示談書とは?ひな形付きで記載事項を解説
示談書とは
示談書とは、争いやトラブルを裁判なしで解決するための、当事者間の合意を文書化したものです。加害者と被害者、もしくはトラブルに関わる当事者間での、事故や争いに関する合意内容を記載します。
示談書は合意内容を証明するものであり、契約書として法的効力を持つ和解契約の一形態です。裁判時には証拠書類として使用されることもあります。
このように、示談書は後日の争いを避けるためにも重要であり、あとで一方的に覆すことができない和解契約であるため示談書の作成には注意が必要です。
そもそも示談とは?
法律用語でない「示談」という言葉が使われるのは、裁判を通さない合意であることを示すためです。ちなみに、「和解」という言葉は「裁判上の和解(民事訴訟法第267条)」のように裁判においても用いられるものなので、私文書で「和解」と言う言葉を使用すると混同して誤解を招く恐れがあります。
示談書と「和解書」や「合意書」との違い
示談書は「和解書」や「合意書」というタイトルになることもありますが、その内容が示談に関するものであれば示談書と用途や効力は同じです。両者に機能的な違いはありません。
示談書と公正証書の違い
示談書と公正証書の違いは、作成形式や公証人の関与および強制執行力の有無です。
示談書は、当事者間で合意した内容を記載した私文書です。とくに決められた形式はなく、当事者の署名捺印があれば有効な合意があったものと推定されます。合意内容が守られない場合は、相手方に義務の履行を強制するためには、裁判を起こして勝ち、強制執行を求める必要があります。
一方で、公正証書とは公証人が関与して作成される公文書で、公証人法や民法にしたがって作成します。公証役場で本人確認を行って決められた様式に基づいて手続きし、当事者が署名捺印することで完成します。
この公正証書は、強制執行の「債務名義」として機能するため、合意内容が守られない場合にも裁判なしに即時で強制執行が可能です(民事執行法22条5号)。ただし、この強制執行力を持たせるためには「強制執行認諾条項」を記載しておく必要があります。
つまり、手続きが若干面倒で有償の公正証書で示談書を作成するメリットは、当事者が合意内容を履行しない場合の問題解決スピードが早く、強制執行力によって義務を確実に履行させられる点です。また、示談書が公正証書で交わされた場合には、相手方にきわめて強い心理的プレッシャーが与えられるため、義務の履行を確実に守るよう促す効果もあるのです。
示談書の主な記載事項
示談書の主な記載事項について、交通事故の示談書を例に解説します。示談内容に応じて、必要な部分を残して内容を決定しましょう。
- 当事者
- 示談書作成に至った事実
- 示談の金額
- 示談の内容
- その他の取り決め
- 清算条項
当事者
示談書における当事者の記載事項は示談契約の基本であり、当事者同士が合意した内容を文書化する際の重要な部分です。
当事者を特定するために、氏名や生年月日などの情報を記載し、さらに示談書内での権利者と義務者の混同を避けるために、当事者を「甲」「乙」と区別するのが一般的です。示談書は、当事者間の合意に基づく示談契約であるため、契約の当事者や事件の内容を明確に特定することが必須です。
しかし、刑事事件などで被害者の住所を秘匿する必要がある場合は、例外として記載しない場合もあります。
示談書作成に至った事実
示談書における事実の記載は、示談の対象となる事件をできるだけ明確に特定するのが重要です。交通事故のケースを例に解説します。
事故発生日時
事故が発生した日時です。「〇〇年〇〇月〇〇日、発生時刻」を詳細に記載し、事故を明確に特定します。時刻は「〇〇時〇〇分頃から〇〇時〇〇分頃」としても構いません。
事故発生場所
発生場所はできる限り詳しく記載しましょう。これも、事故の状況を具体的に特定する手がかりになります。
事故内容
加害者と被害者がどのような状況で事故に遭遇したかを記載します。たとえば、事故の様子や被害者のけがの程度など、事故の客観的事実に基づきます。
事故当事者の住所・氏名
当事者の住所・氏名は示談書において必須です。当事者が誰であるか明確に特定します。
車両の登録番号
交通事故の場合には事故車両の登録番号を記載して車両を明確に特定します。
示談の金額
示談金の記載は示談合意の核心部分です。この記載は、合意内容の明確化や将来的な紛争の予防に不可欠であるため、これらの点を慎重に検討して適切に文書化しましょう。
示談金額の明記
加害者と被害者が合意した示談金の金額を具体的に記載します。この金額は、被害者が被った損害や事故の過失割合を考慮して決定します。
支払い方法の詳細
示談金の支払い方法を、一括払いか分割払いかまで明確に記載します。分割払いの場合は、毎月の支払い額や支払日、支払先、分割期間、および支払いが滞った場合の措置までを詳細に定めます。
相殺の取り決め
両当事者が互いに示談金を負担する場合には、それらを相殺して支払うのか、各々が別々に支払うのかを決めます。
支払い名目の記載
示談金の名目(慰謝料や損害賠償、解決金など)も示談書に記載します。
示談の内容
示談の内容とは、損害の補償や賠償などの主要な示談内容のほかに、付随する事項も記載します。付随事項は示談書の効力を高めて将来の紛争を防いでくれるため、適切に文書化しておくとよいでしょう。
謝罪の有無
加害者が謝罪を行うかどうかを記載します。直接的な謝罪以外にも、たとえば名誉棄損の場合は「謝罪広告の掲載をするかどうか?」といった内容を含みましょう。
免責事項と守秘義務
双方の当事者が特定の条件下での責任を免除されることや、示談内容を第三者に口外しないことを約束します。
告訴しないことの明記
成立した示談を覆すことはできませんが、念のために告訴しないことを示談書に明記すると安心です。これにより、示談成立後は法的争いがないことが確約されます。
その他の取り決め
お互いに直接連絡を取らないなど、追加的な合意も示談書に記載する場合があります。
不履行や遅滞に関する取り決め
示談の成立とは契約の締結であるため、示談書に書かれた全ての内容が重要なものとして、書かれたとおりに履行しなければなりません。しかし、示談が成立しても実行に移さない方や示談内容のとおりに履行しない方が一定数います。このような問題に備えて、義務を履行しない相手への対象方法を定めておきます。
期限の利益の喪失
たとえば、「1度に〇〇円を20回までの分割で毎月末に銀行口座への振込の方法で支払う」と合意していた場合に、義務の不履行によって「即時一括支払いに変更する」といった記載が必要です。
遅延損害金や違約金
期限利益喪失に付随して、年14.6%などの遅延損害金を課したり、別途の違約金を課したりする場合には、その金額や計算方法などを定めます。
清算条項
示談書に定められた権利義務以外に、追加で権利義務を課すことを一切しないという取り決めです。示談の成立は、示談書に記載された内容を双方が履行すればよいという、権利義務の範囲について合意しているからです。
一般的な示談書のひな形(テンプレート)
示談書の作成を予定している場合に利用できるテンプレートを用意しました。示談書を作成する際にはぜひご利用ください。
示談書は自分で作成できる?
示談書は自分で作成しても構いません。補償内容を含め双方が異議なく合意して、示談内容以外で後日権利義務が発生しないと確約できていれば、一般人が作成しても当事者のどちらが作成しようとも問題ないからです。
しかし、示談書は重要な法律効果を付与した文書であり後日合意を覆すことができません。したがって、弁護士や司法書士および行政書士などの法律の専門家のアドバイスを受けて作成するか、リーガルチェックを受けたテンプレートを用いて作成することをおすすめします。
示談書作成の注意点
示談書は当事者が作成しても問題ありませんが、下記のいくつか注意点をふまえたうえで作成するとよいでしょう。
損害の確定後に示談書を作成
交通事故などの場合には、直後には明らかでない損害や後遺障害が隠れている可能性があるため、損害車両や被害者の治療が完了し、隠れた被害がないと思われる段階で示談書を作成しましょう。
清算条項の慎重な検討
清算条項を設けると示談成立後は追加の請求ができなくなるため、その影響を十分に理解しておかなければなりません。被害者側は、今後の損害請求権を失わない留保条項を設けるなどの交渉も検討しましょう。
示談内容の変更不可
示談書に署名が行われて示談が成立した後は、内容の変更は原則不可能です。示談後の追加請求は非常に厳しい条件下でのみ認められるため、内容に不備がないかを合意前に慎重かつ丁寧に確認することが重要です。
示談屋や事件屋への注意
示談交渉では、当事者本人かその依頼を受けた代理人のみが参加を許されます。無資格者や示談屋および事件屋などを介入させないように注意し、問題を複雑にしないようにしましょう。
専門家への相談
示談書は法的に重要な文書であるため、作成時には専門家である弁護士や司法書士などに相談するか、内容が確かなテンプレートの使用をおすすめします。