昨年に続き2回目となる Inside Sales Conference が、6月5日、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された。参加企業はCRM・MA、オンライン商談、営業支援などのツールやサービスを提供するベンダー28社。3会場で行われたセッションでは、事前申し込みで満席になる会や、立ち見が出る会もあり、来場者の関心の高さが伺えた。
本記事では、SaaS比較サイト「BOXIL SaaS」および弊メディア「ボクシルマガジン」、インサイドセールス支援の「BALES」を運営するスマートキャンプCOO阿部による、インサイドセールス立ち上げのポイントに関する解説、そしてドコモ・ヘルスケア、マクニカの2社の導入事例が紹介されたセッションをリポートする。また、セッションで使われたスライドは全ページダウンロードできるため(本記事末にて閲覧可能)、本記事とあわせて参照してもらいたい。

インサイドセールス立ち上げ時の初期設計はどうする?【スマートキャンプ】

同セッションは「インサイドセールスで重要な初期設計~決めておくべき3つのポイント」と題して行われた。最初に弊社COO阿部が登壇しインサイドセールス市場全体と3つのポイントについて解説した。
阿部は SaaS業界レポート の執筆、事業・人事戦略の策定、インサイドセールス支援サービス 「BALES(ベイルズ)」 の事業立ち上げなどを担当し、2019年度セールスフォースユーザー会インサイドセールス分科会会長も務めている。
インサイドセールスは黎明期
阿部:まずは、インサイドセールスを取り巻く環境を簡単に確認しておきましょう。
Googleトレンドでキーワードの検索ボリュームを見るとわかりやすいですが、インサイドセールスが日本で盛り上がってきたのはここ5年。中でも本当に盛り上がってきたのは、ここ3年のことなんです。
また、セールスフォースさんの資料によれば、インサイドセールスの認知度は企業規模に関わらず約3割程度。普及率を見ると、全体の平均は10%未満とまだまだ低い。
つまり、インサイドセールスは黎明期。何のためにやるのか?どんな施策をすればいいのか?よくわからない人が多く、⽬的や施策などは⽇々アップデートされる⼿探りのフェーズだと言えます。
初期設計で決めておくべき3つのポイント
阿部:手探りの時期と言いましたが、弊社は2017年9月からBALES(ベイルズ)というインサイドセールス支援のサービスを立ち上げ、これまで100社以上の支援を行ってきましたので、知見はたまりつつあります。
そこで、初期設計で決めておくべきポイントを3つあげました。目的、施策方針、そしてKPIです。
何を「目的」として立ち上げるのか?
阿部:まず、インサイドセールスを立ち上げる目的について考えてみましょう。
これまでは、マーケがインバウンドリードを獲得し、フィールドセールスがアウトバウンド、リードに対するアプローチ、そして営業にも出る。フィールドセールスは非常に忙しく、せっかくとったリードを放置してしまうなど、効率的な営業ができない状態が多く発生していました。
インサイドセールスを導入すると、BDR(Business Development Representive)でアウトバウンドリードを獲得し、SDR(Sales Development Representive)で獲得したリードを商談化と役割分担ができるため、フィールドセールスは営業に集中して取り組めるようになります。さらに営業はオンラインセールスを取り入れることで生産性の向上を図れます。
選任部隊がコールするので、フィールドセールスが忙しい中でやるよりも生産性は高く、SDRプロセスで専任部隊が新規、失注、休眠リードを追って、商談を取りこぼすことが少なくなる。Web商談で移動時間を短縮でき、1日の商談件数を大幅に増やせることも大きなメリットですね。
海外ではインサイドセールス=SDRと考える場合が多いようですが、BDR、オンラインセールスとあわせた3つを整えていったほうが、施策はたてやすくなります。
では、自社の目的をどこに置くべきなのか。
まず、リードと商談件数が十分にないと、オンラインセールスをやる理由はそもそもないですよね。リードがないのであれば、まずはリードを取りに行く。商談件数がないのであれば、商談を作るためにSDRのプロセスを設けるべきだと言えます。
自社の状況に合わせて、リードを増やしたいのか、商談を増やしたいのか、商談を増やすための生産性をあげたいのか、この目的を定義してインサイドセールスをはじめるのが非常に重要だと思います。
「施策」をどう組み立てるか
阿部:次に、インサイドセールスの施策の考え方について説明します。
オンラインセールスには、商材やサービスによって相性があることを理解してほしいと思います。マップの軸としては、サービス条件と市場攻略の難易度を置いています。
基本的に単価が安い、導入がラク、影響する範囲が限られているほうがオンラインセールスはやりやすいです。たとえば、月額1万円の商材ならば、Web商談で決めてしまおう、となりえますよね。単価が高くなればなるほど、フィールドセールスでの商談が必要というデータもあります。
また、市場の攻略の難易度でいうと、新しすぎる製品だと理解してもらうのが難しいので、オンラインセールスは難しい。対面やセミナーで理解度をあげてから導入するというのも大事になってきます。さらに、顧客の文化としてWebに対するリテラシーが低い場合も、Web商談はハードルが高くなります。
たとえばAセグメントならば、オンライン商談でクロージングしていける領域で、BDRとSDRはそもそもオンラインの商談を取りに行く、というところを目標に動いていいと思います。
一方で、Dセグメントは、オンラインセールスは非常に難しく、ナーチャリングにも時間がかかります。アウトバウンドで情報を取りに行くときも、まずは情報提供許諾からとりはじめ、セミナーに来てもらい、セミナーで理解をしてもらったら、オンラインまたは訪問の商談を組む。そして訪問でクロージングしていくといった段階が必要になるでしょう。
自社の商材はどこにあてはまるのかで、施策の組み方は変わっていきます。
THE MODELを基本に、KPIを設計していく
阿部:最後に、KPI設計について。
まず、基本としてこの「THE MODEL」を頭に入れておいてください。THE MODELは、セールスフォース・ドットコムが提唱した組織営業のベストプラクティスモデルで、マーケティングからカスタマーサクセスまでを各部門ごとに分担し、それぞれがKPIを持ちながら売上目標達成のために連携をはかっていく手法です。
最終的にどのくらいの売上継続をとるために、今の段階でどれくらい受注しなくてはならないのか、そのためにはどのくらい商談数を作らなくてはならないのか、リード数はどうか。各部門のKPI設計は、売上目標をもとに逆算して置く必要があります。
また「%」を仮置きすることも、非常に重要です。何%の確率で商談化するのか、その%を置かない限り、PDCAは回せませんよね。
たとえばインサイドセールスの商談化率を20%と仮に置いたとします。フィールドセールスの受注率は30%、月の継続率は97%とした場合、インサイドセールスはどのくらいやるべきなのかと検討が必要です。
自社HPからリード獲得した場合は7~8割で商談化できますが、広告やアウトバウンドだと割合はもっと低い。チャネルが変わってきたときに商談化率も変わりますので、その目線も入れておくべきですね。
そして最後に、結果のKPIを追うということ。ここをちゃんと追わないと、インサイドセールスで商談を作っても、見込みの薄い商談を作りかねない。
実際にインサイドセールスが作った商談が、フィールドセールスにとってもいい商談かどうか。案件化率も数字として置き、そこからどのくらいの受注が出るかを見る必要があります。フィールドセールスが見ている指標も、インサイドセールスは見ていくべきだと思います。
KPI設計のポイント3つ
- 売上⽬標から逆算でKPIを設計する
- %のKPIを仮置きして、どんどんPDCAを回していく
- 結果のKPIを追うことで、部⾨間の納得感を作る

インサイドセールス導入の稟議をどのように通したのか?【マクニカ】
次に登壇したのは、マクニカのコーポレートマーケティング室 室長の堀野史郎氏。
堀野氏は、エンタープライズ向けパッケージソフトウェアやクラウドサービス事業者でのマーケティング領域におけるマネジメントに長く従事。マーケティング職種としては、PR、AR、IR、ウェブマーケ、フィールドマーケ、プロダクトマーケ、チャネルマーケ、インサイドセールスを経験している。
セッションではチーム立ち上げの経緯や、稟議提案の工夫などについて説明した。

インサイドセールス立ち上げは、3名のチームで
堀野氏:私は、マクニカのコーポレートのマーケティングの責任者と、マクニカの100%出資子会社マクニカネットワークスのマーケティング部門の両方を担当しています。
今日はマクニカネットワークスで取り組んでいるインサイドセールスの事例についてお話をさせていただきます。
マクニカはもともと半導体の商社で、その後ネットワーク事業、サイバーセキリティなどと広げてきました。現在はAIやIoTを行う事業、ロボット事業など、幅広い事業展開を行っています。
また、マクニカネットワークスは、ITの商材、シマンテックさん、マカフィーさんの一次代理店としての役割を果たしており、日本に初めてくるような商材を扱っています。
プロダクトライフサイクルで言えば、初期段階の製品もあれば、完全に広域化している製品もある。マーケティングとしては、製品によって戦術を変えていかなくてはならないという状態です。
そんな中で、昨年からSMB(Small and Medium Business)市場を開拓をしようという話が出て、営業側からアサインされた2名とチームを作りました。また伴走して支援してくれる会社を探し、スマートキャンプさんにもご支援をいただきました。
稟議は「リードマネジメントの仕組み立ち上げ」と提案
堀野氏:導入前はメールやセミナー案内を送ったり、展示会を開いてリードを獲得し、リストをエクセルで作り営業に渡す。社内に情報がない場合は、キャンペーンごとにアウトバウンドの会社に発注していました。非常によくあるタイプのやり方だったと思います。
そのタイミングでフォローしなかったリードはデータベースに入り、セミナー案内を出すだけという使い方になっていたので、もったいないですよね。そこをきちんとフォローできる仕組みを作りたかった。そこで、インサイドセールスを導入しようと考えたわけです。
しかし、社内での稟議はインサイドセールスを立ち上げるという建て付けではなく、リードマネジメントの仕組みを立ち上げるという形で提案しました。
MAツールはマルケト、データクレンジングでFORCAS、セールスフォースもいっぺんに入れて、かつインサイドセールス部門も立ち上げますという内容です。
テクノロジーを導入する際、「それでどのくらい利益が上がるのか」という短期的な話になってしまいがちだと思うんです。でも、本来は恒久的に組織をどうデザインするかを考えることが重要だと思います。そこをふまえて提案し、ステークホルダーを巻きこんで理解を深めていきました。
チーム体制とオペレーション
堀野氏:また、チーム体制としては、これまでインサイドセールスの経験がないメンバーがどうやってスキルを身につけるのかというという点が課題でした。そこでSPIN研修、コールスクリプト、FORCASなどを入れ、今では計画した数を自立してまわせるようになってきています。
オペレーションは、ターゲットの定義、ランクの定義、そしてMAコンテンツの設計がポイントとなりました。
実際にはやれている部分とまだやれていない部分がありますが、幸い弊社はマーケティングと営業が同じ方向を見て進んでこれたこともあり、この半年でなんとかカタチになってきたところです。
1か月のスピード立ち上げを実現【ドコモ・ヘルスケア】
最後に登壇したのは、ドコモ・ヘルスケア セールス・マーケティング部 課長 辻浦 秀将氏。
辻浦氏は、2000年にオムロンに新卒で入社し、オムロンヘルスケアにて営業、経営戦略、商品企画に従事。2018年よりドコモ・ヘルスケアで、BtoB領域の健康経営向けサービスのマーケティングを担当、インサイドセールスの立ち上げを行ってきた。
検討から約1か月というスピードでインサイドセールスを立ちあげた辻浦氏。短期間でどのような成果があったのだろうか。

「MAツールを入れればうまくいく」は間違いだった
辻浦氏:実は私自身、インサイドセールスという言葉を知ったのは昨年12月でした。Inside Sales Conference2018に上司が参加して、その報告を聞いたのがきっかけです。ご来場のみなさまでもっと長く取り組まれている方もいらっしゃるとは思いますが、弊社はスピーディーに立ち上げができたという事例として、参考になる部分があればと思います。
ドコモ・ヘルスケアは従業員数50人と小さな規模なので、昨年までは選任の営業部隊がおらず、マーケティングと営業の連携もとれていませんでした。また、健康経営に関するサービスを提供していますが、お客様は企業、健康保険組合、自治体などさまざまで、サービスを販売するのが非常に難しい。そこを、インサイドセールスを使って解消していきたいと考えました。
具体的な経緯としては、まず2018年の4月にマーケティング部門を立ち上げ、8月にMAツールを導入しました。しかし12月にこれまでの取り組みを振り返ってみたときに、愕然としたんです。「リードリストにとりたいお客さんがあまりいない」「問い合わせや営業案件に全然つながらない」。
いろいろな先進企業さんにヒアリングをしたところ、MAツールを入れただけではうまくいかない。MAとインサイドセールスはいわば両輪で、そのふたつをいかにうまく回すかが大事だと教えていただきました。
そこで、2019年1月にはじめてスマートキャンプさんにお会いし、2月からインサイドセールスをはじめます。
弊社は自治体や健保さんがお客様なので、Web上での情報収集よりも、業界内の横のつながりや飛込営業で情報収集されている方が多かったんです。また、企業と違い年間の予算スケジュールがあるので、入札などの適切なタイミングで営業活動するという仕組みもできていなかった。
さらには、人材が不足していたこともあり、せっかくのリードに対しアプローチをせず、放置してしまうということもありました。
そこで、インサイドセールスでアウトバウンドコール、新規・休眠リードへのコール、そして定期アプローチという3つを進めることになりました。
アウトバウンドコールは適切なタイミングを見極め
辻浦氏:まずはアウトバウンドでリードを獲得し、コールをすることでMAでナーチャリングを続けるのか、時期をあらためてフォローするのか、訪問し受注確保につなげるのか。インサイドセールスの選別をおこないました。
具体的には、アウトバウンドコールを2~5月にかけて3段階にわけて実施しました。自治体は4月から入札がはじまるので、優先順位が高いところからスタートしたというわけです。次に、3月に優先順位の高い健保にコール。そして5月に民間企業という流れです。
企業は、代表電話にかけても目的としている部署につながりにくいという話は聞いていたので、ターゲットをホワイト500のリストで絞り、認定制度の変更や制度変更のセミナー紹介などをしたところ、思った以上に反応が良かった。
適切なターゲットに、適切な形でアプローチをすれば、効果があるんだと実感しました。期間は短いですが、その中でも自治体は入札が5件、健保で受注1件、民間企業からもセミナー申込を獲得できました。
新規・休眠リードへのコールで、マーケと営業が一体に
辻浦氏:次に、新規・休眠リードのコールについては、MAにすでにあるリードのスコアリングと会社の規模など、いくつかの条件を見つけてヒアリングをしました。
弊社の場合、業界は違うし、サービスは多い、健保向けに出しているサービスを企業が使ったり、逆もあったりするのでとても複雑なんですが、スマートキャンプさんにいろいろなスクリプトを柔軟に組み合わせてコールして頂きました。自社のノウハウだけでは、なかなかできなかったと思います。
MAのエンゲージとあわせての効果としては、アクティブ率は前年平均20%だったものが、50%まで改善。案件数も増加しました。
また、私個人としての実感として嬉しかったのは、営業の意識改革につながったという点ですね。昨年までは、見込みの低いリードを渡さないでほしいとか、マーケが営業に対してせっかく獲得したリードなのにほったらかしになっているとか、営業とマーケの関係は良いとは言えませんでした。
しかしきちんと線引きしたリードを渡せるようになると、営業からはもっとリードを渡してほしいという声が出るようになり、マーケと営業が一体となって取り組める雰囲気ができてきたんです。定量的ではないんですが、これはすごくいい成果だったと思います。
今後は、セールスフォースを入れ効率をあげていくことと、リサイクルにはまったく着手できていないので、進めていきたいと思っています。
3社の講演を通して繰り返し聞かれたキーワードが、部門間の連携だった。マーケティングと営業、あるいはインサイドセールスとフィールドセールス。それぞれが専門領域に特化するからこそ、綿密な連携が欠かせない。
インサイドセールスの初期設計で決めておくべき3つのポイント「目的」「施策方針」「KPI」とともに、改めて、導入効果を最大化できる体制構築についても検討が必要だということを念頭に置いておきたい。







