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いよいよ「給与デジタル払い」が来春スタート、上限100万円など詳細は

最終更新日:(記事の情報は現在から728日前のものです)
「給与デジタル払い」制度の開始が2023年4月1日に決まり、口座残高の上限が100万円とされるなど、詳細が公開されています。働く人の3割程度はデジタル払いの利用を希望する可能性もあり、今すぐ対応が必要なわけではありませんが、情報収集と準備を始めましょう。

2023年4月に給与デジタル払い制度スタート

以前から導入されるとみられていた「給与デジタル払い」が、いよいよ開始されます。厚生労働省(厚労省)は、導入に必要な省令「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」を2022年11月28日に公布し、2023年4月1日に施行するとしました(※1)。

もっとも、企業が施行日からいきなり給与デジタル払いを求められることはありません。4月1日に始まるのは、支払先口座を運営する業者からの申請受付だけです。厚労省によると、審査には数カ月かかる見通しなので、実際の支払開始は早くても来年度中と思われます。

とはいえ、これまでと異なる新しい給与支払い方法を追加するとなると、企業には経理システム見直しなど多くの作業が発生します。給与デジタル払いにすぐ対応する必要はないものの、今から内容を把握し、備えておいた方が良いでしょう。

今回は、給与デジタル払いの概要を復習しつつ、決定された上限金額などの条件や、利用意向に関する直近の調査データなど、最新情報を紹介します。

※1 厚生労働省『資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について』, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

給与デジタル払いとは?

「給与デジタル払い」や「賃金のデジタル払い」は俗称で、正式には「資金移動業者の口座への賃金支払」です。ここでは、どのような制度なのか整理します。

「現金」「銀行振込」に加わる3つ目の賃金支払い方式

企業などが労働者に賃金を支払う方法は、現金による「通貨払い」が原則です。ただし、現在広く利用されているのは銀行への口座振込でしょう。これは例外的に認められているものです。

これに対し、給与デジタル払いは、賃金を「資金移動業者」と呼ばれる金融サービス業者の口座に入金するものです。具体的には、各種電子マネーや「○○ペイ」といったQRコード決済サービスやなどが該当します。

今回の改正により、賃金の支払方法が「現金」「銀行振込」「デジタル払い」の3種類に増えることになりました。

労働者の同意が必須、現金化が容易

給与デジタル払いが可能になっても、企業が勝手に利用することはできません。あくまでも、労働者の同意が必要です。

また、デジタル払いとはいっても、現金とほぼ同じ扱いが可能な資金移動業者だけが支払先になります。そのため、以下の条件が設定されました。

  1. ポイントや仮想通貨など用途が限られた資産でなく、残高を1円単位で別の銀行口座へ移動するなどして現金化できること

  2. 少なくとも毎月1回は、手数料を負担せずATMで現金化できること

口座残高の上限は100万円

デジタル払い先の口座に入金しておける金額についても、100万円までという上限が設けられました。さらに、100万円を超えた場合、資金移動業者はその当日中に別の銀行口座などへ自動的に送金しなければなりません。送金先の銀行口座は、利用者があらかじめ登録しておくことになります。

したがって、口座の残高は常に100万円以下に抑えられます。そのため、デジタル払い先口座の利用目的は貯蓄でなく、日々の買い物で使うキャッシュレス決済が主になると考えられます。

経営破綻やサイバー攻撃時はどうなる?

万が一、資金移動業者が経営破綻したり、サイバー攻撃を受けたりしても、口座の残高が失われることはありません。資金移動業者には、全額を払い戻せる仕組みの用意が求められているからです。

逆にいえば、保証する仕組みを設けない資金移動業者は、厚労省から給与デジタル払い対応の資金移動業者に指定されません。このようにして、労働者の資産を保護しようとしています。

利用希望者の割合

賃金の受け取り方は「今までどおり銀行振込で十分」という人は多いでしょうが、日常的にQRコード決済や電子マネーを利用している人にとっては、利便性の向上が期待されます。

キャッシュレス決済の普及が進んでいる中、給与デジタル払いを希望する人はどの程度いるでしょうか。紀尾井町戦略研究所の調査レポート(※2)で確認します。

※2 紀尾井町戦略研究所『「給与デジタル払い」利用したい32%、したくない49%』, https://ksi-corp.jp/topics/survey/web-research-45.html

3割強が前向き

給与デジタル払いを利用したいかどうかという質問に対し、「利用したい」は4.8%、「場合によっては利用したい」は27.8%と、全体の3割強の人が前向きでした。年齢層をみると、20代から40代の利用希望者が多かったそうです。

一方、「あまり利用したくない」人は22.0%、「利用したくない」人は27.4%です。

「給与デジタル払い」利用したい人の割合 出典:紀尾井町戦略研究所 / 「給与デジタル払い」利用したい32%、したくない49%

利便性の向上を期待

利用を希望する人にその理由を複数回答で挙げてもらったところ、「給与振込から支払いまでキャッシュレスで手間なく済ませられるから」(39.7%)がもっとも多くなりました。

以下のとおり、全体的に利便性の向上を期待している人が多いようです。

利用したい理由 回答率
給与振込から支払いまで
キャッシュレスで手間なく済ませられるから
39.7%
銀行などの金融機関やATMの
手数料を軽減できるから
32.9%
現金を持ち歩く機会を減らせるから 29.0%
公共料金の支払い、送金などが
スマートフォンでできるから
18.0%
給与の支払いが月1回よりも
頻度高く行われることが期待できるから
6.2%
その他 1.5%

「給与デジタル払い」利用したい理由 出典:紀尾井町戦略研究所 / 「給与デジタル払い」利用したい32%、したくない49%

利用したくない人は、資金移動業者のセキュリティや経営破綻を警戒していました。

利用したくない理由 回答率
セキュリティ不備による不正引き出しなどに
不安があるから
49.0%
給与は現金支給か銀行振込があれば十分で、
デジタル化のメリットを感じないから
37.5%
資金移動業者が経営破たんしたときの
補償が心配だから
31.2%
デジタル払いの現金化に
手間がかかりそうだから
25.3%
資金移動業者に給与などの
個人情報を取得されたくないから
22.5%
現金が一番安心だから 17.8%
デジタル払いになると、
現金の時より給与を使ってしまう恐れがあるから
13.8%
その他 2.1%

「給与デジタル払い」利用したくない理由 出典:紀尾井町戦略研究所 / 「給与デジタル払い」利用したい32%、したくない49%

利用目的は普段の買い物

給与デジタル払いを利用するとして、1回に入金される金額の希望は、「5万円未満」(36.3%)と「5万円以上10万円未満」(14.1%)で過半数です。やはり、日常的な買い物での利用を想定している人が多くなりました。

「給与デジタル払い」利用目的 出典:紀尾井町戦略研究所 / 「給与デジタル払い」利用したい32%、したくない49%

企業の対応意向は?

給与デジタル払いの利用希望者は、無視できるほどの少数派ではありませんでした。企業にとって義務ではないにしても、対応すれば働く人の満足度を高められる可能性があります。

現時点で、賃金を支払う側の企業は給与デジタル払いをどのように受け止めているでしょうか。ロイターの報道(※3)によると、積極的な企業は少ないようです。

※3 ロイター『11月ロイター企業調査:デジタル給与「様子見」が64%・「利用せず」29%、ニーズ読めず』, https://jp.reuters.com/article/reuters-survey-digital-idJPKBN2S0021

9割以上が消極的

ロイターの調査では、給与デジタル払いに対して「現時点で様子見」という回答が64%、「利用するつもりがない」が29%と、9割以上が消極的な姿勢です。「利用する可能性を含めて検討」と答えた企業は、6%しかありませんでした。

利用する予定がない理由については、「社員のニーズが不明」が85%もあり、従業員からの要求がないのか、必要性を感じていない状況です。また「資金移動業者の破綻やセキュリティリスク」を挙げる声が32%、「不正利用時の補償」との回答が18%と、リスクの見極めもできていません。

デジタル給与、企業の対応意向 出典:ロイター / 11月ロイター企業調査:デジタル給与「様子見」が64%・「利用せず」29%、ニーズ読めず

また、既存の給与管理システムは給与デジタル払いが実行できないので、利用するのならアップデートや新規導入などして対応させる必要があります。現金と銀行振込、デジタル払いが混在すると、管理部門の手間が増えるでしょう。

企業としては、大きなメリットがないうえ、リスクやデメリットの増える面倒な変化といえそうです。

情報収集と準備は今から

キャッシュレス決済はすでに広まっています。将来「デジタル円」のような中央銀行デジタル通貨が導入されれば、現金からデジタルへの流れが加速するでしょう。

2023年4月のスタートを見据えて、資金移動業者などの対応表明や企業の導入計画発表が相次いでいます(※4)(※5)(※6)。確かにデジタル払いの導入には手間がかかりますが、給与管理SaaSなどの対応が進むことでハードルは下がるはずです。利用する企業や働く人が増えるにつれ、対応システムの選択肢が広がり、ノウハウも蓄積されて、いずれ銀行振込と同じように当たり前になります。

給与デジタル払いの解禁に合わせて導入しない場合でも、情報収集と準備は今から始めておくのが良さそうです。

※4 日本経済新聞『リクルート、デジタル給与参入検討 中小企業の利用照準』, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC304330Q2A830C2000000/

※5 楽天ペイメント『「楽天ペイ」、「doreca」と連携し企業からの支払金を「楽天キャッシュ」で受取可能に -給与デジタル払いにも参入-』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000225.000057042.html

※6 TISインテックグループ『「au PAY」、給与デジタルマネー払い対応のシステムを導入』, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001245.000011650.html

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