リモート開発?出社?7割が併用による生産性低下を指摘 - コミュニケーション不足が課題
業種ごとのテレワーク実施率変化
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の1つとして、テレワークが日本でも広まりました。ただし、テレワークの実施率は、緊急事態宣言が出された時期をピークに低下しているようです。
緊急事態宣言の解除で下がるテレワーク率
8月末にLINEが行った調査によると、「テレワークの許可/推奨」がされている職場の割合は、全国平均で24%でした。緊急事態宣言が出されていた4月16日時点では35%あり、大幅に下がっています。
比較的「テレワークの許可/推奨」率の高い1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)でも、4月の53%から8月の39%へと低下しました。
IT系業務は高いテレワーク率を維持
テレワークが無理なく実施可能かどうかは、業種によって大きく異なります。そこでLINEは、業種ごとに4月から8月の「テレワークの許可/推奨」率を比較しました。
調査対象とした業種では、唯一「製造業(自動車関連)」が4月より8月の「テレワークの許可/推奨」率を高め、それ以外はすべて割合が下がっています。
なかでも、49%から10%へ下がった「教育・学校法人」と、58%から37%へ下がった「金融・保険業」の低下が目立ちます。一時的に上昇したものの、対面業務を必要とする業種であるため、このような結果になったのでしょう。
なお、「IT・通信・インターネット関連」はテレワークに適しているようです。4月時点で73%と全業種のなかで高く、8月に69%へやや下がったとはいえ1位を維持していました。
実施状況は職場によってさまざま
一口に「テレワークの許可/推奨」がされているといっても、その内容は職場によって異なるはずです。LINEは、「テレワークの許可/推奨」がされている職場のテレワーク実施頻度に着目して調査を行いました。
その結果、実際のテレワーク頻度は「週に1~2日くらい」が25%、「週に3~4日くらい」が20%、「週に5日以上」が15%となり、大きくばらついています。
一方、テレワークを「していない」職場は25%もありました。「それより少ない」の9%、「2週間に1日くらい」の6%と合わせると、テレワークを許可/推奨しているにもかかわらず、4割がテレワークをほとんど行っていない状況です。これは、いくらテレワークを推進しようとしても、適さない業務、職場が存在するためだと考えられます。
ITシステム開発の現場では?
テレワークが行いやすいITシステム開発を担当するような部署の場合、どの程度のテレワーク頻度が適切なのでしょうか。もちろん、業務の内容や開発フェーズの進捗状況など、さまざまな条件で適切な頻度は変わります。
具体的なテレワークの実施方法は各職場が判断するにしても、IDC Japanの調査レポートが参考になるので見ていきましょう。
オフィス回帰が見られる
IDC Japanは、国内企業のITシステム部門で開発業務に携わる管理者と担当者を対象として、調査を実施しました。その際、在宅勤務とオフィス勤務の割合などに着目し、質問を行っています。
まず、緊急事態宣言が出されていた期間中(2020年4月7日~5月25日)の状況は、「在宅勤務に切り替えフルリモートで開発を継続」した割合が34.9%と最多でした。これに、「出社日数を減らし在宅でのリモートとオフィス併用での開発を継続」していた25.7%が続きました。頻度は異なりますが、約6割の職場でリモート開発していたことになります。
また、「出社する人数を減らしオフィスで開発を継続」と「平常通りの体制で開発」がいずれも13.1%あり、およそ4分の1はリモート開発を行っていません。さらに、5.3%は「開発プロジェクトを一時中断」していました。
緊急事態宣言の解除後は、「在宅勤務に切り替えフルリモートで開発を継続」が22.5%、「出社日数を減らし在宅でのリモートとオフィス併用での開発を継続」が31.5%です。何らかの形でリモート開発していた職場は全体の54.0%で、6.6ポイント減っています。
これに対し、「出社する人数を減らしオフィスで開発を継続」は12.9%で微減となり、「平常通りの体制で開発」は23.4%で10.3ポイントも増えました。つまり、リモート開発の割合が減り、オフィス開発が復活していて、オフィスへの回帰が見られます。
リモート開発で生産性低下?
オフィス回帰の背景には生産性が関係しているようです。在宅勤務ベースのリモート開発は、オフィス開発と比べ生産性が上がるのでしょうか、それとも下がるのでしょうか。
IDC Japanは、リモート開発を実施している企業に、COVID-19パンデミック前に行っていた通常の開発体制と、その後のリモート開発体制で生産性がどう変化したか尋ねました。
すると、在宅フルリモート開発した企業の48.8%は、感染拡大前より生産性が低下したと答えたのです。低下の度合いを25%以上とした企業は、16.7%ありました。在宅勤務だと開発者間のコミュニケーションが難しくなり、それが生産性に悪影響を及ぼしているのでしょうか。
気になるのは、リモート開発とオフィス開発を併用している企業の生産性低下が大きいことです。63.9%が生産性低下を指摘しているうえ、25%以上の低下を回答した企業が26.2%に上りました。
以前、オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせる「ハイブリッドワーク」ついては、評価が高いという内容の調査レポートを紹介しました。しかし、ITシステム開発に関するIDC Japanの調査では、オフィスと在宅を併用したリモート開発は、フルリモート開発より生産性が低い、という結果になっています。
頻度でなくコミュニケーション環境が重要
同じ調査のなかで、IDC Japanは在宅リモート開発の課題を質問しました。すると、「エンジニア間のコミュニケーション不足による進捗の遅れ」「各エンジニアの進捗やタスクの状況の把握のしづらさ」「要件定義/設計/変更などの調整の難しさ」といった項目を挙げる回答が多く、やはりコミュニケーションが重要なようです。
リモート開発の開発生産性を高めるために、IDC Japanも「細かい調整までできるコミュニケーション環境と進捗やタスクの共有環境の整備」が必要だとしています。ただ、オフィスと在宅を併用したリモート開発は生産性低下を招くことが多いようなので、コミュニケーション目的の出社を単純にルール化すると逆効果になるかもしれません。
1週間に2日は出社するといった固定されたハイブリッドワークでなく、スムーズなコミュニケーションや情報共有が可能になるリモートワーク環境を整えたうえで、無駄のない集中的なミーティングの実施が、生産性向上の鍵になります。
総務省が認める先駆的なテレワーク実践企業
総務省は、テレワーク活用に積極的な企業などを「テレワーク先駆者」として紹介しています。そして、そうした先駆的な企業からテレワークの利用実績が十分なところを「テレワーク先駆者百選」に選び、特に優れた取り組みを実施しているところへ「総務大臣賞」を授与します。
2020年度の総務大臣賞には、江崎グリコ、キャスター、チューリッヒ保険、富士通、八尾トーヨー住器の5社が選ばれました。
これら企業は、テレワーク業務を前提とした組織の構築、地方オフィスの開設などを通じた雇用創出などが評価されています。優良な事例が広まれば、それぞれの事情によりあったテレワーク制度を構築できるでしょう。