“巻き込み”が経営改革を成功に導く - チェンジマネジメント視点がプラス要因に
コロナ禍で求められる大きな改革
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が一向に収まらず、緊急事態宣言が再び発出されました。「出勤7割減」が求められていますが人出は変わらず、前回2020年4月から5月の緊急事態宣言時と比べると増えている地域が多いようです。
もっとも、一時的に上昇していたテレワーク実施率は低下し、オフィス勤務が多い状況に戻っています。在宅だけでは生産性が下がったり、コミュニケーションや教育に支障が出たりといった弊害があり、出社と在宅を組み合わせたハイブリッドワークを評価する声もあります。
ところで、学情が同社の「20代専門」転職情報サイト「Re就活」で実施した調査によると、コロナ禍でもっとも重視する「『成長できそう』と思う企業の特徴」として、回答者の30.3%が「テレワークなど場所を選ばない働き方ができる」という項目を選びました。
テレワークやウェブ商談などのリモート対応の導入度合い、テレワーク中のコミュニケーションを活発化する仕組み構築、時代の変化に対する柔軟な対応といった観点も、重要とされています。
社会の変化はゆるやかなため、気がついたら環境が変わり時代遅れになっていた、ということが一般的です。しかし、コロナ禍では急激な変化が起き、それに対応することが喫緊の課題になりました。テレワーク導入のような働き方改革にとどまらず、ビジネスモデルの刷新や新規事業立ち上げなど、意識改革や大改革が今まさに求められています。
経営改革はチェンジマネジメント視点で
企業組織を大きく改革するとなると困難がつきものです。改革の難しさや成功要因については、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EY Japan)の調査レポート「経営改革とチェンジマネジメントに関する調査」が参考になります。
経営改革の「完全な成功」は困難
EY Japanによると、経営改革を成功させることは容易でありません。
経営改革に取り組んだ企業を調査したところ、改革プロジェクトの目的、期間、予算という条件すべてクリアする「完全な成功」を収めた割合は19%にとどまりました。20%は目的は達成したものの期間と予算が予定外となった「不完全な成功」、16%が期間と予算は守ったものの目的が不達成の「見かけ倒し成功」です。「失敗」は半数近くの45%もありました。
改革成功の鍵はチェンジマネジメント
成功した改革についてもEY Japanは分析しています。改革成功に寄与した「改革前から保有していた能力や文化」を尋ねたところ、以下の項目が上位になりました。
- 明確なビジョンや戦略の提示:42%
- 部門間の連携:39%
- トップマネジメント/ミドルマネジメント間の合意形成:34%
- 改革の目的・ゴール・範囲と全社戦略の整合:32%
- オープンで透明性の高いトップマネジメント:30%
- 改革の目標を含めたミドルマネジメントの個人目標設定:30%
- 改革の目標を含めたトップマネジメントの個人目標設定:28%
これらの項目には、共通点があります。それは、後述する「チェンジマネジメント」に関係することです。ほかのチェンジマネジメント関連項目も多くの回答者が挙げています。
チェンジマネジメントに関する要因を選択した数と改革成功との関係は、以下のとおり選択数が多いほど成功率が高くなりました。つまり、チェンジマネジメントは改革を成功させる要素といえます。
- 要因数が0:24%
- 要因数が1から4:45%
- 要因数が5以上:59%
チェンジマネジメントとは
チェンジマネジメント(Change Management)は経営学の用語で「変革管理」とも呼ばれ、経営改革成功を目的とするマネジメント手法の1つです。
経営陣などが計画を立案したうえで、その理念を組織全体に浸透させ、関係者すべてが“人ごと”でなく“自分ごと”として改革に取り組むよう導く姿勢が、基本的な考え方になります。
改革を計画しても、変化を受け入れようとしなかったり、関心を示さなかったりする人が生じがちです。チェンジマネジメントでは、そのような場合も強引には進めず、丁寧に目的や必要性を説明して賛同者を増やしていきます。積極的に意見を吸い上げることも大事です。
改革活動は多くの領域に関係することから、各領域の専門知識を持つ担当者の配置が必要です。そして、計画を推進する担当者が役割を果たしやすいよう、予算の確保や組織間の調整も行わなければなりません。チェンジマネジメントは、このようなポイントも考慮します。
従業員の意識が成否を左右
チェンジマネジメントでは、従業員をいかに巻き込むかが大切です。事実、EY Japanの調査では、「従業員の賛同度合い」が改革の成否を左右するとの結果が得られました。従業員からの賛同が得られるほど、改革の成功率が高まっていたのです。
調査によると、成功事例では従業員の賛同度合いが高く、失敗事例では賛同度合いが低くなりました。成功事例は計画の進行にともなって賛同する割合が上昇しています。
改革の成否 | 改革前 | 改革中 | 改革後 |
---|---|---|---|
成功 | 37.9% | 47.1% | 63.2% |
失敗 | 21.0% | 22.6% | 29.8% |
さらに、チェンジマネジメント活動の有無も従業員の賛同度合いに影響を及ぼしていました。改革前に同程度だった賛同度合いは、チェンジマネジメントがある場合は高まり、ない場合は低下しています。
チェンジマネジメント | 改革前 | 改革中 | 改革後 |
---|---|---|---|
活動あり | 25.6% | 30.2% | 42.8% |
活動なし | 24.4% | 26.8% | 22.0% |
チェンジマネジメント活動が従業員の理解を深め、その結果として改革を成功へ導くようです。
今こそチェンジマネジメント
COVID-19パンデミックは、社会の変化に合わせて大きな改革を実行するチャンスです。ただし、経営陣が号令をかけるだけであったり、逆にマイクロマネジメントして現場の担当者に任せなかったりするようでは、失敗します。
経営陣が大局観で判断して方向を決め、従業員が納得して当事者意識を持って進むよう促すチェンジマネジメントを取り入れましょう。今こそ、改革を“人ごと”でなく“自分ごと”と捉えるチェンジマネジメントの重要性が増しています。