Chromebook出荷台数10倍に急増、Windowsアプリ対応で企業導入進むか
コロナ禍でPC市場が好調
PCを使いこなせない層というと、企業の中堅以上になってからPCと出会った中高年をイメージしてしまいます。しかし、最近は高性能かつ多機能になったスマートフォンばかり使う影響か、PCを苦手とする若者も珍しくないそうです。その影響か、しばらく前からPC市場は縮小傾向にありました。
ところが、2020年1月に「Windows 7」がサポート終了を迎え、現行OSである「Windows 10」に対応したPCへ移行する需要が発生したため、PC市場は久しぶりに活況を呈しました。もっとも、Windows 10移行バブルは一時的なもので、2020年2月になると一気に落ち込んでいます。
そのまま低迷するかと考えられていたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが思わぬ需要をもたらしました。テレワークによる在宅勤務や、オンライン授業による自宅学習をする人が急増し、予想に反してPC出荷台数は増加に転じたのです。
Chromebookの出荷台数が10倍に
COVID-19に翻弄(ほんろう)されているPC市場ですが、とりわけ「Chromebook」の状況は驚くような変化を見せました。MM総研の調査によると、Chromebookの国内出荷台数が2020年は前年比10倍にもなります。
出荷済ノートPCの13%がChromebook
MM総研の集計では、2019年におけるChromebookの出荷台数は15万台でした。これは、1,130.4万台というノートPC国内総出荷台数のわずか1%に過ぎません。それが、2020年には10倍以上の157.1万台へ急増し、1,196.5万台というノートPC全体の13%を占める規模に成長するというのです。
2019年末時点で24.5万台にとどまっていたChromebookの稼働台数も、2020年末には181.6万台へ増えると見込みました。
GIGAスクール構想が起爆剤
Chromebook好調の要因として、MM総研は文部科学省の「GIGAスクール構想」を挙げています。
GIGAスクール構想とは、全国の小中学校で教育用の通信ネットワークやクラウド環境などを整備すると同時に、児童および生徒に1人1台のPCやタブレットといった端末を割り当てる文科省の計画です。端末のOSとしては、「Windows 10」と「iPadOS」に加え、Chromebookの「Chrome OS」も提示されています。
2023年度中の目標達成を目指して進められていた4カ年計画のGIGAスクール構想ですが、COVID-19で状況が一変しました。オンライン授業に対する必要性が急激に高まったことを受け、2020年度中、つまり2021年3月末までに1人1台を実現するよう大幅な前倒しが行われたのです。
その結果、全国の教育機関がChromebookを大量導入し、Chromebook出荷台数の急増をもたらしました。
2021年までは増加
GIGAスクール構想にともなうChromebook需要は、当然2021年も続きます。MM総研は、出荷台数を2020年比79.2%増の281.5万台と見込みました。国内ノートPCの出荷台数は1,165.6万台で、その24%に達する勢いです。
ただし、GIGAスクール特需後の2022年は、出荷台数が153.5万台へ落ち込むと予想されています。
Chromebookは企業でも普及するか?
WindowsやmacOSを搭載するPCの影で目立たなかったChromebookですが、GIGAスクール構想を通じて体験する若者が増えると、ほかのPCにないメリットの理解が進みます。そして、ビジネス用デバイスとして企業市場へ普及していく可能性もあります。
Chrome特化ならではのメリット
Chromebookにはどんなメリットがあるのでしょうか。Chromebookに搭載されているChrome OSは、ウェブブラウザー「Chrome」を動かすことに特化したOSです。Chrome以外のアプリを動かすことは基本的になく、ほぼすべての作業をブラウザー上で処理します。
ただしWindows用やmacOS用のアプリは使えません。そのぶん必要とされるハードウェアのスペックは、Chromeを快適に動かせれば十分なため、安価なものでよく、陳腐化しにくく製品寿命を長くできます。
使い勝手も優れ、起動にかかる時間が短く、電源を入れて数秒後には使い始められるほどです。ユーザー情報は「Googleアカウント」に集約されていて、集中管理が容易で企業での使用に適しています。
Chromebookのメリットは多いにもかかわらず、企業への導入は進んでいません。ウェブアプリやクラウドサービスを多用する現代の職場でも、各種オフィスアプリや映像編集アプリなどの必要性は残っています。Chromebookは、そうした高度なアプリが動かせず、力不足と見なされているのです。
ChromebookでもWindowsアプリが動かせるようになった
ところが、高度なアプリが使えないためChromebookは企業へ普及しない、という見方は過去のものになりつつあります。パラレルスがChromebook上でWindowsアプリを使用可能にする仮想デスクトップソフトウェア「Parallels Desktop for Chromebook Enterprise」の提供を始めたからです。
Parallels DesktopをChromebookに導入すると、仮想的なWindows環境を構築し、「Microsoft Office」などのWindows用アプリを動かせます。この環境はWindowsそのもので、使用時にインターネット接続の欠かせないChromebookでありながら、オフライン使用が可能です。つまり、普通のWindows搭載PCと同じ感覚で使えます。
再起動なしでChrome OSとWindowsを切り替えられたり、両環境でクリップボードを共有できたり、Chrome OSからWindows側のフォルダーにアクセスできたりするなど、使い勝手も良さそうです。企業での大量導入を意識していて、通常のWindows同様のリモート管理も行えます。
Windowsアプリ非対応というChromebook最大の弱点が、Parallels Desktopで解消されます。Chromebook導入に踏み切れなかった職場でも、Windows搭載PCからChromebookへ移行できそうです。全面的なChromebook移行のリスクはまだ高いかもしれませんが、検討する価値はあります。