タレントマネジメントシステムの3つのデメリットと克服する方法

タレントマネジメントの導入が進まない背景

タレントマネジメントシステムの普及が日本企業において思うように進んでいない背景には、複雑な企業文化や人事制度の課題が影響しています。

日本の多くの企業は、従来の年功序列型の人事管理手法から脱却することへの抵抗感が強く、能力や成果に基づく新しいタレントマネジメントの導入に躊躇しがちです。伝統的な人事制度に慣れ親しんできた企業にとって、能力主義への転換は容易ではありません。

さらに、タレントマネジメントシステムの導入における大きな課題は、経営層の理解不足と投資に対する慎重な姿勢にあります。システム導入には高額な初期投資が必要であり、その効果を即座に数値化することが難しいため、経営層はシステム導入に消極的になりがちなのです。

また、日本企業では人事データの一元管理や分析への意識が低く、従来の非効率的な紙ベースや属人的な管理方法から脱却できていません。デジタル化が進む現代においても、人材情報の体系的な管理や活用が十分に行われていない現状があります。

加えて、従業員側にも新しいシステムへの不安や抵抗感が存在し、システム導入の障壁となっています。自身のキャリアや評価が透明化されることへの懸念や、データによる管理への心理的な抵抗があるため、従業員の理解を得ることも課題となっています。

タレントマネジメントのデメリット

企業や組織の人材を管理するためにタレントマネジメントを行う場合のデメリットは次のとおりです。

• 実施目的があいまいになりやすい
• 従業員が反発する恐れがある
• データの収集や分析に手間と時間がかかる

それぞれ詳しく解説します。

実施目的があいまいになりやすい

実施する目的があいまいになりやすいのが、タレントマネジメントのデメリットです。

タレントマネジメントシステムでは、明確な目的設定が重要な課題ですが、企業が意図する人材戦略と、実際の運用にずれが生じやすい特徴があります。具体的な運用方法や期待される成果が不明確なままでは、実効性が低下するほか、従業員のモチベーションや組織の生産性に悪影響を及ぼすケースもあります。

さらに、各部門や管理者によってマネジメントの解釈が異なれば、一貫性のないタレントマネジメントが行われかねません。統一された明確な指標がなければ、タレントマネジメントは形骸化し、本来の目的から逸脱してしまう恐れがあります。

従業員が反発する恐れがある

従業員にとって心理的な負担となり、反発が起こる恐れがあるのも、タレントマネジメントのデメリットです。

日本の企業文化においては、個人の数値評価に対する抵抗感が強く、タレントマネジメント導入時に深刻な衝突や対立を生む可能性があります。自身の能力や成果が常に数値化・可視化されることへの不安や抵抗感は、多くの従業員が抱く懸念です。

評価の透明性を高めることは重要ですが、過度な数値管理は従業員のプライバシーや自尊心を傷つけるリスクがあります。

また、評価基準の不透明さや恣意的な運用が起きれば不信感が募り、従業員の離職リスクを高める恐れもあるでしょう。

データの収集や分析に手間と時間がかかる

タレントマネジメントの導入には、膨大なデータ収集と分析プロセスが必要になります。

人事部門は、各従業員の膨大な情報を正確に入力し、定期的に更新しなければなりません。このプロセスには多大な時間と人的リソースが求められ、通常の業務に支障をきたす可能性があります。

また、収集したデータを有効に分析し、経営判断に活用するためには高度な専門性が必要です。単なるデータ収集では意味がなく、戦略的な洞察を導き出すためには高度なスキルと継続的な努力が不可欠となります。

従業員の業績やスキル、経験、潜在能力などを継続的に記録し、体系的に管理することは相当な手間がかかると考えておきましょう。

タレントマネジメントのデメリットを克服するには？

では、タレントマネジメントのデメリットを克服するための具体的な対策を紹介します。

• 導入目的を明確にし、必要な情報項目を整理する
• 従業員に協力を要請する
• タレントマネジメントシステムを活用する

それぞれ詳しく解説します。

導入目的を明確にし、必要な情報項目を整理する

タレントマネジメントのデメリットを克服するには、導入目的の明確化と必要な情報項目の整理が必要です。

タレントマネジメントは、流行に乗るだけでなく、自社の課題や目標に合わせて導入しなければなりません。

たとえば、人材育成を重視する企業であれば、スキル管理や研修履歴の追跡ができることが必要です。一方、適材適所の人員配置を目指す企業では、従業員の能力や経験を詳細に把握できることが重要となります。

目的が明確になったら、次は必要な情報項目を整理します。

多くの情報を網羅的に収集しようとすると、データ収集や更新の負担が増大するため、自社の目的に沿って、本当に必要な情報項目を厳選することが大切です。

たとえば、キャリア開発に焦点を当てる場合、従業員の過去の職歴や取得資格、希望するキャリアパスなどの情報が重要となります。

従業員に協力を要請する

タレントマネジメントシステムの成功には、従業員の積極的な参加が不可欠です。ただし、前述したように、従業員の数値管理には懸念が生じる可能性があるため、従業員にタレントマネジメント導入の目的と利点を丁寧に説明することが大切です。

「キャリア開発の機会が増える」「公平な評価が受けられる」など、従業員にとってのメリットを具体的に示すことで、協力を得やすくなるでしょう。

また、情報セキュリティ対策や個人情報の取り扱いについても、明確なガイドラインを示し、従業員の不安を払拭することが重要です。

なお、マネジメント導入の影響範囲が大きい場合は、チームを作ってプロジェクト化し、多くの社員を巻き込んで導入を検討するのもいいでしょう。

タレントマネジメントシステムを活用する

タレントマネジメントを成功させたい場合は、専用のタレントマネジメントシステムを活用することが効果的です。

データの収集や定期更新、分析を手動で行い続けるには限界があります。そのため、データ収集や分析を自動化できるシステムを導入することで、継続的なタレントマネジメントの運用が可能になります。

タレントマネジメントシステムの多くは、多角的なデータ分析機能を搭載しています。これらの分析はさまざまな企業のデータ傾向や専門家の観点を参考にしながら日々ブラッシュアップされています。

タレントマネジメントシステムを活用することで、たとえば人材の流動性や離職率のデータを分析して組織の課題を早期に発見し、対策を講じることも可能です。

ただし、システムを導入する場合は、人事部門だけでなく、各部門の管理職の協力も不可欠です。また、管理職向けの研修を実施し、システムの使い方や活用方法をレクチャーしたほうがいいでしょう。

タレントマネジメントシステムの選び方は次の記事で詳しく紹介しています。

タレントマネジメントシステム導入の注意点

タレントマネジメントを行うために、実際にシステムを導入する際、次のポイントに注意しましょう。

• 導入費用やランニングコストがかかる
• データを活用しきれない
• 人事制度の見直しを並行して行う

それぞれ詳しく解説します。

導入費用やランニングコストがかかる

タレントマネジメントシステムの導入には、導入費用やランニングコストがかかります。特に、初期費用として高額な投資が必要な場合があることを理解しておきましょう。

また、システムの維持管理にも継続的なコストがかかります。定期的なアップデートやサポート、データストレージの費用などが発生するため、長期的な予算計画を立てることが大切です。

特に中小企業にとっては、この費用負担が大きな課題となる可能性があります。導入前に費用対効果を十分に検討し、自社の規模や予算に見合ったシステムを選択しましょう。

コスト面での懸念を軽減するためには、段階的な導入も検討してください。必要最小限の機能から始め、徐々に拡張していくアプローチを取ることで、初期投資を抑えつつ、システムの効果を確認しながら導入を進められます。

データを活用しきれない

多くの企業が直面する問題は、データの収集はできても、それを有意義な洞察に変換し、実際の意思決定に活かすことが難しいことです。

タレントマネジメントシステムは、従業員に関する膨大なデータを収集・管理できますが、これらのデータを効果的に活用できなければ、システム導入の意味が半減してしまいます。

たとえば、従業員のスキルデータを収集しても、それを適材適所の人材配置や効果的な研修計画に結びつけられないケースが少なくありません。また、不正確または古いデータは、誤った判断につながる可能性があります。そのため、定期的なデータの更新と精度の確認が欠かせません。

データ活用の課題を克服するためには、明確な目標設定が重要です。何のためにデータを収集し、どのように活用するのかを事前に明確にすることで、必要なデータと分析方法が明確にできます。

また、データ分析のスキルをもつ人材の獲得・育成や、外部専門家の活用も検討したほうがいいでしょう。データを収集するだけでなく、そこから意味のある洞察を引き出し、実際の人事戦略に反映させる能力が求められます。

人事制度の見直しを並行して行う

タレントマネジメントシステムを導入する場合は、人事制度の見直しを並行して行う必要があります。たとえば、従来の年功序列型の評価制度からスキルや成果に基づく評価制度への移行が必要になる場合もあるでしょう。

これは、タレントマネジメントシステムが個人のスキルや実績を詳細に追跡できるようになるためです。

なかには、従来の人事制度がタレントマネジメントにおける弊害となる場合もあるため、制度の見直しを積極的に検討しましょう。

また、キャリアパスの設計や育成計画の策定方法も、システムの導入に合わせて見直していきましょう。従業員のスキルや希望を詳細に把握できるようになれば、それに応じたより柔軟なキャリア開発の機会を提供できるためです。

タレントマネジメントシステムを導入するメリット

タレントマネジメントシステムを導入する場合のメリットは、次のとおりです。

• 人材データを集約できる
• データによる適材適所の人材配置が可能
• 育成方針や採用基準が定まる
• データに基づく意思決定ができる

それぞれ詳しく解説します。

人材データを集約できる

人材データを集約できることが、タレントマネジメントシステムを導入するメリットです。

基幹システムやExcel、紙など、さまざまな媒体に散在している人事情報を、タレントマネジメントシステムを導入することで一元管理できます。

また、人材データベース機能を使えば、従業員の基本情報やスキル、経験、評価履歴などを管理・確認できます。組織図作成機能を活用すれば、現状の組織図の確認や、生産性が向上する組織組成のシミュレーションが可能です。

これらの機能により、人事部門の業務効率が大幅に向上し、情報の更新や検索にかかる時間を削減できます。また、データの一元管理によって、情報の正確性と一貫性が確保されるため、人事戦略の立案や意思決定の質が向上します。

データによる適材適所の人材配置が可能

データによる適材適所の人材配置ができることも、タレントマネジメントシステムを導入するメリットです。

配置シミュレーション機能を使用することで、従業員のスキルや経験、適性を考慮した最適な人材配置を実現できます。たとえば、新規プロジェクトを立ち上げるときに、必要なスキルセットを持つ人材を迅速に特定してチームを編成できるため、プロジェクトの成功率が高まり、組織全体の生産性向上につながるでしょう。

また、スキル管理機能を活用すれば、チーム編成や新たな事業創生に必要な人材を把握しやすくなります。さらに、キャリアパスの可視化機能を活用することで、従業員の将来的なキャリア展望を踏まえた配置計画を立てられます。

育成方針や採用基準が定まる

育成方針や採用基準が定まることも、タレントマネジメントシステム導入のメリットです。

システムに蓄積された人材データを分析することで、自社で活躍している人材の特徴や傾向を把握できるため、効果的な人材育成プログラムの設計が可能になります。

研修・学習管理機能を使えば、従業員に必要な教育の進捗状況を確認できるほか、ハイパフォーマー分析機能を使えば、自社で優れたパフォーマンスを出す人材の特性を分析できるため、今後の育成方針に活用できます。

採用基準を決定する場合でも、過去の採用データと入社後のパフォーマンスデータを分析することで、自社に適した人材像を明確化できるため、精度の高い採用活動を展開可能です。

データに基づく意思決定ができる

タレントマネジメントシステムを導入することで、データドリブンでの意思決定が可能です。

タレントマネジメントシステムでは、人材に関するさまざまなデータを可視化し、分析できます。たとえば、ダッシュボード機能を使用することで、組織全体の人材の状況を一目で把握できるため、経営層や人事部門が人材に関する戦略的な意思決定を行う際の判断材料にできます。また、予測分析機能を活用することで、将来的な人材ニーズや離職リスクなどを予測し、先手を打った対策の実施が可能です。

このように、人材に関するさまざまな指標を定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回せます。人事施策の効果を客観的に評価し、継続的な改善を図れるようになるでしょう。

デメリットを克服してタレントマネジメントを実現しよう

従業員のスキルや特性を把握・活用するタレントマネジメントを導入することで、既存の人材を最大限に活かした経営戦略の立案・実行が可能です。ただし、タレントマネジメントを行う目的があいまいになりやすい点や、従業員の反発を招く恐れがある点には注意したいところです。

データの収集や分析には、相当な手間や時間がかかるため、タレントマネジメントシステムを導入して、業務を効率化することも検討したほうがいいでしょう。