テレワーク支援事業をコンサルが解説 - 現場からみる課題と運用事例【セミナー後編】
※この記事は、5月28日に開催したオンラインセミナー「明日からできるテレワーク入門)」の内容をまとめたものです。BOXIL公式YouTubeチャンネルでは再編集版の動画を公開しています。
具体的なツールを解説した前編はこちら>
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後編となる本記事では、ツールの活用事例を解説する対談、および経済産業省の担当者を招いて助成金について解説するセッションのレポートを掲載する。
テレワーク運用の実態【中小企業×スタートアップ】
セッション3では、中小企業およびスタートアップ企業のテレワーク事例を紹介。テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利をモデレーターに迎え、全従業員がフルリモートで働くキャスターSPO事業部マネージャーの高見明広とディスカッションを行なった。
【モデレーター】
株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利
北海道北見市で(株)ワイズスタッフを設立。全国各地に在住する約110人のスタッフ(業務委託)とチーム体制で業務を行っている。2008年には(株)テレワークマネジメントを設立。企業の在宅勤務の導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。
【ゲスト】
株式会社キャスターSPO事業部マネージャー 高見明大
生まれは横浜市、現在は宮崎市に在住。インサイドセールス、カスタマーサポートの業務委託を主力にしている事業部を管掌。北海道から沖縄まで、点在している約40名をマネジメントしている。
コミュニケーションとマネジメント、どうしてる?
高見 キャスターは2014年創業、全従業員750名がフルリモートで働いてる会社です。主にアウトソース事業を手がけており、秘書、経理といった在宅派遣など、リモートワークを軸とした人材事業を展開しています。よろしくお願いいたします。
田澤 よろしくお願いします。テレワークマネジメントを設立して12年近く経つのですが、ようやくテレワークのコンサルティングニーズが増えてきたかなと考えているところです。いろいろなツールを使っては捨て、使っては捨てを繰り返すなかで、現在に至ります。
私が一番興味があるのがコミュニケーションとマネジメントなんですけれども、キャスターさんはどうされていますか?
高見 顧客とのやりとりはSlackだったりチャットワークだったりと多角的なんですが、社内はチャットワークで統一しています。業務、案件、人材のレイヤーごとにグループを分けていて、テキストだけだと伝わりにくいところはビデオチャットでレクチャーを行う、といった使い分けをしています。
マネジメント系はスプレッドシートです。テレワークで社員がサボってしまうんじゃないかという懸念があると思うんですけども、生産性管理をするシートを徹底して、しっかりと成果を上げているようであれば途中の結果をあまり気にせずにやっています。
成果主義に近いんですけれども、やはりいきなりパフォーマンス発揮できない方もいらっしゃるので、成果がある程度一定の基準に達するまではマネジメントを泥臭くやっています。
田澤 時間管理はどうされてるんですか?
高見 出退勤の時間管理にはKING OF TIMEを導入しています。休憩などはチャットワークのグループ内で。オフィスにいるのと同じような感じですね、「今から行ってきます」みたいな形で残してもらっています。
緊急テレワークはWeb会議でカバー
下図は、通常のオフィス勤務で生じるコミュニケーションとマネジメントを示したものだ。これに、テレワークマネジメント社が使用しているツールを当てはめてある。緊急対応の段階では、これらすべてをWeb会議ツールで代替できる。
田澤氏のクラウドオフィスには、社長室や応接室、会議室、休憩室があり、従業員はリアルオフィスの所在地に応じた島で業務を行なっている。物理的に1,300km以上離れていても、“机を並べて”仕事をする格好だ。
田澤 チャットはいろいろ試した結果、少数派かもしれないのですが、 Facebookのワークプレイスを使っています。コンサル会社ですからお客さんもいっぱいいるし、いろんな案件があってチームで動くものですから、チャットじゃごちゃごちゃになって無理だと悲鳴あげちゃったんです。もう少し体系的にコミュニケーションができるようにと、選んだのがワークプレイスです。
高見 タスク管理は自社内のツールで「ワークホース」というものを使っています。タスクごとにチケットが発行されて、作業者、管理者ともに「完了」を確認したらタスクが完了するイメージです。
田澤 チャットワークにもタスク管理機能がありますが、それではなく、自社ツールを使っているんですね。
高見 はい。社内の者が、依頼をしやすい、受けやすいシステムというものを使っています。
監視?つながり?苦悩する就業管理
テレワークマネジメント社が販売しているF-Chair+は、「着席」「退席」ボタンをこまめに操作することで、従業員の勤務時間をより細かく“見える化”する勤怠管理ツール。しかしこれが「物議を醸す」のだという。
田澤 本人が着席してから退席するまで、つまり賃金が発生している間は、PCの作業画面をランダムにキャプチャして上司が見れるという機能をつけているんです。
そうすると、「部下を信じていないのか」「監視社会はだめだ」とか言われたりするんですけれども、私は程よい管理が必要だと思っています。管理側も離れていると不安だし、在宅のメンバーは「こんなに一生懸命してるのに見てもらえてないのか」とか、「誰も見てないとダラダラダラダラ仕事をしてしまう」とかいろいろあるので。どうでしょうか?
高見 私どもはもっと人間性的に見に行くということをしておりまして、私の事業ですと「テレアポで1件取れたよ」と報告があると、チャットのグループで大々的に褒めてあげる。ビデオチャットの中でも、見られているという意識づけはなされるように工夫しています。
田澤 成果だけを見てしまうと生産性が見えづらくなってしまうので、時間管理をきっちりとして、ちょっと抜けるよという分もきっちりと減らす。時間当たりの生産性を評価できるような仕組みを作っていきたいと、F-Chair+を使っています。
高見 弊社も完全に成果だけで管理しているわけではなく、「10%ルール」みたいなものを設けていて、成果物が100%へ行く前に一度見せてもらい過程を追うようにしています。
田澤 10%ルール、面白いですね。
高見 そうですね。通常業務でも同じで、例えば会議資料をお願いしたとして、100%に近い進捗で見ると「え、全然違う」みたいなことがあるので、10%くらいできたら見せる、を基本としています。
田澤 ゆるくても仲間がいるとか、誰かが見ているという意識は大切ですよね。Zoomなどで接続するのはあくまでも「仮設」なんです。アンダーコロナを仮設で乗り切り、私どものように皆がいると感じる事の良さを知ってもらえたら、本格的なツールを用意して。アフターコロナでは、リモートオフィス上で皆と交流する世界になってほしいと思います。
Afterコロナとテレワーク
田澤 苦節20年、盛り上がりのないなかでテレワークのコンサルをやってきたんですが、Beforeコロナでやっと注目されて、それでも今までの働き方を引きずってきたと思います。Underコロナでとにかくやってみようとツールを使い始める人が増え、今度はWithコロナで、仮設ツールを本格的なツールに移行するといった動きがあります。
今まで社内でやらなければと思っていた仕事でも、テレワークでできるなら他の人にお願いしようとか今までと違ったことが起こって、気がついたら社員はメインの仕事だけバリバリやる。Afterコロナでは、労働力の平準化っていうんですか、いろんな人が働ける社会になるというのが夢です。
高見 テレワークでは、テキストだけだと緊張してくるので、動画でコミュニケーションをとるのは重要だと思います。また仕事外の場、休憩室などを用意したり、部活動を通して横軸のつながりをつくったりして部外のコミュニケーションを促進し、会話を柔らかくする工夫をしています。
田澤 働く場所を選ばずに一緒に仕事ができて、時にはオフィスにいて時には家にいて、みたいな時代が来そうですよね。当たり前にテレワークする時代。
高見 そうですね。社長も部課長もプレイヤー含めて全国に散らばっているので、オフラインで会うっていうのがめったにない会社です(笑)。
田澤 うちもほぼ全員がテレワークなので、年に一回だけみんなで飲み会をしようと決めています。ただ4月にできず、Zoom飲み会になったんですけど、楽しかったですね(笑)。やはり、いろいろなツールを積極的に使って自分に合ったやり方を探し、テレワークができる会社をつくりあげていくことが、これから一番重要なのかなと思います。
テレワークの支援策【経産省×日本テレワーク協会】
テレワーク導入にはICT機器やクラウドサービスの導入が欠かせない。しかし、費用やツール選定の負担が大きく足かせとなっている。そこで、経済産業省ならびに日本テレワーク協会の担当者をゲストに、国が実施している助成事業を解説した。
モデレーター
スマートキャンプ株式会社 取締役COO 阿部慎平
新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の戦略プロジェクトに従事。2017年3月にスマートキャンプに入社。SaaS業界レポートを執筆し、累計4,000人以上のダウンロードを達成。インサイドセールス支援サービス「BALES(ベイルズ)」の事業立ち上げなどを推進。2018年4月より取締役COO。
ゲスト
経済産業省 商務情報政策局 大西啓仁
1985年通商産業省(現 経産省)入省。同省生活産業局総務課、繊維製品課公益財団法人日本ファッション協会事務局の創設・事業化を担当。中小企業庁経営支援課、商務情報政策局サービス政策課などを経て2017年7月よりテレワーク支援に取り組んでいる。
ゲスト
日本テレワーク協会 客員研究員 奥林美智子
メーカー勤務を経て2015年おくばやし労務サポート設立。働きやすい職場づくりをめざす中小企業に向けてテレワーク導入を支援し、2017年7月東京テレワーク推進センター開設以降、同所の専門相談員を務める。「人事実務」(ワーケーションによる働き方の柔軟化と労務管理)、「労働新聞」「企業実務」など執筆多数。
阿部 セミナー冒頭でお話したように、テレワークに取り組んでいる企業は約4割。6割はまだ、というところです。やはり業務内容、セキュリティ、社内の体制、PCやスマホといった機器、ネットワークに課題があり、支援が求められるということで、補助金を希望する話をよく聞きます。このセッションでは、業務、体制、セキュリティ、補助金、この4つに分けて話したいと思います。
テレワーク未実施企業の課題は?
阿部 奥林さんのところへはどういったご相談がくるでしょうか。
奥林 まったくテレワークをしたことがない中小企業ですと、想像がつかないんですね。今まで通りのやり方を崩したくないという人間の気持ちがあるので、新しいところに踏み出せない会社が多い印象です。企業へ伺って、業務の棚卸し、整理をして、「テレワークが可能なもの」「ツールを入れれば可能なもの」「不可能なもの」に分けています。
阿部 業務の棚卸しから始めるんですね。ちなみに、どういう領域の相談が多いですか? 例えばバックオフィスだったり、営業だったり、いろいろあるかと思います。
奥林 コロナ騒動の前は、比較的取り組みやすいオフィス業務の方が多かった印象ですけれども、今回は職種を問わず広がっていますね。
阿部 なるほど。店舗、建設など、現場が関わってくるような業種も増えていますか?
奥林 そうですね。現場からは離れられないですけれども、現場へ向かうまでの間、自宅で事務作業を行なってから現場へ行く方も出てきて、テレワークの導入が増えている印象です。
経済産業省のテレワーク導入支援事業
阿部 大西さん、経産省としては実際にどういったご支援をされているでしょうか。
大西 基本的にはツールなどの設備導入について支援しています。ほか、東京五輪時の混雑を緩和するため、テレワーク・デイズという運動も行なっています。
中小企業の皆さまにとって、コロナ禍は明日の資金をどうするかという話です。そういった中で、テレワークを強いられるということは非常に大変だと思うんです。スタートアップ企業やIT事業者はIT化が進んでいるものの、下町の中小企業なんかはなかなか実施できないという状況で。中小企業の約半数が努力されているというのは、本当にものすごいことで、感謝したいと思っています。
LINEのアンケートより、テレワークを実施できない理由をみると、いろんなジャンル、いろんな項目があります。役所に置き換えてもほぼ当てはまるという状況なんですが、大きく4つの対応方法があると考えています。
大西 図で網掛けにした3項目が、準備中の「メンター制度」で支援しようとしているところです。「どうすればよいかわからない」を支援し、助成策を使って実際に導入していただくイメージです。
阿部 奥林さんがご支援されている中で、こういった施策の活用実態はいかがでしょうか。
奥林 テレワーク導入にあたり、「どういったところから始めたらいいのか」「うちでテレワークなんてできるの?」と第一声でおっしゃる中小企業の方が多いです。
まず考えなくてはならないのが、意識。できないという思い込みが経営者の中にあったり、労働者の意識が邪魔になっているケースもございます。あとはICT環境。経営陣だけで考えてもなかなか答えが出ず、担当者も「やりなさいって社長に言われたんですけれども」とお困りになって相談いただいています。そういった企業の方へ向けて、厚生労働省と、東京都のコンサルティング施策を紹介します。
奥林 まず厚生労働省は全国を対象にコンサルティングを行なっています。1年間に5回、私どものような者が無料でお話を伺わせていただくものです。
阿部 すごいですね、5回も相談が無料でできるというのは。一回あたり1時間とか30分とかいただけるんでしょうか。
奥林 基本的には1時間なのですが、会社のお話を伺うだけでも1時間かかってしまうので、まずは問題をお伺いして、2回目、3回目で解決する、というのを、方法を一緒に考えながらお話しています。
これから申請できる、助成金
阿部 改革にはやはりお金がかかるということで、助成金はどうでしょうか。
奥林 厚生労働省の助成金としては、通年で「働き方改革テレワークコース」というものが出ています。コロナの影響で300万円まで増額されました。
昨年までは、残業時間の抑制や有給休暇の取得促進といった目標を達成しないと助成金がおりないという仕組みだったのですが、ハードルが高いものが撤廃されております。今回に関しては、対象者の方が最低でも1回はテレワークを実施した、という実績をもとに助成金が申請できます。
阿部 PC、タブレットの購入費について、厚生労働省の施策はバツになっていますが、東京都の助成金を活用するとそこも出していただけるんですか?
奥林 東京都の助成金はPC、タブレット端末が助成金の対象となります。1台あたり10万円までですとか、細かい条件があったりもします。厚生労働省のものは、PC、タブレットが対象から外れているんですけれども、シンクライアント端末用のPCなどは対象となっております。
先に導入機器を申請し決定してから導入できるという流れになるので、慌てて買わないで、まず助成金の書類を出してくださいというのが注意点です。
東京都のはじめてテレワークについては、コンサルティングを受けていただいた企業様が対象となっているというところにご注意ください。
IT導入補助金は4分の3まで補助率拡大
阿部 IT導入補助金についても伺いたいなと。
大西 従来はシステム導入費のみ支援していたんですけれども、令和元年度分はレンタルに限って機器導入も支援をいたします。補助率も2分の1だったんですが、4分の3まで拡大しています。
>コロナで追加「特別枠」とは - 2020年度IT導入補助金の詳細はこちら
また総務省では、「テレワークマネージャー相談事業」を実施しています。全国の商工会議所や社労士会の事務所が拠点となっており、主にICT面のアドバイスを専門家から無料で受けられます。
大西 具体的に導入ツールが決まったら、「中小企業デジタル化応援隊」もお使いいただけます。100%完全かというとなかなか難しいかもしれませんけれど、事業者の背中を押せるような形の支援をご用意していきます。
それでもできない場合は、電話や FAXでやり取りをして、できるだけデジタル化へチャレンジしていただきたいと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。
阿部 2人の話を伺っていて、しっかり業務を棚卸しした上で、やってみようと考える意識のところがすごく大事だなと思いました。まずは相談してみて、支援策を活用しながらテレワークにチャレンジするのがよいのではないかなと思います。
前編では具体的なテレワーク向けツールを解説>
※2020年6月15日更新:YouTube動画URLを掲載しました(ボクシルマガジン編集部)