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在宅勤務でワークライフバランス改善、でもメンタルヘルスは悪化のナゼ

最終更新日:(記事の情報は現在から1339日前のものです)
在宅勤務の普及でワークライフバランスは改善されましたが、深刻なストレスや不安を抱える人も多くなったようです。新卒が入り顔ぶれや環境が大きく変わる時期。従業員の「不安」が変化していることを再認識し、メンタルヘルス悪化への早期対策が求められています。

在宅勤務でメンタルヘルスが課題に

3月になると、2011年3月11日に発生した東日本大震災を思い出す人が多いでしょう。これを切っ掛けに、BCP(事業継続計画)を検討した企業もあるはずです。災害の多い日本で事業を行う以上、リスクへの備えが欠かせません。

デロイト トーマツ グループが2020年9月から10月にかけて「(企業の考える)優先して着手が必要と思われるリスクの種類」を調査したところ、「異常気象(洪水・暴風など)、大規模な自然災害(地震・津波・火山爆発・地磁気嵐)」が2番目に多い項目でした。30.9%が選択しています。

これは前回調査で1位だったのですが、今回調査の1位には「疫病の蔓延(パンデミック)等の発生」が入りました。34.4%が選び、前回24位からの上昇です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが強く影響したと考えられます。

興味深いのは、前回11位だった「長時間労働、過労死、メンタルヘルス、ハラスメント等労働問題の発生」が12.5%で6位になったことです。この点について、デロイト トーマツ グループは「リモートワーク環境下での労務管理に関わる課題が明らかになりました」とし、COVID-19パンデミックで広まったテレワークや在宅勤務との関係に着目しました。

パンデミックが及ぼした影響

パンデミックとメンタルヘルスとの関係については、ロイドレジスターによる国際調査レポートが参考になります。この調査は、2020年12月に日本を含む11カ国で実施されました。

世界的に在宅勤務でストレス高まる

在宅勤務で働き方が変わったかどうか尋ねたところ、企業で働く人の52%は「ワークライフバランスが改善した」と答えました。

ところが、「以前よりも長い時間働いている」(22%)、「以前よりも同僚から孤立していると感じる」(17%)、「以前よりも不安やストレスを感じる」(9%)といった回答も多く、必ずしも良い影響ばかりではないようです。

出典:ロイドレジスター / 世界的研究によりパンデミックがメンタルヘルスに与える真の影響が明らかに。

在宅勤務の増加でワークライフバランスが改善した一方、労働関連のストレスが高まっています。この調査では、仕事量の増加や進め方の変更で在宅勤務中に仕事関連のストレスが高くなった、と全体の69%が回答しました。

また、メンタルヘルスの状態を勤務先に伝えるとキャリアアップにマイナスの影響を及ぼす可能性がある、と考える人は48%おり、大きな不安の原因になっています。

日本はそれほど改善していない?

この調査では、日本と世界の違いが表面化しました。

日本で働く人のうち、在宅勤務によってワークライフバランスが改善したと考えていたのは40%にとどまり、調査対象国となった11カ国のなかで最低です。さらに、25%は労働時間が長くなったと回答しており、こちらも世界平均より悪い状況でした。

それにもかかわらず、ストレス悪化は日本で多くありません。在宅勤務中に仕事関連のストレスが高くなったと答えた人は57%で、ドイツおよびオランダの55%に次いで少ない国なのです。

出典:ロイドレジスター / 世界的研究によりパンデミックがメンタルヘルスに与える真の影響が明らかに。

日本のリモートワーカーは何が不安?

ロイドレジスターの調査結果を見る限り、日本の職場環境はほかの国々と比べストレスが高くありません。しかし、実は表面化していないだけで、日本でも多くの人が強いストレスに晒されているようです。

カオナビが2020年8月に実施した調査によると、「リモートワーク中心の働き方」をしている人は強いストレスを感じていました。

「仕事以外」の時間が増加

カオナビは、「勤務時間の半分以上は出社せずにリモートワークで働き、それ以外は就業場所に出社している」人と、「基本的に毎日、リモートワークで働いている」人を「リモートワーク中心の働き方」をする人と定義しました。

これらの人に働く時間が増えたかどうか尋ねたところ、「変化なし」が52.0%でもっとも多く、「増えた」が20.0%、「減った」が27.0%という結果でした。在宅勤務をしている「仕事終わりが曖昧になりがち」「休憩を取らずに働いてしまう」といった意見はあるものの、意外にも時間の増えた人は多くありませんでした。

また、オフィスへ通勤する必要がなくなった結果、以前とは時間の使い方が変わったはずです。この調査では、調査対象300名のうち、「変化がない」人は3名に過ぎませんでした。そして、残る297名のうち85.2%は、本業の労働以外で「リモートワークを始める前よりも、費やす時間が増えた活動」が「ある」と答えています。

時間の増えた具体的な活動は、世帯のタイプによってやや違いがあります。全体的には、多いものから次のような項目が並ぶ傾向にあります。

  • 趣味や余暇活動の時間
  • 睡眠の時間
  • 家事・育児の時間
  • 特に何もせず、のんびりする時間
  • 運動する時間
  • 仕事につながる自己研鑽・学習の時間

ただし、「家族・友人など親しい人と過ごす時間」だけは世帯タイプの違いがはっきりしています。「同居人あり、子供あり」世帯および「同居人あり、子供なし」世帯でもっとも多かったのに対し、「単身」世帯では極めて少なくなりました。

リモートワークで時間が増えた活動 出典:カオナビ / リモートワークで生まれた余裕と不安

仕事面での不安は高まる

仕事以外に使える時間が増えて充実した生活を送れるようになった反面、リモートワークに不安を感じる人も大勢います。

調査では、全体の77.3%が何らかの不安を抱えていたそうです。リモートワークで不安に感じること、という観点で具体的な項目を選んでもらったところ、以下のような結果になりました。

不安に感じること 選んだ人の割合
自分の仕事の質や生産性 27.0%
部署、チーム組織としての
成果や提供価値
23.7%
自分がさぼっていると、
周りに思われている
22.3%
重要な情報を知ることが
できていない
19.0%
他の社員の業務で問題が起きたときに、
気づけない
18.0%
中長期的に、自組織の業績が下がる 16.0%
周りがさぼっている 12.7%
中長期的に、給与などの待遇が下がる 12.0%
将来のキャリア 11.3%
問題が起きたときに、
周りに気づいてもらえない
9.3%
漠然とした不安 8.3%
失業 8.0%
健康
(新型コロナウイルスの感染以外)
7.0%
周りからの評価が下がる 6.0%

不安に感じる項目は多岐にわたりますが、本質的にはロイドレジスターの調査レポートで示されたストレス悪化と同様なのでしょう。

メンタルヘルス悪化の早期発見と対策が急務

在宅勤務の増加でワークライフバランスが改善したものの、ストレスが高まった、という現象は世界中で発生したようです。原因としては、オフィスと違って同僚からの反応が得られにくく、コミュニケーションが希薄になり、自分の評価が見えなくなることが考えられます。疑心暗鬼を生じさせ、不安が高まるのでしょう。

2020年はCOVID-19パンデミックで職場環境が激変し、社会に出たばかりの新卒社員に過大な負担をかけたようです。

企業の人事担当者と経営者を対象に実施されたデジタルシフトの調査によると、在宅勤務でストレスや悩みを感じていると思われる2020年度新卒社員が「多くあった」という回答は33.8%、「少しはあった」という回答は52.5%にのぼり、「全くなかった」は13.8%しかありませんでした。

さらに、在宅勤務によるストレスや悩みを相談してきた新卒社員のうち、「離職・休職に至ってしまった」が25.0%、「少しでも離職を考えている」が37.1%います。

こうしたメンタルヘルスの悪化は見過ごせません。せっかく優秀な人材を獲得したのに、これでは企業と新卒社員の双方にとって大きな損失です。不安を生じさせないことが最優先で、不安の解消が急務です。

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