DXどう進める?人材確保の現在地点 日米でリーダー像に大差
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日本はDX推進の前段階
デジタルトランスフォーメーション(DX)は一時的な流行ではなく、必要とされている変革です。調査会社のIDCは調査レポート(※1)で、2025年の対DX支出額は世界全体で2兆8,000億ドル(約321兆6,920億円)に達し、2020年の2倍を超える規模へ拡大すると予想しました。2021年から2025年にかけての年平均成長率(CAGR)は、16.4%になります。
DXの流れは世界的に止まらない状況ですが、日本におけるDXの進み具合はどの程度なのでしょうか。IDC Japanの調査(※2)によると、DX進捗度を測るために使っている重要業績指標(KPI)として「標準的な指標(売上、利益、効率性、投資対効果など)」を挙げた企業の割合は、世界全体が45.0%、日本が28.0%と、大差が生じました。
このことから、世界では実際にDXを推進して進め効果を計測し始めているのに対し、日本企業はその前段階にある、とのことです。
※1 IDC『New IDC Spending Guide Shows Continued Growth for Digital Transformation as Organizations Focus on Strategic Priorities』,https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS48372321
※2 IDC Japan『デジタルトランスフォーメーション動向調査 国内と世界の比較結果を発表』,https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ48342121
DXへの取り組みを日米比較
情報処理推進機構(IPA)は、企業のDXに対する取り組み方を日米で比較し、日本企業の現状や課題を「DX白書2021」(※3)としてまとめました。米国と日本では、DX人材に対する姿勢が異なっています。
>IPAリサーチ担当者へのインタビュー記事公開中
※3 IPA『DX白書2021』,https://www.ipa.go.jp/files/000093705.pdf
日本のDX推進はそもそも遅い
まず、DXへの取り組み状況を尋ねたところ、日本企業の回答は「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」が21.7%、「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」が23.6%と、戦略を立ててDX推進している割合は約45%です。米国企業は同じ回答の割合が7割強あります。また、「取り組んでいない」は日本企業が33.9%あったのに対し、米国企業は14.1%とその半分以下でした。
このように、日本企業のDXは、米国企業に比べ進み方が遅い状況です。
DXの推進は、現場で作業する業務部門の努力だけでは困難でしょう。具体的なシステムを構築し、現場の担当者を指導するIT部門と、DX戦略を承認して予算を確保する経営層も協調しなければなりません。
協調できているかどうかについて、「十分にできている」と答えた日本企業は5.8%にとどまり、米国企業は40.4%ありました。さらに、「まあまあできている」は日本企業が34.1%、米国企業が45.8%です。
これらを合わせると、協調できているのは日本企業の約4割、米国企業の約85%でした。DX推進に向けた企業全体の取り組み方も、日本企業は不十分と考えられます。
人材確保が課題
DX推進には、DXを理解している人材も必要不可欠です。
そのような人材が不足しているという「大幅に不足している」と「やや不足している」の合計は、日本企業が76.0%、米国企業が43.1%でした。「過不足はない」は、日本企業が15.6%、米国企業が43.6%と、「過不足はない」は、日本企業が15.6%、米国企業が43.6%です。
人材の量だけでなく、質の面でも日本企業は人材確保が課題となっています。DX人材の質について、「過不足はない」を選んだ日本企業は14.8%、米国企業は47.2%といった具合です。
求めるDX人材に日米で違い
DX推進に欠かせない人材が不足しているのなら、外部の人材を募る対策が可能です。DX向けのシステムを構築するIT部門であれば、そのような専門的な人材の確保は有効かもしれません。
しかし、DXは企業全体の効率化が目的です。現場の業務に密接した担当者も、DXをよく理解して活用する必要があります。そのため、社内で教育して人材と育てる、という対応も重要です。
日本は社員教育が不十分
DX推進で大きな役割を果たす社員を対象にして、必要なスキルの学習機会を提供しているかどうか調べたところ、日本企業と米国企業で違いがみられました。
日本企業で46.9%と半数近くあった「実施していないし検討もしていない」という回答が、米国企業は9.8%止まりです。そして、「全社員対象での実施」は日本企業が7.9%、米国企業が37.4%、「会社選抜による特定社員向けの実施」は日本企業が16.1%、米国企業が34.7%と、実際に教育を実施している企業の割合も日本企業は低くなっています。
日本企業は、DX教育の実施や検討をしていないだけでなく、その前段階で行うべき社員のITリテラシー調査も不十分でした。
社員のITリテラシーレベルを把握しているかどうか尋ねたところ、「認識・把握している」は日本企業が7.9%、米国企業が48.0%、「だいたい把握している」は日本企業が31.9%、米国企業が32.8%。合わせると、日本企業が約4割、米国企業が約8割で、2倍もの開きがあります。
しかも、「認識しておらず、当面、把握する予定もない」日本企業は32.5%と多く、DX実施どころか、推進への準備もまだまだのようです。
リーダーに求める技術スキルに大差
DXのような企業変革を推進するためのリーダー像についても、日本企業は求めるスキルが米国企業と異なっています。
リーダーが持つべきさまざまなスキルを挙げてもらい、日本企業と米国企業で差が大きかった項目をみると、米国では技術力が重視され、日本ではコミュニケーション能力など組織をまとめて引っ張っていく力が重視されていました。大きな差があった項目は以下のとおりです。
米国で重視されたスキル | 日本企業 | 米国企業 |
---|---|---|
テクノロジーリテラシー | 9.7% | 31.7% |
日本で重視されたスキル | 日本企業 | 米国企業 |
---|---|---|
コミュニケーション能力 | 43.8% | 26.6% |
リーダーシップ | 50.6% | 30.4% |
実行力 | 48.9% | 19.0% |
危機意識 | 23.4% | 7.9% |
日本企業がこれから直面する課題は?
冒頭で紹介したIDC Japanの調査でも、DX推進上の課題として日本企業は42.0%が「必要なテクノロジーを持った人材の不足」を挙げていて、世界全体の22.7%に比べ人材不足が目立っていました。「推進するリーダーシップの不足」についても、課題とした日本企業は26.0%なのに対し、世界全体は8.8%と低く、ここでも日本の人材不足が顕著です。
一方、日本企業よりも世界で課題と認識されていた項目には、「実施のための予算が不足」や「変革に対する社内の抵抗」があります。
これについてIDC Japanは、「世界の企業は、リーダーシップの下にDXを実装している段階にあり、社内組織からの変革に対する抵抗や変革を実現するための予算不足に直面している状況」と分析。日本でも今後DXの実装段階へ進めば、同様の問題に直面する、としました。
世界に比べると、DX推進で遅れている日本です。逆に考えれば、海外での成功事例を参考にすることで、スムーズなDXが容易に実行できる可能性があります。IPAもDXに取り組む担当者を対象とした「DX実践手引書 ITシステム構築編」を公開するなど、DX実施に必要な資料や事例はすでに豊富です。
そうした情報を活用して、できるところから必要なDXを進めていきましょう。