労働生産性あがらない日本、1970年以降で最低順位に - デジタル化は奏功するも道半ば
労働生産性あがらない日本
企業は、感染拡大を防ぎつつ事業を継続させようと、この2年弱のあいだに働き方を変えました。たとえば、テレワークとビデオ会議を多用することで、時間を無駄にしがちな通勤や出張などを大きく減らせたのです。仕事を効率的に行えるようになって、生産性は向上した可能性があります。
ところが、日本生産性本部の調査(※1)によると、日本の労働生産性は向上するどころか相対的に下がっていました。
※1 日本生産性本部『労働生産性の国際比較2021』,https://www.jpc-net.jp/research/detail/005625.html
1970年以降で最低の順位
労働生産性は、労働者が生み出す成果を1人あたりや1時間あたりで指標化した数値です。日本の生産性は、OECD加盟国のなかで以前から低い状態が続いています。
日本の2020年における時間あたり労働生産性は、49.5ドル(5,086円)でした。コロナ禍で経済は落ち込んだものの、労働時間は短くなり、結果的に生産性は前年に比べ1.1%向上しました。
とはいえ、米国の80.5ドル(8,282円)と比較すると、6割程度の生産性に過ぎません。しかも、順位はOECD加盟38カ国のなかで23位と低く、1970年以降で最低となりました。
労働者1人あたりの生産性も、日本は7万8,655ドル(809万円)で28位と低い状況です。米国や西欧諸国から大きく引き離され、リトアニアやポーランド、エストニア、ポルトガル、ハンガリーといった国々と同水準でした。
前年から実質ベースで3.9%落ち込んだ影響が大きく、前年の26位から順位を下げ、1970年以降でもっとも低い結果です。
さらに米国と比べた日本の労働生産性水準は、時間あたりも1人あたりも下落傾向にあります。
「生産性向上」実感も少数派
働く人は、生産性の変化を感じているでしょうか。
損害保険ジャパンが全国で働く人を対象とする意識調査(※2)を行ったところ、コロナ禍で仕事の生産性に「変化がない」と答えた人が、過半数の55.2%いました。向上したと考える人は「大きく向上した」(3.3%)と「どちらかといえば向上した」(13.9%)を合わせ17.2%で、悪化したと考える「どちらかといえば悪化した」(20.2%)と「非常に悪化した」(4.9%)を合わせた25.1%を下回っています。
つまり、生産性が向上したと実感している人は、少数派でした。
生産性の向上に寄与した要因は、「オフィス移転・最適化」(74.4%)、「捺印レス」(72.9%)、「デジタル技術の活用」(71.1%)、「ペーパーレス」(70.1%)、「社内インフラの整備」(65.9%)という項目を挙げる声が多くなりました。テレワークや押印廃止、デジタル化、オンライン化といった取り組みが奏功したと考えられます。
興味深いことに、「テレビ会議」と「テレワーク」は向上と悪化それぞれの意見が以下のように拮抗しています。直接対面せずにコミュニケーションできるメリットがある一方、テレビ会議が増えて集中力をなくしたり、テレワークによる在宅勤務でオンとオフを区別しにくくなったりした悪影響もありそうです。
要因 | 向上に寄与 | 悪化の原因 |
---|---|---|
テレビ会議 | 54.2% | 45.8% |
テレワーク | 53.9% | 46.1% |
※2 損害保険ジャパン『「仕事に対する価値観の変容に関する意識調査」の結果』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000078307.html
日本の労働者は世界一不安?
ランスタッドが34の国と地域で実施した調査(※3)によると、日本の労働者は不満や不安をため込みやすいそうです。
※3 ランスタッド『【労働者意識に関するグローバル調査】日本の労働者は世界一アフターコロナの社会を不安視している結果に?!』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000004185.html
満足度は低く、目標は不明確
コロナ禍の現在、(1)キャリア選択に満足しているか、(2)個人の目標が明確になったか、(3)仕事上の目標が明確になったか、と質問したところ、日本の回答者はすべての項目で最下位になりました。主要各国と日本の差は、以下のとおり大きい状態です。
設問 | 日本 | 全体 | フランス | ドイツ | 米国 | 中国 |
---|---|---|---|---|---|---|
キャリア選択に満足 | 67% | 84% | 81% | 84% | 87% | 93% |
個人の目標がより明確になった | 42% | 73% | 67% | 66% | 81% | 91% |
仕事上の目標がより明確になった | 40% | 72% | 65% | 66% | 79% | 91% |
この原因について、ランスタッドは、「“仕事”より“企業/職場”への所属意識が強い」という特性が、日本の労働者の不安感や焦燥感を高めた、と分析しています。
転職意向は日本も高い
ただし、日本の労働者も不安で立ち止まるばかりではありません。ワークライフバランスを改善しようと、44%が転職に意欲的な姿勢を示しています。そのうち26%は積極的に求職活動しており、実際に最近転職した人も18%いました。
全体では、転職に意欲的な人は56%、積極的に求職活動しているのはそのうち30%でした。転職意向の高さは、世界的な傾向のようです。
不安を抱きながらも、積極的な人は大勢います。完全なリモートワークが可能であれば海外で働きたい、と回答した日本の労働者は、34%に達しました。世界中どこででも働ける勤務制度を導入したSpotifyのような企業も出てきているので、多くの活躍の場が用意されています。
さらに、「コロナ禍の経験をもとに、仕事やキャリアにより柔軟性を求めている」と回答した人が75%いました。企業は、労働者に満足して働いてもらうため、働き方の改善を迫られています。硬直した旧来の職場のままでは、優秀な人材を集められません。
変革求められるマネジメント
働き方や職場環境の見直しは、喫緊の課題です。ところが、労働者を適切に管理し、不満をくみ取ることは、難しくなっています。
チームスピリットの調査(※4)によると、企業の中間管理職の多くは、コロナ禍でマネジメントの難易度が以前より上がった、と考えていました。
具体的には、「上がった」(11.7%)と「どちらかというと上がった」(36.3%)を合わせ、半数近くが難しさを訴えています。「変わらない」という回答は47.7%あり、「どちらかというと下がった」「下がった」の合計は4.3%だけです。
テレワークの広まりで対面して話す機会が減り、仕事ぶりを直接目にすることが難しくなったことも一因と思われます。
※4 チームスピリット『大企業の中間管理職の約6割がコロナ禍で「マネジメントの難易度が上がった」と回答』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000021273.html
今こそ、テクノロジーの有効活用を
コロナ禍で働き方は急速に多様化しましたが、マネジメントの進歩は追いついていません。働き方を見直すだけでなく、対面に頼るマネジメントから脱却し、本質的に評価できる仕組みが必要不可欠です。そのためには、タレントマネジメントや人事DXのような考え方が役立ちます。こうした施策に活用できる、「HRテック」と称されるツール群も認知が広まりました。
人材情報や要員計画、報酬管理、採用管理といった機能を持つタレントマネジメントシステムへの注目度は、このところ高まっています。矢野経済研究所はタレントマネジメントシステム市場の規模を、2020年に180億9,400万円(前年比22.1%増)、2021年に217億5,000万円(同20.2%増)と予測(※5)しました。そして、「ユーザ企業の業務効率化や戦略人事の実現を目指す取組みが続く中、タレントマネジメントシステムに対するニーズは今後も根強い」とみています。
社会変容に応じて、従業員はテレワークを強く望んだり、育児のしやすさを求めたりするなど、職場の評価基準は絶えず変化しています。優秀な人材を獲得して働き続けてもらうには、ワークライフバランス改善やキャリアアップを念頭に置いたうえで、効率的な人材管理システムの構築に取り組むなまければなりません。
※5 矢野経済研究所『HCM市場動向に関する調査を実施(2021年)』,https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2718