伴う現所回復義務は免除されないため、少なくとも原状回復の工事期間中は契約状態が続くことになるでしょう。