AI活用「PoCどまり」乗り越え本番運用段階へ 依然人材不足と特有リスクに課題感
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企業の現場で実用化され始めたAI
国内企業が直面している人手不足や人材難、国外企業との競争といった問題を解決するため、政府は企業の生産性を抜本的に高めるAI活用方針「AI戦略 2019(2019年6月発行)」を打ち出しました。そのなかで、特に自力でのAI導入が難しい中小企業向けの支援策に言及しています。
マシンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)、ニューラルネットワークなどの、いわゆるAI技術は、この10年ほどで飛躍的に発達しました。数年前は実験的な試みばかり目立っていましたが、最近では翻訳ツールなどでAI技術が当たり前のように使われています。
企業活動では、AIが顧客からの問い合わせに対応するAIチャットボット、AIでリーガルチェックを効率化するAI契約書レビューサービスなどが挙げられるでしょうか。
AIの市場規模や導入状況は?
AI市場の規模や、現在の導入状況などをみてみましょう。
順調に拡大する世界AI市場
IDCは、AI関連のソフトウェアとハードウェア、サービスを扱うAI市場について、売上高などを調査しました。それによると、2021年における世界全体の売上高は3,275億ドル(約35兆6,844億円)となり、2020年に比べ16.4%増えるといいます。
その後もAI市場の成長は続き、2024年には5,543億ドル(約60兆4,076億円)まで拡大すると予想しました。この5年間の年平均成長率(CAGR)は17.5%で、好調が続く見通しです。
国内でもAI導入徐々に進む
世界に限らず、国内でも徐々にAI導入が進んでいます。
デロイト トーマツ グループの調査レポート「AIガバナンス サーベイ(2021年3月発行)」で確認します。
日本に拠点を置く企業へAIの活用度合いを質問したところ、「利活用している」という回答は85%あり、前年調査の56%から大きく上昇しました。そのうちの70%は、ごく初期のAI利用から進んだ技術検証(PoC)段階にあり、こちらも前年の47%より多くなっています。さらに、PoC実施済みのうち81%が本番運用に移行し、これも前年の73%から増えました。
全体に対する割合をみると、PoC実施が59%(前年は26%)、本番運用が56%(同33%)といった具合で、AI利用は徐々に進んでいます。
また、AIを利活用する目的は、「業務効率化」(86%)と「コスト削減」(58%)が多く挙げられ、前年調査と同じ傾向だったそうです。ただし、前年45%だった「新規ビジネス創出」が56%へ増えて「既存ビジネス売上拡大」(49%)を上回りました。
これについて、デロイトは「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響により社会変容が起きる中で、企業が事業変革に向けてAIを活用する表れ」と分析しています。
導入は進むが、ペースは遅い
国内企業の現状と今後については、アデコの調査レポート「管理職を対象にした、AI(人工知能)に関する意識調査(2021年2月公表)」も参考になります。
AIを導入しているか、または導入する予定があるかという質問に対し、「すでに導入されている」が25.6%あり、「3年以内には導入される計画がある」が27.0%ありました。AI導入の流れは確実に存在するようですが、全体的には様子見といった状況でしょうか。
日本と海外の状況に対する印象を比べてもらったところ、日本の導入が「進んでいると思う」という回答は4.6%にとどまり、「同じくらい」が14.3%です。そして、「遅れていると思う」は68.0%で、AI導入ペースの遅さを実感している人が多いようです。
なお、AI導入が進む職種について尋ねたところ、「経理・財務」「品質管理」が5割程度でもっとも多いものの、ほかの職種も回答者が多く、幅広い分野でAI活用が期待されていると分かります。
職種 | 導入が進むと予想した人の割合 |
---|---|
経理・財務 | 50.0% |
品質管理 | 49.5% |
企画・マーケティング | 46.1% |
情報システム | 43.8% |
技術・製造 | 42.2% |
開発 | 36.5% |
調達・購買 | 30.6% |
営業・販売 | 30.3% |
期待は高いが、導入に壁
期待の高まるAIですが、導入したら誰でもすぐに使いこなせる簡単な技術、という段階には達していません。また、AI特有のリスクも存在していて、取り扱いには注意が必要です。
AI導入を阻む壁
アデコの調査では、AI導入時に直面している課題として、「AI導入をリードできる人財がいない」(33.0%)と「AIを扱える人財がいない」(30.9%)という回答が多くなりました。新しい技術ということで、やはり「人財」不足が導入を阻む壁のようです。「現場の理解・知識不足」(20.4%)という回答も、AIを理解している人が少ない結果でしょう。
そのほかには「AIに学習させるデータがない・整備されていない」という回答も22.5%と多く、AI導入に必要な環境整備の遅れがみてとれます。「AIを導入できる業務内容が分からない」(12.3%)や「同じ業界やサービスでのAI導入事例を知らない」(11.5%)といった意見も、先行導入事例の少なさによる影響とみられます。
AI特有のリスクにも用心
デロイトによると、AI活用時にはさまざまなリスクが考えられます。たとえば、AIが不適切な入力データや学習データを与えられば、判断ミスしかねません。学習データに含まれていた潜在的な差別情報を出力に反映させる危険もあります。AIの出力結果を鵜呑みにすると、企業の業績や人命に重大な損害を与えてしまうでしょう。
こうしたリスクに対する準備状況を質問したところ、すべてのリスクで「そのようなリスクのあるAIを利用していない」という回答が5割前後を占め、トラブルを未然に防ぎながら活用を進めている企業が多いようです。一方、「認識しているが対処方法がわからない」という回答が2割程度あり、見切り発車している企業も少なくありません。
まずは経産省の資料で勉強
今後さまざまな領域で活用されると期待され、企業も導入に前向きなAIですが、導入へ踏み出せない国内企業が多いようです。買ってきてインストールするだけで使える、という完成された技術ではないため、人材育成が必要なほか、先行事例から学ぶことも重要でしょう。導入前に、やるべきことが大量にあります。
そこで参考になるのが、経済産業省(経産省)から公開された2つの資料です。冒頭で紹介したAI戦略2019と連携した内容で、AIを導入したい中小企業向けに作られました。
経産省は、(1)中小企業が自らAIを導入する場合と、(2)中小企業による自力AI導入が難しいため外部の力を借りて導入する場合、という2つのパターンに分け、(1)を「中小企業向けAI導入ガイドブック」、(2)を「中小企業と外部AI人材の協働事例集」で解説しています。中小企業の実情に合わせた内容とのことです。
これから必要性が高まるAIの勘所を掴む参考図書であり、導入検討の第一歩に最適ではないでしょうか。