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経産省「未来人材ビジョン」に見る人材育成の勘所 - 人的資本経営はスタートアップに学べ

最終更新日:(記事の情報は現在から538日前のものです)
経産省は、2030年や2050年といった未来に必要とされる人材像を描き、その育成方法などを提言する「未来人材ビジョン」を公表しました。掲載されたデータは、日本の競争力低下を示すものが多く、衝撃的な内容です。教育機関と企業には思い切った改革が求められています。

少子化の日本が迎える「2025年の崖」

コロナ禍でテレワークが広まった結果、働き方や職場環境に対する意識は変わりました。リモートオフィスを利用したり、メタバース空間のバーチャルオフィスに出勤したりすることで、働く場所の近くに住む必要性も低下しています。そうした変化は、“脱・首都圏”する企業の増加や、「転職なき移住」「移住しないリモート転職」といった動きで、具体的な数字にも表れ始めました。

場所に縛られない働き方が可能になったのは、ICTによるデジタル化やオンライン化あってのことです。さらに、業務の仕組みまでデジタル化に対応させるデジタルトランスフォーメーション(DX)へと進めれば、仕事の生産性や価値を高めると同時に、QOL改善も期待できるでしょう。

ところが、DXに対する企業の認識はお粗末です。この状況を深刻に受け止めるべきと考えた経済産業省(経産省)は、DX推進の遅れで「2025年以降、最大で年額12兆円の経済損失が生じかねない」と警告し、「2025年の崖」という課題を投げかけました。

日本では少子化の進み、労働人口が減っていきます。労働集約型の産業は、維持することすら難しくなるでしょう。しかも、人材以外の資源に乏しい国です。最大限ICTを活用することで、効率良く企業を運営していかなければなりません。

「未来人材ビジョン」の衝撃

経産省は、2030年や2050年といった未来にどのような人材が必要なのか、そんな人材をどうやって育成するのか、という重要な問いに答える材料として、「未来人材ビジョン」※1を公表※2しました。そこには衝撃的なデータが並んでいて、経産省の焦りが感じられます。

▼「BOXIL CHANNEL」でも動画で解説

※1 経済産業省『未来人材ビジョン』,https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
※2 経済産業省『2030年、2050年の未来を見据え、「旧来の日本型雇用システムからの転換」と「好きなことに夢中になれる教育への転換」を!』,https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001.html

減る労働人口、空回りする働く人の意欲

未来人材ビジョンで引用されたデータによると、2020年に約7,400万人あった日本の生産年齢人口は、2050年には約3分の2の5,300万人ほどまで減少するそうです。今よりはるかに少ない人口で、社会や産業を維持する必要があります。そのためには、働く環境や社会システム全体を見直す必要があるでしょう。

日本の生産年齢別人口推移 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

それにもかかわらず、「日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体でみて最低水準」でした。個人と組織の成長に対する方向性が連動しておらず、働く人の意欲が空回りするような状況です。

従業員エンゲージメントの国際比較 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

競争力は低下する一方

企業は問題を認識しています。技術革新で必要になるスキルと、現在の従業員が持っているスキルとのあいだにギャップがすでに生じている、と考える企業が43%もありました。

スキルのギャップが
顕在化する時期
回答率
既に顕在化 43%
2年以内 22%
3~5年以内 22%
6~10年以内 5%
10年以内には顕在化しない 6%
分からない 2%

スキルギャップが顕在化する時期 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

また、DXを支えるITエンジニアは、それ以外の職種の人に比べ、多くが技術やスキルの陳腐化に不安を抱いています。

不安の内容 ITエンジニア その他職種
自分の技術やスキルが
いつまで通用するか不安だ
47% 37%
新しい技術やスキルが
いつまで習得できるか不安だ
44% 34%

ITエンジニアとそれ以外の職種の主なキャリア不安 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

それならば、企業は人に投資をして教育し、働く人も自ら学習していくべきでしょう。しかし、日本はほかの国々と比べ、いずれも低い水準の取り組みにとどまっています。これでは、日本の競争力がますます低下するでしょう。

人材投資、自己投資の状況 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

AIやロボットが変える、必要な人材

今後DXが浸透し、AIやロボットの普及が進めば、人間の行うべき仕事の内容が変わります。

AIやロボットで代替可能な分野では雇用が減少するでしょう。ただし、その一方、機械ではカバーできない領域や、新しい技術の研究や開発を行う職場では、雇用が増えます。つまり、企業で必要とされる人材や技術、スキルは、近い将来まったく違うものになるはずです。

経産省は未来人材ビジョンのなかで、現在の日本では「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」が重視されており、こうした人的な能力や特性が「日本企業の競争力をこれまで支えてきた」と指摘しました。そのうえで、将来は「問題発見力」「的確な予測」「革新性」が一層求められる、としています。

未来人材ビジョンの提言は

今までと根本的に異なるスキルが人材に対して求められるなら、教育機関も変化に対応する必要があります。

高いリテラシーを産業にいかす教育

日本の教育は決して劣っていません。OECD加盟国のなかで、日本の15歳は、数学的リテラシーが1位、科学的リテラシーが2位とされました。

数学的、科学的リテラシーランキング 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

それなのに、日本では「数学を使う職業につきたい」という子供が23%(国際平均は49%)、「理科を使う職業につきたい」という子供が27%(同57%)と、低くなっています。これでは、せっかく身に付けた高い数学や科学のリテラシーが十分にいかさず、将来の技術立国にはほど遠い状況です。

数学や理科を使う職業につきたい生徒の割合 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

リテラシーが高いにもかかわらず、技術分野の職業に対する関心が低い理由について、経産省は「日本は、探究的な(正解のない)理科学習が少なく、子どもたちが『科学の楽しさを感じる』機会に乏しいのではないか」と分析しています。そこで、教育課程に「知識の習得」と「探究力の鍛錬」という2つの機能を持たせるよう提言しました。社会に出た働き手がスキル転換やキャリアアップできるよう、学び直しの環境整備も重要だとしています。

もっとも、経産省は教育機関だけに対応を求めているわけではありません。「教員に探究や研究を指導する役割が期待されてこなかった中、学校だけに多くの役割を求めるのは現実的ではない」とし、「学校の外で多様な才能を開花させる『サードプレイス』を広げるべき」としました。

企業も人材投資を重視すべき

経産省は企業に対しても、教育現場と二人三脚で取り組むべき、としています。人材育成における変革の責任を教育機関だけに押し付けず、企業も教育に主体的に参加するよう求めたのです。具体的には、新卒一括採用や終身雇用、年功型賃金といった「日本型雇用システム」の見直しが必要としました。

日本の産業は大量生産を前提とする製造業が競争力の源泉であったため、各企業内で求められる特殊な能力を蓄積する長期的な人材育成は理にかなっています。長期雇用を前提とする新卒一括採用も、若年失業率を下げるなど、社会の安定化に貢献しました。

しかし、経済成長が鈍化して成長継続が見込めなくなった結果、現在は日本型雇用システムの限界が指摘されています。経産省は、中途採用や通年採用、職種別採用、ジョブ型採用など、雇用方法を多様化させるとともに、働く個人の能力を十二分に発揮されるよう「人材投資」を重視する方向を示しました。

未来人材ビジョンによると、投資家は「人材投資」「IT投資(デジタル化)」「研究開発投資」を重視していました。ところが、企業が中長期的な投資で重視していたのは「設備投資」「株主還元」といった領域で、人材育成を重視していません。

中長期的な投資・財務戦略において
重視すべきもの
投資家 企業
人材投資 67% 32%
IT投資(デジタル化) 66% 40%
研究開発投資 63% 37%
資本構成の最適化 27% 17%
設備投資 20% 55%
株主還元 20% 41%
M&A 18% 31%
有利子負債の返済 3% 12%

中長期的な投資で重視すべきもの 出典:経済産業省 / 未来人材ビジョン

経産省は、多くのスタートアップが人的資本経営を実践に移せているとし、スタートアップから学ぶことが多い、としています。そして、スタートアップには社会課題を機敏に感知する力があり、それも参考になる、としました。

確実なのは、今まで同じやり方は通用しない、ということです。未来人材ビジョンの指摘を踏まえたうえで、スタートアップや海外の事例を参考にし、教育機関などとの連携、採用方法の見直し、従業員のリスキリングなど、具体的な改革の実施が求められています。

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