在宅勤務増加で注目「つながらない権利」 - コロナ禍の意識変化は?
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注目され始めた「つながらない権利」
働き方改革に関する話題で、「つながらない権利(right to disconnect)」という言葉に出会うことが増えました。これは、業務時間外や休暇中は仕事の電話やメールなどに対応する必要などなく、無視できるのは労働者の権利、という考え方です。
つながらない権利が注目されるのは、ICTの発達により、いつでもどこでも連絡が取れるようになったからでしょう。さらに、コロナ禍で在宅勤務が増えたことで、何気なくメールを送ったら業務時間外だった、ということもあるはずです。
いずれにしろ、休憩中に仕事の連絡が届くようでは、常に仕事が頭から離れず休息できません。在宅勤務だとつい働き過ぎることも多く、ストレスがかえって高まります。
国内の働き方、現状は?
つながらない権利については、NTTデータ経営研究所が実施している働き方改革に関する調査のなかで、国内の状況を調べています。ここでは、コロナ禍になった2022年※1と2021年※2、そしてパンデミック前の2019年※3の調査結果を比較しましょう。
※1 NTTデータ経営研究所『働き方改革2022 with コロナ ~コロナ禍により企業の取り組みが見えにくくなる中、従業員のキャリア志向に変化の兆しも~』, https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/220905.html
※2 NTTデータ経営研究所『働き方改革2021 with コロナ ~働き方改革に取り組んでいる企業は過去最多の56.0%となる一方、つながらない権利の侵害が進展。在宅勤務のボトルネックは「ハンコ文化の弊害」よりも「社内の状況がわからない」不安~』, https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/210423.html
※3 NTTデータ経営研究所『働き方改革2019 ~働き方改革に取り組んでいる企業は昨年度から1割強増加し、今年度は49.3%~』, https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/190705.html
2021年に悪化、2022年に改善
どの程度つながらない権利が侵害されているのか、つまり、就業時間外に緊急性のない業務連絡に対応した頻度を確認します。
上司からの連絡に「ほぼ毎日」対応した人の割合は、2022年が4.5%、2021年が8.3%、2019年が5.6%と、2021年に急増した後、以前の水準に戻っています。同僚からの連絡に「ほぼ毎日」対応した人の割合は、2022年が4.5%、2021年が8.6%、2019年が4.6%で、似たような比率です。頻度が「週に1, 2回程度」「月に1, 2回程度」だと、対応した人の割合は増えますが、2019年から2022年までの推移は同様でした。
2022年に対応する人の割合が低くなったのは、コロナ禍でテレワークが増えて業務時間外の連絡が多用されるようになってしまい、つながらない権利の確保に向けた社内ルールの整備などが進んだ効果と考えられます。
上司からの連絡に 対応する頻度 |
2022年 | 2021年 | 2019年 |
---|---|---|---|
ほぼ毎日 | 4.5% | 8.3% | 5.6% |
週に1, 2回程度 | 11.5% | 14.2% | 9.3% |
月に1, 2回程度 | 10.2% | 12.5% | 11.4% |
同僚からの連絡に 対応する頻度 |
2022年 | 2021年 | 2019年 |
---|---|---|---|
ほぼ毎日 | 4.5% | 8.6% | 4.6% |
週に1, 2回程度 | 11.4% | 16.4% | 8.9% |
月に1, 2回程度 | 9.2% | 10.2% | 11.4% |
なお、上司と同僚に比べ、部下と顧客、組織長等からの連絡では、対応する人の割合がやや少ない結果でした。これについては、お互いの関係が上司や同僚ほど近くなかったり、そもそも連絡の頻度が少なかったりする影響なのかもしれません。
広がってきた「つながらない権利」という考え方
実際に対応する、しないは別にして、就業時間外の連絡にどう対応する方針なのか尋ねたところ、以下の結果が得られました。
対応することへの考え方 | 2022年 | 2021年 | 2019年 |
---|---|---|---|
連絡があれば対応したいと思う | 15.9% | 18.6% | 18.4% |
できれば対応したくないが、 対応するのはやむを得ないと思う |
42.8% | 46.7% | 46.5% |
対応したくないし、 連絡があっても対応しないと思う |
17.0% | 15.2% | 14.8% |
(電源や通知をオフにすることなどにより) そもそも連絡を 受信しないようにすると思う |
9.7% | 8.4% | 7.1% |
小さな変化ではありますが、対応すると考える人の割合は減少し、対応しない方針の人が増えています。つながらない権利を尊重する考えが徐々に広まっているようです。
連絡が来たら気になるもの
就業時間外の連絡になぜ対応するのでしょうか。「連絡があったら対応する」と回答した人に理由を挙げてもらいました。
対応する理由 | 2022年 | 2021年 | 2019年 |
---|---|---|---|
気になることは 早く終わらせたい |
61.4% | 68.4% | 62.5% |
自分のところで 業務が滞るのが嫌だから |
47.1% | 47.8% | 43.6% |
電話やメールの返信くらいは 業務のうちに入らないと思うから |
15.8% | 20.8% | 19.9% |
上司等の自身に対する印象が 良くなると思うから |
7.9% | 6.4% | 4.6% |
迅速に対応しないと 上司等に怒られるから |
5.7% | 6.6% | 6.3% |
迅速に返信することが 所属チームのルールだから |
4.2% | 4.9% | 6.3% |
就業時間外であっても、 仕事について考えることが楽しいから |
3.6% | 5.7% | 4.9% |
「気になることは早く終わらせたい」と「自分のところで業務が滞るのが嫌だから」が目立って多く、問題を抱えたままにしておくより済ませてしまいたい、という気持ちが強いのでしょう。逆に考えると、業務時間外や休暇中に連絡を送ると、相手に仕事を強いてしまう可能性が高いといえます。
一方、対応しない理由は、「就業時間外は仕事から解放されたい」と「就業時間外に仕事のことは考えたくないから」が多く、仕事と休みは区別したいという意見が多数派です(2022年のデータは非公開)。「メールの受送信は就業時間内に行うべきだと思うから」という、つながらない権利そのものといえる意見も多くありました。
対応しない理由 | 2021年 | 2019年 |
---|---|---|
就業時間外は仕事から解放されたい | 65.6% | 64.2% |
就業時間外に仕事のことは 考えたくないから |
39.0% | 37.9% |
メールの受送信は 就業時間内に行うべきだと思うから |
32.0% | 32.1% |
自分にとって緊急性はないと思うから | 24.5% | 26.3% |
就業時間外は連絡しないことが 所属チームのルールだから |
8.7% | 5.3% |
就業時間外に対応したことで 上司等に対する印象が 良くなると思わないから |
5.8% | 8.2% |
休んでいても、休んだ気にならない
2019年の調査では、有給休暇の満足度や、満足できなかった場合の理由も調べています。
それによると、「過去1年間の取得できた休暇日数・時間の過ごし方」に「やや不満」がある、または「不満」があると答えた人のうち、17.3%が 「仕事が気になって休まらなかった」、13.6%が「休暇中も仕事の問い合わせがあり、休まらなかった」としました。
このことから、つながらない権利を守ることの大切さがよく分かります。
法律でつながらない権利を認める国も
コロナ禍でリモートワーク導入が進み、在宅勤務やハイブリッドワークをする人が増えた結果、通勤しないことや、仕事の時間をある程度調整できることのメリットを実感している人も多いでしょう。
ところが、家族や友人と過ごす自由な時間に仕事が割り込んでくることも目立つようになりました。メールなどの連絡が来ても無視すればよいのでしょうが、読んでしまうと気になるものです。そこで対応すると十分な休息が取れず、業務に支障が出て生産性が下がりかねません。やはり、連絡そのものをしないようにすることが重要です。
十分な休養をとると、QOLと生産性の両方が同時に高まります。そのため、つながらない権利は、特に海外の企業でルール化したところがあります。さらに、法律で権利を認め、業務時間外の連絡を禁止する国も出てきました。
日本でも働き方改革の必要性は強調されていますが、さらに一歩進めて、つながらない権利について考えてみてはどうでしょうか。