在宅勤務で「時間の価値」が変わる - テレワークの鍵はマネジメントにあり
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在宅勤務か出社か
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として慌てて在宅勤務へ移行し、慣れないテレワークを強いられた人は多い。そのなかには、緊急事態宣言が解除された後もできるだけ通勤せずテレワークし続けたい人もいれば、家庭と完全に分離されたオフィスで仕事したい人もいるだろう。
在宅勤務をしたい理由、通勤したい理由はそれぞれ多種多様だ。ここでは時間管理の面から考えてみる。
時間に対する意識は変わった?
セイコーホールディングスは、時間意識に関する調査レポート「セイコー時間白書2020」で、新型コロナウイルス前後で考え方がどう変化したかなどを調べた。特に、「リモートワーク元年になりそうな2020年」とのことで、リモートワーク経験の有無で差異があるかみていく。
「時間に追われている」気がする
「時間に追われている」という感覚があるかどうか尋ねたところ、「感じている」人は60.7%おり、時間に追われていると意識する人の割合は減少傾向だ。ただし、働いている人に限ると、時間に追われている感覚を抱く割合は66.0%と高まる。さらに、リモートワークしている人はその割合が73.0%に上昇してしまった。
仕事の進め方については、リモートワークしている人の裁量度が高かった。具体的には、35.0%が「自分の裁量で時間をコントロールしながら進められる」、41.4%が「業務量など、タスクによっておおよそ決まるが、ある程度自分で進められる」と答えた。これに対し、リモートワークしていない人は、前者が25.0%、後者が30.8%となり、仕事の進め方を自分で決めにくい人が多いようだ。
リモートワークは時間を管理しやすくなる一方、時間に追われていると感じる人の増える点が興味深い。これについて、セイコーホールディングスは「会社という『場』の規律がない分、『時間』の規律を感じる人が多い」と分析した。
生活のリズムが大切
リモートワークする人の31.6%が「時間のメリハリをつけにくくなっている」、43.0%が「やや時間のメリハリをつけにくくなっている」とした。リモートワークしない人は前者が20.8%、後者が38.5%と、仕事とそれ以外の時間をうまく切り替えられる人が多い。
もっとも大切にする時間帯という質問に対しては、「月曜日の朝」「金曜日の夜」「土曜日の夜」を選ぶ人が多かった。これは例年通りで、「コロナ禍でも生活リズムを変えたくない」との意識が現れたのではないかという。通勤や出社の習慣が、メリハリをつけるうえで大きな役割を果たしていた可能性がある。
在宅でオフタイムの価値が2倍に
ユニークな問いかけとして、セイコーホールディングスは回答者に各自の1時間を値段付けしてもらった。その結果、仕事や家事、勉強をする「オンタイム」に対して4,443円、プライベートな「オフタイム」に対して8,346円となり、自分の時間を重視する傾向がはっきりと現れた。
ここでも、リモートワークする人としない人の違いが大きい。1時間のオンタイムに対し、リモートワークする人は1万6,329円、しない人は8,063円とし、2倍もの相違が生じた。在宅勤務ではオンとオフの区切りが曖昧になりやすいため、「しっかりとしたオフタイムを求めて価値を高く感じていると考えられそう」とのことだ。
「時間」こそがテレワークの良悪を左右する
在宅勤務で「時間」の価値観が大きく変わった一方で、生活全体を通じたタイムマネジメントの難しさが伺える。それでもメリットを感じ、続けたいと考える人は多い。ただ、気分の切り替えが難しかったり、不安に思ったりするデメリットもある。
6割弱がテレワークに好意的
マイボイスコムの調査によると、「在宅勤務・テレワーク」を進めることを「よいと思う」人は21.3%、「まあよいと思う」人は34.8%。全体の6割弱が好意的で、10代から30代の女性がやや高い割合を示した。在宅勤務の経験者は7割弱、未経験者は5割弱が前向きだった。
在宅勤務のメリットについては、65.6%が「通勤ストレスの減少」と答えたほか、4割弱が「時間を有効活用できる」「自分のペースで仕事ができる」「気候や交通状況などに左右されず、業務ができる」といった理由を挙げている。また、「服装や髪型などを気にしなくてよい」「人間関係のストレスの減少」という回答もそれぞれ3割強あった。
在宅勤務の推進に賛同する理由としては、通勤ラッシュの緩和、無駄が省けて小さい子供がいる家庭は助かるという意見が寄せられた。会議室の空き状況に左右されず会議できるメリットも指摘された。
オン・オフの切り替えが困難
その一方、在宅勤務には「オン・オフの切り替えや気分転換が難しい」(47.5%)、「モチベーション維持が難しい」(37.1%)という課題もある。推進反対の理由として「家族にとっては、ずっと家にいるので食事作りや光熱費が増えるのでストレスになる」との意見も出た。
不安や孤立感を抱きがち
パーソル総合研究所によると、テレワークしている人は「非対面のやり取りは、相手の気持ちが察しにくく不安だ」(39.5%)、「上司や同僚から仕事をさぼっていると思われないか不安だ」(38.4%)など、さまざまな不安を口にしている。そうした人を管理する側の上司も、「業務の進捗状況が分かりにくく不安に思うことがある」(46.3%)、「非対面のやり取りは、相手の気持ちが察しにくく不安だ」(44.9%)という不安を抱いていた。
テレワークする人の孤立感については、「私は、孤立しているように思う」(28.8%)、「私には仲間がいない」(25.4%)、「本当によく分かってくれる人はいない」(24.3%)、「私には、頼りにできる人がいない」(23.9%)、「私は、誰からも無視されているように思う」(19.1%)という状況。そして、テレワークの頻度が高いほど孤独感も高まると判明した。
タイムマネジメント×精神面のケアを
在宅勤務のメリットは明らかだが、ITと直接関係しない問題も浮き彫りになった。テレワークする人は、時間に追われた気になりやすく、不安感や孤独感を抱えやすいようだ。生活の場である家庭を仕事場として使うことが、その要因だろうか。
Withコロナ時代、在宅勤務を推進していくには、IT環境の整備だけでなく、こうした障害を取り除く精神面のケアも必要だ。